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ようこそハッピーワンダーランドへ

「三話 現実逃避」





ふかふかした感覚、真っ白な天井、布に仕切られたベッド


目が覚めると保健室にいた


身体が重い、もう1回寝ようかな


「白雪先生?」


「あっ起きた?」


白雪七瀬先生、保健室の女神と呼ばれている美人で評判な先生だ

白雪先生は優れた容姿だけでなく性格も優しい。全世界の人達が思い浮かべる保健室の先生を擬人化したような人だ。そのためか、密かに想いを寄せる生徒も多く、白雪ファンクラブが作られるほど人気らしい


「大丈夫?急に倒れちゃうからびっくりしたよ...」


普段はおっとりしてて、天然なところも多いのが萌えるポイントなのだとか。そういう感性は持ち合わせていないのであまりピンと来ないが、みんなが言うのならきっとそうなのだろう


それにしても近いですね


「俺は大丈夫ですけど、一体何が?」


「覚えてないの?君が壇上から落ちちゃって、大変だったんだよ?」


「そんなことが...迷惑をかけてしまってすいません」


「それよりも大丈夫?痛いところとかない」


ぎゅっ


「せ、先生?流石に近いですっ」


「あ、ごめんね〜苦しかった?」


「そういうことではないです...そうだ、今何時ですか?」


「えーっとね、今は6時前かな?」


「もうそんな時間なんですか、早く寮に戻らないと」


「待って、一応夜は危ないから、先生が寮まで送って行ってあげようか?」


「流石にそんな迷惑かけれませんから、気持ちだけ受け取っておきます」


「分かったわ。あとこれ、君の鞄。重たいから気を付けて帰ってね」


「はい、迷惑かけてすいません。ありがとうございます」


「じゃあね~」


タッタッタッ


真っ暗な校舎を駆け抜ける


こういう普段は人がたくさんいる場所が、自分一人だけだと気分が高揚してしまう


「そういえば俺の部屋ってどこでしたっけ?というか今日って何日でした?」


スマホを確認する


時刻は4月8日の17時48分。入学式が行われた日付だ


「入学式?そんな記憶ありませんよ」


頭に浮かんだことがすぐに消えていく


モヤがかかったように思い出すことができない


「思い出せない...どうかしちゃっだんでしょうか」


下駄箱から自分のと思われる靴を取り出し、速やかに学校から退出する


街灯に照らされた道をますっ直ぐ歩く


光をのかき消すように歪んだ空から逃れられているのは街灯のお陰だろう


自分の道が分からなくても目の前の道は照らしてくれている


街灯に照らされた道を意味も無く真っ直ぐ歩く


ふと、アスファルトの視界に照らされていないレンガの脇道が現れる


どこへ続いているのだろうか


早く帰らないとと思いながらも、自分の意思に反して身体は動く


足を闇に落とす。一歩、また一歩と。人工的だっ景色とは一変し、樹木や草花が視界を覆っている


「ホーホホー」


「鳴き声...」


この時期に鳴くのは梟かキジバトだろうか


「この先から聴こえる...」


レンガの道から外れた林の中に2つの点がある


「少しだけお邪魔しますね...」


足を踏み入れると同時に光が消え、鳴き声が止んだ


それに疑問を持ちながらも歩みを進めると、突然辺りを蒼く染め上げる程の光が”左手首から”発現した


「っ!?これは、センティメント?」


センティ...メント?そうだ。これが疑問の正体だ。モヤが晴れ、思考回路がスムーズに動き出す


するともうひとつ頭に思い浮かぶ事がある


何故2年生の記憶があったんだ?


「分からない。もしかしたら夢だったのかもしれない。でも、それならこの手首にあるセンティメントの証明はできない。そもそもあのセカイは存在したのか?全てが妄想で、変な夢だったのかもしれない」


いくら考えても答えは出ない


そもそも答えが、あったって今の俺には分からないだろう


「ここでもファディアルは使えるのでしょうか?試す価値はありそうですね」


マインドを弾に変え、指先から射出する


......


「何も起きません。それはそうですよね、あれは夢の中だからできることですし...うわぁ!?


パンッ


指先から光の弾がこちら目掛けて飛び出してきた。咄嗟に身体を捻り避けたが、弾は右頬を少し掠め皮膚を切り裂いた


「はぁ、びっくりしました。まさかファディアルが出るなんて…」


射出が遅れたのは何が原因なんだろうか。現実だとあっちと違いイメージの伝達が遅いのか?それに弾が右に逸れて行ったのは、現実の方が操作が難しいからなのか?


「でもこっちは…」


枝をへし折る


「健在ですね」


まぁいい、きっと今の自分じゃ情報が少なすぎて、考えても分からないだろう。自分の部屋に戻ろう。どこか分からないけど


「さて、かえり、ま...あれ?道が無い」


レンガの道から数歩しか歩いていないはずなのに道が無くなってしまっている


「高一で初めて迷子ですか?困りますよ俺...」


道を引き返そうにも、木やその根で真っ直ぐ歩くことができない


それにさっきまで無かったはずの花や木が生えている


「本当に困りました...ここ無駄に広いですから帰れる気がしませんよ」


何か手掛かりは...


あるのは自然だ。それ以外は何も無い


暗い


せめて光源でも


パタッ


1つの羽音が耳の中を反響する


1匹の蝶だ


半ば諦めつつ、蝶の後を追いかける


不思議と心が暖かくなっていくのを感じる


気が付くと視界が広がり、辺りは綺麗な花畑になっていた


満点の星が空を埋めつくし、月が明るく輝いている


森に入る前は見れなかったのに...まるで別の世界へやってきたみたいだった


花畑は円形に広がっており、中央には1つのドームが造られていた


『展望台』


古びた看板にはそう書かれている。どうやらここは展望台のようだ


「ふーふふーん♪らーららーら♪」


「女の子?」


展望台の頂上では、紫檀色を基調としたボウタイワンピースを身にまとった少女が柵に立っている


「何してるんですか!落ちたら危ないですよ!」


「らららーん♪」


聴こえてない?


とりあえず彼女にここがどこか聞いてみましょう


薄明かりが漏れる扉を開けると、1つのランプが目に入った


大きな机の上の資料を照らしている


「これは、植物ですかね?」


壁一面に貼られている紙には、様々な植物や昆虫の生態などが記されている


階段を登っていくと、大きなドームに辿り着いた


大きな天体望遠鏡に出迎えられたが、それには一切目もくれずに外の少女が立っていた場所まで向かう


「...いませんね」


外周を一周してみたが少女の姿は無かった


「そういえばスマホのマップ機能は...」


『位置情報が特定できません』


「...?ここは本当に日本ですか?しかも都会ですよ?」


いよいよまずくなってきた


「このままではお腹空いて死んでしまいますよ」


今思えば今日、ご飯を食べた記憶が一切ない


「せめて水源だけでも...」


カン


後方から鉄を弾く音が聴こえた


「アナタはだぁーれ?見かけない顔だね。新入生?」


さっきの彼女が立っていた


「あっ、俺、今日ここに入学してきた入出琥珀って言います。貴方は?」


「私?私はねタナトスっていうの」


「タナトスさんですね。あの、いきなりで申し訳ないんですけど、ここってどこか分かります?」


「あー、もしかして迷っちゃった系の人?」


「はい、迷っちゃった系の人です」


「そーなんだ、大変だね。んーっとね、そしたら、あそこに1つの赤い灯りがあるでしょ?そこを真っ直ぐ進むと、元の場所に戻れるはずだよ」


「ありがとうございます」


「あ、ちょっと待って。間違っても青の灯りの道には行かないでね。それと、君、気を付けな。今の君、すごく不安定だから何が悪い事が起きるかも。それじゃ気を付けて」


道を教えてもらったのはいいんですけど、最後の不穏な感じのやつなんなんですか?


まぁ大丈夫でしょう。きっと、どうにかなります


「またここに来てもいいですか?」


「どうして?何か気になることでもあった?」


「いえ、ただ星空が綺麗で、また来たいなって」


空に架かる箒星、灯りのないここには星空が一段と綺麗に見える


彼女は少しはにかみ宙を見上げる


「もう来ちゃダメだよ。もし別のところで会えても、私に近づいちゃダメだからね」


「どうしてですか?」


彼女は口を閉ざし、答えてはくれなかった


「さぁ、いったいった」


「...はい、ありがとうございました」


気になることがあったが、彼女に言われた通りに灯りを進むと、1つの街灯の下に出た。さっきの脇道の所だ


「『会えても近づいちゃダメ』って、どうしてなんでしょう。それに、なぜあんな場所のこんな時間に1人で...。はぁ、俺なんかが考えたって、答えなんて出てきませんよね。さぁ、今度こそ寄り道せず、真っ直ぐ帰りましょう。お腹すきましたし」


鞄に入っていた学校の資料を頼りに、寮に向かう


改めて学校の全体図を見ると、本当に広いことがわかる。校舎やショッピングモール、公園にスポーツジム、なんでも揃っている


でも、一つだけ足りない


あの展望台が無い


マップの端から端、隅々まで見てもそれらしきものは見つからない。俺が出てきた所の先は、ただの大きな池だった


「ここに来てから不思議なことしか起きないんですが、一体どうなってあるんですか?夢の中では友人が行方不明になったり、屋上から落ちたり、後輩を助けたり、完全に意味不明ですよ...」


浮かび上がった疑問を処理しつつ、マップを頼りに歩く


街灯の数が増え、次第に人を見かけるようになる


どうやらこの先に寮があるようだ


「寮に入るにしても鍵ありませんし、とりあえずエントランスの人に話しかければいいんですかね?」


こういうのはあまり得意ではないが、やらないといけない。マストだ


「はぁ〜。あの、すいません」


「はい、なんですか?」


「えっと、俺、自分の部屋の鍵貰ってなくて、貰うことってできます?」


「生徒手帳を見せて貰ってもいいですか?」


「はい、これです」


電子手帳を起動し、画面を見せる


この学校は色々と最先端だ。電子手帳がそのひとつだろう。この電子手帳は身分を証明することだけでなく、教材アプリやポイントカードのようなものが最初から入っており、学校生活を豊かにすると共に、日常でも役立つものが多い。

特にポイントカードは有能で、どこの店で買い物をしても、ひとつにポイントが溜まる仕様になっている。


「はい、確認できました。入出琥珀さんですね、鍵はこちらにあるので、少し待っていてください」


「はい」


これから一人暮らしなのか...正直、不安がないと言えば嘘になる。親の元を離れたことの無い俺にとって、家事は困難である。流石にネットなどで調べたことはあるが、知識があったって使えなければ意味が無い。だが、知識があるのと無いのとでは雲泥の差だ。これからの3年間でどれだけ家事スキルが向上するのか、とてもワクワクしている。先ずは夜ご飯だ。最初はオムライスとやらを食べてみたい


「お待たせしました、こちらです。」


差し出された部屋の鍵は銀色のカードだ


「部屋はJ-802号室ですね」


「ありがとうございます」


この学校は一人一部屋なので、プライバシーが守られ精神面にとても良い。それに家具が備え付きなので、ゼロから揃えなくていいのだ。でも、必要最低限な物しかないので、多少の出費はあるだろう。


「それでは、1回部屋に荷物を下ろしてから買い物に行きましょうか。確か、スーパーはまだやっていたはずです。それと、食器は100均で済ませてしまいましょう」


お金の心配はしなくてもいいが、金銭の感覚が狂ってしまわないように、バイトは経験しておきたい


ガチャ


「ただいま」


今日からここが俺の部屋


白を基調とした家具が多く清潔感ある


壁の空いたスペースにはこれから家具を設置して、自分色に染め上げていこう


「シックモダンとやらが良さそうなので、今度時間があったら買いに行きましょうか。それより、夕飯です。急いで食材やら食器を買いに行きましょう」


鞄を無造作に放り投げ、スマホと財布だけを持ちスーパーに向かう


「あと、このセンティメントを隠す何かを買いましょう」


そういえば、俺のフェアリル...フロースはこっちで出てくることができるのだろうか?

気になったらすぐ行動だ


「現出せよフロース」


ポン


頭上2m程から小さな爆発とともに、空間に衝撃が走る


「フロースっ!危ないっ」


咄嗟にフロースをキャッチし姿を確認する


「きゅー?」


「無事ですよね?ファディアルは使えなくても、フェアリルは出てこれるようですね」


「ふぁりある?」


「ファディアル、魔法のことですよ」


「まほう?」


「あぁ、そういえばアリスさんが教育すれば、ちゃんと話せるようになるって言ってましたっけ」


「うー?」


「フロースもオムライス食べますか?」


「おむらいす?うん!」


「わかりました。それじゃ、食器を2人分買いましょうか。食材も明日のお弁当用にいくつか買っておきましょう。少しセンティメントの中で待っていてください。急いで買ってきますね」


フロースをセンティメントに戻し、軽快な足取りでスーパーへ行き、買い物を済ませる


フロースはどう見ても小学校中学年くらいにしか見えないが、実際はいくつなんだろう。

身長は120cmくらいで、ストレートの綺麗な白い髪をしている

そもそも精霊に年齢はあるのだろうか?




「ただいま」


台所に食材やら食器やらが入った袋を置く


「フロース」


ポン


「よいしょ」


フロースを受け止める


「きゅ〜♪」


「ただいま、フロース」


「ふろーす?」


「貴方の名前です」


「わたし、ふろーす?」


「そうですよ、どうですか?」


「ふろーす!わたしふろーす!」


「あはは、気に入って貰えて良かったです。今からオムライス作るので、ベットの上でごろごろしててください」


「ベッド?」


「ベッドはこれです」


フロースを抱えたままベッドへ向かい、優しく降ろす


「ふかふかしていて気持ちいでしょう♪」


「んー♪ふかふか!」


「はい、それでは俺は台所でオムライスを作ってくるので、じっとしててくださいね」


「んー♪」


使わない材料は冷蔵庫に詰め、エプロンを着て台所に立つ


「一応作り方を見ておきましょうか。先ずは具材を切って...」


ぎこちないが、とりあえず手を斬らずにできた


「バターをフライパンに入れ溶かし、具材を炒める。そしたらご飯とケチャップを加えて...」


調理を進めながら、横目でフロースを見る


「うぅ〜」


すごく暇そう


明日にでもフロースが楽しめる何かを買おうかな


「あとは卵で蓋をして...よし、完成です」


2つのお皿を机に運び、スプーンを用意する


「フロース、オムライスが出来ましたよ」


「おむらいす!」


「1人で食べれますか?」


「たべる?」


「こうやって...」


オムライスをスプーンですくい、食べる


「んー、美味しいです♪」


フロースもスプーンでオムライスをすくい、食べた


「んー!」


「美味しいですか?」


「おいしー!」


「よかったです。口元にご飯付いてますよ」


ティッシュで口元を拭う


なんだか、本当に育児をしている感じだ


「フロース」


「ん?」


「不甲斐ない俺かもしれませんが、これからよろしくお願いします」


改まった姿に困惑しながらも、フロースは返事の代わりに屈託のない笑顔で返してくれた


「それでは、ご飯が食べ終わったらお風呂にしましょう」


ところで疑問なんだが、フェアリルはお風呂に入るのでしょうか


まぁ入らないよりかは入った方がいいだろう


別に俺はロリコンじゃないぞ...。俺は誰に説明しているんだ




・お風呂にて・


「ふぅー、いいお湯ですね」


「おみずだ!」ぱしゃぱしゃ


「水が逃げちゃうのでだめですよ〜」


髪の長い女の子はお風呂大変ですね。お風呂の度に髪をまとめる必要があるなんて...フロースの髪を痛めないようにするためにも、色々とグッズが必要かもです

それにしても、タオルにこんな使い方があるのに初めて知りました


「こはくみて?おみずういた〜♪」


まるで宇宙空間にいるように水が宙に浮かんでいる。光源の灯りを反射し、幻想的な光景が広がっている


なんのファディアルなんだろうか。それにたとえファディアルだったとしても、呼吸をするように扱えている


フロースは不思議だ


「こはく?」


水を浮かせたり、風を吹かせたり、ファディアルを自分の四肢のように使える。もしかしたら、精霊なのでそういうのが関係ないのかもしれない

それと、うなじのところに俺のセンティメントと同じ模様があった。大きさは直径7cmくらい。ファディアルを使う度に光る。


「はい、なんですか?」


「おみずういたよ?」


「フロースは凄いですね」


そう、フロースは本当に凄い。怖いくらいに


「きゃっきゃっ♪」


フロースの成長は目を見張るものがある

身体的なものではなく、精神的な方でだ。俺の言葉をインプットし、噛み砕いたあとアウトプットする。コミュニケーションをとって2時間で意思疎通ができるようになった

シンプルに知能が高い


「そろそろお風呂上がりましょうか」


「うん!」




ブォーー


「きゃっきゃっ♪」


「あぁー!あまり暴れないでください。髪が乾かせませんよ!」


「はぁーい」


……


「着替え着替え...シャツしかないですね...どうしてシャツしか持ってきてないんですか俺?まぁ、服は明日買うので、俺ので我慢してください」


「ぶかぶか〜、こはくのふくおおきい」


「サイズが合ってませんからね。40cmくらい」


フロースの腕はシャツの袖の半分より少し上の部分までしか通っておらず、着丈に至っては膝下まできている


「さいずがあってたらぴったり?」


「多分そうです」


「わかった」


すると、フロースは目を瞑り、床に指で何かを描いている


「何してるんですか」


「すこしまってて...できた!」


「できたって何がですか」


「みてて...はっ!」


ポン


次の瞬間、フロースの身体が発光し、出現する時のように小さな爆発が起きた。ボトルの栓が抜けたときのような音が部屋に反響し、鼓膜を刺激する


「はっ、フロース、その身体どうしたんですか!?」


光が止んだと思ったら、そこにはフロースはではなく、フロースに似た童顔な白髪の美少女が座っていた


「ぶかぶかだったから、大きくなった...」


「元に戻ってください!」


凹凸の少なかった身体は丸みを帯び、シャツのせいで、女性らしい体のラインがこれでもかと強調されている。無邪気ではつらつだった声のトーンがワントーン下がっていて、落ち着きのある少し大人びた声色に変わっている。風呂上がりということも相まって妖艶な魅力を醸し出している


端的に言って、今のフロースは破壊力やばい


「どうして...?」


「うら若き少女があまり男性に肌を晒しては、将来困ってしまいますから」


「じゃあ琥珀とお風呂はダメなの?」


「そうですね...ほんとうは1人で入ってもらうのがいいんですけど」


「私、琥珀とお風呂入れなくなるの嫌だよ?」


「それなら元の姿に戻ってください。そっちの方が俺的にもフロース的にもいいはずですから」


「わかった...」


ポン


またフロースの身体が発光し、元の?姿に戻っていった


動揺して強く言ってしまった。フロース...明らかに落ち込んでるな...


「はぁ驚きました。フロースは変身ができるんですね」


「フロースすごい?」


「もう話せるようになっだけでも、充分凄いですよ」


「ほんと?」


「はい」


「えへっ♪」


機嫌が戻ったようでよかった


「さて、今日はまだ早いですけど、歯磨きしたらもう寝ちゃいましょう」


「はみがき?」


「お口をしゃかしゃかして、汚れを落とすんです」


「しゃかしゃかする!」


「では、ここに頭を乗せてください」


膝をポンポンすると、指示通り大人しく頭を乗せてくれた


「口を大きく開けてください」


「あぁー」


めいいっぱい小さな口を大きく開けて待っている


「しゃかしゃかしますね」


「あぁー」


傷つけないように優しく磨いていく


「痛くないですか?」


「あぁー」


「ふふっ、それじゃあ分かりませんよ」


フロースと接していると和む

純粋で明るく可愛くて、時間がすぐ過ぎていってしまう


「あわあわ〜」


「飲んじゃダメですよ」


……


歯磨きを終えたあと、すぐに布団に入ってフロースを寝かしつける


「暖かいですね」


「すーすー、ん...」


「早いですね。もう寝てるんですか」


まぁこちらとしては好都合だ


音を立てないように毛布から脱出し、鞄から本と、ペンを取り出す


『知識の書』


ページをめくるといくつかの項目に分からている

『学業』『世界』『セカイ』...


試しに学業のページをひらく

そこに載っていなのは高校の範囲の勉強だ。次は世界のページをひらく。こっちは言語から情勢、歴史や通貨のレートが、リアルタイムで更新されている

セカイのページでは、俺が見た夢の世界のことが記載されている


「『セカイの行き方。初めて行った時の状況を再現。もしくは、意識を特殊な方法で断つ。だが、後者には永久に現実に戻れない可能性があるので、行う際にはこれを踏まえた上で行って欲しい。絶対に青の光を選ぶな。選んだら最後、お前は一生夢のセカイの住人だ......。』...そんな危険なんですか」


「『後者のやり方。頭を強く打つ、神経毒を摂取する、強力な電気を流す、血液を約1L抜く、脳細胞を...』これって自殺のマニュアルかなんかですか?これが正規の方法ならぶっ飛びすぎですよ」


「えっーとなになに『一番楽なのはオーバードーズ。だが副作用が計り知れないので気をつけろ。それと、金銭面でもきついだろう。あともうひとつ、上記のことを複数回行うと意識を飛ばす癖がつき、寝ただけでもセカイにアクセスしてしまうので注意』...もうアッチには行かない方がいい気がします。それに、俺が叶えたいのは友人の蘇りだったはずです。それなら、時間が1年生まで戻っている?現在なら、久保大輔さんは生きているはずです。それに、今では関わりのない赤の他人ですし...どうなっているんですか?自分で言っていて理解ができませ」


パラパラ


「なっ、なんなんですか」


勝手にページがめくられていく


『お前が今の主か?』


空白のページに文字が羅列されていく


『答えろ』


「あっはい、多分そうです」


『そうか...しっかりとこの本を読んでおけ。隅々まで暗記するくらいな。疑問を疑問の儘にしておくな。そうしないとお前は死ぬ。他人を信じるな。常に疑え。信じていいのはこの本と自分だけだ』


「...」


『返事は?』


「…ノーです」


返事をすると同時に本を閉じ、鞄に突っ込む。


別に音を発する訳では無いので、無視か閉じれば解決するはずだ。なんなんだここは?本当に現実なのか?


「ペンの方は何か仕掛けがあるのでしょうか?」


紙に文字を書いてもインクが出てこない


「少し分解してみますか...」


ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ


鞄が激しく揺れている


「なんですか、って痛い!なんなんですか!?」


謎の原理で浮いている本に後頭部をフルスイングされる


本はさっきのページを開き、何かを提示している


『さっきの無礼を許す気は無いが、疑問があるなら調べればいい。この書には全てが載っている。誰かの死から隠したい秘密。望めば全て』


「それならこのペンのこと教えてください」


『先ずは謝罪が先じゃないか?』


いい性格してるなこいつ...


『どうした?ほれ、言うてみ。ほれほれ』


ほんと...


「先程の無礼をお許しください」


『んー?聴こえないなぁ〜?もう1回』


「ちっ、先程の無礼を!お許しください!」


『まぁよろしい。黒のページを開いてみろ』


自分で閉じた書を再び開き、目的のページまでめくる


『えーっと、そのペンは...』


3秒、5秒、10秒...文字は書かれない


「どうしたんですか?もしかして..」


『無い、載ってない』


「さっきの望めば何でも載ってるって、なんだったんですか?」


『さぁ?そんなこと書いたっけな』


「シラを切らないでください。書いたじゃないですか、ここに...あれっ無い」


『載ってた?(笑)』


(笑)なんて、そんな器用な使い方までできるのかよ


嘲笑うような文字にイライラする


意地でもみつけてやる




だめだ、いくら探しても出てこない。確かに書いてあったはずなのに...


『書いてないでしょ?見間違いだよ(笑)』


「........」イラッ


『あれっ(笑)ひょっとして怒ってる?(笑)』


「確か、キッチンの棚に備え付けコンロが...」


処分


『ちょっ、ちょ待って、冗談冗談、ねぇ怒らないでよ、悪かったって、な?この本は俺が自由に操れるから、どんな文字だって消せるんだって、高性能だろ?』


「でも、このペンについては載ってないんでしょ」


『だからごめんって、これに限ってはマジで一切それらしき情報が無いんだ...』


「そうですか...」


無いものを責めても何も出ませんよね。頭を冷やしましょう


『無かったら書けばいい。常に答えが手元にあるとは限らない、無い時はそれを補うものを自分で出せばいい。...だからさ、お前がこのペンについて書いていけよ』


「この本に?」


『あぁ、そうだ。この本はな、とある人に作られたもので『メーティス』と名付けられた。最初は何も書かれていない空白の書だったが、それから代々受け継がれてこうなった訳よ。今はお前が俺の主だ、お前が好きなように使え』


「わかりました。メーティス」


『あぁ、悪くないな。それじゃあ、先ずはそのペンでできることを見つけてみろ』


「できること...書けないペンにできることってなんですか?」


『固定概念を捨てろ。ペンだと思って使うな。別物だと考えろ』


「別のもの...」


『例えばそれが銃だったとしよう。お前は銃をどう使う?』


「引き金を引いて撃ちます」


『ならそれが懐中電灯だったら?』


「スイッチを押して光らせます」


「あぁ、そうだ。物には使い方がある。それを探せばいいんだ」


引き金を、スイッチとなるものを探す


ペンをナイフのように構え空を裂くように振り翳す


するとペン先からインクが飛び出て、15cm程の薄い結晶に変化した


「本当にナイフみたいになりました。っ痛、すごく鋭い...」


突然突き出た刃を触ると、力を加えていないのにも関わらず、切れた感触さえ感じることなく指が切れた


「早く止血しないと」


水道で血を洗い流すが、血が止まる気配がない

指先からシンクを伝う鮮血が流れ出る


「圧迫しましょう」


指にタオルを巻き付け軽く力を加える


「10分...10分経っても止まらなかったら病院に行きましょう」


『どうした?』


「ペンで指を切ったら血が止まんなくて」


『マジか...ちょっと手貸せ』


「はい」


『力を貸せクロノス、時は逆行する。クロノレイト』


一瞬呼吸が止まり視界が点滅した後、指先には8cmの秒針と時針が現れ、分針が4分の1反回転した


(ふふっ)


「っ?」


誰かが笑った


でも誰かが分からない


本を覗き込む


『どうした?もう治っただろうよかったな。続けてペンの情報を集めてくれ』


「はい...」


ペンを握り反対側につけたキャップを外すと、インクが中に戻っていった


もしかしたら、キャップがペンを戻す時の鍵なのか?


このペンで双剣はできるのだろうか


キャップとペンを両手に持ち、前方にX字を描く


今度は赤いインクと黒のインクがペンから、翡翠色のインクと黒のインクが飛び出し俺の手を包み込むと、数秒も経たない内うちに刃渡り50cm程の双剣に変わった


左右、形や色がアシンメトリーで、ペンの方は紅の刃をした両刃の直剣、キャップの方は翡翠色をした刃をした片刃の直剣だ


どちらも装飾が若干派手で、軽いがよく手に馴染む


「かっこいい...」


『面白いなお前のユーピアメモリー。変幻自在とかすげぇ便利じゃん』


「そうですね」


『今度はライフルとかやってみろよ』


「ライフル...ライフルって兵隊が持っているあれですか?」


『あぁ、もしイメージが湧かないなら見せてやるよ。ほら』


ページ一面に様々な銃器、火器が載っている


『これなんかどうだ?HK-416』


口径5.56mmのアサルトライフル

アメリカを初めとし、様々な国々で運用されてきた。命中精度の高さや衰えない銃口初速、高い耐塵性、信頼性、耐久性などによって現在も活躍している代物だ


「でも、出したときに物を壊したりしたら、まずくないですか...」


『安心しろ、その時は俺のファディアルで元通りにしてやるよ』


「そらなら...」


双剣を解除し持ち替える。ペン先を中指と人差し指の間に、キャップを付ける方を親指で作ったL字に乗せる


想像するんだ


意識をペンに集中させる


引き金を引くように中指を曲げる


それは現出した


一瞬でペンを包み込み銃を形成する漆黒のインク。高らかな破裂音をあげ弾は放たれる。薬莢は宙を舞い、弾頭が壁に着弾する寸前本から放たれた光が玉をつつみ、発砲音とともに消滅した


「..,本当に出ました。それに、さっきのファディアルはなんですか?」


『ちょっとした空間跳躍だよ』


「何でもできるんですか?」


『この本にあることならな。無いことも他のを応用すれば大体は補える。知識はあるだけではダメだ。それを応用し知恵に変えろ』


「はい」


『お前がいいなら、いや、お前には全てを覚えてもらうからな、覚悟しておけ。分かったら次だ』


「はい...少しいいですか?これは俺の推測なんですが、俺のユーピアメモリーは模倣だけでなく、ほかにも能力があると思うんです」


『どうしてそう思った?』


「さっき俺が出した双剣、切った箇所の血が止まりませんでしたし、切ったときの感覚も異常でした。もしかしたら、模倣する物に応じて何かを付け足している気がするんです。ほら、この銃も異常です。撃ったときの反動の少なさ、弾道、それにマガジンを外しても弾が入ってないんです。それなのに弾頭や薬莢は出ました」


『確かに異常だな』


「他にも俺が気づいていないだけであると思うんです。なので、メーティスから見て変なところはありますか?」


『変...か。それじゃ1つ、お前のマインドの量が異常だ』


「マインド?こっちにもあるんですか?」


『マインドはどの世界にもある。それに誰にでも

あるものだ。そして琥珀、お前のマインドの量が器を壊す限界まで入っている』


「壊れる...俺の身体がですか?」


『あぁ、そうだ。マインドはあって損しない。しかし、物事には限度と言うものが必ず存在する。限度を超えれば何かしら起きるだろう。少なくともお前の場合はいい方には転ばないがな』


「何故そんなことが...」


『きっとそのユーピアメモリーの能力だろう。お前の器限界までマインドを増幅させる。だがこれはいい事だぞ?マインドが増えればファディアルの使用回数も増えるし威力も上がる。多分お前のユーピアメモリーは、模倣と強化が同時に行える優れたものなんじゃないか?』


マインドの上昇、コピーにパワーアップ。一見するとシンプルな能力だが、どんな場面でも使えるものなのかもしれない


意外と当たり?


『そうかもな。時間的にも次で最後だ、終わったら寝ろ』


「時が過ぎるのは本当早いですね。まぁ、俺にいくら時間があったって無くたって、関係ないんですけどね...。死なんてこの世に生を受けた人なら誰にでも訪れる。それが早いか遅いかの違いです」


『えらく肝が座っているな』


「そうですね...行き当たりばったりで生きているので、いつ死ぬとか興味無いんです。今が楽しければ、それだけでいいんです」


『もっと生きるのに貪欲になれ。人は醜く自分勝手な生物で、世界のバグと言ってもいいほど厄介だ。だが、醜く泥臭く足掻いている時が一番輝いている。惨めだがな。俺はそんな奴を見るのが大好きなんだ』


「いい性格してますね」


『そりゃどうも』


「それじゃ、最後やりますか」


明日もできるが、能力を把握出来たことで次のステップに進むことができた。能力はまだあるかもしれないが、これから探して行けばいいものだ


最後の武器...剣、銃、簡単に扱えて便利な物...この本かな、何でも載ってて意思疎通ができる


手の中で無意識にペンの形が変わっていく


まぁ戦うのには向いてませんが...さて何がいいんだろう?


『おー、それはグリモアか?杖にセットされているなんて、たいそう立派なものだな』


俺の手には魔道書が付いている装飾が派手な杖が握られている


『どうして突っ立っているんだ?』


「何でもありません...少し眠くなっただけです...。さて、中身はなんでしょう」


中にはいくつもの魔法陣と名前が書かれている


『ファディアルか…もしかしたらこっちでもファディアルが撃てるかもしれないぞ』


「そうだといいですね...」


適当にイメージして目の前にあった鞄に向けて撃ち、手元に手繰り寄せる


『すげぇな!現実でも使えたじゃねぇか!』


「そうですね」


『嬉しくないのか?』


「そういう訳ではありません。ちゃんと嬉しいですよ?でも、特別に感じられないんです。フロースやメーティスさんは現実で使えるっぽいですし」


『それは元々がハッピーワンダーランドの住人だからな。よし、有益な情報が集まったからそろそろいいんじゃないか?』


「はい、時間も遅いですし今日はもう寝ます」


『そうするといい。それと、ユーピアメモリーは貴重なものだ。無くさないようにしっかり保管しろ』


「わかりました。それではおやすみなさい」


ペンと本を鞄にしまい、ベットへ潜る


「おやすみなさいフロース...」


重力に身を任せると、ものの数分で意識を手放した

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