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01-01.少女と薬瓶

 エリクサー。

別名、万能回復薬。

或いは、万能の霊薬。


 効果は主に、HP、MP、状態異常のフル回復。

時には蘇生効果すら備えている物も存在する。


 類似の特性を持ったアイテムは様々なゲーム上に登場し、数多の勇者達の必需品……になるはずのものだった。




----------------------




 ラストエリクサー症候群

別名、もったいない病。


 エリクサーには致命的な欠陥が存在した。

その効果の高さ故、獲得できる数には限りが有るのだ。


 故に数多の勇者達は使用を躊躇い続けた。

もしもの時の為にと温存した結果、使うべき機会を逸してしまうのだ。


 挙げ句、ラスボスを倒し、ゲームをクリアしても使われる事の無かったエリクサー達は、ポーチや倉庫の肥やしとなってその生涯を終えるのだ。




----------------------




『飲め!』


「嫌だ!」


『良いから飲め!

 今がその時だ!!』


「嫌だってば!!」


 私はなんて無力なのだ。

出せるのは口だけだ。口は無いが。


 眼の前で弱っていく勇者をただ指を咥えて見ている事しか出来ない。指は無いが。



『何故わからぬのだ!

 飲まれる事こそ本望!

 私はお前を死なせたくないのだ!!』


「エリクは大げさだよ!

 こんなのかすり傷だってば!!」


『嘘をつけ!

 こんなに血が出ているではないか!!』


「殆ど返り血だってば!!」


『そんな筈はない!

 今尚体力値は減り続けているのだ!』


「え?

 あ、道理で体調悪いと思ったら。

 さっきの矢に毒が塗られてたんだね。

 もう。そういう事は早く言ってって何時も言ってるのに」


 何処からともなく取り出した解毒薬をしかめっ面で飲み干す勇者。



「うへぇ!

 やっぱ不味いなぁ~!」


『何故だ!?

 何故私を飲まんのだ!?

 そのような毒とも知れん液体は飲めて何故飲めんのだ!』


「毒なわけ無いでしょ。

 これは解毒薬だよ。

 そう言えば体力も減ってるんだったね。

 ポーションも飲んどかなきゃ」


『あぁ~!そんな!

 また先を越されてしまった……』


「相変わらずエリクはわけがわからないよ。

 何でそんなに飲まれたがるの?」


『何度も説明しただろう!

 私はこのまま倉庫の奥に追いやられるなどごめんなのだ!

 せめてエリクサーとしての生涯を全うしたいのだ!』


「そんな事しないってば。

 エリクは私の相棒だもん。

 何時も頼りにしてるんだから」


『そんなのは今だけだ!

 何れ冒険者を引退し、伴侶が出来れば手放すはずだ!

 無駄に口うるさいだけの怪げな薬瓶など誰が側に置きたがるというのだ!!』


「口うるさいの自覚あったんだ」


『やかましい!』


「大丈夫だって。

 私、生涯冒険者辞めるつもり無いし」


『お前が死んだらどうするのだ!

 私はダンジョンの奥深く、誰に拾われるかもわからないまま一人寂しく凍える事になるのだぞ!』


 凍える体は無いが。



「心配ないってば。

 その時は飲んであげるから。

 そういう約束でしょ?」


『信用できん!』


「あ!酷い!

 そんな風に思ってたの!?」


『勇者とはそういうものだ!

 何時か使おう、後で使おう、今じゃない。

 そんな事を考えながら機を逸していくのだ!

 どうせ命を失ってもセーブポイントからやり直せると高を括っているのだ!』


「そもそも、その勇者ってなにさ。

 せーぶぽいんと?もよくわからないし。

 エリクはたまにわけのわからない事を言うよね。

 あ、たまにじゃないか。いつもか」


『やかましい!』


「もう。

 すぐ怒ってばっかり。

 そんなんじゃモテないよ?」


『いらんわ!

 そもそもお前以外の誰が興味を持つと言うのだ!!』


「ふふ。

 心配しなくても私がずっと側にいてあげるって」


『そういう意味ではない!

 少しは話を聞かんか!』


「はいは~い♪」


『はいは一回!そして伸ばすな!』


「もう。

 またお母さんみたいな事言って。

 本当に口うるさいな~」


『嬉しそうにするな!

 頬ずりするな!

 本当に何なのだお前は!』


「お前じゃないって。

 ちゃんと名前で呼んで」


『ふん!

 名前なんぞ覚えとらんわ!』


「嘘でしょ!?

 こんなに長く一緒にいたのに!?」


『誰も呼ぶ者などおらんではないか!

 恨むならばボッチの己を恨むが良い!』


「あ~!!!

 そういう事言う!?

 ふんだ!良いもん!

 私はボッチじゃないし!

 私にはエリクがいるもんね!」


『私はお前のお母さんではない!

 私はエリクサーだ!

 万能回復薬だ!

 おもしろお喋り薬瓶などでは断じて無い!!』


「でもほら、なんかお誂え向きに首紐まで付いてるし。

 きっとエリクを作った人もそういう用途で作ったんだよ」


『やめんか!

 無駄に振るでない!

 おい!落として割れたらどうするんだ!

 取り扱いには気をつけろ!』


「ふっふ~ん♪

 文字通り手も足も出せないもんね~♪」


『やめ!あ!ちょ!悪かった!謝る!

 だから!おい!やめんか!!

 ダメだって!振り回すのはやめてって!!』


「ふふ。少し素が出てきたね。

 どうしてそんな気取った話し方するの?」


『それ!より!やめ!』


「あ!?」


『きゃぁ~~~!!!!』

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