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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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炎と氷の舞い

 この場に居る全員が私を見上げて注目する。優雅に両手を広げて、微笑んで宣言する。



「さあ、皆で踊りましょう?」



 宣言の終わりと共に、さっき舞い散った氷のように小さな炎を礫を前後左右から撃ちこむ。

 巫覡ディンガーが集団に向けていた手のひらを上にし、指先で何かを持ち上げる仕草をした。刹那の間に集団の四方に氷の壁が出来上がり、そこを炎の礫が穿つ。

 ヒビの入った氷の壁が硝子の様に砕けて落ちてゆくかと思ったのに、その場で不規則な動きで礫を弾いて行く。


 炎の礫と氷の破片で細かい傷が出来ているのは、帝国軍のみだった。

 巫覡の背後に居る猪が「なぜ我が軍だけ!?」と驚いて、長髪の男神の侍従ディジャーに「ここに居る王国の方々は、皆さま愛し子ですから」と素気無く返されていた。


 それでも納得できない猪は、元気そうな少年に食ってかかっている。



「なんでって言われても、愛し子だからとしか言えないですって。そんなに不思議なら、エシウス大隊長が彼らを援護してくださいよ。俺たちも愛し子だから炎の術も当たらないし、こっちの氷の術も当てられないっす」



 からっと爽やかに言う少年に煽られて、エシウス大隊長と呼ばれた猪が部下を連れて兄さま達へと突進して来た。本当に猪みたい元気ねぇ~と笑えていたのは、エシウスの大隊が巫覡の後ろから居なくなるまでたった。


 巫覡の後ろにはまだそこそこの人数の守護衛士兵団デフォブセッシミーレスが残っていたが、彼らを周囲に護らせてそわそわしている不審な人物が居る。そいつこそ、蒼炎カエルライグニーを『目印』にした天馬調教師カエルクスマネジャレだ。戦闘員として有り得ないくらい挙動不審だし、神編術師なら守護衛士兵団が護衛なんかしない。

 守護衛士兵団にあんな態度を取れるなんて、彼らには無くてはならない天馬調教師しかないもの。

 蒼炎の代わりに紫炎天プルプラーイグルム黒炎天(アーテルフラルム)を騎乗した騎士ごと捕獲しようと企んでるんだろうなぁ。

 さっきから黒炎天になにか指示を飛ばしてるっぽいし。騎乗してるのがイーだって誰かが気が付いたんだろう、イーごと帝国軍へ引き込めればかなり有利になるもんね。



 巫覡があいつを引っ張り出してくれたのだろうけど、あんな自分だけは安全な所に居たがる奴をよく連れて来れたと感心する。

 そして、特大の感謝を彼に捧げるわ。


 ありったけの怒りと恨み、そして力を込めて彼らを集中的に狙おう。

 兄さまへ向かった猪? そんなの、兄さまやイーがなんとかするでしょう。


 さっきよりもずっと細かく、ずっと強力な炎の紐を編んだ網を巫覡たちを囲むように発現させる。と、同時に視覚隠蔽した炎の小剣、礫、針などの投擲できる形で炎を練り上げる。

 側の侍従たちの顔色が変わったところを見ると、彼らには視えなくても層厚く重なっていく炎の気配を感じられているのだろう。有り余っている殺気も目いっぱい込めたもの、愛し子であっても当たり所が悪ければ重症になる位には強力な炎が出来上がってきているから。


 巫覡は球体を掴むように両手を合わせ、氷の術を練っている。防御系のようで、私と同じく同時にいくつか展開してるっぽい。無動作、無詠唱での同時並列起動はまだ苦手なのか、忙しなく手で印を組み口でもなにか詠唱している。

 巫覡を含む守護衛士兵団の全部を囲う結界が一番先に展開されて、次いで侍従や天馬調教師のごく狭い周囲を囲う防御結界を紡いでいる。

 全て展開が完了するにはまだ時間が掛かりそう。巫覡には申し訳ないとは思うけれど、先に攻撃はさせてもらうよ。

 絶対に天馬調教師(あいつ)だけは焼いて落とす!


 最速で炎の網を天馬調教師に向けて萎めていくと、侍従二人が天馬調教師の回りに氷の壁を展開していた。その氷を突き破り、天馬調教師を球状に囲み炎の網は止まる。ふむ、巫覡の展開した防御結界で網が止まっている。巫覡の両手の内にある白い球体と、天馬調教師を囲う結界が連動してるようね。


 彼ら全体を覆っていた巫覡の透明な氷の幕は割れることなく彼ら一帯を覆っていたし、巫覡を囲む愛し子にも天馬調教師を守る守護衛士兵団に傷一つ無い。炎の網が彼らをすり抜け、天馬調教師を囲んでいることに誰もが驚いている。

 細かく条件付けしたもんね。天馬調教師以外(・・)は、何の影響も与えず透過するようにって。

 警戒したり動揺してもらうために、わざわざ見える様にしただけ。効果があったようで良かった。

 その網も巫覡の防御結界を破ろうと、ちりちりと燃え少しずつ表面を焦がしている。視覚的にも炎の網に囲まれてるあいつには、恐怖を与える絵面でしょう。こちらの片が付くまで恐怖するといいよ。



 にこりと侍従二人に笑い、隠蔽を解いたあらゆる炎の投擲武器を彼ら一帯へ撃つ。それぞれ方向も、速度もバラバラにしたので一斉に防ぐのは難しいように。

 一番早く鋭い針と礫が一番外側の透明な氷の結界を破り、細かく砕けた破片の間を小剣や礫が通り、熱でとかしてゆく。


 すり抜けた小剣と礫は侍従たちの周囲に展開した氷の壁にめり込み、周囲を溶かそうと燃え続けている。巫覡が外に張った防御壁のように砕くつもりで投擲したんだけどなー、二人ともめり込んだ瞬間に巫覡の結界に干渉して氷壁を強化したみたいね。ひゅう、やるじゃない。

 つい下品にも口笛を吹いちゃった。彼らの口が引き攣って見えるのは、気のせい気のせい。


 侍従たち以外の守護衛士兵団は、巫覡が炎の網に対処しようと防御壁の内側に展開していた柔軟性のある結界幕のおかげで、炎の小剣や礫の威力が半減した為に半数は回避して無傷、残り半分のさらに半数は直撃して落ち、なんとか耐えた者たちも肩や腕に突き刺さった小剣や皮膚を突き破った礫が、さらに深く抉ろうとじりじり肌に食い込んで呻いている。


 じゃあ、追加したら彼らはどうなるかしら。

 ヴァニ達侍女リージェが激励式で踊った曲、グラテアン家以外には知られていないが本当はあれにも女神への祈りの歌詞がある。

 可愛いヴァニを思い出し、ゆるんだ顔でその歌を口ずさみ両手を広げて先程の倍の炎の投擲武器を私の背後に生み出し、天馬調教師へ向けて笑った。


 侍従二人は言葉無く青ざめ、天馬調教師の口からは声になりきらない引き連れた悲鳴が絞り出されている。さすがの巫覡も眉を寄せている。



「さあさあ、もっと激しく踊りましょうよ!」


 天馬調教師へ哄笑しつつ、奴へと生み出された炎の武器全部を撃った。

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