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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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輝く王子

 神官長であれば当然知っていなければならない知識を、大声で知らない馬鹿なのだと叫んでしまった軟体じじいは、背丈が半分くらいの少年の軽蔑しきった視線に押され、黙った。


「炎の女神は、戦の男神と並ぶ他の神々にも影響が及ぶ程力ある女神。その巫女リーシェンの動向は非常に重要であるため、巫覡サルアガエルアグメサーケル様は早々に面会をしたいと仰せです」


「では、神殿の保護の元にプロエリディニタス帝国へ巫女を送りだそう」



 インフィウム少年の迫力に押されつつも、なんとか私を手元に置くため言質を取ろうとする軟体じじいが、滑稽な動きをする人形に見えてきた。



「神殿の保護は不要だ。グラテアン家の兄君かフランマテルム王国第二王子殿下を保護者として入国させよ、とアグメサーケル様より特に言付けを受けている」


「私に対してその口の利き方はなんだ!」



 怒るところ違うし。あの服装からして、愛し子としてはけっこうな地位に居るんじゃないかなと思う。けれど、軟体じじいは知識が偏ってるみたいだから、知らないのかもしれない。



「貴様はこの神殿の神官長とはいえ、神官サケルドースの位としては二等。対して私は他の神の愛し子ではあるが一等侍従であり、アグメサーケル様よりの正式な使者。私の言はあの方の言、つまりはこの件・この場において私は巫覡サルアガエルに次ぐ地位になる。基本的な知識が欠けているようだが、お解りかな?」



 やっぱり。

 この国の神殿では神の侍従や侍女に対しても大きな顔ができる神官たちは、実のところ身分的には彼らより下だったりする。神官には一から三等の階位があり、他は侍従・侍女と神官を兼任する特等がある。

 侍従・侍女も神官と同じく一から三等と特等の階位がある。どの階位になるかは周囲からの評価なのだけれど、彼らには寵愛の厚さが読めるので不当に高かったり低かったりの評価はされない。

 でも、微妙な所に居る人の階位を決めるのに手間取ることはあるみたい。いろいろ大変そう。


 他の国では神官長であっても侍従や侍女には恭しい態度を取るのが基本だ。軟体じじいが成りたくてしかたがない神殿長までになると、巫覡・巫女を除く全員が膝を折ることになる。

 神官長くらいなら誰でも就けるけれど神殿長は特別な愛し子で、つまり特等の資格持ちでなければなれないんだよね。だから、軟体じじいが神官長としてのさばるこの神殿に神殿長は居ないし、このままだと神殿長の就任はないだろう。

 あの年で二等ってことはこの先だって一等になるの無理だと思うし、あいつが愛し子になるなんて死んでも無理じゃないかな。

 軟体じじいは習ったはずなんだけど、自分に都合が悪いから忘れているかな。じじいの記憶力ってば全然仕事しないのね、よく神官長になれたなぁって感心するよ。実家の金という能力(ちから)でどうにかなるって思ってるんだろうな。



「……っこのっ……!」


「ティーシア!!」



 挑戦的に笑っているインフィウム少年に、怒鳴りつけようとしたところで小兄さまの呼ぶ声が聞こえた。

 神官たちをかき分けて走ってくる兄さまの後ろには久しぶりに見る大兄さまと、その隣に金髪で黄に近い茶色の瞳の男の人が居た。兄さまたち背が高くなった、その兄さまたちよりずっと大きなあの人は誰なんだろう。



「アルドール殿下…」


「久しいな、フロラリア神官長」



 この国の王子はお二人で、王太子殿下がカリドゥース様で第二王子殿下はアルドール様という名前だと、まだグラテアン家に居たときに習った。

 颯爽と軟体じじいに近づき尊大とも言える口調で挨拶をする第二王子殿下に、じじいは何も言えず目を泳がせている。刺すような視線なのに睨んでるわけでもない、正面から見つめているだけなのに謎の迫力で押している。

 バサバサ音のしそうに長い睫毛でも、存在感のある瞳は隠れていない。すごい目力だなぁ。あの視線はどうやってるんだろうとじっと見ていると、インフィウム少年の横に膝をついて私と目線を合わせて、ニッコリと効果音が聞こえてきそうな笑顔で笑いかけてきた。


 明るい金髪に薄く黄色がかった茶色の瞳、細くも太くもなくちょうど良く整った眉も、まばたきする度にバサバサ音がして風が起こりそうに長い睫毛も髪と同じ色で、続くすっきりした鼻が続いてちょっと薄い唇は上向きの半月の形。

 すごく綺麗な顔なんだな、と思った。ちょっと落ち着いた母なる女神が再度興奮しているけれど、さっきよりは聞き取りやすい。


 アレ(・・)の息子にしては言うことがまともだし、カーリへの態度も好ましい。戦狂いに言われてから行動するというのは減点だが、これから挽回する機会をやらんこともない。そこそこ顔もいいし、許してやろう。

 みたいなことを難しく仰っている。女神、父や兄、殿下のお顔がお好きなのかな。殿下にも寵愛というか祝福を授けていらっしゃるようで、黒っぽい髪や瞳の王家ではあまりない暖色を纏っているもの。

 私が疲れてるせいかな、それとも気のせいなのかな、殿下の顔まわりは眩しい気がする。



「巫女姫には初めまして、と申し上げる。私はこの国の第二王子アルドール・プロキシムス・レクステルム。巫覡アグメサーケル殿の指名により、私が責任を持って御身をグラテアン公爵家へお帰しし、帝国へお連れすると約束する。国王陛下(ちち)の無知により、巫女殿を神殿へ追いやった事を大変に申し訳なく思う」



 挨拶から一息に詫びまで言い切って、左手を床につき右手を胸に当て頭を下げた光る王子様。

 え、これいいの? 王子様にこんなに簡単に謝らせていいの?


 困惑してインフィウム少年、大兄さま、小兄さまの順に顔を見ると、全員が頷いた。

 いいんだ。

 いや、でも私はどうすればいいのかな。最近は感情が鈍くなって怒りとか驚きなんかも感じてなかったけれど、これはちょっと困るし焦る。



「そこのチビでぶ神官長はおいといて、殿下に対して何も思わないなら『許してやる』って言えばいいんだ」



 インフィウム少年がにこにこしながら、こっそり教えてくれる。



「ええと、陛下の命令だったなら殿下にはどうにもできなかったかと思います。いま、助けに来てくださった事に感謝します。これからもしばらくお世話になりそうなので、よろしくお願いします」



 驚いたように顔を上げて、微苦笑いを浮かべて「ありがとう」と言う光輝く王子様。どこから発光してるんだろう、髪? 明るい金髪からなのかな。



王太子殿下(あにうえ)からも、巫女姫が回復なさったらお詫びしたいと言付かっている。まあ、それは後日として、早急にグラテアン家へお連れしよう。ドゥーヌルス、私が巫女姫をお連れして良いのか?」


「お…僕がティーシアを連れて行きます!」



 すぐ横に立っていた小兄さまが、そっと抱き上げて抱きしめてくれた。いつも冷えて寒かった身体に、兄さまのちょっと他人より高い体温がじんわり移って、強張っていた力が抜けた。



「兄さま、あったかいね…」



 ほっとして小兄さまの顔を見上げたら、なぜか涙が目からこぼれてきて困惑する。いつの間にか隣に来ていた大兄さまが、涙をぬぐって小兄さまごと私も抱きしめて「迎えが遅くなってすまない、ティーシア。家へ帰ろう」と言うと、兄さまたちも静かに涙を流してしばらく動かなかった。



「巫女姫の体調も心配です、早々にここから出ましょう」



 インフィウム少年の言葉に正気に返った軟体じじいが、勝手なことをするなと怒鳴る。



「例えお前の地位が私より高かろうと、ここは女神の神殿。他神の信徒が口出する権利などないわ!」



 いや、さっき彼は一等侍従でアグメサーケル様の正式な使者だって言ったじゃん。ちゃんと権利あるよ、と軟体じじいの腰巾着でさえ気が付いて青ざめてる。なんでこんな馬鹿に神官長の地位を与えたかなぁ。



「他神とはいえ、一等侍従の彼への口の利き方ではない。処罰対象になることもあるのだ。気を付けよ、フロラリア神官長」


「しかし殿下、女神にまったく関係のないこいつが…!!?」



 軟体じじいへ忠告した殿下へ、尚も反論しながらインフィウム少年を睨みつけたじじいが驚愕し、それを不思議に思ったアルドール殿下も少年を見て驚く。全員が彼を見て、その理由がよく分かった。


 私が見たときには、深い青色だった彼の瞳が茶色に変化していた。瞳の色が変わることなんて有るんだ、と思っている間にもどんどん変化し最終的には朱色へと変わっていた。

 ヴァニトゥーナと同じ色。髪は黒いままだけれど、グラテアンの生まれだったら後継者候補になる色である。

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