表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
53/202

二度目の出会い

 久々の登園、久々の日常へと戻ってみると、退屈だと思っていた授業なんかも楽しいものだと受け止め方が変わっていた。

 退屈に感じるこういう時間も大切な経験なんだろうと思うものの、たぶん数日も続けはやっぱり退屈になりそう。贅沢な悩みだなぁと苦笑がもれそうになるのを堪えた。

 ここで笑うと授業に不満があるのかと思われて、教師と周囲が凍りつくものね。



 二つ目の教科の後は少し長い休憩時間が設けられており、一息つくためお茶を飲みにいく生徒も居て、廊下には結構な人数の生徒が行きかっている。

 次はすこし広めの講義室での授業なので早めに移動して本でも読むか、とのんびり外を眺めながら歩く。

 朝は晴天だったのに、雨雲のような厚い雲が空を覆いはじめていた。



「…雨雲? 今日は一日晴れだと女神が仰っていたのに?」



 目を凝らして雲を見れば雲は青い術力を帯びており、術力に煽られてちらちら光る何かが舞っていた。

 雪!



「イー! 帝国軍が侵攻してくる! 屋上へ出るわ、教師陣に生徒を誘導して避難させて」



 近くに控えていたイーへ指示を出して、屋上へ走る。時折すれ違う教師に生徒たちを避難させるように依頼しながら、できるだけ急いで走った。


 急いで屋上へ出ると、外はもう雲に覆われて夕方よりも暗い。

 学舎の護りの厚い部屋へ避難しろと注意しているにも関わらず、状況を楽観視している大勢の生徒が空を見上げていた。



「何をしているの! 生徒は避難しなさいと指示されているでしょう! 即刻ここから立ち去りなさい」



 声を張り上げて注意すれば半数の生徒が驚きつつも室内へと向かっていったが、不満顔でこちらを見て動かない者も居る。巫女リーシェンの命令だと言っても、たぶん従わない奴らだ。

 さて、どうしようか。



「団長! 我が国を包囲していたグラキエス・ランケア帝国軍の一部が、移転術式で首都へと侵攻してきました。主軍は帝国皇帝の守護衛士兵団デフォブセッシミーレスとのこと」



 悩んでいると頭上からペンギテースの声と同時に、蒼炎カエルライグニー紅天ルフスエルムが音も無く舞い降りてきた。続いて騎乗したペンギテースと小隊の隊員たちも降りてくる。

 学園の制服から、手渡されたグラテアン騎士団エクストゥルマの制服へと着替えるのだけれど、スカートでなくグラテアンの制服にしておいて良かった。ここでスカート脱いで着替えはしたくない、なんて考えてしまう。本当は良かったなんて言いたくなかったんだけどなぁ。



「首都中央部であるこちらにはまだ到着していないようだけれど?」


「はい。正確には首都を囲むように首都周辺へと移転し、そこから首都へと侵攻しているところです。首都周辺に展開している迎撃軍が押さえているようですが、空を見るに氷の男神の巫覡ディンガーがあちら有利な力場の展開に勤めているのだろう、とアルドール殿下からの伝言です」



「そのようね。では、対等にするためにも雲は払いましょう。イー、小隊を率いて学園の外へ我が担当連隊を展開させて」



 着替えながらやりとりを聞いていたイーは一言「了解した」と返答して、ガウディムとクリュセラを置いて自らは紅天に乗り学園の外へと向かった。



「隊長、まさか首都全体の雲を払うんですか?」



 いつもの陽気さをどこかに置いてきたように、真面目な声でガウディムが問う。


「うん。そうしないと、愛し子でない帝国軍に圧されてしまう。やっかいなことにフランマテルム王国(わがくに)に神を信じない者や、信じていても神の寵愛をまったく持たない者はほとんど居ないもの」



 今回の迎撃軍として配置された騎士たちの中には、全く居ないと思う。神の能力(ちから)を一番信じている者たちと言っていい。巫覡の起こす術に、恐らく帝国軍よりも影響を受けるはず。

 愛し子に愛し子は切れないけれど、氷の力で炎の力を押さえ神を信じない兵に愛し子を切らせることは出来る。愛し子でなくとも不利な場で母なる女神の寵愛を押さえられ白兵戦などすれば、勢いに押されて負けてしまうのが目に見えている。

 これを狙っているのは、主軍があの皇帝の守護衛士兵団だっていうことで明らかだ。特に皇帝直属には、巫覡を除けば愛し子はひとりも居ないと公にしているくらいだし。



「雲を払い、せめて首都全体だけでも炎の力場を展開させる。集中するから、二人に守りを任せる」


「はい!」



 クリュセラが私の周囲を守り、ガウディムは野次馬を散らすために教師たちと固まる生徒たちへと近づいていくのを視界に入れながら、周囲へと術力と意識を向けていく。

 王宮と学園は首都中央部にあるので、たとえ侵攻軍が迎撃軍を突破してもすぐにはここへ来れない。まだ間に合う、焦っちゃだめ。

 学園の門を閉じ、冷静に淡々と指示を出すイーとそれに従う騎士たちが見える。


 さらに外へと術力に意識を這わせ学園を中心に視界を広げれば、首都北西にある中央神殿に近い迎撃軍が散らされつつある。

 中央神殿があるから配置した軍は最少だし、突破されたら神殿を盾にするように中央へ引けと指示してあるから心配はなさそう。首都周辺の北西以外は健闘しているようで、帝国軍の侵入を許していないようだ。


 予想通り、総大将インペドゥムスプリメトゥスはグラキエス・ランケア帝国の有る北側の国境で布陣しているみたい。首都(ここ)からかなり距離があるのに、力場を強めるために能力を発揮しているのか、北の国境付近の一角だけ青く光って見える。

 雪雲を首都全体に覆い雲から下を氷の力場として展開し、国境付近で雲を強化しているのかな。


 首都全体を私の術力で覆い直し、さらに地下から密かに北へと細く糸のように術力を伸ばす。

 両手で首都を包むように想像し巫覡の起こした雲だけに集中すると、雲で腕が冷えたような気がした。これでは剣が振えなくて困るの。巫覡が覆った大掛かりな雲だけれど、ごめんね、消えて、と強く願えば一瞬で雪雲が掻き消え温かい炎が首都を包む。


 伸ばした糸の先に炎で分体を作り視界を同調させれば、鬣だけが青い天馬カエルクスにまたがりこちらを見る、銀の髪と青い瞳を持つ青年が見えた。

 いきなり雪雲が消えた事には悔しそうだったが、いきなり出現した炎の分体にも表情は変わらなかった。伸ばした術力に気が付かれていたのかもしれない。


 回りの大人たちよりは一回り小さいが小柄な青年といっていいくらいに育った身体に紺碧の鎧を纏い、静かに天馬に乗って佇んでいる。緊張しているようにも見えないし、とても冷静だ。

 あの儚げな木漏れ日の妖精が育ったら、ああなるのかぁ。

 青年のように身体は大きくなったみたいだけれど、表情は相変わらず固まったままのようだ。よく瞳を見たら、昔のように感情が乗っているかもしれない。さすがに遠くて瞳までは見えないのが残念だわ。

 いま14歳。身体はもっと大きくなるだろうし、整った顔は遠目で見てもあの頃のままでこれから男前になりそうな気配がする。

 もうちょっと顔を見ていたい気もするけれど、そんなことをしてる場合ではなかった。


 密かに高密度の炎をいくつも練り上げ、術者を狙う。

 神に与えられた術力を使う者をフランマテルム王国ではただ術師と呼ぶけれど、グラキエス・ランケア帝国では神の力を編む者として『神編術師』と呼び、纏う服や軍での待遇を騎士とは別格の扱いをしている。皇帝ゲマドロースの嫌がらせから始まった待遇だけれど、見分けるのが簡単で助かる。

 首都を攻めてきた帝国軍にも神編術師が居るのは、退却の為に帯同しているのだろう。うん、やはり神編術師を優先して潰そう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ