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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
49/201

眩しくて

「暗い」「寒い」「お腹空いたぁ」「ただ立ってるだけって疲れる…」「帰りてぇ」


 煌びやかに輝く照明の下、帝国軍を迎撃する予定の騎士団エクストゥルマが勢揃いしている。

 各騎士団の先頭に団の代表が立っているが、全員もれなく不機嫌な表情を隠そうともしていない。そりゃね、計画や段取り通りの準備に忙しい時だっていうのに『激励してやる』と言われて喜ぶ奴はいない。

 ちらっと見渡しただけでも、小規模騎士団以外は戦闘に出ない騎士とか見習いを揃えてる。グラテアン(うち)もクアンドの頑張りによって半分は出撃しない騎士と見習いだし。


 そもそも今日は雲の欠片すら見当たらない、いい天気の日なのに薄暗い大広間で激励式をするって何なんだろう。気持ちのいい空気の中で可愛いヴァニに頑張ってくださいまし、なんて言われたらものすごく頑張るのに。なんで明かりおとしてキラッキラの装飾品で部屋を飾った部屋で、偉そうなおっさんに励まされなきゃなんないのかなぁ。しかも忙しいこの時期に。自分を威厳ありげに見せたいだけで激励する気ないよね、むしろやる気無くなるわ。この広間ってば主催者と同じく陰気くさいったらもう…



「カリタ嬢、本音が口から駄々漏れているよ」



 左隣からささやく声が聞こえたので仰ぎ見れば、正面を向いたまま笑いを堪えてるパークス団長。



「あれ、黙っているつもりだったんですけれど… 声出てました?」


「うん。カリタ嬢の隣のアルドール殿下には、聞こえていたかもしれないねえ」



 のんびりと返されて右隣のアルドール殿下を見れば、私に背を向けていたけれど光る髪と肩が揺れている。これ絶対聞こえてたやつだ。

 でもまあ、不敬罪とか言う雰囲気でもないから大丈夫かな。むしろ殿下が言えないことを代弁して良くやったとか褒めてもらえそう?



「だから、カリタ嬢…」



 あ、やべ。また口に出ていたらしい。



「カリタ」


「はい、殿下」


「……ふっ、不敬ざ…ふはっ……ごふっ。どうせパークス団長と俺にしか聞こえていない、今回は不敬罪にはさせないが気を付けてくれ」



 表情筋を立て直したアルドール殿下が無表情で前に向き直り、歯を食い縛った状態でこそっと囁いた。器用だ。



「あ、はい。さすがに言葉が過ぎたと思います。申し訳ありません」



 なぜか更に歯を食いしばり笑いを堪えているアルドール殿下と不思議がっている私に、パークス団長のおっとりした独り言のような「すごい棒読みだねぇ」という囁きが聞こえてきた。



「バレてたぁ、気を付けなきゃ」


「もう少し頑張らないと本音には聞こえないよ、カリタ嬢」


「ええぇ、さっきのは本音なんです。この場合はどうしたらいいのでしょう、パークス団長」


「うーん、それはどうしようもないねぇ」


「ですよねぇ。でも、もう少し頑張ってみます」


「どうするんだい?」


「口に出さないときでも、言葉遣いを気を付けることから始めようかと」


「…あまり意味はなさそうだけれど、頑張って」


「はい!」


「ぐぅ、これ以上公の場で醜態を晒すわけにはいかんのだ。二人とも、俺の腹筋を壊しに来るのは止めてくれ…」



 口が笑いの形をとりそうだ、と片手で顎を押さえるアルドール殿下。やってることはしょうもない事なのに、なにか気品ありげ。今日も光る王子様は健在です。

 薄暗い部屋なのに、王太子殿下とアルドール殿下の回りは明るいような気がする。



 思ったより楽しい待機時間を過ごすうちに、女神への奉納舞をするため神殿関係者が入場してくる。先頭は壮年で細身の神官長、確か一等の資格持ちだったはず。

 軟体じじいの腰巾着としてうろちょろしていた取り巻きで、アルドール殿下の粛正で神殿から排除されなかった取り巻き数人のうちの一人だ。うろ覚えの記憶では彼の態度は慇懃無礼ではあったものの、あからさまなじじいや下働きをさせた奴らとは違い、巫女(リーシェン)へとしては正しい作法だった。

 恭しい態度で、けっこう強引に飲食させられたけど。


 どうやってなのかは不明だけど軟体じじいが失脚した後、神官長候補の一団に入り込んでいた。

 そして、繋ぎの代理神官長が神殿を纏めるのに役立った功績で神官長に上り詰めた曲者だ。

 今だって、王宮とも近衛騎士団レクスプラエトリアニ王宮騎士団パラーティルムなんかとも適度な距離を保ち、お馬鹿な発言も行動もせず上手に立ち回って神殿として確固たる立場を保っている。

 軟体じじいのような小物と違い慎重なだけで、あいつが王族に取って変わるつもりだと宣言しても驚かないわ。

 むしろ本当に狙っていそうで、頭が痛くなってくる。あんなのが国王になったら、この国終わりだよ。


 なんとも言えない気持ち悪さが込み上げて顔が歪みそうになった頃、色とりどりの色彩を纏った侍女リージェ侍従リージェルが二列に並んで続いて入場してきた。

 先頭は侍従長と侍女長、二人目に副侍従長とヴァニだった。きゃあ、ヴァニ出世したのね!

 というか、あの子侍女見習いだったはずでは? え、卒園を待たずして正式採用なのかな。特別扱いできるくらいの愛し子には違いないけれど、何かしらの思惑が絡んでそうで素直に喜べないなぁ。


 とはいえ、この場で悶々と思考してもどうにもならないものね、ヴァニの晴れ姿を見て幸せを噛み締めるとしようっと。

 正面一列に並ぶ彼らは、神官以外みんな見目の良い容姿で見てるだけで楽しい。

 ウキウキ眺めていたら、きらびやかな衣裳のむさ苦しいおっさんが彼らの前、それもど真ん中にふんぞり返って立ち止まった。ちょっとヴァニが見えないじゃない、誰よあれ。



「我らが国王だよ、カリタ嬢」



 うぅん、国王? 国王って片手で足りる位しか近くで見たことないしなぁ…そういえばそうか、あんな顔してたわ。後ろの王太子殿下と全っ然似てない。

 母なる女神が、よく似てないって仰るけれど本質とか性格だけじゃなくて、容姿まで似てないのね。王太子殿下は王妃殿下に似てるってことか。父親に似なくて素晴らしいことよね、良かった良かった。



「だから二人とも笑わすなと言ったじゃないか」


「そんな面白いこと言ってないじゃないですか」


「私は注意しているだけですよ。それに、カリタ嬢は面白いこと言っていたじゃないか」


「え、なんで私?」


「妹君が並び始めたあたりから、すべて口にしていたよ」


「おっと…妹への愛が溢れましたわ」


「それに、まだ国王陛下が妹君を隠したことに怒ってるでしょう?」


「そりゃあ、あの子を見えなくするなんて人類の損失だと思いますわ」


「世間一般では、国王陛下のお姿を拝見するだけでむせび泣く者も居るんだよ」


「え!? あのむさ…草臥れ…ええぇっと……あれを見てむせび泣くの?」



 え、本当に? 威厳もへったくれもないあのおじさんを見て泣くの? えぇ、私なら斜め後ろの王太子殿下を見て涙ぐむけどなぁ…



「ちなみに、カリタ嬢ならどういった感情で泣くのかな?」



 そりゃあ、あのおっさんの無理難題を解決して苦労なさったろうな、お疲れ様ですって…



「ぐ、ふっ……パークス団長、もう勘弁してくれ…」


「そうですね、殿下の顔の筋肉と腹筋の為にも、私は沈黙しますよ。カリタ嬢も、いろいろ考えるのはやめておきなさい」


「あ! もしかしてまた口に出てました?」



 ちょっと焦ってアルドール殿下を見れば、涙目で体が小刻みに震える殿下に睨まれた。でも瞳が涙でキラキラ輝いて迫力は無いし、引き結んだ唇も震えていた。



「思いっきりな、カリタは俺になにか恨みでもあるのかと思うくらいに滔々と語っていたぞ」


「申し訳ありません」


「これが茶の時間とか訓練の休憩中だったら、最高の茶請けになるのに。なぜ今なんだ」



 まあカリタだから仕方ないか、と悔しそうに苦笑する姿が麗しい。心底悔しそうなアルドール殿下が、それでもなにか楽しそうで笑顔が輝いている。

 心なしか草臥れいているけれど、それを悟らせないように微笑む王太子殿下も意識して華やかな気配を出しているようで、広間がちょっとだけ明るくなった気がした。


 

 気分よく語っていたおっさんと神官たちが脇にどいて、色彩豊かな侍女と侍従たちが祈り舞うと一気に明るくなったように思う。

 特にヴァニと隣の王子様がなにか眩しいくらい。


 これ、祈祷所で祈ってるときに起きる現象と一緒だ。祈りが炎の勢いだとか、光量に影響して暖かく明るい空間へと変わっていく。

 ヴァニや目の前の侍従と侍女たちが私たちへの無傷息災を祈ってくれている。それだけじゃなくて、殿下方からも同じ気配がしている。


 変だな、眩しくて涙が出てきた。

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