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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
31/215

ある娘の一日3

 立ち止まって話していたので、先を行く団員たちとは距離ができていた。

 でも、興奮している彼らの声は大きいので何を話しているのかは丸聞こえだ。口々に私が言ったとおり雨が降ってきた! と、何が楽しいのか爆笑していたりする。


「団長、これもう雨じゃねぇっすよ。副隊長の言うとおり土砂降りというか、滝ですって」


 ラクリーマと並んで陽気でお騒がせ担当のガウディムが、馬鹿笑いしながら寄ってきた。向こうでは「せっかく用意したけど、雨具あっても意味ないんじゃね?」と、また爆笑。楽しそうだなぁ。


「その滝に打たれながら、走って帰る?」


「え? 嫌っすよ。帰ってからも団長と副団長にしごかれるのに、余計な体力使いたくないですわ」


 目の前に、乙女のように腕を交差させて悶えるむさくるしい男が居る。辺りが一段と暗くなった気がするからやめろ。


「副団長なら喜んで走っていきそうだな。絶対にそれ副団長に言うなよ、ティー」


 嫌そうに言うイーの言葉に「それ、一緒に走れって巻き込まれるやつ」って、すごい勢いで頷くガウディム。小兄さまに提案してやろうと思ってたのに、先に釘を刺された。ちぇっ。

 ガウディムの体力お化けの兄さまがいかに化け物なのかという熱い語りと、それに付いて行ける団長(わたし)がいかに非常識なのかを滔々と語るのを、黙って聞いてるうちに出入口へと着いた。


 ちょっと前方がざわついたな、と視線を向けると神官服を着た一団が立ち止まっていた。雨具の用意をしていなかった者が半数くらい居るようで、立ち往生しているみたい。

 母なる女神の忠告を、まともに受け止めなかった者が居るのかな? 私みたいに確たる言葉で伝えられなくても、漠然とでも女神の意思は通じてるはずなんだけど。神託担当みたいなのも役職としてあるし、そもそも女神の意思を受け止められない者が侍女リージェ侍従リージェル神官サケルドースを名乗れないのだし。

 神託担当から雨だって聞いたけれど、信じてなかったってことかな。まあ自業自得だ、濡れるといいよ。


 無視して出ていこうと横を通ると、自分の持っている雨具を上司っぽい神官に渡しているヴァニが見えた。ちょっと、なにしてるのあの子ってば!

 小兄さまがそれを見て、ヴァニの方へ近寄っていった。


「ヴァニは雨具を複数用意していたのか?」


「いいえ、二の兄さま。今、神官と他の子が王宮の貸し出し雨具を借りに行っているところですの。二等神官はこれから神殿にて用事がお有りなので、先に帰殿できるようにわたくしの雨具をお貸ししようと思いまして」


 にこっと可愛らしく笑い「お元気ですか?」と会話をする兄と妹の横に居る神官は、もごもごと二人に挨拶らしきものをして、そそくさと出て行った。残っている神官たちのばつの悪そうな様子をみると、あいつ信託を聞いても信じてなかったんだな、と団員たちの目が言っている。


「宮殿に来るなんて珍しいのね、なにか特別な用事でもあったの?」


「はい、お姉さま。近々の帝国軍との戦闘に向けて出立前の祈り儀式の他にも、女神への祈りと皆さまへの激励の式典をするようにとの指示があったそうで、その予行練習をしていました」


「激励式をするなんて、聞いてないわよね。兄さま?」


「聞いてないな」


 不思議そうに顔を見合わせる私たちに、可愛らしくヴァニが説明してくれたのは、迎撃する我が王国軍が出立式をできるとは限らないと気が付いた国王が、激励式をしてやろうと突然思い立って、すぐやれと王太子に丸投げしたそうな。

 戦闘に参加する騎士団の騎士たちも、戦闘参加はしないが王宮や神殿への結界を張る神官や侍従・侍女たちにも、そんな時間は無いという王太子の説得にも耳を貸さず強行するように命じたらしい。

 打ち合わせもなしにそんな儀式をできるのは、上位の神官や侍従・侍女しかいない。せめて現場で事前の打ち合わせと練習を請願し、なんとか今日の場を持てたということだった。

 ほんと、ろくな事しない国王だわね。どうりで、最近はご褒美としてよく顔を合わせて頂いていた王太子殿下と遭遇しなかったり、アルドール殿下の様子がおかしかったりしたはずだわ。


「団長、副隊長ってヴァニトゥーナ様に対して、いつもあんな態度なのですか?」


 兄さまと私の傍にいて逃げられなかったイーが、いつもより言葉少なくヴァニと会話をしている姿を見て、彼らに聞こえないひそひそ声で聴いてきたクリュセラに、こちらも小さな声で答える。


「いつもあんな感じだわね」


「え、でも婚約されてるんでしょう? もう少し、甘酸っぱい気配とか見てるこちらが恥ずかしくなるような雰囲気って、出るものじゃないんですか? なにかしら、ヴァニトゥーナ様の視線から火花が散りそうな…」


 クリュセラの言う事は間違いじゃない。世間ではヴァニがこの婚約を喜んでいると言われているけれど、喜んではいない。むしろ嫌がっている。

 義母が嫌がるイーとヴァニに対して強引に婚約を結ばせたせいで、義母に強く出られないヴァニはなぜイーに断ってくれなかったのか、と逆恨みのように怒っているんだよ、あれ。だからヴァニは恨みを込めて積極的に関わろうとしているし、自分も嫌なんだが君の義母と父君のせいでこちらも困っている、出来ればそちらから白紙撤回してもらえないものか、と正直に言えず対応に困るイーは逃げる。

 しかもヴァニってば満面の笑みを込めてイーに近づくものだから、イーに惚れてるって世間に誤解されちゃうのに……わざとなんだろうな。イーはヴァニが本当は嫌がってるって、気が付いてないもんなぁ。なんでヴァニは自分にこだわるのかって不思議がってる場合じゃないんだって、いつ気が付くんだろ。


「そのうち、甘酸っぱいなんちゃらが生まれるんじゃない?」


「団長、本当にあの二人にそんな甘い気配が生まれると思ってないでしょう。ああ、可哀想な副隊長」


 にやにや眺める私に、言葉は辛そうな響きがあるのに、すごくいい笑顔で突っ込むクリュセラ。貴方こそ、本当にイーに同情なんてしてないじゃん。


 どちらかというとしょっぱい雰囲気の漂う二人に、雨具の貸し出しを受けた神官たちが帰ってきていた。皆が貸出し雨具に群がったようで、数が足りていない。

 数人で使おうと相談を始めたので、私の分はヴァニに渡そう。この雨じゃちゃんと一人で使っても濡れてしまうのに、いくら優秀とはいえ新人のヴァニに一つを使わせてもらえるとは思えない。


「ヴァニ、私の雨具を使いなさい。騎士団の方じゃなくても、私の部屋に返してくれればいいから」


 と、手に持たせてあげるとヴァニの眉が下がる。


「わたくしがお借りしたら、お姉さまが濡れてしまいます。お借りできません」


「どうせ蒼炎(カエルライグニー)に乗って帰るんだもの、雨具を使っても濡れてしまうから大丈夫よ」


「そのための騎士用の雨具ではありませんか」


「本番の戦闘の時に、悠長に雨具なんて使わないもの。いい訓練になるから、雨具を無駄にするより使ってほしいわ」


 と、返そうとするヴァニの手をやんわりと押しのけると、諦めたように雨具を抱きしめて受け取った。


「では、ありがたくお借りします。時間が出来ましたら、騎士団の方へ返却に参ります」


 と、素直にヴァニが受け取ったのを機会に、兄や団員たちが侍従や侍女たちに自分の雨具を渡していた。あぶれていた神官には誰も渡していないのが笑える。

 特に、ここで会った神官たちは私を馬鹿にしいる者ばかりだものね。

 さすがに人目があるので、下の立場の彼らから雨具を取り上げることも出来ずに、諦めてそのまま外へ出て行った。


「私がヴァニに雨具を渡してしまったばかりに、皆まで雨具が無くなっちゃったわ。ごめんね」


 神殿関係者が全員立ち去った後、私情で妹を優先してしまった事が申し訳なくて謝罪をすると、皆が口々に気にするなと言ってくれた。


「可愛い妹を助けるのは当たり前ですよ。それより、団長より先に副隊長が動かなくてはだめじゃなですか」


 婚約者なんでしょ、とペンギテースがイーをたしなめていた。みんな優しい、大好き。




 仲良く濡れますかーと元気に外へ出て、子供のようにはしゃいで自分たちの天馬(カエルクス)に近寄り、もれなく濡れた主全員が天馬に怒られていた。

 もちろん、私も蒼炎にものすごく嫌がられて怒られた。しょうがないじゃない、異常に丈夫な騎士とは違う普通の子たちを濡らすわけにはいかないでしょう。そんな、雨避けのためだけに結界を全員に張るとか無茶振りがすぎませんか、蒼炎さん?


 ああああ、置いてかないで、乗せてぇー!

帰ってから追加訓練の予定だったのだが、訓練に出ていた騎士全員が自分の天馬のご機嫌取りのために訓練どころじゃなかったのは、世間には秘密。

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