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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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二柱の愛し子

 人の瞳の色が変化する瞬間を見てしまった一同は、誰も声を上げることが出来なかった。インフィウム少年もなぜ全員に瞠目されるのか分からないようで、困惑顔で黙っている。

 静かなその場に、響き渡る興奮した母なる女神の声が私には聞こえた。



『他神、他神と煩いのよ、このちびデブが! 塵芥に例えるのすら塵に申し訳ない分際で、背の君からわたくしへの贈り物に無礼ばかり。万死に値するわ………』



 まだまだ文句は続くよ、どこまでも。かなりお怒りの様だから、思う存分罵って正気に返るのはすいぶんと時間かかりそう。

 ただ、どうしてこうなったかは皆に伝えた方がいい。



「えっと。お兄さんの瞳の色が変わったのは、他の神他の神って煩いってお怒りになった母なる女神が、女神の愛し子にもなれば文句ないだろうって…」


「目に見える所に寵愛の証を授けたんだな」


「うん、すごい近くでなんかすっげぇ怒ってる気配がする」



 どう言ったものかと悩みながら言う私に続いて、兄さまたちが続く。



「つまり彼は、他神の愛し子から母なる女神の愛し子に変わったという事なのか?」



 アルドール殿下の言葉に心なしか青くなったインフィウム少年。そりゃ敬愛する神の寵愛を押しのけて、よく知らない神からの寵愛を貰うなんて嫌だよね。



「変わったのではなくて、もともとの神の寵愛に加えて女神の寵愛も授かり二柱の神の愛し子になった、が正しいです」



 本当か?という視線でこちらを見て、ちょっとほっとした少年に続けて伝える。



「あんまり他神の愛し子なのにって言われるから、わかりやすく目に授けたんだって。お兄さんの神からの許しがなければ授けられないし、元の神様からの印は他の場所に移ってるはず」


「え、寵愛ってそんな簡単に与えられるものなのか?」



 強張った顔が安心したように緩んだインフィウム少年の隣で、アルドール殿下が理解できないと言うように頭を振り、呟きをもらしていた。

 殿下の言う通り今回はかなり特殊な出来事であって、神から直接の寵愛ってそう簡単に授かるものじゃない。

 女神の仰ることから想像するに、インフィウム少年は男神エイディンカから母なる女神に贈られた愛し子で、大事な贈り物を自らの愛し子の足元にも及ばない神官サケルドースごときに貶されたのが許せなくて、軟体じじいより上の位を与えましょう!って決めたんだと思う。


 母なる女神、インフィウム少年は男神の寵愛が無くなったかもしれない、って怯えてましたよ。…聞こえてなさそう、それどころじゃないみたい。



「これで使者殿は、母なる女神の一等侍従と同等以上の寵愛を受けたことになる。神殿に所属しなくとも、フロラリア神官長より信徒としての位は上だ。彼の言う事に文句はないだろう」



 いまの筆頭侍従の寵愛はたぶん二等位くらい。インフィウム少年がこの神殿に勤めると言えば、軟体じじいより上位になると知って悔しそうに歯ぎしりしている。殿下はそんな軟体じじいに、これ以上時間は割けないとばかりに宣言した。



「身一つで連れて来られた巫女殿に必要なものは、ここには何一つ無い。これより巫女殿をグラテアン家にお連れする。ドゥーヌルス、天馬カエルクスで先に帰邸し巫女殿の部屋を整えてくれ。待機している騎士を連れて行ってかまわない」



 先にグラテアン家に行って義母(デフォラピス)をなんとかしてこいと指示された大兄さまは、御前失礼しますと余裕の笑顔で走り去っていった。大兄さまは穏やかな人には違いないけど怒ると怖いし、次期当主に値する寵愛があるからけっこう強いんだよね。

 義母が実家から連れてきている騎士たちは間違いなく蹴散らされるし、手下の使用人も追い出されると思う。



「さて、早急にここから出た方が皆のためにも良い。ドゥオフレックシーズ、早めに歩くとお前は巫女殿を抱えて走ることになるが、行けるか?」



 小兄さまに、もちろん出来るだろう?とばかりにニヤリと笑う殿下。兄さまはかぶせ気味に「行けます!」と大声で返事をしていた。

 上から見下ろすことになる殿下の目は伏し目っぽくて、半分睫毛で隠れているのに瞳はキラキラして見えるし、髪も負けないくらいキラキラしている。本当にどこから発光してるの?



「巫女殿にそんなに見つめられると、照れてしまうな」



 腕を胸の前で交差させて恥じらうように首を振っている姿は、どこかのご令嬢がやりそうな行動だ。私は何を見せられているのだろう。妙にハマって綺麗に見えて、ちょっと笑えた。



「おや、巫女殿の笑顔はとても可愛らしい。早々にグラテアン家にお連れするので、そうやって笑っていてくれ」



 口出しできずに佇むだけの神官たちには目もくれず、食堂を出ていく殿下と少年を軟体じじいが悔しそうに睨んでいた。

 廊下で食堂の様子を窺っていた人垣をかき分けていると、目の前で女神の寵愛を受けた少年を神殿に迎えなくていいのか、と言い出した腰巾着を軟体じじいが怒鳴りつけた声が聞こえてくる。



「たとえ女神にお仕えするとしても、こんな神殿に来たがる奴はいないだろ。なんであんなのが神官長になれたんですか?」



 速足で歩く殿下の隣を、息も切らさず小走りで付いて行ってるインフィウム少年が、独り言のように前半で腰巾着に悪態をつき後半で殿下に質問していた。



「金だろうな。この国はグラキエス・ランケア帝国と同様に、巫覡・巫女の評価がおかしなものになっている。困ったことに、それを正せる国王(ちち)が女神の恩恵を受けている国の王なのに、女神を信じていない。父が信じているのは金なんだ」



 溜息をこぼす殿下に「ああ、なるほど」と納得していた。



「つい先日、グラキエス・ランケア帝国で氷の男神エイディンカの巫覡ディンガーが誕生されたと発表があった。数年前に即位した99代皇帝ゲマドロース陛下は、父以上に神を信じないと聞く。巫覡殿の立場も厳しいものだろうな」


「氷の男神の巫覡って、もう何百年も誕生されていなかったですよね。三国に巫覡と巫女が揃ったのって、それこそ千年とか前の事だったのでは…」



 私を抱えて走っているのに、声も震えず危なげない足取りの小兄さまが殿下に尋ねた。



「そうだな。先代の氷の男神の巫覡が誕生された時は、炎の女神の巫覡も巫女もおいでではなかったらしい。もうその頃の三国は微妙な関係だったがグラキエス・ランケア帝国の国力が低下していた頃で、戦の男神の巫覡サルアガエルがらの援助で我が国は事なきを得たそうだ」


「その頃より前は良好な関係であったのに、なぜグラキエス・ランケア帝国はプロエリディニタス帝国を敵視するようになったんでしょう」


「誰もそれに正確な答えは出せないが、恐らく始祖の血統全滅がひとつの原因ではないかと思う」


「血統?」



 兄の質問に殿下が答えた血統というものに、インフィウム少年が反応した。



「そう、血統だ。プロエリディニタス帝国、フランマテルム王国、グラキエス・ランケア帝国の初代皇帝と王は、今でいう戦の男神の巫覡サルアガエルと炎の女神の巫女(リーシェン)の子供たちだという事は知っているな?」



 私とインフィウム少年を見て確認するアルドール殿下に二人とも頷く。「良し!よく学んでいるな」とにこっと笑って、真面目な顔に戻った。でも顔が光って見えるんだよなぁ。



「プロエリディニタス帝国は必ず皇室血統に戦の男神の巫覡が誕生し、その巫覡が皇帝も兼任する。建国以来、初代の血統が帝国を治めている国だ。対して、グラキエス・ランケア帝国は途中で初代の血が途絶えて以来、皇帝位に就くのに血統は重要視されていない。現にゲマドロース陛下は、平民から帝国貴族の養子に迎えられた兵士だった。出身は何代か遡れる一般市民の家庭だ」


「それは知りませんでした」



 驚いた兄同様に、私も驚いた。グラキエス・ランケア帝国の皇帝には、少しでも初代の血が継がれていると思っていたから。





女神

嬉しさのあまり贈りものを怖がらせたのは、悪かったと思ってるわ。

これからもがっつり寵愛を授ければいいのね!


グラテアン家一同

違います。

グラテアン家の後継者の交代とか騒動にもなりかねないので、もうインフィウム少年のことは愛でるだけにしといてください。

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