02-29.暇つぶしの雑談
「ところでレティよ。
ひとつ気になっていた事があるのだ」
「スリーサイズですか?
上から、」
「ちがわい!
お主のこの目の事だ!」
「エリクちゃんにも見えましたか?」
「いいや。実は私には何も変わったものは見えんのだ」
レティの身体を支配しても視界はいつも通りだ。
これもやはりイメージの問題だろうか。
薬瓶も人形も人もキメラも改造人間も視界が同じなのだ。
ちなみに蜘蛛でも変わらなかった。蜘蛛の目の数に応じて視界が増える事もなく、むしろ蜘蛛のサイズに応じた若干狭い範囲が見えるだけだった。
感覚共有もだいぶ大雑把に纏められているようだ。
私のイメージが足りていないからという可能性が高そうだ。
「エリクちゃんとユーシャちゃん。
それにスノウちゃんでしたか。そして今は私も。
皆で繋がっていますね。何か紐みたいなもので」
「そこまで見えるのか。
驚いたな。本当に」
やはり見てみたいな。
何か方法は無いのだろうか。
「ちなみにユーシャに何かおかしな所はなかったか?」
「魂は何か大きなものに遮られていますね」
ああそっか。
特殊な袋に入れられた薬瓶が胸に挟まっているからな。
あれが邪魔なのだろう。今度背中から見てもらうか。
普通にどかしてもらってもいいけど。
別にレティにはもう話したって構わないし。
「私の本体はユーシャが守っている。
何人たりとも近づけるでないぞ」
「ダメですよ。エリクちゃん。
そんな事話しちゃ」
「よい。レティのことは決して逃がしはせんのだ」
「信じているからとは言ってくれないのですか?」
「出会ったばかりだからな。
だが気に入った。今はそれでよかろう」
「ふふ♪ 嬉しいです♪」
「逆に聞きたい事はあるか?」
「でしたらエリクちゃんが操っていたあの娘の事を」
「む? ああ。そういう事か。
あれは魔物の素材で作ったキメラだ。
人の体ではない」
「……なるほど。どうりで」
「何か気になるか?」
「う~ん……今はやめておきます」
「遠慮する事はないのだぞ?」
「いいえ。そうではなく。
話しても伝わる事ではありませんから」
レティの目には何が見えているのだろうか。
む? あれ?
「おいレティ。お主は私の魂が見えているのか?
あのキメラの身体の中に?」
「はい。ありますよ。
誰よりも綺麗なキラキラが」
どういう事だ?
私の本体はあくまで薬瓶のはずだ。
キメラの肉体はあくまで仮初のものだ。
魂は薬瓶に残っているのではないのか?
憑依とは魂ごと乗り込むものなのか?
なら今の薬瓶はどうなっているのだ?
私の感覚としては間違いなくあれが本体だ。
魔力の大部分もあの薬瓶に残っている。
逐一引き出している感覚はある。
「サイズはどうだ?
皆と変わらぬか?」
「ええ? はい。まあ。
サイズは元々バラバラですからね。
少なくとも一般的な範疇からそう外れたものではありません」
私の本来の魂は魔力に応じた膨大なものなのか?
そこから人間サイズに一部を切り分けたものがキメラの身体に宿っているのか?
私が意識丸ごと宿せるのは、魂を分け与えたからなのだろうか。呪いの人形に魂の一部を引きずり込まれた事がキッカケで、私はそういう技術を学んだのだろうか。
もしかしたら複数の人形に魂を分け与える事も出来るのだろうか。複数の私が同時に存在する事も出来るのだろうか。もしくは薬瓶に意識を残しながら、キメラの身体にも二つ目の意識を宿らせる事もできるのだろうか。
また色々実験してみるべきだな。
レティにも見てもらおう。薬瓶の状態も含めて。
「ところでレティ」
「今度こそスリーサイズですか?」
「ちがわい。その格好の事だ」
「パティの好みです」
ああ。そういう。
お姉ちゃん、パティの為に全力過ぎるだろう……。
「ならば箒も?」
「あれはパティのプレゼントです」
もしや魔導杖と同じようなものか?
「ちなみに見た目通りのただの箒です。
次のプレゼントには是非クッションが欲しいですね」
お姉ちゃんも大変なのだな……。
今度ジュリちゃんを紹介してやろう。
あのユーシャがディアナにプレゼントしたのと同じクッションがあればレティのお尻も守られよう。ジュリちゃんなら上手い具合に箒に固定してくれるだろう。
「お姉ちゃんのお尻が気になりますか?」
「やかましい」
身体を共有しているせいで、微細な意識の向け方から考えを読まれたようだ。やるなレティ。
「後で揉ませてあげますね♪」
「だまれ」
「ああ。そうでした。
エリクちゃんは巨乳好きなんでしたね。
大丈夫です。安心して下さい。勿論おっぱ」
「やめんか!!」
「そんな恥ずかしがらなくても良いじゃないですか」
「違うぞ。私はパティの平たい胸が好きなのだ。
断じて巨乳好きではない」
「何故そこでムキになるのです?
自分に言い聞かせているんですか?」
ちがわい。単に説得力が無いと自覚しているだけだ。
ユーシャを一番と公言し、スノウとレティを侍らせておる。
更には自らの作られた身体もそれなりの大きさだ。これでは巨乳好きと揶揄されても仕方がないとは思うのだ。
だがそれでも! 私は声を大にして言おう!
私の真の理想はパティであると!
あのスレンダーぼでぇこそが私の気持ちを昂らせると!
目を引きつけて止まぬのだと! 何度だって叫び続けよう!
あんなの飾りです。
大きい人にはそれがわからんのですよ。
いや、これは色々敵に回しそうだな。止めておこう。
念の為言っておくと、私だって別に嫌ってるわけじゃないのだぞ? ユーシャの身体についているものを嫌いになれる筈がなかろう。スノウに抱きしめられるのも心地良い。決して良さがわからぬわけではないのだ。ただ私の嗜好とは異なるというだけで。だから否定はすまいよ。うむ。
私は誰に言い訳しているのだろうか……。
やめだやめ。なんか虚しくなってきたぞ。
「おい揉むな。王女が端ない」
「でもこうすればエリクちゃんにも伝わるんですよね?」
「どいつもこいつも……はぁ……」
「お疲れですか? 直接揉みますか?」
「もう付き合わんぞ」
「そうですか。残念です」
「普通にすごせ。普通に話し相手になってくれ。
いきなり飛ばしすぎだ。我々は今日会ったばかりなのだ」
「エリクちゃんのせいでは?」
そうかもだけどさ。魔力漬けにしちゃったせいで私への好意が止まらないんだろうし。
「その好意は消せぬのか?」
「酷いですぅ……」
「いや、疎んじているわけではないぞ。
そうではなく、抗う事は出来ぬのか?
レティならば試してみたのではないか?」
「試しませんよ。そんな事。そんな気も起きません。
私は今とっても心地が良いのです。それに都合も」
「何の話だ?」
「いいえ♪ なんでも♪」
「妙な事は企むなよ。
どうかこのまま私の側にいておくれ。
永遠に私のものでいておくれ」
「はい♪」
本当に都合の良い事だな。
レティにとってどういう意味だかはわからぬが。
まだまだ油断するべきでは無さそうだ……。




