壮大なんだが、みみっちい
我が巫覡の馴染み振りを見て、臨機応変に対応できる素晴らしい方だと感激した俺と、俺の部下たち。
侍従として恥のない行動を、と張り切ったまでは良かった。
思うように我が巫覡の氷の槍や剣を調整できず、部下たちにぶつけてしまうこともあった。あとで謝ろうと、奴らの恨みのこもった視線は視界に入れない様にしてやり過ごしたが。
イヴセーリスに助けられた事も数知れない。それでも継続していれば、そこそこ形にはなるものだ。
巫女は宣言通りに遠慮もへったくれもなく、息つく暇なく大がかりな術をぶっ放し続けているが、それを完璧に調整して補助し続けているイヴセーリス。
もう何回目になるか分からない位の炎と氷が衝突し、ゲマドロースを中心に大爆発を起こしている。
爆発が起こる毎に微々たる側近が落ちて行って、今では予定通りに皇帝陛下だけが残っている。
イヴセーリスを除く侍従たちと、部下の侍従はゲマドロース周囲で起こる術が危険な為、彼から距離を取って囲んでいる状態だった。
外れた術は彼らに当たることなく消えていく親切仕様。適当に撃ってるとか言っといて、そんな術式組み込んでるってどんだけ優秀なの、巫女。
巫女の術力回復速度は聞いていた通り、本当におかしい。あんだけ撃っといて、ケロっとまた大規模な術を練ってるんだもんな。それも複数。
それに付いて行けてる我が巫覡に感動するんだが、ちょっとおかしい。成長著しいと思えば納得できないこともない。
けどなぁ、我が巫覡やイヴセーリスもだけど俺の術力もおかしくない?
俺って、補助とはいえこんなにも連続で術を使い続けられる程の術力は保有してないんだよな。体力的にもまだまだ余裕があるんだよ。絶対おかしいって。
「 お姫様と巫覡との同調効果ですよ。お二方の無尽蔵に近い術力が、我々にも補充されていると考えていい 」
「そんな事できるもんか?」
いや、祝福の効果とか力場の効果なんかで有り得ない話じゃないが、そうそうオイシイ事はないんじゃね?
「 今現在、出来ているでしょう。まあ、この異常な回復力は時間に限りが有りますし、あとから恐ろしく苦しい思いをするけれど。後からなので、今は忘れておいて問題無いですよ」
絶対問題しか無いと思うんだが? 俺が術を使うの躊躇しない為に情報を出さない気だ、これ。
「そんな事より、お姫様がえげつない事しますよ。ちゃんと巫覡の補助をしてくださいね」
ちらっとお二人の方へ視線を投げて言うイヴセーリスの言葉に、嫌な予感しかしない。
我が巫覡に意識を向ければ、ゲマドロースに向けて巫女は熱気を、我が巫覡は冷気を集中させている。また冷気と熱気で爆発でもさせるのだろうか、と思いつつ全力で術力を放ち不安定になる冷気を一定化するべく俺の術力を添わせる。
どうもゲマドロースの体内へと向かわせているみたいなんだが。
待てよ、待って。体内に冷気と熱気でえげつない… 嘘だろ、と最悪な予想で冷や汗が出た時にはゲマドロースの体から氷柱が生えていた。
うへぇ、と悲鳴を心で叫び、赤く染まり赤い液体を滴らせる氷柱を茫然と見つめていると、氷柱を一瞬で溶かし氷柱が開けた穴から炎をが漏れ出てきた。
「氷柱で身体の内側から穿ち、炎で燃やしたのね。本当にえげつねぇや、これじゃ人間離れした皇帝陛下でも、流石に生きていられ… 」
ないだろう、という言葉は口から出てこなかった。
いやだってさ、無理じゃない?
体中に開いた穴が塞がって、炎は消えて行ったんだぜ?
全身燃えてたし、あちこち千切れた四肢を繋げた蔦の様な痣も火傷もいっぺんに消えて、つるっとした肌をした皇帝ゲマドロースが吠えてるんだもん。
しかし、内臓はまだ修復されていないのか、呻いたり吠えたりしてじっとしている。
ねえ、あれ人間という範疇を超えてませんかね。
*** そうね、半分くらい神が宿ってるからもはや人間じゃないわね ***
俺の疑問ともいえない呟きに、さらっと答えてくれる巫女。
神が手助けしていたから人間離れしていたと思っていたが、神が宿っているからあれを耐えたと。
ゲマドロースはいつの間に人間やめてたの?
*** しかし、手足が千切れていた段階では、まだゲマドロースでした。私は先ほどまで気が付きませんでしたが、いつ頃から神が宿ったのですか? ***
我が巫覡が素直に巫女に質問している、まるで神殿長に術を教えて頂いている時の様だ。お可愛らしい、と場違いにもほっこりした。
そんなに睨まんでくれ、イヴセーリスさん。状況が殺伐としすぎて、現実逃避したくなるんだよ。
*** 何回か爆発で全身焼かれたり、礫で穿たれたりしたでしょ。さすがに祝福だけで肉体を修復するのが厳しくなってきたんで、ゲマドロースの身体に入り込んで人の肉体で顕現しようとしてるんだと思う ***
*** どちらの神が宿っているのかも気になりますが、あの獣に宿って人間になってどうするんでしょう? 我らが母なる女神が護るフランマテルム王国を手中に収めたところで、女神が降伏なさるはずもないし ***
そう、炎の女神は自らを讃える国を守護しているだけで、王国を落としたとしても人に与える影響力が減るくらいの効果しかない。女神のお能力そのものは女神が元々お持ちの物で、人間の信仰はそれを強化する程度のはずだ。
*** うーん、アレに宿っている神はまだはっきりしないけど、目的は分かってる。どっちが完全に宿ってもいい事は一つもないから、ここでゲマドロースを滅ぼしておきたいんだよね ***
*** その目的って何ですか、お姫様? ***
神の目的。なんか壮大な事態になってきた気がする。
*** しょうもないものだよ。強欲の男神はヴァニが、というよりニィだった魂が欲しいの。ヴァニとして生まれる前から、ずっと迫ってきててさ。ちゃんと嫌だと拒否してんのに、しつこくって ***
*** 強欲の男神が妹君の魂を欲しがっているとして、妹君を手に入れてどうするつもりなのでしょう。姉上はご存じですか? ***
*** うん、何代か前に生まれた時強欲の男神から聞いた。取り込んで一つになりたいんだって。ニィは絶対に嫌だって拒否したんだけど、諦めてもらえなくってさ。拘束の女神をそそのかして、ニィの魂をフランマテルム王国に縛らせたんだよ。あれからニィはフランマテルム王国でしか生まれ変われない ***
広い世界で逃げられないように、生まれる場所を限定したと。うわ、やる事みみっちいな。
*** 拘束の女神は強欲の男神が欲しくて、男神に協力してるの。でも、ニィは邪魔だから消したい。男神に嫌われるのは嫌だから、表では協力して影でニィを消滅させようとしてるのね ***
やってる事は壮大なんだがみみっちくもある上に、理由は全然壮大でもなかった。おっさんが若い娘を追っかけて、そのおっさんを別の女が追っかけてると。
おっさん、気持ち悪くね?
*** ね、しょうもないでしょ。そんな奴にニィは渡せないし、渡さない ***
きりっと宣言してゲマドロースだった物を睨みつける巫女。
そんな巫女をうっすら笑って見つめる我が巫覡。
こんな状況だけど、我が巫覡は巫女に協力できて嬉しいのだろう。
巫女、格好いいですね、我が巫覡。
── 後日のイーサニテルに起った、恐ろしく苦しい思い ──
イ「痛い、いだいっ!! アラネオ、もっと優しくしてぇー!」
ア「小鳥や羽毛を扱うように、そっと触れてるじゃないですか」
イ「無理! 痛い、触っちゃいやぁー。助けてぇ~」
ア「どこの娘さんですか、貴方。起こさないと食事できないでしょうが。我慢しなさい」
(がっちり背中を支えられて起こされる)
イ「あ‶ーあ‶ーっ、や‶めでぇ…」
ア「……チッ…… 」
全身の筋肉が細かく断裂し三日ほど身動きできず、十日間寝込んだし術力の回復には通常の三倍以上時間がかかった。
本当に恐ろしく苦しい思いをした。あれを毎回耐えるイヴセーリスに尊敬の念を抱いた俺は、やはりイヴセーリスさんと呼ぶことにした。
ちなみに我が巫覡は精神的・肉体的に何の変化もなく平然と生活されていた。知ってはいたが、いろいろな能力について巫覡と侍従の間には深い溝や厚い壁がある事を実感したのだった。




