氷の男神の侍従、炎の女神侍従2
俺と、たぶんアラネオも本気で素晴らしいと感心したし拍手したい所なのだが、生憎と本当に時間がない。巫女が神編術師たちに隠蔽や存在希薄化の術を淡々と掛けている間、大雑把にお互いの術の確認や戦闘形態を確認していく。
しかし、だ。なんでイヴセーリスは俺と確認するんじゃなくて、アラネオとしてるんだろうな。お前が組むの俺じゃないの?
「申し訳ない。イヴはたぶん自分と似た性格をしている彼との方が、話が早いと思ったんだろう」
腑に落ちない顔をしていたのか、クアンドが苦笑して俺に謝罪をしてきた。巫女を見てからイヴセーリスとアラネオの方へと視線をやると、二人は熱心に意見交換をしている。
「成程、納得だ。此方こそ、態度が悪くて申し訳ない」
俺やクアーケルとピスティアブなんぞが聞いても他の奴らに上手く説明できる自信はないし、そもそもあいつ等はその説明を覚える記憶力すら怪しいからな。
「イヴは大きな術を発動するのは不得手だが、おひー様が好きにぶっ放す術を調整するのが非常に上手い。そこのスキエンテは槍をぶん回して戦うんだが、ああ見えて繊細で精密な術が得意なんだ」
大きな身体でぼーっと空を見ているスキエンテ。あれで繊細で精密な術が得意とは、これだから見かけで判断するのは危険なんだ。
「おひー様が好きに思い切り大きな術を撃ちまくるときは、イヴとスキエンテ二人で補助しないと周りが危険なんだ。今回は二人ともおひー様の傍で補助できないから、皆気を付けてくれ」
なんて?
ねえ、今なんて言った?
壊れた人形のようにぎこちなくクアンドの方へと視線を戻すと、申し訳なさそうな視線とかちあう。
「おひー様は巫覡殿と組んで大規模な術を連発するつもりなんだ。本来は傍で微調整するのが一番なんだが、身体能力を活かして動き回られると術の微調整しながら付いていくのは無理だ」
すると、打ち合わせが終わったらしいアラネオが寄ってきて言う。
「ではプリメトゥス様は巫女殿とご一緒に術を撃って頂いて、私と小隊長が相方を守りつつ皇帝の回りを排除し、ピスティアブとクアーケルと貴方が武器で戦闘するということですね。小隊長、他の隊員はどうします?」
「神編術師から離れて囮として動き回ってもらおう。あちらに余裕を持たれると、彼らが発見されてしまうだろ」
クアンドは顎に手をやり、少し考えてから言った。
「そういう事ならペンギテース、クリュセラ、オクルスもこちらに呼んで共に敵を撹乱させよう。しかし、 神編術師の護衛にインフィウム一人はまずいな…… オクルスを残すか」
「二柱の愛し子君は戦いに参加しないのですか?」
暗に二柱の寵愛は戦闘に有利じゃないのかというアラネオの質問に、クアンドは言いにくそうに答えた。
「アイツは脅されてこちらに来て、我々に遠慮もあって表立って氷の術を何年も使っていない。かといって、炎の術も心から母なる女神を信仰していないから思い切りが足りなくて、中途半端なんだ。よって術者としては心許ないし剣術はそこそこ使えるが、今の心理状態では帝国の人間相手だと厳しい。という理由でおひー様がアイツは参加させるなと仰せで、待機が命じられてる」
申し訳ないが、戦えない神編術師と同じ扱いで帝国へ連れて帰って、出来れば氷の男神の侍従として育て直してやって欲しい。それが我らが巫女の願いだ、と言ってクアンドは頭を下げた。
元々、神殿長のじー様からは幼い頃にじー様の手元から連れ去られた我らが神の愛し子に出会えたら、必ずエイディ神殿の自分の所へ連れてこいと厳命されていた。王国として俺たちを脅すのにも使える彼を、簡単に手放して大丈夫なんだろうか。
「インフィウムはおひー様が一番辛い時期に救ってくれた、俺たちにとっても恩人なんだ。感謝しているし、望む方にお仕えしたい気持ちも理解できる。俺たちは彼にも幸せになって欲しいんだよ」
クアンドは不思議そうにしていた俺に晴れやかに言って笑い、近づいてきたクリュセラ達の方へと去っていった。巫女の一番辛い時期というのは理解出来ないが、プロエリディニタス帝国のアグメサーケル陛下の使者としてフランマテルム王国へ入国したと聞いた。
先程の巫女の話からすれば、アグメサーケル陛下にとっては巫女は娘も同じだ。皇帝からも何かの指示があったのだろうと思う。帰国したら、二柱の愛し子君に詳しく聞いてみよう。
背後からの圧迫感というか、不穏な気配がどんどん近づいてきている。忙しなく会話をしていた周辺の騎士たちも口を閉じ迫る気配の方へと視線を向けており、表情も緊張に強張る者も居た。
まあ、あの異様な気配を纏う皇帝ゲマドロースと対面して気楽に出来る奴の方が少ないだろうよ。
俺も出来ることなら、顔を合わせずに帰国したい。
「恐らく皇帝ゲマドロースが存在する周辺は、彼に有利な力場が常に展開されている状態ですね。お姫様、アレの力場を無効化もしくは上書きできますか?」
「国内へ入れば、母なる女神の守護により力場は弱まると思う。追加で私と巫覡とで私たちに有利な力場を展開中。あと、期間と範囲限定で氷の男神のお能力は威力を抑えられなくなってるそうよ。期間は皇帝ゲマドロースを退けるまで、範囲は…この辺り一帯、そうね学園敷地くらいですって」
異様な気配を分析し、状況確認をするイヴセーリスの質問に、何て事無いように女神からの返答をする巫女。女神の反応すごく早くね?
「我が母なる女神の恵みに心からの感謝を。我とこの場の愛し子達に女神の祝福あらんことを」
「我が母なる女神の恵みに心からの感謝を。我が巫女と我らとこの場の愛し子達に祝福あれ」
もう間も無く始まる戦闘の前に、巫女の祈りの言葉が紡がれた。
その巫女の言葉にグラテアンの騎士が直ぐに、一斉に応えたんだがズレていない。
すごくない? お前ら、真似できる?
視線でアラネオ達に確認してみると、全員が首を横に振っていた。
だよな。俺たちだってもちろん、ああいう挨拶はしょっちゅうする。しかしズレなく唱和出来るかと言ったら、今回みたいに部分的に変則した台詞はピスティアブとクアーケルには無理だろう。
そもそも、あの二人は決められた挨拶は省略するものだと思っている節があるしな。
知識や戦闘力は同じくらいとしても、氷の男神の侍従の俺らと炎の女神侍従(侍女)の彼ら、差がありすぎじゃね?




