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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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落ち着いて、頑張って

 いやぁ、美しい唱和と光景だ。絶対真似できないと感心していると、ほのかに赤い光が俺たちの居る一帯に降り注いできた。暖かい色合いで、温度はあるのかと光に手を伸ばして触れてみると、触れたとたんに光は掻き消えた。そして全然温度は感じられなかった。

 かなりの範囲でキラキラ光っていたが、これが女神の仰った力場の距離なのかもしれない。



「慈愛の君、炎の女神よりの祝福に心からの感謝を。我が父、我らが氷の男神よ、この場の皆に御身の慈悲をお与えください」


「慈愛の君、炎の女神よりの祝福に心からの感謝を。我が父、我らが氷の男神よ、御身の分身、御身の子息とこの場の愛し子に慈悲を与えたもう」



 我が巫覡ディンガーが女神よりの祝福を受け、父なる神へと祈りを捧げられたのに続き俺たちも唱和する。ピスティアブとクアーケルは目を閉じて手を組み、言葉を出さずに祈っている。

 まあ、正解だ。絶対にあの二人だけ台詞が違ったり、ズレたりするだろうからな。


 唱和が終わる頃には、赤い光に交じるように薄青色の光が混ざり、虹の様に何色もの色に変化する光が俺たちを包み込んだ。これも、温度はない。

 通常、父なる神からの祝福はその場の温度より幾分か涼しい光が舞い降りるのだが、炎の女神と出会われた事で喜んでおられるのかもしれない。



「ものすごい祝福が来ちゃったわねぇ」


「母なる女神、喜びのあまり大盤振る舞いすぎませんか…」



 楽しそうに笑う巫女と対照的に、なぜか疲れた様子のイヴセーリス。



「仕方ないよ。巫女リーシェン巫覡ディンガーが共闘したのなんて、ン百年よりもっと昔だもの」


「我が父なる神もいつもより嬉しそうなご様子なので、炎の女神だけが思い切り祝福をなさった訳ではないでしょうね」



 さすがの我が巫覡も、父なる神のうっかりに苦笑している。

 非常事態だっていうのに、お互いを目に出来て喜びのあまり祝福の大盤振る舞いをする。さすが、神々だ。人間とはなにもかも感覚が違うんだろうな。



「さぁて、そろそろ遠目に姿が見えてくる頃だわ、気合を入れていきましょう。よろしお願いしますわね、氷の巫覡」


「はい。私では御身と共闘するには不足でしょうが、全力でもって戦います。よしくお願いします、お姉さま」


「……なんて?」



 にっこりと微笑み我が巫覡へと声をかける巫女に、我が巫覡の口からとんでもない返答が出た!

 とてもおおらかで自由人と思われる巫女も、さすがに笑顔のまま表情が固まっている。



「いえ、あの…… 以前御身にお会いした時、そう呼ぶように仰っていたので…」



 おおおぉ、我が巫覡の頬がうっすら赤くなっている。あれは言ったご本人もちょっと、いやかなり照れているご様子。

 巫女も思い当たる記憶があったのか「ああぁ、あれかぁ~」と頭を振った。



「あれは5年前の、お互いに幼い頃の話でしょう? さすがに今はもう『お姉さま』呼びはないと思う。なにかイケナイ事をしている気分になりそうだわ」



 ちょっと焦る巫女に、二柱の愛し子君がボソっと「またティーの妙な性癖が出てる」と呟き、「だから。空気読んで、副隊長」とクリュセラにたしなめられていた。二柱の愛し子君、天然の空気が読めない君なのか。



「落ち着いてください、お姫様(ひいさま)。それ、小姫様(ちぃひめさま)に知られたら激怒なさいますよ」


「えー、さすがにそれはないんじゃない?」


「いいえ。絶対に『わたくし以外が【お姉さま】と呼ぶなどと認められませんわ!』って叫びます。氷の巫覡、恐れ入りますがせめて『姉上』等に呼び方を変更いただけますでしょうか。巫女の妹君はとても、いえ少々行き過ぎるくらいに、姉である我が巫女を愛しておられまして」


「承知した。では『姉上』と呼ばせていただく」



 いや、待って。この人たち、この緊迫した状態でのんびり何の話してんの?

 我が巫覡も、そんな大真面目に返答することじゃ無いと思います。と言いたいが、あんな嬉しそうな姿は滅多にないんだ、突っ込みを入れられない。

 おたおたする俺へのアラネオの視線が痛い気がするが、そこは無視だ。



「まあいいや」



 え、いいんだ。ニヤっと笑って肯定する巫女が、なんだろう格好いいな。巫女の騎士たちは慣れたものなのか、みんな「仕方ない」みたいな顔で苦笑している。



「厳しい戦闘になると思う、皆頑張りましょうね」



 そう言って巫女は右手を横にかざし、背後に背負っていた無数の炎の小さな球を撚りあげ大きな槍にしたかと思うと、それを迫ってくる不穏な気配の方へと勢いよく飛ばした。

 炎の槍の進む方をじっと見ると、いくつかの黒い点が見える。徐々に大きくなる黒点は、人と天馬カエルクスのようだ。 あれは皇帝陛下の一団なのか。


 黒点が人の形をして迫ってきて炎の槍と接触するかと思われた時、炎が細かい線状に半球形に裂けて、彼らを覆うように襲い掛かった。



「ダメかぁ。一人も落ちなかったわ」



 落胆する風でもなくぽつりと零すと、今度は大きな球形の炎をいくつも作り、色々な時間と角度から皇帝陛下の集団へと投擲している。 



「私たちここから術を撃ちまくるから、皆は散会して白兵戦に備えてね」



 と俺たちに散会を命じる間にも、球形だったり大きな針の形だったり様々な炎を生みだしては放っている。慣れてる。炎を投げるの、ものすごく慣れてる感がある。



「お姫様、意表を突くために滅多やたらに撃つのはいいですが、効果がないものにそんなに術力を込めたらもったいないですよ」



 と、こちらも慣れたように諌めるイヴセーリスだが、もったいないとかそういうもんなの?

 我が巫覡も数種の術を練っておられるが、氷と炎の時間差と温度差を狙うのかな。



「本命はもう少し引きつけてから放つから、調整よろしくね! 思い切り術力を込めるから。私、たぶん大雑把な方向にしか制御できないと思うの」



 我が巫覡と巫女の側を離れる俺たちの後ろ姿へ、巫女が明るくイヴセーリスへ宣言していた。

 無茶言ってらぁ、とイヴセーリスの顔を見て、見た事を後悔した。


 ちょっと口がへの字になっているだけだったんだよ。

 なのに、人間ってああも不機嫌とか不快みたいな気配を醸し出せるもんなんだな、と分からせられた。

 冷や汗をかいた俺は、彼は怒らせちゃいけない一覧の、最前列へと並ぶ人物だと心に刻んだ。


 少し離れた位置で止まり我が巫覡と巫女を窺うと、巫女は両手を前方にかざし術の展開に集中している様なのだが、巫女の周りに浮かぶ無数の炎は緩急つけて飛んで行っていた。

 あれ、どう投擲してるんだろ



「術を練っているときに、お姫様が条件付けしているんですよ。あれは私たち侍従リージェルの補助を必要としない囮なので、正確な制御は必要じゃないんです」



 心を読んだかのように解説をしてくれるイヴセーリスは、じっと巫女をみつめていた。巫女の術に干渉か同調をしているようで、右指が複雑に細かく動いている。

 相当大きな術なんだろうか、と右手をじっと見ていると、巫女の方から甲高い金属をこすり合わせたような音と視界が白くなるのが同時に起こった。


 何があったのかと巫女の方へと視線を戻すと、太く白い光が巫女の手から迫る皇帝陛下の一団へとすごい勢いで向かって放たれている。

 太い光の柱が、まるで横たわるように途切れず横へ伸びている。

 

 光の柱から熱気も放たれている異様な光景に、言葉が出なかった。

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