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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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男神の侍従のぼやき3

 返答を促すこともなく、ただじっと俺を見つめる我が巫覡ディンガーの視線に圧されて負けた俺は、ため息を飲み込んだ。



「分かりました、我が巫覡。なんとかしてウルティマール副隊長を連れ戻せばよいのですね?」


「すまない。私はかの方には近づけないんだ、イーサニテルにしか頼めない」



 そっと目を伏せて最後には声もなく口を動かすだけになった我が巫覡、そんな姿も麗しい。

 じゃねぇ、今日はよく表情が動いている。俺や神殿長くらいしか気が付けない、微妙な変化だけどな。

 これは神殿長に報告しなくちゃいけない、いい変化だと思う。きっとあのじー様もにっこにこの笑顔になるのが、もうはっきり映像つきで想像できる。

 表情には出ないが、こちらを蔑んでくる守護衛士兵団デフォブセッシミーレスの奴らの事まで心配してしまう我が巫覡の心優しさは、この状況にはつらいものだろう。



「俺にやる気があっても、出来るかどうかは別ですよ。あまり期待しないでいてくださいね」



 頷く我が巫覡に会釈して、振り向いて小隊の仲間を呼び突入することを告げると、皆ぼやくぼやく。



「うえぇ、あの血で湿ってるあそこ行くんですか?」


「あそこ行ったら、俺らもウルティマール副隊長に切り殺されそうっすね」


「僕はそれより、追いかけてくる守護衛士兵団の方が怖いよ」



 好き勝手言う奴らに今度こそ大きなため息が出たが、こいつ等相手ならまあいいや。愛馬のリムスに指示して、駆け出す。



「俺も行きたくないが、我が巫覡がお望みだ。ちゃっちゃと行って済ませるぞ」



 ぶーぶー文句を垂れながらも、ちゃんと付いてくる俺の部下たち。出来る奴らで嬉しいよ。



「今日もプリメトゥス様への愛が重いっすね、イーサニテル小隊長」


「それ言うと小隊長の機嫌が悪くなるから、それくらいにしときなよ」


「あ、 ウルテック大隊フォッサイス副隊長が追いかけてきます! あは、ウルテック大隊長が副隊長を追いかけてる」


「どっちが上司なんだか、笑えるぅ~」


「言い訳は小隊長がしてくれよ、です」



 あー、また面倒な奴が来たぁ!

 寵愛もちじゃないが恵まれた体躯の筋肉馬鹿だから、すぐ暴力に訴えるんだよな。そのうえ上司のウルテック大隊長ときたら、奴を上回る脳みそまで筋肉が詰まってそうな大馬鹿だからな。



「よし。追いつけないように速度を上げて、戦場に入ってしまおう。適当に攪乱して王国軍を引き離すぞ」



 速度を上げた俺にシレっと付いてきて、左横に並んだ部下が言った「あー面倒な説明から逃げた」という声はもちろん聞こえてる。逃げたんじゃねえ。



「ここで説明したら止められるだろうが。どうせ後から説明しろって迫られて、ネチネチ嫌味言われるんだ。終わるまでに言い訳を考えればいいだろ」



 横目で睨んでも面白そうに笑うだけで、もう何も言わなかった。



「うっかりってことで、消しますか?」



 右隣に追い付いてきた部下が、至極冷静にさらっと物騒な提案をしてくる。



「俺はそれでもいいけどな、我が巫覡はお望みじゃない」



 両側から胡乱な目で見られてる気がするが、気のせいだよな。



「ねえ、小隊長。その胡散臭い軽くてアホだけどいい人っぽい演技、いつまですんの?」


「演技じゃねぇよ。我が巫覡の前の俺が、本当の俺なんだよ!」


「うっわ、キモチワルーイ!」



 後ろから言われた質問についうっかり大声で叫べば、全員がニタァと笑って声を揃えて言う。

 お前らの笑顔の方が気持ち悪いわ、と叫ぼうとしたら全員「暴れてきまーす」と俺を置いて駆けて行った。そういうお前らだって、陰で俺の真似をして「我が巫覡」って言ってるの知ってるんだからな。




───────────



 もっと混戦を予想していたが、ウルティマール副隊長他の数名しか残っていなかった。予想通りファトウス隊長はとっくの昔に切り捨てられていたのか、彼の天馬カエルクスだけが他に主を失い生き残った天馬たちと、所在なさげに戦場から離れた空をうろうろしている。

 さすがは女神の巫女リーシェンと二柱の愛し子君。愛し子君も強くなるために努力したんだろう、どうも術を発現させるのは苦手みたいだが、均一に滑らかな炎を剣に纏わせている。


 部下たちはいい具合に分散して場を荒らしているが、追いかけてくるウルテック大隊に突撃されると流石に苦しい。早いとこウルティマール副隊長をなんとかしたいが、無理じゃね?

 ずっと巫女が引き付けてるみたいだが、奴の狙いは彼女の部下だろ。また乱戦になりそうだって、王国軍の控えてる奴らが巫女と副隊長の間に飛び込もうって姿勢が見え見え。自分たちが危険なんだって気がついてないのか、危ういな。特にあの元気いっぱいな女の子が飛びだしそうで、ヒヤヒヤする…


 天馬たちをまとめて我が巫覡の方へ向かわせる傍らあちらの陣を見ていたが、巫女と愛し子君が押さえているのを振り切って、愛し子たちが今にも突撃してきそうだ。

 どうしたらもんか、と悩もうとした俺の横をすごい速度で駆け抜けていくフォッサイス副隊長とその上司。部下たちはまだ追い付けてもいない。

 ますいぞ、脳筋ふたりを部下たちが囲んで押さえようとするが、待機していた王国軍が動いてしまった。


 背後に迫ったウルテック大隊の奴らは手で待機を指示し、俺も脳筋二人へ近づく。

 待機を命じたが脳筋の部下だ、そんなに時間がたたないうちに無視して動くに決まっている。早いとこ副隊長たちを押さえないと。


「ウルテック大隊長、場が混乱します。一度下がって待機を…あっ、ウルテック大隊長!」


 制止する部下たちを振り切って巫女に迫る脳筋その2。うわ、その1はウルティマール副隊長と合流してやがる。そこに、巫女が下がるように指示しても迫る追加の敵から主を守るために、愛し子たちが次々に戦場へと戻ってきている。それがウルティマール副隊長の狙いなのだからじっとしていて欲しかったが、彼らとしても巫女だけを戦わせる訳にはいかないと王国軍が突撃してくる。



「やめなさい、皆下がって!」


「しかし、ここを押さえねば何ともなりません。我々は巫女をお守りできれば良いのです」


「…私より自分たちを守りなさいよ、あとでアルドール殿下に殴られればいいんだわ」


「いやぁ、殿下なら良くやったと撫でてくださるのでは?」



 口では軽いこと言ってるけど、すげぇ必死じゃないか、あの天馬騎士カエルクスエクエ。しかし、脳筋その1のフォッサイス副隊長と渡り合えてる。自分たちの危険は承知だが、巫女を守らなくてはって気合いが溢れてる。近年フランマテルム王国の近衛騎士団レクスプラエトリアニは王宮に(おもね)っていた様子だったのに、あるべき姿に戻っているのは良いことだ。

 いいなぁ、早く俺たちも我が巫覡の近衛騎士団になりたいよ。


 部下たちがウルテック大隊長を補足したのが見えたので、俺はウルティマール副隊長をなんとかしなくては、と行きたくない感情に蓋をして近づいていった。


 背後から雄叫びと同時に脳筋の大隊がこちらへやってくる。

 早くね?! 俺は待機しとけって指示してたよ?


 え、どうやって押さえんの、こんな馬鹿どもをさぁ。と困惑していたら、さっきの巫女の分体との邂逅で我が巫覡が防いでいた炎の小刀が降り注いできた。

 見事に王国軍と俺と俺の部下たち以外に当たっている。



「ふえぇ、本当に僕たちには当たらないんですね。この小刀」


「しかも、熱くないぞ」


「さすが小隊長、がんがん降ってきてるのに平然としてやがる。ですね」



 いいや?内心ビクビクだよ、超びびってるわ。脳筋たちや大隊の奴らには当たって鎧だの髪だのが焦げてるし火傷してるのも居るのに、俺たちには当たる寸前にするりと滑るようにすり抜けていく。その上部下が掴んでも熱くないときた。敵意に反応するのか?

 ウルティマール副隊長の相手をしながらそんな条件付けをさらっとして大規模展開するなんて、どんだけ優秀なんだ。

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