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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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兄と妹

 制服に着替えたくない兄さまの歩みが遅いのを、背中を押して進ませる。


「しっかし、スペイフィキィスはイーの扱いが上手いな。俺はあいつを大人しく部屋で待たす事なんぞ出来ん。俺と交代で殿上させんか?」


「小兄さま、本気で言ってるんでしょうけど無理だからね?」


「ダメかぁ」


「副団長じゃなくて新人連れて来られて、すごいなぁ~なんて本気で言うの、小兄さまだけだから」


 衣裳部屋に小兄さまを押し込みクローゼットを開け、いくつかの赤銅色のグラテアン騎士団の制服を取り出し、シャツと上下一組を兄へと渡す。ついでだから私も制服の上着を団の制服へと着替えよう。イーには応接室で渡せばいいや。

 ちょっと嫌そうに小さな溜息をひとつ零して、思い切りよく着替えはじめる兄さま。


「そういや、ヴァニトゥーナの様子はどうだ?」


「いつも通り、一生懸命にお小言を言いに来てくれたわ。小兄さまも邸宅に寄り付かないって半泣きだったのよ、可哀想に。ものすごく可愛かったけど」


「お前、そんなだから姉妹の仲が悪いなんて話が広まるんだぞ。いい笑顔しやがって」


「だって兄さま、毎日私と顔を合わせるために教室に来てくれたり、口うるさい妹になるようにすっごく頑張ってるのよ? どうやったら嫌味に聞こえるのがしら、これでいいのよねってちょっと目を泳がせて副音声が聞こえるくらいに頑張ってるんですもの。ああ、こんな状況じゃなきゃ文句があるなら騎士団へいらっしゃいって言えたのになぁ」


「こんなムサイ所にヴァニが来たら卒倒するぞ」


「そんなことないわよ、あの見た目だけどヴァニは肝が据わってるのよ。そんなことより小兄さまを見たら『二の兄さま、なんですのそのしまりのない恰好! ああ、髪もそんなに刈ってしまって…』とか、可愛く怒ってくれるから」


 にまにまと笑ってヴァニの真似をすれば、それいいかも、と顔に出ている。


「大兄さまってば、会うたびに「今日もヴァニに小言を言われてな…」ってすっごい眉間にしわ寄せて言うのよ。むかつく」


「兄上の愚痴に、ムカつく?」


「だって、あれ愚痴じゃないんだもの。デレデレだらしなく笑うの我慢してるから渋い顔になるの。今日『も』って私に自慢してるのよ!」


「いや、お前だって絶対自慢しかえしただろ、それ」


呆れた顔でこちらを見やる兄に向って、笑顔で言う。


「当たり前でしょ!! 「心中お察ししますわ、わたしも()()小言の日々ですもの…」って囁いてやったわ」


「お前らなぁ…そうやってるから、世間でヴァニと仲が悪いって言われるんだろ」


 鼻の穴が広がってるぞー、と鼻をつつく小兄さまには何もせず鼻息をかけてやる気合いでため息をついた。


「仲が良いって言われるよりは、ヴァニの神殿とお義母上に対する居心地がいいでしょう。小兄さまだってヴァニが可愛くて仕方ないくせに」


「それは否定しない。だが、俺は兄上もティーシアも可愛くて仕方ないぞ」


 小さな子供にするように、頭をなでながら笑う兄。とても嬉しい発言だけど、頑固でカチカチな大兄さまが可愛いか? 大兄さまより身体の大きな小兄さまには可愛く見えるのか? とちょっと悩んでる私に「たぶんその考え、間違ってるぞ、ティーシア」と言う兄さまの言葉は聞こえてなかった。


 時間もちょうどいいところなので、ゆるゆる出発しようとイーを迎えに行くと、スペイフィキィスの止まらないお喋りに頬をひきつらせたイーが大人しくお茶を飲んでいる。

 あの我関せずのイーに、ちゃんと相手をさせるスペイフィキィスがすごいわーと兄と目線で語りあった。


 どう見ても腰の引けてるイーに構わず逃がさずに話を聞かせ続ける話術というか、呼吸の入れ方と話の構成力とがイーとは段違いの能力で、ソファーからの逃亡を許さない。本当にすごい能力だわ、何の役にもたたないけど。

 すごく楽しそうだし話も実のあるものっぽいし、まったく嫌味な言葉も態度もなく話してて、ただただイーの居心地だけが悪い空間。あれ、イーへの嫌がらせだよね、たぶん。

 前から思ってたけど、ペイフィキィスってイーに対しては結構辛辣というか慇懃無礼というか。何が気に入らないのかは分からないけど、地味に無意識に嫌がらせをしてるみたい。


 なんとなく無表情になり半眼になってスペイフィキィスをみやると、目が合った瞬間それはもう素晴らしい笑顔を向けてきた。つられてこちらを見たイーに顔全体で『たすけてくれ』と言われた。


 えー………? 助けなきゃダメなの?

団の制服に着替えなさい、と助け舟は出した。

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