01-13.新しい目標
『起きたか!』
「……あれ?」
『気分はどうだ!?
どこか痛むところは無いか!?』
「……痛い」
『どこだ!
どこが痛い!?』
「全身……」
『なんだと!?
何か毒でも仕込まれていたのか!?』
そんなはずは!?
まさか私にも気付けない何かが!?
「違う。そういうんじゃない。
なんかいっぱい運動した後みたいな感じ」
『……すまん。それは私のせいだ。
無茶をさせすぎたようだ』
恐らく無理やり外から体を動かしたせいだろう。
丈夫な少女の体だからこの程度で済んだが、あんな無茶は二度とするべきではないな……。
「無茶?」
『お前は何者かの襲撃を受けて昏倒したのだ。
その後、私がお前の体を動かしてここまで戻ってきた』
「え?」
『黒尽くめの女だ。
奴は私を狙っているようだった。
すまない。私のせいで……』
「エリクのせいじゃないよ。
守ってくれてありがとう。エリク」
『いや……しかし……うむ……』
「それで、どうやったの?」
『どうとは?』
「私を動かしたって言ってたじゃん」
『魔力で体を覆ったのだ。
私は多少の魔術が使えるのだ』
「むぅ~。
なんで今まで教えてくれなかったの?
光ったり浮いたりって、あれは魔術だったのね」
『機会が無かっただけだ。
お前の側にいるためには必要な事だった。
私は極めて特殊な存在だ。目立つ事はしたくなかった』
「……そっか。ふふ」
何やら機嫌が治ったようだ。
倒れる前の会話も忘れているのかもしれない。
「私、決めたよ」
『何がだ?』
「私は今からユーシャ。
エリクが呼んでくれたユーシャって名乗る。
本当の名前を呼んでくれないなら、こっちを本当の名前にしちゃえばいいんだよね」
『ならぬ!
ダメだそんな事は!
母君から貰った大切な名だろうが!』
「エリクが頑固なのが悪いの。
それにユーシャだって、私のお母さんが呼んでくれた名前だもん」
『違う!私は母などではない!
ただの薬瓶だ!勘違いするな!』
「何を言ったって聞く気は無いよ。
嫌ならエリクが譲歩して」
『無茶を言うな……今更……』
「何をそんなに気にしているの?
別にいいじゃん。
ちゃんと最後には飲んであげるから。
私の一生分くらいは付き合ってよ」
『ダメだ。それでは私の望みが叶わん』
「知らないよ。そんなの。
私は私の我儘でエリクを手放さないだけだもん。
嫌なら自分で逃げてみせてよ。
私の事なんて嫌いならそう言ってよ。
何言っても離してなんてあげないけどね」
『なんなのだ……本当にお前はなんなのだ……』
「エリクの娘で、相棒で、後は……お嫁さん?」
『私は女だ。
何度も言っているだろう』
「じゃあお婿さん」
『お前も女だ。婿にはなれん』
「じゃあ探そうよ。
喋る薬瓶があるんだもん。
男の子になる薬だってあるよ。きっと」
『ダメだ。認めんぞ。
私の大切な娘を奪うなんぞ、例えお前でも許さんぞ』
「ふふ。冗談だよ。
男の子になっちゃったら、エリクの大好きな胸も無くなっちゃうもんね♪」
『好きちゃうわ!』
「はいはい。
それよりさ、エリクを人間にする方法も探そうよ」
『人間にするだと?
そんな方法などあるわけ無かろう』
「例えばさ。
人形でも良いんじゃない?
私と同じくらいの人形を作ってそこにエリクを入れるの。
エリクはそれを中から動かせば良いんだよ。
どう?いい考えでしょ?」
『それは……確かに面白そうだな……』
巨大ロボットに乗る感じか?
カ◯ダム的な?モビ◯スーツ的な?
悪くない。
少女を守るためにも都合が良い。
少女の体を直接動かしては負担が大きいのだから、代わりの肉体を用意すれば良いのだ。
武装も積んで、少女の代わりに戦えるようにしよう。
腕の良い職人が必要だ。
お嬢様伝でご当主様に紹介してもらって……いやいや。
私は何を考えているんだ。
あんな身勝手な願いをしておきながら、まるで手の平を返したようにこんな頼みが出来るもんか。
いやまあ、ディアナは喜ぶかもしれんが……。
「ものは試しだよ。
先ずは普通のぬいぐるみでも買ってみようよ。
それで少しずつ動かして練習してみよう。
そうと決まれば早速!あ!ぐっ!」
『馬鹿者。無理をするな。
今日は大人しく寝ておけ。
私は逃げたりなどせんよ。
あの女がまた襲ってこないとも限らんのだ』
「うん。
もちろん信じてるよ。
エリクが私を見捨てたりするわけないって」
『ならば眠れ。
話の続きはまた後だ』
「起きたばかりだよ?
別に眠くないんだけどなぁ……。
そうだ!なら子守唄歌って!」
『自分で歌えばよかろう。
歌はお前の得意分野だ』
「意味ないでしょ!」
私は少女の頭に向かって魔力の腕を伸ばした。
「え!?
これエリクが!?
エリクが撫でてるの!?」
『他に誰がいると言うのだ』
「えへへ~♪
手は!手は繋げる!?」
魔力の腕で少女の手を握った。
「う~ん?なんか違うかも?
手って言うより、暖かい壁みたい?」
知らん。感触なんぞわかるもんか。
『もう寝なさい。ユーシャ。
後でいくらでも付き合ってあげるから』
「うん。約束だよ。お母さん」
結局、ユーシャはすぐに眠りについた。
私はユーシャの側で再度の襲撃を警戒しながら、魔力の腕の改良を続けた。
次は柔らかめに作ってあげよう。
そんな方法があるのかは知らないけど、この子の望みを叶えてあげたいから。もう少しくらいなら頑張ろう。