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01-17.検証

 クッションを購入して宿に戻った後、私はユーシャに抱きかかえられたまま自らの体を確認していた。



『いやぁ~良かった良かった。

 どうやら無事に戻れたようだぞ』


 まさか薬瓶に触っただけで戻れるとは。

状態異常の回復作用が瓶の外にまで漏れ出しているとでも言うのだろうか。



「何で喜んでるの?

 薬瓶より人形の方が良いでしょ?

 早く人形の方に戻ってよ。私もっとエリクと遊びたい」


 ユーシャもすっかり元の調子に戻ったようだ。

先程はショックを受けていたようだが、私が何時でも薬瓶に戻れると知って安心したのだろう。

まったく。素直ではないな。いったい誰に似たのだろうか。



『うむ。試してみよう』


 私は再び人形に魔力を流し込んだ。

その瞬間、意識は再び人形へと乗り移った。


 それからもう一度薬瓶に触れて、元に戻れる事を再確認した。


 うむうむ。これは良い。

極めて都合が良い。


 ずっと人形の体から出られないのであれば、ユーシャの護衛にも支障をきたす可能性がある。休みの間はともかく、貴族の屋敷でメイドをしている時まで、人形を連れ歩かせるわけにもいかないだろうしな。


 いや、親戚の幼女とでも言えばなんとかなるのか?

パッと見、人間にしか見えないだろうし。


 とは言えいきなり連れ歩かせるわけにもいくまい。

明日からは元通り薬瓶としてユーシャの側にいるとしよう。


 再び人形の体に戻り、ユーシャに身を任せながら、新しい体について調べてみる事にした。




 そもそもこの視覚とかって人形由来のものなのだろうか。


 この人形の体は視覚も聴覚も嗅覚も存在している。

何故この人形には触覚だけが存在しないのだろう。

そもそもこの目玉が視覚を有しているとは思えない。


 これはもしや、私自身の感覚なのではなかろうか。

薬瓶から引き出された、私自身の機能の一部なのでは?

そもそもの引き出せている量に問題があるから、触覚だけが引き継がれなかったのではなかろうか。


 あり得ない話ではない。

実際、こうして平衡感覚のようなものも存在しているのだ。

何故か天地が真っ逆さまだ。酔いそう。



「おい!何をしている!?

 何故ひっくり返すのだ!元に戻せ!」


「……ちょっと気になって」


「な!?まさかお前!?

 いや!気持ちはわかる!

 人形とかついひっくり返したくなるのは!

 だが待て!これは中身入りだ!少しは気を遣え!」


「……」


「何だその沈黙は!?

 何故ボタンを外すのだ!?

 待て!いきなり過ぎるだろう!

 そういうのはもっと段階を踏んで!

 あ!こら!脱がすな!やめろと言うに!!きゃ~~!!」


「へ~。

 こんなところまで作り込まれてるんだね。

 本当に人間みたい」


 少女は私の制止など一切聞かずに作業を続けた。


 そう作業だ。

特段興奮するわけでもなく、淡々と私の体を調べていった。

服は全て引っ剥がし、再び逆さまにして両足を開かせ、まるでカエルの解剖でもするみたいに、隅々まで余すことなく観察と触診を続けた。



「しくしく。しくしく」


「安心して。私が責任取るから」


 まだ何も言ってないやい。



「……それで?

 何か気になる事でもあったのか?」


 何か全身徹底的に拭き取られてたから、何がしたかったのかはなんとなく想像ついてるけども。

良かった。水桶に放り込まれないで。

そんな事されたら、いよいよ居た堪れなくなりそうだ。



「う~ん。

 人間の体ってわけじゃないんだね」


「最初からそう言っているだろうが……」


「わかってたけどさ。

 でもやっぱり信じられないし。

 ちょっと顔に違和感あるかなくらいで」


 まあそうね。

体のサイズ的には小柄な二、三歳児程度なのに、それにしては顔つきが若干大人びているのだ。よくよく見てみれば違和感も感じる事だろう。


 というかあれだ。

流石にユーシャが持ち歩くにはデカすぎるな。私の体。

ジュリちゃんの巨体と並んでいたから気が付かなかったが、そう小さなものでもないのだ。八十センチ弱くらいはあるのではなかろうか。



「カバンも用意しておくべきだったかも」


「気になるのは屋敷に持ち込む際にどう思われるかだな」


「うっ……」


 別に誰もバカになぞせんだろうがな。



「服も買いに行かなきゃ」


「いらぬ。

 人形の体ならば、老廃物も何も無い。

 そうそう換えが必要になる事もあるまいて」


「ダメ。目立ちすぎ」


 それはそう。


 今の私はまるでお姫様のようだ。

冒険者の手伝いをするには向いていないだろう。


 それに細工の細かい黒ゴスは、よく目に付くものだ。

ジュリちゃんの店からの帰り道も随分と視線を浴びていたようだった。



「だがもう店もやっておらんだろう。

 今日は諦めて大人しくしておこう」


「エリクが盛り上がってたせいでしょ。

 エリクってああいう人が好みなの?」


「はぁ!?

 お前は何を言っているんだ!?」


「別に良いけどね。エリクがどんな趣味だって」


 少女のその言葉に、私の中で抑えきれない衝動が湧き上がった。



「違うわよ!そんなわけがないでしょ!

 ユーシャ!そんな態度はダメよ!

 あの人にはお世話になったでしょ!

 これから更にお世話になろうとしてるんでしょ!

 なら最低限の礼儀というものがあるでしょ!

 そんなつもりであんな態度取ってたの!?

 妙な勘違いしないでよ!っ!?」


「……」


「あ!いや!今のは!違う!違うのだ……。

 いかんぞユーシャ。

 嫉妬をするなとは言わんがな。

 だが相手の善意を踏みにじる事だけはしてはいかん。

 わかってくれるな?」


「……うん。ごめんなさい」


「何故顔を背けておる?

 真面目な話をしておるのだ。こっちを向かんか」


「……」


「……まあ、あれだ。

 飯でも食うか?」


「ぶっ!ふふ!くくく」


 まったくこの子は……。

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