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ようこそハッピーワンダーランドへ

ボクができるのは少年の名前を呼ぶことだけだった


でも......叫んだって泣いたって、少年は振り向いてはくれなかった


少年はボクの手を離した


どんな声を掛ければ、彼は私をゆるしてくれるんだろう


今更もう遅いよ


真っ直ぐただ落ちていくだけ


声が届かないところまで落ちて


死んだ


全ての原因は、元凶は、始まりは、この私にある


今回は大丈夫。自分に言い聞かせるように少年に告げる


賽は投げられた


もう後戻りはできない


無かったことにできるのは少年だけ


あとはだだ、真っ直ぐ”堕ちていくだけだ”


出目は......






アリスさんに教えて貰えるのは良いものの、さすがにこの本を持っていかれるのは嫌だ


どうせ自分の物では無くなるのなら、せめて本を書き写すとかコピー機で複製するとかしておきたい


「あのー、教えてくれるって何するんですか?」


「ごめんなさいっ!」


「ど、どうしたんですか急に」


興奮気味だった彼女からの突然の謝罪に驚いてしまった


彼女の方はというと、焦点が明らかに定まっていない。動揺しているのだろうか


「その...勢いで連れて来ちゃいましたけど、正直、何をしようか迷っていまして...。琥珀さんは何がしたいですか?」


「そんなことでしたか、貴方が悪い訳ではないので別に放っておいてくれてもいいのに」


「い、いえ、強引に連れてきた私に責任はあります。だからどうにか私に償いをさせて下さい」


俺に深く頭を下げている彼女を見ていると罪悪感が湧いてくる


「そこまで言うなら......候補とかあります?さすがに具体的なものがないとら決められなくて」


「えーっと、例えばですね、ファディアルの歴史とか、実技とか、基礎とかくらいです...よね?」


俺に聞かれても...まずは情報を集めないと。自分から知りに行かないとこの先どうなるか...


「では、歴史をお願いできますか」


「わ、わかりました。...あの、おこがましいんですが、少し待って居てくれませんか?

資料を取ってきます」


アリスはアサルトと言い、館の中に消えていってしまった


「ファディアル…。今のもきっと魔法なんですよね。魔法、魔法か...」


魔法と言われて思いつくものは、水や火、風や雷だけだ


改めて考えると、漠然としたイメージしかつかない


「これが俺のセンティメント」


センティメントに触れると、それに反応するように全てを見透かすような蒼い輝きを発した


光が瞳を貫き、脳を刺激する


「アルターエゴ」


何故かそんな言葉が脳に浮かんだ


紋章は紅黒く輝き、形を変えていく


『認証中......エラー 認証できません』


『エラーコードを表示します。エラーコード/グ■■』


だめだ、分からない


目が...燃えるように痛い。これは比喩なんかじゃなく本当に眼球が燃えているように痛い


「シャットダウン」


分からない


『シャットダウン開始。プログラムの更新を開始しますか?』


「あぁ、頼む」


なんでこんな言葉が口から溢れてくるんだ


センティメントは点滅し、元の形に戻っていく


痛い痛い痛い。とりあえず横になりたい...





気付くと目の痛みも自然となくなり、膝にダイナが座っていた


「お疲れ様、これからもよろしくね。アンバー」


オルターエゴが最低限度機能を取り戻すにはあと3000


もう少しの辛抱だ


「眠い...」


視界が点滅する。どうやら処理が遅れているようだ


「ピッピッ」


森に住む小鳥たちの鳴き声が眠気を誘う


「3分...おやすみ、ダイナ...」


ダイナの頭を撫で、意識を手放す


「にゃ〜ん」




3分経った


太陽が無いはずなのに日が差し、徐々に体温を上げていく


膝に暖かくてもふもふした感触が...きっとダイナですね


こんな日は昼寝をするのに丁度い


できればもっと寝ていたいがそんなわけにはいかない。少しでも辺りの詮索を...


「んっ、おはようございます...?」


「きゃっ」


風に撫でられながら眠りから覚めると、顔を覗き込むアリスの姿があった


「どうしたんですか?」


「あっ、いや、その、なんでもないです...ただ、もうダイナと仲良しなんだなって...」


彼女の顔を見ると耳がとても紅潮している


恥ずかしい思いをさせてしまったんでしょうかね。それとも...


「と、とりあえず、勉強をしようか。こっち座って?」


「はい」


彼女に促され、木陰のベンチに寄りかかる


「それではお勉強を始めます」


コホンと可愛く咳払いをし、一つの本を開いていく


「ファディアルとは、体内にあるマインドをエネルギーによって変形させ放つ魔法のことで、対象を攻撃したり回復したり、自身にバフをかけることができます。そのため、ファディアルを短期間に複数回使用すると、マインドダウンという、1種の昏睡状態のようなものに陥ります。マインドは休むと回復するので、こまめな休憩が大切ですね。ファディアルにはいくつかの属性があり、使用者のマインドの適正に合わせてファディアルが強化されたりします。今確認されている属性は全てで17あり、炎、水、氷、雷、音、土、毒、木、風、死、魂、命、記、光、闇、時、無。ファディアルは作り出すことができ、17つの属性を組み合わせると無限にあると考えられています」

「何か質問はありますか?」


「はい、属性が確認されているのは17つってことは、他にもあるんですか?」


「可能性としては十分ありますけど、ここ100年は新種が発見されてないので、17つでいいと思います」


「あと他に、ダイバーがひとつも属性を持っていなかったら、ファディアルは使えないんですか?」


「そんな人は滅多にいませんが、絶対に使えないわけではありません。あくまで適性がないだけです。属性がなくてもファディアルは使えますし、セカイの核から作ったファディアルをセンティメントに刻むことでも使えるようになります。でも、適正でないファディアルを使うとマインドの消費量が上がったり、本領を発揮できなかったりするのでおすすめはしませんね」


「セカイの核で作ったファディアルって他のと違いはあるんですか?」


「他のよりマインドの消費が少なく、強力なものが使えます」


「結構奥が深いんですね」


「はい」


アリスは少し嬉しそうに返事をしてくれた


こまめな気遣いや親切に教えてくれるところが、今の俺にとってはとても有難かった


「続きを話しますね。ファディアルの誕生は今から約2000万年前、楽園と言われた王都ドリームメントと言われています。ドリームメントでは様々な種族が暮らしていました、しかし、ある賢者が禁断の錬金術を試し、世界には凶悪なモンスターが現れてしまいました。そのモンスターを封印しようと7人の賢者が力を合わせ、無数ファディアルを生み出しトビラに封印しました。それがセカイの誕生であり、ファディアルの誕生と言われています」


「このセカイにも凶悪なモンスターがいるんですか?」


「はい、でもこのセカイのモンスターは私の力でとても弱くなっていろので安心してください」


「アリスさんってもしかしたら本当に凄い人ですか!」


恥ずかしがるように俯き、蚊の鳴くような声で答えた


「あっ、うん、ちょっとだけ凄い人...です...」


恥ずかしがりながらも否定しないところが、少し可愛いと思ってしまった


「歴史の勉強をしましたし、今度は実技の勉強をしますか?」


「いきなりですけど大丈夫なんですか?」


「はい、適正さえ分かれば」


「ではお願いします」


アリスは俺の手を取り、手のひらと手のひらを合わせてきた


彼女の手は小さく華奢で少し冷たかった


「琥珀さんのマインドを少し頂きますね」


俺のマインド...一体どんな属性なんだろう。できれば木が欲しいかな


「これ若干苦しいですね」


心臓が掴まれているような違和感が身体の中で蠢き、脂汗が溢れてくる


「あとちょっとです......はい、終わりました」


その言葉に俺は安堵した


たった15秒という時間が数分にも感じるほど、俺の感覚は麻痺していた


「琥珀さんのマインドって少し変わってますね...。あっ、別に可笑しいって言う訳じゃなくて、他のやつよりちょっと暖かくて...」


「あはは...喜んでいいんですかね」


「はいっ、誇るべきだと思いますよ!多分...」


なんか、んーなんだかな


「俺の属性はどうでしたか?」


「こ、琥珀さんの属性は3つあるみたいです。風と水と光ですね」


「それって凄いんですか?」


「多い人だと5つくらいなので、そこそこいい方だと思います」


いい方か...何事においても手段が多いのはいい事だ


「それではやってみましょうか。先ずはあの木に向かって手を前に出してみてください」


指示通りに手を前に出す


「風の球を飛ばすイメージしてみてください」


「風の球...」


手の先で渦巻く風を思い浮かべる。辺りの葉を巻き上げ、空気を掻き乱す強い風を


「はぁっ!」


風の玉を解き放つと、イメージ通りに風が飛び出し正面にある木の右側を小さく抉った


「凄いです!」


アリスは大きく目を見開き傍に駆け寄ってくる


「初めてでこんなな威力のファディアルが撃てる人は久しぶりに見ました!」


大袈裟なのかお世辞なのか、何も分からない俺には知るよしがなかった


「そんなにですか?」


「はい、大体の人は木に当たって消えちゃうんですけど、ここまでしっかり抉った人は数人しかいませんでした!」


「その数人と大勢では何か違いがあるんですか?」


「うーん、シンプルにマインドが多かったり素質があったりだと思いますけど、想像力が大きな原因だと思います。ファディアルは使用者のイメージによって、形や効果が大きく変わるので、想像力が豊かな人の方が強かったりします」


こんなときに趣味が役立つなんて運がいいな


「実技もできたことですし、セカイの基礎について少し学びましょうか」


「そうですね、俺なんにも知らないので教えてほしいです」


「はい!まずは核についてです。セカイに1つ核があることは知ってますか?」


「はい、リディアさんが話してました」


「アリスちゃんはどこまで話してました?」


「セカイの核を持ってこいだけでしたね」


「わかりました。じゃあ、最初から話しますね。核はセカイに1つあって、セカイを構成する上でとても重要なものなんです。それ故に、核の周りには守護者として強力なモンスターがついています。核や守護者からは特殊なファディアルや素材が取れるので、より強力なユーピアメモリーを作ったり、高価で売られてたりしてますね」


「売られてるって、市場のようなものがあるんですか?」


「はい、メインホールにお店があります」


メインホール?セカイの商店街的なものかな


「お金は何が使われているんですか?」


「魂です」


「え?」


「モンスターの魂が取引に使われています」


魂をモンスターからって...。それに、どうやって魂を集めるんだ?やっぱりここは普通じゃない。そもそも比べる対象が違いすぎるか


「魂をどうやって取引するんですか?」


「モンスターを倒すと、センティメントに魂が吸収されるんです。モンスターの強さによって魂の大きさが違うので、上級者になると効率良く魂を集めるために、わざとモンスターを集めて一気に倒す人がいるらしいんですけど、普通に危ないので真似しないのをお勧めします。」


「稼げる魂が多くてもリスクが高いのは嫌ですね」


「ちなみに、通貨は『エル』って言って、ファディアルを強化することもできます。試しにやってみますか?」


「そんな気軽にできるものなんですか...それに、強化するためにはモンスターを殺す必要があるんですよね...」


「大丈夫です。さっきも言った通りこのセカイのモンスターは弱いですし、これからも倒すことになるんですから、それが早いか遅いかの違いです。ほら行きましょう」


「はい...」


拒否する思考回路を無理矢理シャットダウンし、感情に蓋をする


アリス肩を並べて歩く


彼女はひたすら真っ直ぐに森を歩いていく


どこか目星でも着いているのだろうか?


「モンスターについて少し補足しますね。モンスターにはクリスタルという弱点が絶対にあります。クリスタルはモンスターたちの生命エネルギーの源であり、破壊されると機能を保つ事ができず、粉になって消えます。なので、なるべくクリスタルを狙うようにしてみてください」


クリスタル...どんな見た目なんだろう


そもそもどうしてこんな場所にいるんだろう?


分からない......




5分程歩くが足場が悪いせいなのか、歩くのが辛くなってきた


高さ25m直径3mの木はとても変わった形をしている。枝がバネのように巻いていたり、地面から露出している巨大な根が脈を打っている。まるでこの森が1つの生命体のようだ


歩きずらいのはこれが原因だろう


悪戦苦闘しながら森を進むと、どこか開けた場所に出た


「着きました。ここが今の琥珀さんに丁度良い狩場です」


辺りを見ると地面に複数の大小様々な大きさの穴が空いている


「何もいませんが、この穴はなんですか?」


「これは『イーター』と言うモグラの一種の穴です。あっ!ほら、1匹出てきました」


1.5m程の茶色の塊が地面から這い出てきた


見た目は確かにモグラだか、サイズが普通のモグラの数十倍はでかい


それに、爪が真っ赤で長く鋭い


木や岩でさえいとも容易く切断できてしまいそうだ


「イーター?の爪って鋭くて危険そうですけど大丈夫なんですかね...」


「安心してください。イーターはとても臆病な性格なので、人やモンスターに危害を加えることは滅多にありません」


「それなら、もう少し近寄った方が当たりやすいんじゃないんですか?」


「イーターは視覚が退化している分、嗅覚と聴覚が優れているんです。なので、近づいたりすると匂いや振動で直ぐに逃げてします」


「じゃあ、この距離から狙うしかないんですかね...」


標的との距離は60m程度。とてもだかあたるとは思えない。そもそも風の動きで気づかれてしまいそうな気もするが


「確かに、この距離からでは少し難しいですね...。少し私の真似をしてみてください」


彼女は右手を銃のような形に変え、指の先端でイーターを捉えている


そこから真っ直ぐ左腕を引き、弓の弦を引くようなポーズをとった


「弓をイメージしてみてください」


アリスの真似をし弓に矢を番える


「光の矢をイーターに向けて」


目を閉じ、高まる鼓動を落ち着かせるために大きく息を吐く。力を抜き覚悟を決める


「今です!」


掛け声と同時に光を解放する


解き放たれた光はイーターのクリスタルの中心を貫き、地面に突き刺さりモンスターと共に弾けた


「当たった……」


急いで残骸に駆け寄りポッカリと穴の空いたクリスタルを拾い上げると、小さい三角形に砕け、センティメントに吸収されていく


センティメントを中心に、冷たい何かが渦巻くような何とも言えない感覚が身体全身に伝わる


「琥珀さんはやっぱり素質がありますね」


「そうなんでしょうか...」


褒められるのは慣れてないので凄く照れくさい


お腹の内側を撫でられているようなむず痒さがある。たが、不快感は無い


「良かったら私の元で研究をしませんか?貴方からはとても良いデーターが...あっ、いえ、共同研究が出来そうです!」


今、完全にデータ扱いしてたよな。研究は面白そうだが、俺はモルモットになるつもりは無いので却下だ


「そ、そういうのは...」


「お願いします!!貴方のような人は本当に珍しいんです!!だかr『ちょーっとまったぁー!!』」


突然辺りに爆音が響き、イーター達が次々と地面へと潜っていく


「あ、アリスちゃん!?どうしたのそんな大きな声を出して?それになんでここに?」


「そんなことはどーでもいいよ!ボ・ク・の!少年を誘惑しないでくれないかい!?」


「そ、それは...」


凄味のあるリディアに詰め寄られ若干涙目だ


「俺は誰の所有物でも無いですよ...。アリスさんはどうしてここに来たんですか?」


声を掛けるとこちらにくるっと向き直り、含みのある笑顔で詰め寄ってきた


「大丈夫?変なことされてない?怪我ないよね?ボクのこと分かる?」


「大丈夫ですからっ!どうしたんですか急に!」


「いやー、そろそろ終わる頃かな〜って思って様子を見に行ったらさ?少年たちが急にいなくなっちゃったから不安でね、ちょっとファディアルで探したら、こんな場面に遭遇してしまったもので、急いで止めに入ってきたんだ」


心配が少し過剰ですが、確かに突然いなくなってしまったら心配しますよね


「そうだったんですか、心配させてごめんなさい」


「まぁ、無事ならいいんだよ。ファディアルの勉強はどうだったかい?しっかりできた?」


「はい」


「それなら良かった。ありがとうね、アリス」


「あっ、うん」


「じゃあ帰ろうか。あっちの時間だとそろそろ6時になるからね」


「あっちの時間?」


「少年の世界の時間だよ。こっちはあっちと比べて時間の進みが20倍くらい遅いからね」


「20倍!?」


「あー、でもこっちに居すぎると現実を忘れちゃうから、あまりこっちにいちゃダメだよ?自分が分からなくなって、このセカイの住人に思い込んじゃうから♪」


「ウキウキで言うことじゃ無いですよね、それ」


「そうかな?まぁいいじゃん、このセカイに一回で100時間以上居なきゃ、軽く一日の記憶が飛ぶくらいだから♪」


「そういう大事なことは先に言っておいてください。ちなみに俺ってこのセカイに何時間くらい居ました?」


「5時間くらい?」


「なら良かったです、安心しました。......でも、帰らせてもらいます。流石に家が心配なので...」


「ちょ、ちょっと待ったー!あと一つだけやらなきゃいけない事があるから!それに帰り方知らないでしょ?」


「あっ、そうでした。帰り方教えて下さい」


「あの〜、ボクの話聞いてる?」


「はい、もちろん聞いてますよ。帰り方教えてくれるんですよね?」


「聞いてないですね...それにもう帰っちゃうんですか?」


「もう今日は疲れたので帰ります。整理しないと頭がパンクしそうなので」


「そうですか...それならこれを」


アリスは1つの本とペンを差し出してきた


「それは...俺にいいんですか?」


手に持っていたのは俺のユーピアメモリだった


「はい、それに私では使うことが出来ないんです。ほら」


アリスが本を開こうとすると、本のページから大量の黒い茨が放たれた弾丸のように飛び出し、アリスのしなやかな腕に傷をつけていく


「あ”ぁ”っっ、はぁはぁ」


雷に打たれたような激しい痙攣の後、その衝撃からか膝を地に着き、本を落としてしまう


「アリス!!」


「大丈夫ですか!アリスさん!」


本から手を離しても黒い茨がはアリスを蝕み続ける


「ね...見た、でしょっ、あの黒い茨.......どうやら琥珀さんしかあのっ、ユーピアメモリを扱えないみたい、ですね」


「そんなこと言っている場合じゃありません!早く治療を」


「アリスじっとしてて...『聖なる地母神よ、どうか私たちに天の恵を...ホーリーシャイン!』」


傷が塞がっていく


だが茨は消えない、より深くアリスの肌を抉ろうと侵食していく


「なんで消えないのっ!どうしてっ!」


もしかしたら...


「ちょと失礼しますね...」


アリスに巻き付く黒い茨に触れると、茨は次々に枯れていく


「どうやらこの茨は、ユーピアメモリの所有者である俺の接触が、呪いのようなものを解くのに必要なようですね」


なんか、また目が...


「二人ともありがとうございます」


「無事でよかったよ。ほんとにもう、あんなことしないでよ?」


「......」


「どうしたの少年?」


「あ......えっと、少し考え事をしてまして...。あの、アリスさん」


「は、はい?」


「この本、一緒にいる時に読みましょう。それなら解読する必要無いですし、安全ですよね。それに、こうでもしないと俺の気が収まりません。タダで教えて貰った挙句、怪我させてしまうなんて、流石に格好がつきませんから」


「いいんですか....」


「はい、ていうかさせて下さい」


「あぁ、あっありがとうございます!!」


「にゃ〜?」


「ボクの前で見せつけるのは辞めてくれないかい?そうだね...はぁ......。わかった、一瞬で済ませるから終わったら帰っていいよ」


「はい!」


「切り替え早くない?ボク悲しくなっちゃうよ...トホホ...。

じゃあセンティメント見せて」


少年は袖を捲りセンティメントを見せてくれた


「少年は何か好きな動物だったり、ものってある?」


「メタリックな物とフェレットです」


フェレットは良いとして、メタリックな物って何?組み合わせ独特すぎない?若干引いちゃうよ...


「う、うん...それなら動物ベースでいいかな?」


「何がです?」


「少年のフェアリル」


「初耳なんですが」


「そだっけ?」


「はい」


「てへっ☆」


やばっ、流石のボクでもしっかりしてなさすぎでしょ


こんなんじゃ少年にバカにされちゃうよ


「あはは、ごめんごめん。そのね、フェアリルはペットみたいなもので、少年の大事な相棒になるんだ。今はそれを決めようと少年の好きなものを聞いてたんだ」


「だからそういう大事なことは...はぁ、それで何をすればいいんですか?」


「少年のペット何がいい?人間でも動物でも幽霊でもデータでもなんでもいいよ」


「なんでもすぎません?そうですね...精神の疲れと目の疲れに効くものがいいです」


現代人の闇深っ


「んー、ボクの独断と偏見で決めていい?」


「嫌ですけどそれでいいですよ」


「上から過ぎない?まぁいいや、じゃあ勝手に決めるね」


少年が好きそうなもの......うーん、いつも笑顔だから育てるのに向いてそう...でも、育てるにしても何がいいかな


「にゃ〜」


「ん?」


この声はダイナ...


「よしよーし、ダイナは本当に可愛いですね」


「にゃ〜ん」ゴロゴロ


そうだ!


「よーし!決まったよ少年、今から召喚するね♪」


とびきり可愛い娘かもん!


「はぁーー!」


少年のセンティメントにマインドを送り込む


「なんですかこれっ、なんっ、か、身体が、重い」


センティメントが淡く輝き、少年を中心に波紋が広がっていく


「はぁー!!」


ポンッ


「うわぁ!?」


少年の目の前で軽い爆発が起き、周囲に煙か立ち込める


「ゴホッゴホッ、なんでずがごれ、うっ、ゴホッ」


「前が見えない」


「何したのアリスちゃん!」


目がとてつもなく痛い、こ、粉が目に...


「きゅ?」


「ダイナ?」


「いえ、ダイナは私が今抱っこしてます」


「きゅっ!」


タッタッタッ


明らかに猫の走る音では無い


落ち葉を踏みしめる音が少しずつ近づいてくる


「誰ですか!んっー!」


「しょ、少年!?どうしたの!」


「痛っ!な、何かが俺の背中の上にいます」


ダメだ、煙が濃くて全く少年の姿が見えない


「あぁー!引っ張らないでください!」


こうなったら...


「風の精よ、ボクに力を...タイニーブラスト!」


ファディアルを唱えると煙が流され、視界が晴れていく


「ゴホッゴホッ、んー、えっ、女の娘!?」


「琥珀さん?」


「少年?」


晴れた視界の中で辺りを見回すと、草原に寝っ転がった少年の上に座る女の娘の姿があった


その女の娘は、白の可愛いフリルのワンピースを着ており、頭のてっぺんの左右に狐のような耳を生やし、仙骨の辺りから生えたフサフサのしっぽを揺らしている


「きゅぅ?」


「な、なぜ女の娘が?しかも尻尾が生えてます!」


「召喚が成功したようで良かったよ」


「召喚?アリスちゃんがやったの?しかも女の娘」


あれっ?ちょっと怒っていらっしゃる?


「どうして女の娘にしたんですか?確かに可愛いですけど困りますよ」


「本当ですよアリスちゃん!」


「あーもううるさいな〜、別にいいじゃん!ボクは少年が育児に向いてると思ってその娘にしたんだよ?それに、召喚とか数十年ぶりでがんばったんだよ?褒めてよ!」


「俺のためにしてくれた事ですから、とてもありがたいんですけど...なぜにケモ耳女子に?」


「それはボクの趣味」


「「えぇ......」」


「ちょっと引かないでくれる?いいじゃないか!最高に萌えるでしょ!!」


「急に癖をさらけ出さないでください」


「あの...アリスちゃん、この娘戻すときどうするの?」


「いつも通り『戻れ○○』って名前言うだけだよ」


「でもこの娘名前ないじゃないですか」


「......それは少年が決めればいいだけだよ?だから決めちゃおうよ♪」


「名前...」


「きゅ?」


「この娘は話せるんですか?」


「もちろん、でもそれは少年がちゃんと教育したらだよ?しっかり言葉を話せるように話しかけてお世話して、苦労の末にようやく話せるようになる。愛着湧かない?」


「まるで赤ちゃんですね」


「まぁまぁ、この可愛い娘を自分好みに育てられるって考えたら最高じゃない?」


「だから癖を出さないでください...」


何故こんなにもストレートなのだろうか。それよりも名前か...いい名前は何だろう?


この娘には穢れを知らず美麗に華やかに育ってほしい


どっかの誰かさんと違って、花のように可憐に儚く...


「花のように、花...フロース...アルテミス...。あなたは今日からフロースです」


「フロース...花?」


「はい」


「どうして花なんですか?しかもラテン語」


「向日葵のように明るく真っ直ぐに、薔薇のように美しく育って欲しいからです。ラテン語なのはなんとなくです♪」


「ふーん、それは立派でいいんだけどさ。考えてるとき、余計なこと思わなかった?ねぇ」


嫌なとこで鋭いな、女性の勘とやらは侮れない


「余計な事なんて一切思ってませんよ、決して誰かさんと違ってなんて...それより帰るにはどうすればいいんですか?」


「はぁ、しょうがないな~。帰る方法は簡単だよ、意識を覚醒させるんだ」


「覚醒ってそんな曖昧なのでいいんですか?」


「ここは腐っても夢の中だからね、何かがトリガーとなって夢から覚める。そのトリガーを見つけるんだ。例えば......少年、君の後ろには何がいる?あっ、後ろを向く前にフロースを戻してね」


「後ろ?そんなの何もいないに決まってるじゃないですか」


そんなこと言えるのは今のうちだよ?少年のビビり散らかす姿が見られるかな〜?


「ほら、早く早く!」


「なんでニヤニヤしてるんですか?怪しすぎますよ...戻れフロース」


どうせしょうもないものに決まっている。何を見ても驚かない準備を...


ゆっくりと後ろを振り向くとそこには...


「っ!?」


あれは...俺の...


そこからは速かった


目の前に広がる自然ごと、標的の存在を消し去った


いや、消滅した


「ぇ...なに今の?」


自分でも分からなかった


突然本から光が溢れて、何も見えなくなって、気付いてたら無くなってた


「しょ、少年?今のって...」


「俺も...分かりません...何が起きたのか...」


目が痛い


「ごめんなさい。少し横になっていいですか」


俺は返事を待たず、四肢を地面に放り投げた


あー辛い、身体中がだるい。


「琥珀さん!?アリスちゃん、大変だよマナが空っぽ」


声が遠のいてく


濁る、何もかも真っ黒に


「ウェイク」


身体が軽くなっていく


泡みたいに浮いて弾けた

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