学校生活 ルームメイトとの風景
居室で腕立て伏せをしていると、ちょうど百回でタキが帰ってきた。
「おかえり。場長会議、長かったな」
「サダがうるさくてさ。なかなか決まらなかった」
「サダって松島教場の?」
「ああ」
「あいつ、勘違いしてるよな。自分が偉くなったつもりでさ。同じ学生のくせに助教気取りだ」
「まあ、そこまで言うつもりはねえけどさ」
タキは俺の姿勢を見て呆れた顔をする。
「お前まだトレーニングしてんのか。ほんと好きだな」
「テレビもねえ、携帯も取り上げられてる。しかも野郎同士の相部屋なんだから、することなんか筋トレくらいしかねえだろ」
「漢字の勉強でもしろ」
タキは不機嫌そうに椅子に腰を下ろす。
「教官が、お前が足を引っ張ってるってよ」
「範囲決めてくれよ。漢字ってこの世にいくつあると思ってんだよ」
「いいからやれよ。一線に出てから、恥をかくのは自分だぞ」
「パソコンがあるから心配ねえよ」
そんなことを言い合っていると、居室の電話が鳴った。
俺が出ようとするのを遮って、タキが受話器を取る。
「はい、415号室、飯塚教場タキです」
どうせ教官からだろうと思ったら、案の定だった。
「はい……はい」
返事をするタキの顔が曇っていく。
「了解しました、失礼します」
受話器を置いたタキの顔が、少し青ざめていた。
「教官、何だって?」
「スゴウが辞めるって言ってきたってよ」
「スゴウ? アイダじゃなくて? 何で?」
「俺が知るかよ」
吐き捨てて、タキは部屋を出ていく。
「スゴウ、もうついていけないってさ」
戻ってくるなり、タキは言った。
「明日、退去だ」
「ふうん。相部屋のカドタは何て?」
「部屋が広くなるって喜んでた。薄情だよな」
「いいんじゃねえの? それくらい図太くねえと俺らの仕事は務まらねえだろ」
「そんなんで、人の気持ちが分かるのか。つらい思いをしてる人たちのよ」
「俺達まで一緒になって泣いたって何も解決しねえだろうが」
「割切り方がおかしいって言ってんだよ」
俺達はしばらく睨み合った。
「……俺らがケンカしたって仕方ねえ」
今日はタキが先に折れた。二段ベッドの下の段に、乱暴に横になる。
「お前も筋トレでもすれば?」
腹筋を始めた俺を、ベッドの暗がりからタキの目が睨んでいた。
「やらねえよ」
タキの声はくぐもっていた。
「ああ、こんな生活さっさとおさらばしてえ」
「お前は偉くなるよ」
「うるせえ」
タキは一声吼えた。
「俺だって知ってるよ。お前みたいなやつの方が警察官に向いてることくらい」