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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
33/199

さわやかな、野太い声の、悪女の高笑い?の朝

 今日も今日とて、可愛らしい鳥の鳴き声と野太い笑い声を目覚ましに眠りから覚め、寝台から身を起こして、きっちり目を覚ますために伸びをする。


 順調に合同訓練をこなしてゆき、昨日でとりあえず一通りすべての騎士団エクストゥルマを回りきった。

 それでも、異能戦闘はやっかいだ、位の感覚しか掴めなかった騎士団も多いように見受けられたのが問題だ。

 あまりグラキエス・ランケア帝国軍の侵攻まで時間は無いと思われるけれど、出来る限りの時間を取ってなんとか対処訓練をするしかない。


 アルドール殿下が予想外だったと感心していたのは、王宮騎士団パラーティルムだ。

 団長のルナネブーラ侯爵の指導が徹底しているようで、お馬鹿さん───近衛騎士団レクスプラエトリアニの一部の貴族子弟みたいな奴───は一人も居なかったし、一番対応できている騎士団だった。

 さすがルナネブーラ侯爵、女神の愛し子なだけはある対応だと感心した。


 他家にはほぼ忘れられている事だが、ルナネブーラ侯爵家は建国の頃より女神の愛し子や神官サケルドース・信徒を輩出する家系である。巫女(リーシェン)は必ずグラテアンの血筋から出てグラテアンを名乗るのだけれど、特例ではあったものの一度だけグラテアンではなく、ルナネブーラの名を持つ娘が巫女になったこともある。

 その娘の父が当時のグラテアン家当主の弟で、母がルナネブーラ侯爵家当主だったから。そしてグラテアンの傍流に嫁いで、結局はグラテアンを名乗ることにはなったっていうオチなんだけど。

 さらに歴代の神官長にもルナネブーラの名があるのだが、初期の頃であり初代ではないので気が付く神官はとても少ない。

 敬虔な信徒である一部の神官には既知であるが、腐敗した神官たちに教授しようとは思っていないようで、密かにルナネブーラ侯爵家の愛し子と思われる人物や当主に敬意を払っているところを何度も見た。


 今や傍流の貴族家からちらほら侍女リージェ侍従リージェル、神官として神職に就く者が居るくらい。本家であるルナネブーラ侯爵家は女神の信徒であると隠しはしないが、声高に宣伝してもいない。

 そして王家には忠実ではあるものの、女神に不敬な者には徹底して表面だけ忠誠を誓っている。

 グラテアン家以外で巫女の名誉を挽回するべく動いているのは、彼らの一族だけ。非常に上手く立ち回っていて、それに気がついているのは恐らく歴代の近衛騎士団団長だけだろう、それも『一部の』と但し書きが付くだろうが、とアルドール殿下は仰っていたし私もそう思う。



 母なる女神を讃えつつも神殿を好きにしたいという我欲のために、何代か前の次席神官長が巫女を戦闘特化の役立たずだと、女神の国に住まいながら女神を信じない貴族に吹き込んだ。

 そのくせ女神へは真摯な祈りを捧げ、自己保身を怠らなかった。そいつが女神を信じず信仰をないがしろにしていれば、さすがに女神からの寵愛が無くなり、神官ですらいられなったのに。

 それを知っていたのが、グラテアンにとっては痛手だった。噂の出所が神殿だということしか分からないまま、瞬く間に国中に噂が広ってしまったのだから。


 一族プロエリィンプェリムの長の上二人の子が興した二つの帝国に挟まれた我が国は、戦の神を祀る帝国と、守護の神を祀る帝国が直接対峙しないようにお互いを繋ぐため、第三子である娘が両国の間に国を興したことが始まりだった。帝国でなく王国であったのは、大きな領土や国々を支配することを望まず静かに暮らしたかったからであり、争いをしたくなかったから。

 両帝国も上の兄弟は仲が良く、むしろ妹を護るためにもよい配置だと喜び、平和も長いたために戦闘能力が必要とされなかったのもある。


 グラキエスが我が王国を取り込もうとしたのは、同じように腐敗した神殿により男神エイディンカの巫覡ディンガーが貶められはじめた四代あたり前の皇帝で、戦闘をしたこともなければ訓練を受けたこともない当時の巫女が小競り合いに駆り出され、その場を焼野原にしてしまった。

 この事件が巫女への良くない噂の始まりだったはず。


 いろんな記録を読み漁って分かったのが、巫女を護っていたのが近衛騎士団だけでグラテアン騎士団は王宮の警備に付かされていたこと。この頃の近衛騎士団は王家に取り込まれ、すでに本来の『女神と巫女の為の』近衛騎士団ではなくなっていたというのに。


 「阿呆としか言いようのない配置じゃないの。逆でしょ逆! グラテアン騎士団もなんで言う事聞いちゃったのさ!!」と叫んだ記憶が蘇ってきて、腹がたってきた。


 起きたことは無くならない、落ちつこう。

 この事件があったから有事には条件付きで、王宮騎士団と近衛騎士団を指揮下に置けるようになったのだし。

 本来の近衛騎士団に戻したいと言ってくれたアルドール殿下と、ルナネブーラ侯爵ならどう動くのか心配することもない。あとは、内通者と思わしき人物に確たる情報を与えずに騎士団の配置をしなくちゃだわ。あー、自分に出来る気がしないんだけど、誰かやってくんないかな。

 誰かに投げるためにも、早急に訓練で騎士団を回るどこかで団長会議というか、団長雑談会を設けなきゃなぁ。

 複数の私設騎士団プライベエクストゥルマでの訓練とか、いっそ王宮騎士団か近衛騎士団に複数の私設騎士団を呼んで訓練をしてしまうのもいいかも。

 クソ参謀とかは絡まれたら面倒だ、私は無視することにして見学している騎士になんとかしてもらおう。


 着替えながら、投げやりになったわけじゃないんだと自分に言い訳して、顔を洗ってから野太い笑い声を伴奏に一走りするため部屋を出た。向かった先の洗面所へ着くと、数人の女性騎士に交じって我が小隊の二人が居た。


「みんな、おはよう」


「あら、おはようございます。団長」


「おはようございまーす」


「おはようございます、団長」


 同じように一走りするための格好のクリュセラと、今起きました!という顔と寝間着のままで寝癖のすごいラクリーマが元気に挨拶をくれた。その横で、洗面を済ませて立ち話をしていた数人も挨拶をくれる。

 一人以外は、みんなちゃんとした服装で髪を括っていたり、整えていたりしている。一応男女で棟を分けているので、こちらに男性が入り込むことはないんだけれど、ラクリーマのその格好はどうかと思うよ。


「今日も野太い声の目覚ましだったね。あれを爽やかな朝みたいな言い方するには、何て言ったらいいのか…」


「重々しい朝、重厚な朝、野太い声の朝…はそのまますぎますねぇ」


 ちょっとした疑問に真面目に答えてくれなくていいんだよ、クリュセラ。爽やかからとっても遠いことは分かっただけだった。


「たまには黄色い声の目覚ましも聞きたいけれど、あの声で裏声を出されたら夢見が悪くなりそうで悩ましいですよね」


「私は貴方の声でもあまり爽やかには起きられないと思うわ。団長、今度ちょっと早めに起きて少女っぽく彼らと談笑しませんか?」


 ラクリーマの寒気のする提案に、悪寒の走ることを要求するクリュセラ。


「そういうクリュセラが女性っぽく笑ってみたらいいと思う、私はやりたくないかな」


「団長、ダメですよ。クリュセラに笑わせたら、ただの悪女の高笑いになります」


「そうそう、大人しそうな振りしてるだけだものね」


 きゃらきゃらと笑いながら用を済ませた子たちが、悪女って?と聞くクリュセラを無視して「走ってきます」と去って行った。ラクリーマが大人しいなと思ったら、タオルで顔を抑えて笑いを堪えている。肩がものすごく震えてるよ。

 うん、あなたまでクリュセラに何か言ったら、ぜったい仕返しされるもんね。後ろからすごい目つきで見つめられているのは黙っておこう。

 何もなかったように顔を洗う。とばっちりを喰らうのはごめんだ。

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