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01-14.本と魔術と調べ物

 翌朝目覚めたユーシャは、珍しく自分から買い物に出かけたいと言い出した。


 どうやら早速私が操る為の人形を用意するらしい。

先ずは小さなぬいぐるみで試してみるそうだ。


 今朝までかかっても魔力の腕を柔らかくするには至らなかったが、ぬいぐるみを使えばその問題も解決出来るかもしれない。


 今度は魔力で外から覆うのではなく、骨のようにして中から操れば良いのだ。ユーシャの体でそれを試すわけにはいかないが、ぬいぐるみでならいくらでも実験が出来よう。


 ユーシャは魔力の腕は温かいと言っていた。

ならば、ついでにぬいぐるみに体温のようなものを持たせられれば完璧だ。首尾よく手に入ったら色々試してみるとしよう。



『明日には戻るつもりなのだろう?』


「うん。お土産も探してみよっか。

 クッションはいい考えかもね。

 お嬢様の持ってるのより良いのが見つけられるかはわからないけど」


『難しいな。

 あの父君が最高の物を用意しているだろうしな』


 何か一般的ではない特殊な素材で作られた物でも探してみなければならんだろうな。


 まあ、ディアナはどんなものであろうとも、ユーシャからの贈り物ならば喜んで使ってくれるだろうが。


 だからこそ、こちらとしても半端な物は贈れない。長い時間をベットの上で過ごすディアナに、体の負担が増すような物を贈ってしまっては本末転倒だ。



『ついでに本を見に行かぬか?

 医療と魔術について調べたいのだ。

 もしかしたらディアナの病も多少は癒せるかもしれん』


「うん。行く。

 先にそっち行こう」


 この町にも一応図書館のようなものは存在している。

それなりに高額な入場料を取られるのだが、身分の制限も無く誰でも利用出来るようになっている。まあ、実質的にその入場料が身分の篩分けになっているわけだが。

それでも購入するよりはずっと安上がりだ。

それに今のユーシャの手持ちならば心配もあるまい。




 それから私達は無事に図書館に辿り着き、規定の入場料を支払って、案内役の司書らしき女性に少し驚かれながら、本棚に囲まれた通路へと足を踏み入れた。



「本日はどのような本をお探しで?」


『魔術と医療について。

 出来れば初心者向けのものがあると嬉しいです』


「畏まりました。

 どうぞ、こちらへ」


 司書さんは何やら納得したようだ。

あまり身なりも良くない少女が何故こんな所にと疑問だったのだろうけれど、少女が多少は魔術を使えると知って得心したのだろう。


 魔術を使える冒険者ならば、それなり以上の稼ぎを得る事も難しくない。それだけ、この世界で魔術を扱える者は少ないのだ。


 偶然魔術を使えた駆け出しの冒険者が、必死にお金を貯めて図書館を訪れるという事は、珍しくはあってもあり得ない事ではないのだろう。


 知識は武器だ。

ここで知識を蓄えた若き冒険者は、何れそれ以上に稼ぐ事が出来るようになるはずだ。


 そんな風に考えて貯蓄出来る思慮深い者ならば、警備も厳重なこの図書館で不届きな真似をするはずも無いだろう。

この司書さんはそう考えて安心したのではなかろうか。



「こちらです。

 移動する場合はご案内しますので一声おかけ下さい」


 そう言って、少し離れたところに移動する司書さん。

もう少し詳しく教えてもらえたらよかったのだが。

そこら辺のサービスはやっていないのだろうか。

それとも、少女からボッチ気質を感じ取ったのだろうか。

むしろ気を使って一人にしてくれたのかもしれない。



『その上だ。そうそこ。

 その列の物を順に取り出してみてくれ』


 少女の開いた本を見ながら、関係のありそうな情報を探していく。


 どうやらこの世界の魔術とは、本来長ったらしい呪文を唱えて使うもののようだ。

他にも魔法陣とかを使うものも存在するようだ。


 最初に開いた本には、炎の矢とか、風の刃とか、水の弾とか、岩の槍とか、そんな呪文ばかりが乗っていた。

これはまさに初心者向けってやつだ。

紙とペンが欲しくなるな。こんな呪文覚えてられんぞ。



『すみません』


「はい。なんでしょう」


 司書さんに呼びかけると、すぐに近づいてきてくれた。



『紙と書くものはありませんか?』


「どちらも用意はございます。

 ですがここでは外で買う程安価ではありませんよ?」


 司書さんに値段を聞いて、結局断念する事にした。

本当に結構なボッタクリ価格だ。元々安くはないのに。

今度来る時は忘れずに用意しておこう。



「いいの?」


『ああ。

 今回の目的はこれではないからな』


「遠慮しなくてもいいんだよ?」


『気にするな』


 そもそも私の使う魔術とは違いすぎるしな。

長ったらしい呪文を唱えるより、魔力の腕で石でも投げた方が効率的だ。



『次はあれだ』



 それから暫く黙々と本を読み進めていった。

魔術関連で理解できそうな本にある程度目を通してから、次は医術関連の書籍の棚に移動した。


 その中から、医療魔術に関する本を確認していった。



『聖女?』


「なにそれ?」


『ここだ。ここに書いてある。

 お前も読んでみろ』


「時間かかるよ?」


『久しぶりに復習せねばいかんな』


「え~」


『まあいい。

 それで掻い摘んで説明してやるとだな、かつてこの国には聖女と呼ばれる存在がいたらしい。

 その者は莫大な魔力を身に纏い、どんな傷も病も癒やしてみせたそうだ。

 要は医療魔術のスペシャリストだったのだろうな』


「すぺしゃりすと?」


『専門家という意味だ。

 その者ならば、ディアナの治療も出来たのかもしれんな』


「もういないの?」


『ああ。数百年は前の話だ。

 もはやおとぎ話の類だな。

 だがこの本の著者はそう考えてはいなかったようだ。

 もしかすると、同じ時代を生きた者なのかもしれんな』


 本自体も随分と年季の入ったものだ。

実際に見聞きした事が綴られていたとしてもおかしくはない。



『惜しいな。

 魔力だけなら私も負けてはいないと思うのだが。

 いかんせん、医療も魔術も知識が足りていない』


「だけどこれ、いい話じゃない?

 魔術で病気が治せるかもしれないんでしょ?

 それがわかったならお嬢様達にも協力してもらって、もっといっぱいの本を集めたら?

 エリクが頑張れば、難しい魔術だってきっとすぐに覚えられるよ」


『うむ……ダメ元で提案だけしてみるか。

 既に書物の類は集められているかもしれんしな。

 あの父君が今まで指を咥えて見ていただけとも思えん』


「明日行ったらすぐ聞いてみよう!」


「?」


 あかん。司書さんが訝しげな目でこっち見てる。

今のユーシャの声が聞こえてしまったのだろう。

というか、こんな静かな空間で話していれば、どれだけ小声でも聞こえかねんな。


 私とユーシャの声は別に似ているわけでもないのだ。

とっくに違和感を感じているのかもしれない。


 私達は会話を中断して、また暫く本をめくり続けた。

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