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01-15.呪いの人形師

 結局図書館でも役立ちそうな情報は得られなかった。


 まあそれも当然か。

ディアナの父も徹底的に調べあげたのだろうし、ここに具体的な解決策などあるはずもなかったのだろう。そんなものがあるなら、とっくにディアナは元気になっていたはずなのだ。


 魔術の方に関しては多少参考にはなったが、これも直近の問題に対して役に立つようなものではなかった。ディアナの命は今日明日にでも尽きるようなものではないが、私が一から魔術を極めるのを待てる程でもないはずだ。今はファイアアローとか覚えてる場合じゃない。




 そして魔導書と呼ばれるものは、どうやら図書館には存在しないようだ。


 というのも、そもそも魔導書とは魔術的に特殊な力を持った書物の事らしい。ただの知識の継承だけを目的としたものではなく、書物そのものに魔術の発動を支援する機能があるようだ。


 つまり医療に関する魔導書を手に入れる事が出来たなら、私でもディアナを治す事が出来るかもしれないのだ。


 ただ、他にもまだ問題点はある。

どうやら、傷の回復と病気の回復は別物のようだ。


 考えてみれば当然だ。

ポーションで病は治せない。

つまり、私を飲んだところでディアナの病は治せない可能性があったのだ。


 これは迂闊だった。

そもそもの話、ディアナの体の弱さは生まれつきだ。

健康な体を手に入れるという意味では、「回復」では足りないのだ。ディアナの肉体をディアナ基準で最も健康な状態まで戻したところで、それは一般的な健康体とは言えないからだ。


 もっと根本的に、健康な肉体へと作り変える必要がある。

だから目指すべきところは「回復」ではなく「改良」だ。


 それを成し得る方法までは見つけられなかった。

かつて聖女と呼ばれた者は、傷も病もお構いなしに治していたようだが、実際には高度な知識と技術力を持ってして、魔術も使い分けていたのかもしれない。


 聖女の存在が何かのヒントになれば良いのだが。

ディアナ達であれば詳しい情報を持っているかもしれない。

明日にでも聞いてみるとしよう。



「これなんてどう?」


 ユーシャがクマのぬいぐるみを指して小声で問いかけてきた。物思いに耽っている内に、どこぞの雑貨店にでも辿り着いていたようだ。これは私の仮の肉体候補としてどうかと問いかけているのだろう。


 ユーシャの示したクマのぬいぐるみは、随分と上等な作りのようだった。値札の類は貼られていないが、見ただけで高価な代物に違いないと確信出来る。


 いくらユーシャの懐に余裕があるとはいえ、そう無駄遣いもさせてはいられない。とはいえ、そう告げても納得はしないだろう。ここは他の言い訳を探す必要がありそうだ。



『やはり指があった方が良いのではないか?

 練習用なればこそ、その丸い手を動かしたところで大した意味も無いだろう』


「指のあるぬいぐるみ?

 そんなのあるかなぁ……」


 確かに少し想像し辛い。

普通ぬいぐるみとは、デフォルメされているものだしな。

あのクマも随分と可愛らしい感じだ。

こういうの、どこの世界にでもあるのだな。少し驚きだ。



「あ~ら可愛いお嬢ちゃん♪

 何をお探しかしら?」


「『!?』」


 突然背後から声を掛けられ、背筋にゾゾゾと何かが這い上がった。背中は無いが。


 少女が恐る恐る振り向くと、そこにはスキンヘッドで筋骨隆々の大男が立っていた。


 大男はピンクのハートがあしらわれた可愛らしいエプロンを身に付けている。



「そこに欲しいものが無ければオーダメイドなんていかが?

 お嬢ちゃん可愛いからサービスしちゃうわよ♪」


 ……まあ、世の中色んな人がいるからね。

なんだったら私も似たような事してるし。

逆パターンだけど。



 いや、それよりもだ!

全然気が付かなかったぞ!?

背後から忍び寄ってくるのは流行っているのか!?

仮にも冒険者の端くれであるユーシャに気付かれないとは何者なのだ!?


 単に私とユーシャが鈍すぎるだけかもしれない。

どこかで師匠でも見つけられないものだろうか。

ユーシャはもう少し強くなる必要がありそうだ。

あの襲撃者の件もあるしな。

これもディアナに相談してみよう。

流石に調子に乗りすぎだろうか?



 とにかく何か答えよう。

ユーシャが店の隅に追いやられて今にも泣きそうだ。

この男性、もとい女性店員?店主?の巨体に阻まれて、逃げ道が無くなっているのだ。



『えっと、人形を探しているの。

 出来れば指とかあるような、造形の細かい物が欲しいの』


「あら?

 あなたどこから喋ってるの?

 今の声はこの子じゃないわよね?」


 バレてる!?

ユーシャが動揺しすぎたせいか!?

相変わらずフードを目深に被って俯いているから、口元は見えていないはずだが!?それともやはりこの者はとんでもない実力者なのか!?そもそも何故この者はユーシャが可愛らしい少女だとわかったのだ!?胸か!?胸のせいか!?可愛らしいってそっちか!?変態の類だったのか!?



「ダメね。私ったら。

 ごめんなさい。今の質問は忘れて。

 お客様の事情を詮索しようだなんて最低よね」


 どうやら思い直してくれたようだ。

取り敢えず悪い人では無いのかもしれない。



「私はこの店の店主、ジュリアンよ。

 気軽にジュリちゃんって呼んでね♪」


 ウインクがやたらと様になっている。

相当練習したのだろうか。



「指のあるお人形だったわね。

 ふふ。噂を聞いて来てくれたのね♪

 少し待っていて。いくつか奥から持ってくるわ♪」


 まるでスキップでもするかのような足取りでカウンター奥の部屋に移動する店主。

噂とは何の話だろうか。



『待て、ユーシャ。

 どこへ行く気だ?』


「逃げる」


『ダメだ。

 もう少し話を聞いていこう。

 流石にここで逃げ出すのは失礼だ』


 相手が礼儀を持って接してくれているのだ。

こちらも相応の振る舞いをせねばなるまい。



「でも……」


「お嬢ちゃん。こっちへいらっしゃい♪」


 早くもカウンターに人形を並べた店主が、満面の笑みでユーシャを手招きしていた。


 観念したユーシャは、恐る恐るカウンターに近づき、人形に視線を向けた。


 え!?これ違う!

店のぬいぐるみと全然違う!

ビスクドールとかそっち系だ!

しかもやたら精巧な!

プラスチックも無しにどうやって!?



「お嬢ちゃんがお探しの物はこの子達かしら?」


『凄いものだな。

 正直驚いたぞ』


「あら?

 その子のフリはやめたのかしら?」


『バレているようだしな。

 私はこの子の保護者のようなものだ。

 わけあって肉体は存在しないがな』


「もしかして、あなたが使うって事?」


『そうだ。話が早くて助かる。

 少しこの人形を借りてみても良いだろうか?』


「ええ。構わないわ。

 この子達は個人的な趣味で作ったもので、売り物ではないの。

 まあ、最初は棚に並べてたんだけどね。

 大抵のお客さんは気味悪がって嫌がるのよ」


 それはあなた自身が原因では?

流石にそんな事は言わないけども。



『感謝する』


 私は試しに人形の一つに魔力を浸透させてみた。

どうやら中に木材で作られた骨組が存在しているようだ。

指は……流石に動きそうには無いな。


 とはいえ、膝の関節程度は動くようだ。

これでも十分驚きだな。


 表面の素材はなんだろう。

どうやら布や木ではないようだが……。

見た目だけは完全に人間そっくりだ。

異世界ならではのファンタジー素材でも使われているのだろうか。



「凄いわ!私の作ったお人形が動いてるわ!

 まさかこんな光景が見られるなんて!!」


 え!?

作ったのあなたなの!?

もしかしてこの店にあるのって全部あなたの手作り!?


 バキッ!



『あ!!』


 やらかした!

力みすぎた!

ドールの足折れちゃった!!



「ふふ。大丈夫よ♪

 この程度すぐに直せるわ。

 それより、次はこっちの子を動かしてみせて♪」


『あ、ああ。申し訳ない。

 こっちか。わかった』


 それからジュリちゃんに言われるがまま、暫くドール達を動かし続けた。

とっくに検証としては満足していたものの、破損させてしまった手前断りきれず、次から次へと奥から持ち出されてきた人形達を動かして、ジュリちゃんを楽しませ続けた。



『どうかね、ジュリちゃん。

 ショーはご満足頂けただろうか?』


「あなた最高よ!

 みなまで言わないで!

 あなたの要求はわかったわ!

 等身大のお人形を用意すれば良いのでしょう!

 任せておいて!これは私にしか出来ない仕事よ!」


『いや、何れはそのつもりだが、先ずは手頃なサイズで試してみたい。

 取り敢えずこの人形達のサイズで、指を動かせるようには出来ないだろうか?

 それと、もう少し頑丈な素材であれば有り難い。

 とはいえ値の張る物では難しいのだが……』


「そういう話なら都合が良いわ!

 待ってて!とっておきの子がいるの!」


 再び店の奥に引っ込むジュリちゃん。

何やらガタゴトと物を動かす音が聞こえてきた。



「この子よ!」


 ジュリちゃんが手に持っていたのは、やたら頑丈そうな木箱だった。

いくつもの鍵がかけられており、厳重に封がされている。



「お嬢ちゃんは離れていて。

 少しだけ厄介な代物だから」


 そう言ってカウンター上に置いた木箱を開封してくジュリちゃん。

木箱の隙間から、何やら禍々しい気配が漏れ出してきた。


 これ大丈夫?

止めるか逃げるかした方が良くない?

怖気付いたユーシャの足でどこまで逃げられるかは疑問だけど……。


 そうこうしている内に、開封作業は終わっていた。

木箱から現れたのは、他のドール達より少しだけ大きなドールだった。


 真っ黒な髪に黒いゴスロリの美少女だ。

そう、パッと見では美少女にしか見えない。

いや、美幼女にしか見えない。

やっぱりこの店主、ヤバい人だったのではなかろうか……。



「この子は私が昔冒険者をやっていた時に、とある遺跡で見つけた遺物よ。

 私はこの子に魅了されてお人形作りを始めたの」


 そう言って、愛おしそうな手つきでカウンターに置くジュリちゃん。


 確かによくよく見てみると、この存在に命が無い事だけは伝わってきた。

間違いなく人間ではない。ただの人形とも思えないが。



「さあ!遠慮せずに試してみて♪

 この子ならあなたの要望にも応えられるんじゃないかしら♪」


 いや、呪いの人形は流石に要らないよ?

どう見ても、禍々しい何かだよ?

店主の人生狂わせたのもこれが原因でしょ?



「安心して!

 この子とは別に等身大のものも作ってあげるわ!

 そして必ず私はこの子を超えるものを作り上げてみせるわ!

 それが私の人生を賭けた目標なの!」


 もしかしてそれが呪いの内容?

私やユーシャも人形作りたくなったりしない?


 ジュリちゃんは私にこの人形を使わせたいようだ。

それを乗り捨ててでも使いたいと思える新たな人形を産み出す事で、この人形を超えたと証明したいのだろう。


 どうしよう……。

ジュリちゃんの技術力には是非とも頼りたいものだ。

それにこう言っちゃ何だが、ジュリちゃん側にも目的がある以上、金銭面的にも多少は融通が利くのではなかろうか。

少し試してみるくらいなら大丈夫だろうか……。


 ええい!ままよ!こちとらエリクサー様だ!

呪いだろうがなんだろうが状態異常なんぞ恐れるものか!

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