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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
92/216

氷の男神の侍従、炎の女神の侍従

「スペイフィキィスってば、バレちゃってるよ」


「今ものすごく口調と態度が中途半端ですもんね」


「完璧主義のお前にしては迂闊な失敗だったな」



 巫女リーシェンが楽しそうに茶色少年に言うと、一人は巫女と明るく笑い、一人は抑揚なく少年をいじっている。

 少年はじったりと上目使いで三人を睨んだ。



「仕方ないだろう。お姫様(ひいさま)ときたら好き勝手滅茶苦茶に術を撃ちまくったんだぞ。誰が制御補助したと思うんだ。私ひとりで制御するにも限界があると言っているのに、お姫様は全然聞きやしないのだから」



 こちらに聞こえるくらい大きなため息を吐いたかと思えば、一気に言い放った。少年の声から一段階低くなった声で恐ろしく早口なのに、滑舌がいいのか全部言ってることが聞こえたわ。

 ピスティアブと同じ野生児系の少年かと思ったが違うな、アラネオと同じ系統の性格だ、あれは。

 軽薄な少年の顔をしているのに妙に落ち着いた雰囲気になって、醸し出す気配と顔が合っていない。居心地悪いというか、違和感がすげぇ。



「スキエンテが早くこちらに到着していたら、こんなに苦労しなかったというのに。遅いですよ」



 ちろりと横目で睨まれたスキエンテは、口だけで笑い何も言わない。横に居る── さっきの会話からすると──クアンド が必死に笑いを堪えている。

 少年の隣に居る巫女も顔を背けて口に手をあてて笑っている。ものすごく肩が揺れてるんだが。



「なんですか、貴方たち」



 むっとして少年が言うと、三人が爆笑した。



「い、いや、すまん。その顔で元の口調で話すと違和感しかなくて…… ぶはっ」


「気持ち悪い」


「誰のせいでこんな変装をしているのか理解して言ってるんだろうな。貴方たちが不甲斐ないからだというのに、失礼にも程があるぞ」


「す、すまんって。ぶふっ… あ、おひー様、クブス隊とフェーリス隊が抜かれました。もう間もなくラルド隊と接触しますが、すぐに抜かれると思います」



 どうします? と何食べますか、みたいな緊張感のない聞き方をするクアンド。

 巫女は彼には返事をせずに、こちらを見て言った。



「皆様、お返しした神編術師全員で術を展開して、イーも含めてご帰還ください。一番面倒で邪魔な存在が、今宮殿には不在でしてよ?」



 ね? と微笑し首を傾げる巫女の言葉に、イーと呼ばれた二柱の愛し子君だけが身体をピクリと揺らしていた。

 俺からは背中しか見えない我が巫覡(ディンガー)は、「お断わりする」と答えた。

 三人の炎の女神の侍従に先ほどの笑顔はなく、巫女の両脇でこちらをじっと見つめている。



「あの野獣を貴方に押し付けるわけにはいかない。アレを排除するのは、私の仕事です」


「しかし、貴方がこの場にと留まるとなると、わたくしは国王や国民の意志により貴方とも戦わなくてはいけませんの。我が女神のご夫神の愛しい子供とも言われる巫覡と戦うのは、わたくしの本意ではないのです」



 困ったように巫女が言えば、我が巫覡は黙ってしまわれる。うーん、あまり会話をなさらない方だからな、何と答えていいか困っているのかもしれない。



「慈愛の君、炎の女神の巫女に申し上げます。恐れながら、拙に発言の許可を」



 じっと我が巫覡を見ていた巫女の視線が俺に向く。美しい顔は笑顔だが、透き通った深紅の瞳は笑っていない。何を考えているか見透かされているみたいで背中がぞわぞわするが、目は巫女から逸らさず、圧倒されないように手綱を持つ手に力を入れた。



「どうぞ、偉大なる氷の男神の侍従の君」


「巫女の仰ることは当然の事と思います。今この時も帝国の皇帝陛下と民の意思により、我々も巫女と戦え目に見えぬ意思に煽られております。ですが、帝国の民、もっと言えば神々の愛し子のため、我々は皇帝陛下を追い落とさねばならないのです。一番に我らを縛る意思である彼を屠ることが叶えば、この意思の鎖から解放されましょう。その後早急に国境より帝国へと我らが撤退すれば、御身と戦うこともありません」


「…そう上手くはいかないでしょう。あの猪の親玉がここへ突撃して、貴殿方を従えて襲いかかられたら困ります」



 困ったように巫女に言われて、そんなことはないのだと言い切ることはできなかった。我が巫覡が野獣と表現したように、皇帝の意思による支配は侮れない。

 俺が発言していた間も考えておられたのか、我が巫覡が何も言えない俺に代わりに話だされる。



「我らにそんな意思はありません、と言っても信用には足りない。しかし、例え無理に従わされても抵抗くらいはしましょう。そんな事態になったなら、我らが抵抗している間に皇帝もろとも我らを切り捨てられよ、炎の巫女」



 きっぱりと言い切った我が巫覡の言葉に、巫女のが戸惑っているように見えた。スペイフィキィスと呼ばれた侍従が、ふっと息を吐き巫女に向けて言った。



「お姫様もう迷ってる時間はないですよ、彼らと共闘してあの熊を退治しましょう。お姫様はお嫌でしょうけれど、例え彼らに襲われてもお姫様おひとりで片付けられるじゃないですか。頼みましたよ」


「無理でしょ! やんないよ?」


「いや、ティーなら再起不能にする勢いで殴りかけるだろ」



 勢いよく否定する巫女に、二柱の愛し子君が突っ込みを入れれば、少女騎士が「空気読んで、副隊長」とため息をついていた。



「イーは私をなんだと思ってるの…… はぁ、もういいわ。皆で戦えばいいのね」


「とりあえず、こちらに引き付けてお姫様がバカスカ術をぶっ放して皇帝一人にする、でいいですか?」



 スペイフィキィスが確認し、巫女が頷く。



「術の説明は今からじゃ間に合いませんよね、数人で組むとして組み合わせはどうすんです?」



 クアンドの問にあっさりと巫女は言う。



「炎と氷一人か二人ずつで組んで、ぶっつけ本番でいくしかないでしょう。同じくらいの実力で組めるといいわね」


「そうですね。ではお姫様と巫覡殿、私とあちらの二柱の愛し子殿、スキエンテと長髪の彼、クアンドと少年二人、そしてインフィウムとクリュセラや他の騎士は神編術師を守るというところですかね」


「俺も戦える……ます、一応。巫女の側で戦いを見てもいましたし」



 二柱の愛し子君はスペイフィキィスにおずおずと言うが、彼は取り合わなかった。スペイフィキィスはあきらかに上司感が出ているため、腰が引けてる気がする。



「君は本来氷の術が得意なのに、こちらでは無理に炎の術を使用していて術の威力や精度も中途半端です。剣もお姫様やクアンドに比べたらまだまだ。お守りをさせるわけにはいかない、今回は諦めなさい」


「イー、炎系の術は下手くそだもんねぇ。剣とか私の術を打ち落とすのはそこそこだけどさ」


「そう言うことです。お姫様が言う熊には、例えお姫様や巫覡殿が殺意を込めてもほとんど効果がないと予想できます。無理はさせられませんからね」


「え? 陛下には巫女の術も効果が薄いんですか?! 俺、死ぬかと思ったのに」



 思わず叫んだピスティアブに、にっこり微笑んだスペイフィキィスは「そうですよ」とだけ答えた。

 表情が「今、時間無いって言ったよね。黙って最後まで聞いて待っとけ」と語っている。アラネオと気が合いそうだ。ああ、さっき組むって言ってたよな。

 ………。あいつらの会話を想像したら戦慄が走った。

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