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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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グラテアン騎士団

 学園を早退し、グラテアン邸から徒歩では距離の離れた騎士団宿舎へ帰宅する。


 グラテアン家は女神の寵愛厚い家系で王系ではない公爵家であり、私設騎士団(プライベエクストゥルマ)の所有も許可されているので、邸宅の警備も自前の騎士団で担っている。

 国にいくつか存在する騎士団のなかでも王国軍と渡り合える実力があるのは、戦闘特化の巫女(リーシェン)が率いる我が団くらいのものだろう。


 さらに我がグラテアン騎士団(エクストゥルマ)は王国軍をも凌ぐ規模の、銘のある天馬を多数所有する天馬騎士大隊(カエルクスエクエカエルテン)を持ち対国家の戦争ともなれば最優先で戦闘に駆り出され、ともすれば王国軍よりも激戦区に投入される。

 うち私設騎士団でしょ? なんで王国軍より働かされるのさ。報奨だって必要経費と相殺されてしまうくらいの額だっていうのに。

 王や宰相、何より神殿に巫女だからって見下されている。腹たつったらないわ。


 邸宅に常駐する騎士は護衛騎士として、邸宅周辺警備の騎士は騎士団より分担制で派遣され、グラテアン家第三子で団長である私と次男である副団長ドゥオフレックシーズは警備には出ない。

 団長・副団長の護衛騎士も、主の側に在るために騎士団宿舎警備は分担するが、邸宅警備は免除される。

 小兄さまも私も騎士であるため、護衛騎士は一人だけで私の護衛は最近ほぼイーで固定されているので、イーは宿舎警備にも回ってないんじゃないかな。


 本邸の父と宮殿で官吏職に就いている長男ドゥーヌルス、妹ヴァニトゥーナはグラテアンの騎士八人が交代で護衛している。

 義母がいろいろとうるさいので義母の護衛は貴族籍で顔も整った者を四人、交代制の専任で就けた結果、騎士団員とは少しばかり反りが合わない。が、戦に出るとしても彼らは連れていかないので、なんの問題もないとも言えるけど。

 ただ、在宅予定をいきなり変更して、あちこち外出されると大兄さまたちの護衛の騎士が急遽割り当てられて、機嫌の悪くなった義母に振り回される。

 ……みんな、頑張って。


 自分が義母の護衛についたらという想像にげんなりしつつ待合室のドアを開ければ、訓練を抜け出したからなのか革の胸当てを付けたままの小兄さまが渋い顔しながら、ソファとテーブルの間に腕を組んで裁っていた。

 座ろうとして、なにか思い付いたまま動かなくなったのかな?


 オレンジに近い赤毛をこれでもかと刈り上げ分厚い筋肉で覆われた逞しい身体が厳つい気配を放つが、たれ目が常に笑顔に見える効果を発揮する美丈夫なために、近寄り難い雰囲気は薄らいでいる。


「小兄さま、ただいま帰りました」


 真剣な顔で立っている小兄さまへ挨拶をする私に対して、イーは口を開くことなく会釈のみで済ませるが兄は気にした風もなく「おう、お帰り!」とひらひらと手を振った。


 私とだとけっこう喋るのに、なぜか家族にすらイーは無口なのだ。父君であるソリスプラ伯爵とは視線と、頷くことで会話をしていたのを見た事がある。あれで、本当に意志疎通できてるから不思議だ。

 じゃあ母君のソリスプラ伯爵夫人はおしゃべりなのかといえば、そうでもない。

 物静かでゆったりとした口調で話すので、ソリスプラ家は会話中でも物音がよく聞こえる。我が兄妹たちの会話とは大違いだわ。


 イーは団員たちには口が少ないくらの会話をしているみたいで、立ち回りが私より上手いと思う。なのに、なぜ妹にはああも冷淡な態度になるんだろう? 

 そもそも顔を会わせるのも少ないんだから、外面よく過ごせばいいのに。ああ、でも愛想がいいとグイグイ迫られて、もっと付き合えってなるか。


「……シア、ティーシア! 戻ってこーい」


 自分の爪先を凝視し考えに耽っていたらしく、小兄さまが顔を覗き込んで呼んでいた。


「はっ、ごめん小兄さま。どうにも落ち着かない気配ばかりで、思考が散漫になってるみたい」


 用事はなんだった?と問う。

 兄さまが差し出す書類を受け取りイーと共に目を通せば、王宮騎士団パラーティルムから各私設騎士団の副団長までの会議召集令だった。しかも、あと数時間後に参集期限が迫っている。


「ねえ、小兄さま…なにかこの国の状況って私たちが思うより深刻なのかも」


「そうなんだろうな。国中の騎士団団長の召集なんざ、そうあることじゃない」


 いろんなとこで気配がざわざわして居心地悪いんだよなぁ、と頭をかく小兄さまに追い討ちをかける。


「私はこのまま学生服でも出掛けられるから、小兄さまはちゃんと団の制服に着替えてきてね。いくら急な召集だからって、その格好じゃダメよ」


「やっぱり、だめか?」


 眉尻を下げてしょげてる大きな身体の兄さまは可愛いけど、と苦笑がもれる。


「会議はなんとかなっても大兄さまとその姿で会って、ただで済まされると思えるならそれもいいかも。でも兄さま、それで行くなら別行動しましょうね。私は大兄さまにまで小言を食らいたくないもの」


制服かぁ、となおも渋る兄さまをどう説得するかなと思案していると、勢いよくドアが開いて新人団員が入ってくる。新人スペイフィキィスは常に笑顔で、緩やかにウェーブした明るい茶色の髪をゆるくセットしている軽い雰囲気の、とっても軽い少年だ。

 貴族でもないので学園には通わず常に騎士団で訓練、をサボッて訓練を追加されているので一日の大半は訓練で終わっている。


「失礼しまっス! お茶でーっス!!」


「おう、いらねぇ!」


「わかってますってぇ。『おひー様へ』お茶持ってけって班長の指示っス。副団長は絶対いらないって言うから、放置で結構って」


「ありがとう、スペイフィキィス。ちょっと小兄さまに着替えさせなきゃいけないから、私のぶん残してイーとお茶してていいよ」


 わぁあ、役得ぅ~と喜ぶスペイフィキィスへ訓練に戻れよと苦笑しつつも座るイーを横目に、兄さまを部屋へと連行するのだった。

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