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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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近衛見習いの見るありし日の学園の日常

 女神の寵愛が深いグラテアン公爵家の姉妹、カリタリスティーシアとヴァニトゥーナのほぼ毎日の小さな諍いは、またかと呆れつつも見慣れた光景だ。


 日常の接点がないからと上学年の教室に日参する妹の根性も大したものだ、と感心すらする。他者を、部下を、側仕えを虐げてはならない。女神の教えを違えては女神が悲しまれる………と声高に姉を諭す。あたかも姉がそうなのだと言わんばかりに。

 姉も微笑みを浮かべるだけなので、次第に遠巻きに見ている者たちも本当のことなのだと錯覚するのだ。妹の思惑通りに。


 初学年生というのに中央神殿の覚えもめでたく、能力からみても女神の侍女リージェに就ける事は間違いないと目されている。そんな環境に満足せずに、姉を使って自らを持ち上げる強かさに気がつかず、さすが慈愛の女神の侍女と崇拝する輩の多いこと。

 学園での生活を見ていない宮殿勤めの連中が、噂を鵜呑みにするのも仕方ないとは思う。妹は自分の想像図を確固たるものにするべく宮殿へ足しげく通い、好感度をあげることに余念がない。

 そんな馬鹿馬鹿しいことに努力せず女神の能力(ちから)の行使力を向上させる努力をすればいいのに、という自分と同じ思考を持つ者は宮殿中央部に少なからず居る。

 姉を無能と罵倒するのが神殿中央部の者ばかりと気が付かぬのは、妹を旗頭として神殿が取り入りたい者ばかり。


 今日は妹の小言に付き合わず、早々に退散する彼女に護衛騎士インフィウムが近寄る。

 護衛騎士なのに学園ではほぼ別行動なのは婚約者である妹から逃げているのだと、あの妹も気がついているのだろう。

 だからこそ、姉に付き従う奴と邂逅するためにも屋敷へ立ち寄れと募っていると思われる。


 騎士になりたてともいえる若さでありながら、王国軍といわれる王宮騎士団パラーティルム近衛騎士団レクスプラエトリアニ、力と財力のある貴族家が所有する事を許される私設騎士団(プライベエクストゥルマ)との合同訓練に参加するのは、巫女リーシェンの護衛騎士のインフィウム・ソリスプラだけ。

 巫女であるカリタリスティーシアはその能力が危険で、参加させられないという事になっている。表向きは、だが。


 確かに危険ではある。彼女の相手をする普通の騎士が、彼女に一撃で沈められ怪我をする事がほとんどだから、という理由なのだが。

 一度でも彼女の相手をした者は、巫女ごときのくせにと下貶し自分を持ち上げるか、なるほど間違いなく巫女であるのだと納得し友好を築こうとする者に別れる。


 インフィウムについては、カリタリスティーシアに反発するグラテアン騎士団(エクストゥルマ)以外の騎士にも、なぜか受け入れられている。

 伯爵家嫡男で目付きは悪いが、高位身分なのに平民出身の騎士にも気さくな態度を変えない。主の評判は散々なのに、よほど上手く立ち回っているのだろう。


そのカリタリスティーシアが率いるグラテアン騎士団は、国王軍を除くあらゆる騎士団のなかで突出した戦力を持っている。特に挙げられるのが天馬(カエルクス)隊。保有する天馬の数と質、それを操る騎乗主たち。


 我が国フランマテルムでも帝国グラキエスでも、主要騎乗獣は翼を持たず空を駆ける馬、天馬であり彼らに騎乗できるのは騎士の至上の誉とされる。

 王族は銘のある天馬を持っているし、有名を馳せる騎士たちの天馬もまた有名だ。


 巫女と蔑まれているカリタリスティーシアも、王族も羨ましがるほどの天馬を騎乗馬にしている。というより、グラテアン家の騎士に有名どころが揃っていると言える。

 カリタリスティーシアの蒼炎(カエルライグニー)、インフィウムの紅天(ルフスエルム)、乗り手を決めていない黒炎天(アーテルフラルム)、グラテアン家次男の疾風(ベンダフェル)等々。

 自分の騎乗馬が劣っているとは思わないが、グラテアン家の天馬に比べてしまえば何も言えないのが悔しいところだ。


 つい天馬に思考を持っていかれている間に、何事かを話していたインフィウムが再び主から離れていく。さて、俺も伝えるべき事を伝えてしまおう。

 早いところ、この国を覆う不穏な気配が晴れるといいのに…とため息が出た。

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