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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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いつか気が付いて

 イーが目覚めた日と翌日も安静だと休養させられ、やっと三日目の朝に皆の前に出てきたイーは自分がグラキエス・ランケア帝国から差し向けられた間諜であること、氷の男神の愛し子なのは周知であったが帝国のエイディ神殿、しかも神殿騎士団アエデーエクストゥルマ所属の侍従ディジャーであることを告白し、それを隠してしていた事を謝った。


 私と同じ様に「言うのが遅いんだよ」とクアンドに殴られ、スキエンテに「さっさと素直に白状しておけば、面倒が無かった」と脇を擽られ、「氷の男神の愛し子だって事はそりゃ知ってましたし、たぶんプロエリディニタス帝国の神殿所属じゃないだろうなって思ってました。本気で隠せてたと思ってたんですか?」とガウディムが笑いながら言えば、彼らと同じ思いでイーの謝罪を見ていた面々も「違いない」と爆笑していた。

 あっさりバレバレだったと言われたイーは、「ううぅ…」と唸りしおしおと項垂れた。

 項垂れるイーを見てまたもや皆から爆笑が起こり、更にイーが小さくなるというちょっと異様な盛り上がりの循環がしばらく続いた。それを彼等から少し離れた場所で見ていた小兄さまと私は、三回目くらいで飽きて皆を置いて部屋を出て行くのだった。


 イーは自分たちと何か違うと漠然と感じながらも、母なる女神に真摯にお仕えしていたのは皆が知っている事だ。グラテアン騎士団エクストゥルマでも真面目に仕事をこなし、積極的にこちらの弱味を探り帝国へ密告していたわけでもない。むしろ歪曲に報告して、勘違いさせるような言い方をしていたくらいだ。

 こちらに密告するネタが無いだけというのもあるけれど、イーはいつだって自分の立場を忌んで悩んでいたのを皆知ってる。

 煮詰まっていた最近は愛し子の能力を神々から与えられたもの、という自覚が薄くなっていたけれど。普通に生きている愛し子にだって、そんな時はあるものだ。


 そして「団長が羨ましいんですよね? うふふ」というクリュセラの声が聞こえてきた。

 これは、誰かしらのこういう挨拶から始まり、団員にいじられて疲れた顔をするイーの日々が始まるんだろうな。

 まあ、皆イーが黙ってたことに怒ってたんだから仕方ないよ。頑張れ、イー。



「あ、そうだった」



 言い忘れた事があったんだった。小兄さまに断りを入れて部屋の入口まで戻り、そこで皆に囲まれて突かれているイーに声をかけた。



「各騎士団の団長にはイーの情報は共有されてるからね。アニラスのおじ様とかパークス団長とか、アルドール殿下にもいじられるかも」


「……覚悟しておく」



 「わー、大変~」と異口同音に棒読みで同情され皆に揉みくちゃにされて、心なしか憔悴して情けない顔をして笑っているけれど、今のイーなら暗い顔をしているとは言われないだろう。

 気がついてない様子だけれど、イーってば皆にけっこう好かれてるんだよ。帝国の神殿にはイーの仲間(かぞく)が待っていて、グラテアン(ここ)ではたくさんの『仲間(きょうだい)』が居るって、いつか気がつくといいね。


 イーを家族の元に帰してあげるには、捕虜にした神編術師を返還する任務に就ければいい。ただし、単純にそのまま帝国に送り返せば、イーを含めて引率をするグラテアンの騎士たちは無事では居られないだろう。守護衛士兵団デフォブセッシミーレスの残党を避けて巫覡(ディンガー)プリメトゥス一行の元へ送り届けなくちゃいけない。

 彼なら皆を傷つけないように、何とか手を打ってくれると思う。捕虜にした神編術師は、皆なにかしらの神の愛し子だったし。というよりは、愛し子だったから私に打ち落ちされなかった、と言うべきかな。


 出来るものなら捕虜送還を見送って今回の迎撃戦闘を終わりにしたいところだけれど、国王や神殿の好戦派、あいつらに影響された国民は『戦うしか能のない巫女リーシェン』と想像や情報操作された『敵である冷酷な巫覡』との派手な戦闘を望んでる。強制力を伴うあの気持ち悪い意識が乗った視線やら願いが私の周りを囲んで、やりにくいことこの上ない。

 母なる女神が、彼らの変に純粋で強力な意思に逆らえない以上、その巫女である私だって逆らえないのだから。神々を認識し信仰する人々の意志や祈りは、強力になると神々の意志と反対の思いでもとても神々へ影響するから困る。

 特に、フランマテルム王国やグラキエス・ランケア帝国のように一神に強く拘る国は、神からの人々への影響が強いのと同じくらい人々から神への影響も強くなる。きっと巫覡側も帝国の人々の『戦闘で巫女を打ち負かし、王国を帝国の足元へ下す』という意思に押されている。

 押し付けられた守護衛士兵団を排除できていないのは、たぶんそんな意志に邪魔されているからじゃないのかな。


 ……嫌だな。本当に、氷の男神の愛し子達と戦うのが嫌だ。


 出来るだけ派手な見せ物になる術の応酬で済ませられるといい。なんて思うものの、そんな簡単に済ませられるなら三国が今こんな歪な状態になっていないわ、と毒づきたくなる自分も居る。

 過去の巫女のように国境付近を消し炭にしたり焼け野原にしてしまって、神殿の野心家達を図に乗らせることは避けないとなぁ、と覚悟ともいえない覚悟を決めて捕虜返還に付き添う隊を組むために残った団員を思い浮かべた。


 イーの行動を抑えられる愛し子で、襲ってくる守護衛士兵団から神編術師を守りつつ彼らを排除できる実力を持った者。

 え、条件厳しくない?


 もう面倒だ。小兄さまを代表にして、人員配置は兄さまに丸投げしてなんとかしてもらお。



「ねえ、小兄さま!」



 先をゆったり歩く兄さまに聞こえないように、そっと溜息をついて兄さまに声をかけた。

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