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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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拘束の効果

 でした、って過去形?

 そりゃ今はなんともないんだから、過去形でもおかしくはないんだが。どうやったら誰も治療してないのに、千切れた足がくっついて火傷が無かったことになるんだ。

 いくら未認定とはいえ、二柱の神の巫覡でもおかしい。



「常軌を逸した回復力だ。いつかはその回復力も切れるだろうが、悠長に待ってはいられない。まずなんとしてもゲマドロースの周りを落とさないと厳しいな」



 イヴセーリスが両手指を動かすと、あちこちからシュルシュルと何かが回転する音が聞こえるが、辺りには何も見えない。

 だが、皇帝陛下の回りを固めていた奴らが、突然こぼれるように落ちていく。赤い色をまとっていたから炎に飲まれたのかと思ったが、良く見ると血だった。

 いつ切られた?



「術力を瞳にまとわせて、よく視てみるといい」



 言われた通りに瞳に術力を込めて、落ちていく奴の傷を中心に視る。


 術力で視力が強化され肉眼では見られない遠方でも拡大して視るこの術は、本国の首都みたいに影も形も見えない遠方でも見えれば超絶便利な技だが、なぜか視界に入る範囲に限られるという微妙なもの。それでも、こういった場では重宝するので俺も取得している術だ。覚えといて良かった、と心から以前の俺を褒めよう。できませんなんっつったら、目の前のイヴセーリスにゴミを見るような目で見られるに違いない。


 血が吹き出している傷口が、黒く煤けていたり凍っていたりしている。たぶん。



「氷と炎で切れた?」


「そう。氷と炎で大量の輪を作り隠蔽し、それを高速回転して当てたんです」


「我が巫覡は、まだそこまで複雑に条件付けは出来ないはず…」



 まさかと思いイヴセーリスを見ると、苦笑いする顔とかちあう。



「ええ、私がお姫様(ひいさま)の炎の輪と共に調整しましたよ」



 氷と炎、いつも補助をする巫女とは質が違うものを、さらっとやってのけるイヴセーリスに嫉妬心が湧く。俺はイヴセーリスの様に、我が巫覡ディンガーと連携して術を放つことは出来ない。それがこんなにも悔しい。



「貴方も、すぐに巫覡と同調して調整できるようになる。今までのあなた達の環境では、連携の訓練など難しかったでしょう」



 気の毒そうな目をして「むしろ、よくあそこまで愛し子としての戦闘力を上げられたと思います」って感心されても、嬉しくない。むくれる俺を見たイヴセーリスが、少しだけ考える仕草をして俺に言う。



「同調酔いをしたことはありますか?」


「同調酔い、ってアレだよな。他者と感覚を共有したら、術力の質の違いで色んな不具合が出るってやつ」


「ええ、そうです。念話通信はお互いを繋ぐ術師の能力で副作用なく行えるものですが、感覚同調は強制的に同調するので反発する事もあるのですよ。例えるなら天馬カエルクスとの会話に近いですね」



 なんとなく理解した。俺みたいに全く意思疎通できない奴も居れば、我が巫覡のように会話しちゃう方も居るみたいに、色々あるのね。



「ああ、それなら俺は壊滅的に才能がない。俺の天馬(リムス)には会話どころか、意志疎通もしたくないと言われてるらしいし」



 そう言う俺を見て、次にリムスをじっと見て「ああ、なるほど」と何か納得している様子。ふぅん、とかへぇとか気になる相槌を打ってるんだが。イヴセーリスさんってば、リムスと会話してんの?



「まあ、巫覡はともかく私とお姫様が耐えられればいいでしょう」



 と言うと同時にガシっと俺の腕を掴み、強引に術力を流し込んでくる。痛い、痛いって。



「いや、我が巫覡にご迷惑はかけられない。今回は遠慮しとくよ」


「何を言ってるんです。貴方は巫覡の(・・・)侍従ディジャーでしょうが。同じ性質の術力で巫覡が認めているのだから、反発などあるわけがないじゃないですか。あるなら私たちですけれど、まあ今回は大丈夫だと思います」



 振りほどこうと腕を動かしているんだが、ものすごい力で腕を掴まれていて全く離れないイヴセーリスの手。流し込まれる術力で痛いのか、食い込んでるこいつの指で腕が痛いのか分からないが、ものすごく痛い。

 ちなみに、なんで大丈夫なんだろうか。

 ふとさっきの言葉に疑問が浮かんだ。




*** それはねぇ、キミたちも炎の女神の寵愛を受けたし、私たちも氷の男神の寵愛を受けたからだよ ***



 突然ものすごく明るい声が頭に響いた。場違いなほど明るくて、軽い。

 えぇ、どちらさま?



*** あっは、すごい落ち着いてる。 巫女リーシェンのカリタリスティーシアだよ、よろしく。それにしても、すぐに私たちに繋いじゃうってすごいね、イヴ ***


*** これから私一人で貴女方の術を調整するのは厳しいですからね。多少強引であろうとも、少しは引き受けてもらわないと、私が潰れます。私はお姫様や巫覡のように術力が無尽蔵に有る訳じゃないんです ***



 ああ、念話か。え、でも念話なのこれ? 俺、意識して思考飛ばしてないよな。

 普通に、俺の思考がだだ漏れているのは気のせいなのだろうか。



*** 申し訳ありません姉上、侍従リージェル 殿。私もまだ感覚共有は神殿長としかした事がなく、イーサニテルと繋ぐことができませんでした ***



 我が巫覡?! ちょ、何人と同調してんの、この人たち。同調って一対一で静かな所で、手と手を合わせて動かずにするもんじゃないの?



*** そんなかったるい事をしていたら、さっくり切られて終わりますよ。天馬たちと会話するように、意志と感覚の一部を相手と同調するんです。慣れない人とだと完全に同調するまで触れている必要がありますけれど、お姫様と私は戦場に出るとほぼ同調してましたからね。離れていても同調するのは難しくないんです ***



 あ、ハイ。天馬と会話どころか意思疎通すらしてもらえない俺には未知の世界だが、なんとなく理解しました。そして地味にまだ腕が痛いです、イヴセーリスさん。そろそろ腕を離してはもらえないだろうか。



*** もう少し我慢なさい ***



 駄目だった。

 なんとも不思議な体験をしている間にも、同調の効果なのか皇帝陛下の様子がずっと詳しく分かる。千切れた腿が糸で縫われているような跡がある。


 あ、氷と炎の輪が当たり、皇帝の左腕が切れた。

 確かに切れていたのに、散った血が蔦のように広がり千切れた腕と本体を絡め取ってくっつけていた。そしてその血が糸となって腕を縫い繋いでいる。


 なんだ、あれ。あんな術があるなんて、聞いたことも見たことも無い。



*** また謎の血の蔦で切れた腕が繋がりましたね。なんでしょう、あれ ***



 もうあれ人間じゃなくね? っていう状況でも冷静なイヴセーリスの声で、俺もちょっと落ち着いた。これからヴセーリスさんと呼ばせてもらおう。



*** 気持ち悪いから呼び捨てにしてください。そろそろ腕を離しますよ、同調が薄れそうならただちに報告を ***



 了解であります。



*** あれね、たぶん拘束の女神ネウティーナの能力(ちから)だと思う。五体満足であるって状況に『拘束』してるんじゃないかな ***



 なんでもありだな、神様。



*** イーサニテルの言うように、ゲマドロースに都合の良い『拘束』を与える事が出来るのですか。アレは神を認めないのが強みだったはず。今、自分を五体満足に戻している状態を変だとも思わないなはずが無いのに ***


*** 侍従リージェルクンの言うように、神様は何でもアリだからね。自分の持つ能力に当てはめられれば、どうにかなっちゃうものだよ。今のゲマドロースは無意識で神についてなにも考えないようにしてるんだろうね。おかしな状況を正気で認めちゃったら、神を認めなきゃいけないもの ***



 神に関することだけ思考を背けるって、器用だな。



*** 成程、そのあたりが我々の勝機になるのですか ***


*** そう思うよ。さて、ガンガンあいつの手足を吹っ飛ばして現状認識させてやろうじゃないの ***


*** 承知しました、姉上 ***


*** 控え目にぶっ放してくださいね、お姫様 ***



 お姫様、さらっと物騒な発言しないで欲しい。イヴセーリスもさ、侍従なんだからもう少し諫めようぜ。

 そして我が巫覡、馴染みすぎでは?

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