男神の侍従が見た涙2
この青い……もう蒼炎って呼んでいいよな、連れてけって言った?
何言っちゃってんの。いやそれより、俺って天馬との意思疎通は壊滅的に無理って、天馬が言い放つ程(部下談)に相性が悪いって言われるじゃん。気のせい、気のせい。
── 否、我が身を連れて行け ──
うーわー、気のせいにさせてくれないのな、ダメなのか。
── 是、我が身を…… ──
分かったよ、分かりました。
本音を言えば、我が巫覡の為にもすごく助かる。
だがな、主であるお姫様はちゃんと説得しろ。
たぶん、有りえない程の確率で目に居る蒼炎と意思疎通が、それも会話みたいに理解可能出来てる。すげぇ。
しかし、だ。いくら幸運で助かったとはいえ、さすがにほぼ泣いてる巫女をほっといて有難く頂いていくのは駄目だろ。
ちろっと俺に視線を寄越して、巫女へと振り向く蒼炎。おい、今「へっ」っていう馬鹿にした顔、したよな? これあれだ、蒼炎の能力が馬鹿みたいに高くて奴の意志を俺に理解させてるんだ。
そうだよなぁ、俺の粗野な振る舞いが天馬にそれはもう嫌われてるんだよ。
「意志疎通なんてしたら粗野で野蛮な性格が感染るから絶対お断わりと、アナタの天馬が言ってますよ小隊長。名前も付けなくていいと拒否されてますが、何したんです?」
って部下に伝言された俺ってどうよ。何にもしてないんだけどなぁ。大事にしてるつもりなんだが、どうも天馬の多くが上品な貴族のようで肌に合わないのかもしれん。どっかに野生的な天馬は居ないものか…
「馬鹿じゃないの!? 期間満期まで私の命令に従えば蒼炎を自由にするって言ったじゃない! それもあと少しだっていうのに、何で今になって命令を拒否するのさ」
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「私と紅天に渡した能力を取り戻していけって言ってるだけでしょう? 私たちの為に行くのはいいよ、でも…」
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「ダメだってば。私に絶対服従して自由になるんだって、約束したじゃない。……カエルラ駄目だよ、服従してないでしょ……」
巫女と意思疎通…いやもうあれは会話だな。会話している蒼炎の声はやはり聞こえてこないので、俺に天馬の『ことば』を理解する能力はない。だが、蒼炎がなにかしらの能力を巫女と紅い天馬に渡してしまったと、巫女の話から分かる。巫女は主人だから理解できるが、あの紅い天馬なぁ… 美しい御嬢さんじゃん、愛し子君が主人ってことは性格も良さそう。そりゃ助けたくもなるわ。
あれだけ巫女が焦っているとなると、もう魂とかそういったところで何かしちまったんだろう。という事は、蒼炎の余命はほとんど無いに等しい。
蒼炎はもう次の生とかは考えてないんだろなぁ。
愛し子は魂とも言われる自己存在の核を持ち次の生を神から授かると言われており、実際に以前の生を記憶しているという人がかなり存在するって記録も有る。その中の半数近くにその核が壊れたり擦りきれると次はないと警告されたなんて事や、愛し子の資格を失くしてしまうと次はないって警告されたって記憶があるとの報告もあったとか。
俺たちエイディ神殿騎士団が守護衛士兵団のウルテック大隊長と二人の副隊長を生かして連れ戻すことができなかった失態も、巫女の天馬を捕獲したとなればそれを相殺しておつりがくる。
天馬から強引に情報を引き出せば、巫女の弱点や王国の隙を知る事ができるからな。
しかし、俺たちが守護衛士兵団に天馬を引き渡して本国から天馬調教師が到着するまでに、原因不明で天馬が死んでしまえば情報は引き出せないし、蒼炎も巫女を裏切ったことにもならない。苦しい立場の我が巫覡と俺たちには、巫女や王国の情報は奴らに渡さずに立場を守れる、非常に有難い状況になる。蒼炎を犠牲にするのは心苦しいが、正直とても助かる。
よく考えられてる。しかし、巫女と美人な紅い天馬の為に今生のこれからの自由と次からの生を捨ててまで実行しちまうなんて、えらい男前な行動をする。すげぇな、蒼炎。
そんな蒼炎が、繰り返し巫女を説得しているようだ。
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「嫌だ」
── ………………………………………… ──
「嫌だよ、蒼炎」
まるで子供に返ったような返事しかできなくなっている泣きそうな巫女と、その会話を聞いてそわそわとする紅天と呼ばれる、今は紫色の天馬。
俺たちの背後から大勢押し寄せる気配が近づいてきたのを察知した蒼炎は愛し子君と光る王子の順に目配せして、最後に巫女と紅天に笑った。
部下には後から「だから、気のせいでは?」と白い眼で見られたが、俺に笑いかけたよりずっと優しい、まるで兄ちゃんが駄々っ子に仕方ねぇなぁってするような笑顔を向けていたんだよ。孤児の俺が羨ましいと思える程の笑顔だったんだ。
「撤退するぞ、ソリスプラ。巫女姫をお守りしろ。全軍撤退!!」
「待って、殿下。待ってイー! このままカエルラを置いてったらダメ。ねぇカエルラ帰らなくていいから、せめて私に寄越した能力を戻して。でないとカエルラに次はもう無いじゃないの!!」
戻ってくれと懇願する巫女に「駄目だ」と短く答えて天馬を走らせる愛し子君の顔は悔しそうに歪んでおり、クリュセラは魂が抜けてしまったかの様に無表情で彼に従って去っていった。
「お願い、せめて私の分だけでも還させて…こんなの嫌だよ、蒼炎」
撤退の合図を出し、巫女の叫びを無視して踵を返したアルドール第二王子が、いい笑顔でこちらを振り向いた。
「準備は整った、間もなく国境に再び結界が展開される。早急に国外へ退去しないと我が国に閉じ込められることになるぞ」
大問題な発言をさらっと笑顔で投下して、颯爽と去っていく王子。おい待て、俺に感謝してるとか言わなかったか?
「聞いたか、お前たち。こちらも全速力で撤退するぞ!」
「はいっ」と返事をする頃には、すでにこの場を離れている部下たち。ちゃっかり俺を置いて去っているのは良い判断だよ。覚えてろよ。
「すまないが、頑張って付いてきてくれ」
蒼炎にそう言えば、『俺を誰だと思ってるんだ。余裕に決まってる』と目が語っている。男前ですね蒼炎さん。
しかし、俺の知る天馬のなかでも突き抜けて優秀な天馬だわー。めっちゃくちゃ速い。人を乗せてるとはいえ、俺の天馬が置いてかれてるんだぜ。
心残りを振り切るためにかなり頑張って駆けてるんだろうけどな。
愛し子君の天馬が駆け去る時に聞こえた巫女の声と、紅い天馬の悲しげな嘶き。蒼炎が愛しむ妹のような巫女と、恐らく命をかけてもいいと思った紅天。
姿は見えなかったが、巫女の声は涙声だった。子供のように嫌だと言っていたあの表情で泣いているんだろう、と容易に想像できた。
可愛い子たちに愛されてるって嬉しいけど、自分の為に悲しんでるのは嬉しくないもんな。
お前の厚意、絶対に無駄にしないからな。




