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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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いつの間にか終わっている

「羨ましいよ。ティーがものすごく羨ましくて、妬ましい。だが、俺にお会いしたいって言う資格がないのも分かってる」



 俺の言葉一つ毎にいい笑顔で頷いているティーが、本当に憎らしくなってくる。羨ましいだの妬ましいだのなんて、口にしてはいけない事は分かってる。いけないんだけれど。



「そうやって俺を羨ましがらせるティーが憎たらしいよ。だが、それだけ俺が怒らせたって事なんだよな。素直に羨ましいって悔しがることにする」



 俺の言葉に「おや?」という言葉が聞こえるような表情をした後、大声で笑いだしたティー。腹を抱えて大笑いしているが、そんなに面白い事あるのか?



「あはっ、あはははは! 素直、イーが素直に拗ねてる!!」



 目尻に涙まで溜めて笑うティーを見て、腹が立つよりいつも通りすぎて安心が勝った。

 だが、そんなに笑うことか?



「いいね、澄まして後ろ向きになってるイーより、ずっといい感じだよ。せいぜい羨ましがってよ。イーへの罰はそれだって通達して、皆にはこの件以外でいじらないように言っておくよ」



 この件ならいじってもいいのか、そうか。絶対に地味に細々と嫌味を繰りだす面々を思い浮かべながら、それも俺への罰としてくれる皆の優しさに感謝しなくちゃいけないのだ、と思う事にしよう。

 ものすごく嫌だが耐えなくては、と自分に言い聞かせる。本当に嫌なんだけどな。あの人たち、思いっきり傷口を抉ってくるからな。



「普通の生活に戻ったら、ちゃんと皆に謝んなさいね。いつまでもイーが白状しないことにイライラしてる人、けっこう居るんだから」


「そうする。でも、もう言っても大丈夫なのか?」



 内通者を退団させたらしいが、上手く隠している者や俺の様に見逃されている者も居るはずだ。



「大丈夫だよ。本当はグラテアン騎士団エクストゥルマ内だけなら『目印』なんかなくたって、誰が進んで裏切っていて、誰が仕方なく敵に従ってるのか分かるもの。おおっぴらに公表してないだけ」


「ああ、母なる女神がいらっしゃるのならば、誰とどうやり取りしてるかなんて簡単に知れるのか」



 俺の呟きにはなにも返さず、微笑を保ったままのティーが不気味だ。



「まさか、女神からの情報を元に処断したんじゃない?」


「怪しい所の確認はしたけれど、内通者だろうなぁって目をつけたのは他の方法」



 疑わしい者を炙り出して、判断しかねるところは女神にお伺いしたということだ。しかし、これ以上は聞いても教えてくれなさそうだ。



「分かった。帝国の神殿の皆に影響がないのなら、皆の前で全部白状する。どこかで時間をとってください、団長」



 団員としてお願いをすると、上司の顔になったティーが格好よく笑った。



「はぁい。あ、ヴァニはもう神殿に帰るそうだから次に会えたときに全力で謝らないと、どうなるか知らないからね」


「お、おう。力の限り謝って婚約も俺の有責で破棄してもらえるように頼むよ」


「あら、破棄でいいの?」


「いいんだ、俺が悪い」


「ふぅん…」



 俺の言葉に腕を組み右手の指を顎にあてて、何か考ている。

 ヴァニトゥーナ嬢は俺を嫌っているし、何の問題もないと思うんだが。



「イーの覚悟は良し、なんだけどさ」



 立って俺を見下ろしているティーの眉が寄っている。何の事だか分からないので、首を傾けるだけに留めるとティーの言葉が続いた。



「このまま何もしなくても、婚約は解消されると思うよ」


「なぜ?」


「イーは内通者だって自白したけれど、ソリスプラ伯爵夫妻は『目印』を所持していてね。つい先日、国外へ放逐されたの。たぶん、ソリスプラ伯爵家は取り潰されるよ。イーは脅されていた訳だし、二柱の愛し子だから少し軽くてソリスプラ伯爵家から除籍かな。ただの騎士爵の資格を持つ下級貴族へ降格って処分になると思うんだ」


「もう放逐されてしまってるんだ。仕事が早いな… えっ?! 放逐?」


「襲撃された翌日にグラテアン家(わがや)に来たみたい。でも、お父様は引きこもりだし義母はアレだし、ヴァニは神殿に詰めてて居ないしで門前払い食らったらしいよ」


「ああ、あの二人考えなしだからな」



 探れと言われたら正面きってその場に行って、家主の目の前で家探しをしかねないくらいに頭も腰も軽い。アレを俺の両親として付けたやつ、あの二人がどういう性格しているか絶対に調べていない。



「本当にね。仕方ないから自宅に戻って、帝国の使者からの指示に従ったらしいけれど」


「正面きってティーの前に来て、俺がどうなっているかそっちのけで王国軍の話を聞きたがったんだろ」


「そうなの。イーみたいに帝国に脅されているから助けてくれって来たのかと思えば、大変ですねとか何が大変なのか全然分かってない労りの言葉の後に『次はどう戦うんですか?』だって」



 ああ、言うだろうな。



「ねえ、ソリスプラ伯爵ってさぁ、寡黙なのかと思ってたのよね私。… なんというか」


「馬鹿なんだ、あの男」


「うわっ、ズバっと断言したね」


「言うとも。ティーはあいつが寡黙だっていうの、おかしいと思ったろ」



 極稀にティと一緒にソリスプラ伯爵家へ訪れると、必ずティーはわずかに首を傾げて不思議そうにしていた。



「思ったね」


「あれな、考えなしにベラベラ喋るから黙れって言ってあったんだよ。俺がイー以外とあまり話をしなかったのも、俺の話とあいつの話に齟齬が出ない様にしていたのもあるんだ」


「そうはいっても、基本的な家族設定は決められてるでしょ。それに沿って話をするだけじゃないの」



 そう、あいつら夫婦の出会いから結婚と俺を生んだ経緯など、ちゃんと設定してあった。俺はそれを教本として記憶させられてたし、あの二人も同じだったはず。



「あの男は覚えていなかったんだよ」


「覚えていなかったって… 結婚年月日とかイーの誕生日とかの設定だけでしょ? イーは神殿に預けられて育てられたって経歴にしていたじゃない」


「それすら記憶する気がなかったのか覚えられなかったのか知らないが、夫婦の結婚のきっかけだの出会いの情報だのが二人して言ってる事が違う上に、聞くたび毎回微妙に違っているんだ」


「うわ、思った以上の馬鹿だった」



 俺の疲れた溜息と、イーの溜息が重なって沈黙が俺たちを包む。



「だからな、無口を装って外では極力口を開くなって言ってあったし、イーを連れて行った日は徹夜で設定を暗記させてた」


「なるほど、苦労したんだねイー。あ、だからイーも無口を装ってたの? 私以外とはあまり喋らないものね」


「いや、静かな神殿で育ったからあまり喋る方じゃなかった。ティーと一緒に居ると話しないと居られないだろう? かなり口数が増えたんだよ、これでも」



 片眉だけ上げてこちらを見るティーの視線が痛い。疑わしい目で見るのを止めて欲しいんだが。



「ま、いいや。アホな事聞かれたから『目印』を確保して、イーと血縁関係がない事と我が国に対する犯罪行為により即国外退去を命じたの。そこは私の権限で好きにしていいって王太子殿下から許可もらってたからさ」



 怪我が落ち着いたらあの二人をどうにかしなければと思っていたが、俺が眠っている間に全部終わってしまっていて、有難いのだが拍子抜けもしてしまった。



「なんというか、ありがとう」


「いや、お礼言われるところじゃないと思うけどさ。小刀だけ持たせて、グラキエス・ランケア帝国の侵略軍の陣地方向へ行くように助言して、徒歩で国境に放り出しといた。あの結界、敵は入れないけれど出てはいけるから」



 二人とも昔はそれなりに剣の仕えた守護衛士兵団デフォブセッシミーレスの兵士だったそうだが、身体を維持しようともしない怠けた生活を送っていたからな。たぶん、帝国軍と合流するのは無理だろう。



「食糧は持たせなかったから無事に帝国軍と合流できるとは思えないし、陣地にたどり着けても五体満足じゃいられないと思う。でもあの『目印』を持ってヘラヘラ笑うあの馬鹿二人はどうしても許せなった。イーにはいい気分でもないだろうけれど、謝らない」



 俺を見ずに言うティーは、それを指示する自分が嫌だと思っているのかもしれない。



「謝罪なんていらない、あいつ等の自業自得だ。俺はティーが排除してくれて助かったと思ってる。ありがとう」



 礼を言う俺に驚いたようで、こちらを見て苦笑を浮かべる。

 うん、俺やあいつ等なんかで気分を悪くせずに、苦笑でもいい、笑っていてくれティー。

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