意気投合
久しぶりに学園の制服を着用して登園早々に、ソノルース殿下と出会った。内心でうへぇ…と唸っていると、小走りで近よった彼に深々と正式礼で挨拶されてしまった。
「先日は大変失礼いたしました。母なる女神の巫女、そして愛し子君」
すごい変わり様だわ。アルドール殿下から聞いた彼の過去や家庭環境って、本当だったのだと確信した。かまってほしくて素直って印象は間違ってなかったのね。迷惑だけど。
昔、儀式でもやらかしてたのは教えられてなかったからかぁ。それなら仕方ないかなとも思う。迷惑だけど。
「おはようございますソノルース殿下。先日ちゃんと謝罪いただきましたもの、これ以上は無用ですわ」
明るく言えば、驚いた表情で口を開けて顔をあげる殿下。ほんと顔はアルドール殿下に似ているわ、とよくよく見ると纏う色彩は薄いけれど王太子殿下と同じ。
なんだ、母なる女神に目をかけられているんじゃない。そういえば、いつも国王に続いて王弟殿下とその息子たちも順番に扱き下ろされていたけれど、ソノルース殿下の時にはもう一息みたいな評価だった。
「成る程。アルドール殿下が仰っていたこと、やっと納得がいきました」
「アルドール兄上の仰ること?」
きょとんと首をかしげる姿が、幼い少年のように見える。兄上って呼ばれるアルドール殿下が嬉しそうにニマニマする姿が想像できる。光ってるんだろうけれど。
「ええ。わたくしとソノルース殿下は、似たような環境にあったと。わたくしは神殿、殿下はご家庭で」
私の言葉に身体も表情も固まるが、困らせたいわけじゃないんだ。
「そして、どちらも王太子殿下とアルドール殿下に助けて頂いた仲間ですわね。わたくしはアルドール殿下が神殿へ颯爽と現れて、我が家へ帰していただけたんですのよ。ソノルース殿下の時も同じでした?」
あえて軽く話を振ってみたら、ぱぁっと明るくなった表情で答えてくれた。
「はい、私の場合はアルドール兄上の執務室に呼んでいただきました。知らなかった母なる女神への立ち居振舞いや王族の常識を、落ちこぼれに私にも根気よく教えてくださいます」
はにかみながらも嬉しそうに語るソノルース殿下。うっわ、乙女のように可愛い。これはアルドール殿下可愛くて仕方ないんだろうな、と思った。
「アルドール殿下はソノルース殿下へ教えるのが楽しくて仕方ないと仰ってましたよ。ところで、少し話はかわるのですけれど…」
と、ちょっと声を落として近寄れば不安そうに腰が引けている。ごめん怖がらせるつもりはないんだ、どうしても知りたいことがあるんです。
「アルドール殿下って、眩しくありません?」
「はい?」
真面目な顔して質問する私と、突然何言ってんの?という顔で唖然とする殿下と、背後で本当に口に出して「何を言ってるんだ、ティー」と額を押さえるイー。絶対に変な絵面になっているけれど、気になるものは気になる。確かめられるせっかくの機会を逃したくない。
「いえ、わたくしアルドール殿下と初対面の頃から、どう見ても光を背負っているか殿下ご自身が発光しているようにしか見えなくてですね。ソノルース殿下はそういう風に見えたことはありません?」
横に並んだイーから「だから、お前何を言ってるんだ」と力強く語る視線を向けられるが、問われたソノルース殿下は「そういえば…」と呟いた。
「そう言われてみると、兄上方の周りが明るく見えることがありますね。アルドール兄上の方が明るい気がします。兄上自身が光っているかどうかは、分かりかねますが」
「先日の激励式でも後半は殿下が眩しくて、せっかくの舞が見辛くて悔しかったですわ」
ため息をこぼせば、ふふふと笑われた。
「申し訳ありません。兄上が言われたように巫女姫は本当に妹君がお好きなのですね」
「そりゃもう、愛しておりますわ。あんなに愛らしい子は他に居ないと断言します」
「ああ、なるほど! 私も兄上ほど格好の良い方は居ないと思っています。同じような感情なのかもしれませんね」
「分かる気がしますわね。アルドール殿下って所作が王子王子しているから、目を引きますしね」
「そうなんです! 粗野な行動をとられても、なぜか上品に見えて… 兄上を目指して真似をさせて頂いているのですが、どうしても真似できません」
「他人の真似って難しいですわよね。わたくしも妹の所作を真似たことがあったのですけれど…」
「物凄く気持ち悪かったな」
「と、グラテアン家の兄にまで言われる結果になりまして」
「ええと、巫女姫はどちらかと言えば可愛いではなく、凛々しい佇まいですからね。妹君と同じ所作ですと違和感があるのでは?」
すごい。お前がやっても似合わねぇよって小兄さまには言われたのに、こちらを傷つけることなく似合わないって言ったよ、この人。つい最近までなんて嫌味だと受け止めていた発言は、実は思った事そのまま率直に言ってしまってたってこと?
やだ、軟体動物系寄りって思ってたけどアルドール先生の指導でまともな人になりつつあったんだわ。今まで迷惑だったから、もっと早くその才能を発揮してくれてれば助かったのに。
「では、わたくしもアルドール殿下を真似ればもっと凛々しくなれますかしら。発光するのは真似たくありませんけれど、それもいいかもしれませんね」
「はい! 素敵だと思います。頑張りましょう巫女姫!」
元気よく笑って、すみませんと恥ずかしそうに俯いた姿は先日までの高慢な王族ではなかった。
数日で変わりすぎじゃない? 何がどうしてこうなったのかな。不思議だ。
「あの方を真似るのは大変ですけれど、頑張ってみます。ソノルース殿下も頑張ってくださいまし。またアルドール殿下が光っていたら教えてくださいね」
「はい!」
ぱっと顔を上げて笑う姿は、アルドール殿下によく似ていた。
「ソノルース殿下の髪と瞳の色は王太子殿下によく似ていて、顔や表情や所作はアルドール殿下に似ていますよ」
「はい…?」
よく分かっていないみたいだから、ちゃんと言葉にして教えてあげる。女神のお気に入りの王子様たちが気にかける子だもんね。
声を潜めてこっそり囁く。
「暗い色合いの多い王族の中で、お二人だけがグラテアン一族に居れば愛し子と呼ばれる色を纏っているのですよ」
えっ?と目を見開く彼に、ニヤリと笑って「母なる女神は殿下方のことお気に入りなんです」ともっと声を潜めて耳元で囁いた。
耳を押さえて真っ赤になる彼に、殿下方には内緒ですよと口止めして離れる。
あわあわしている彼を置いてきぼりに歩きだした私に着いてきたイーが、大きなため息をついた。
「なんて阿呆なことで意気投合してるんだ、お前たち…」
「だって、アルドール殿下が光ってるって言って同意してくれたのイーだけなんだもの。せっかくアルドール殿下に憧れてる人を見つけたから聞きたくなるものでしょ?」
「憧れてるから光って見えてるだけかもしれないだろ。しかし数日で変わり様がすごかったな、ソノルース殿下」
「そうだね。アルドール殿下が仰るには、けっこう前からああだったらしいよ」
「あのバカぶりは息巻いた取り巻きのせいだったってことか」
「ああいうのの排除の仕方が分からなくて困ってたみたいで、アルドール殿下から良く言ったって感謝されたよ」
「ああ、だから昨日のアルドール殿下の衣裳と髪型に気合いが入ってたのか」
「うん、可愛い従兄弟を助けてくれたからって。何のことか分からなかったけれど、先日のアレのことだったんだね」
「いいことなんだろうけど、またティーに変な趣味仲間が出来たじゃないか」
俺は巻き込むなよ、と睨むイー。
イーにヴァニへの愛を一緒に語ってくれと言ったことはないぞ、失礼な。




