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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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ある娘の一日2

 殿下方も大変だなぁ、と思うものの私に出来ることは何もないので心で応援だけして王宮騎士団パラーティルムの訓練場へと向かう。

 すれ違う近衛騎士プラエトリアニたちが敬意を示すように、直立して会釈をしてくる。その中には特殊訓練で見た顔がちらほら居たけれど、あの時とは顔つきも態度も別人のようになっていた。

 ニタリと笑ってすれ違えば、青い顔をしてひきつった笑みを浮かべたり大きな声で挨拶してきたり、様々な反応で面白かった。いい心掛けだと思うけど、あの時の表情は忘れてないんだ。

 今日はこれ位で済ませてあげるけれど次も訓練で会ったら、他の騎士より気にかけてあげるからね。


───────────


 王宮騎士団の訓練場の雰囲気は、今までで一番清々しい気がする。

 少し前まで、横柄な態度を取っていたりニヤニヤ笑って慇懃な態度だった騎士が、真剣な顔で控えている。こちらと目が合った場合はそっと会釈したり、瞬きなどで挨拶をする。

 何があったんだろう、と全員を見渡してみる。何人か、近衛騎士団での訓練に見学していた他の騎士団エクストゥルマの騎士たちに交じっていた気がする。


 なるほど。訓練を実際に見て巫女リーシェンの戦闘力を目の当たりにした後に、団長のルナネブーラ侯爵からの指導が入ったのか。

 あれは私を馬鹿にしている態度じゃない、ちゃんと巫女という人物として認識している目だもの。

 とういうことは『戦闘にしか役立たない』という評判が、王宮騎士団(ここ)では変わっているのかもしれない。


 なんて有難いことなんだろう、ルナネブーラ侯爵には感謝してもしきれないわ。

 でも、彼らのいままでのぶしつけな態度や視線は忘れてないから、全力で当たらせてもらおっと。

 近衛騎士団でもやった、冷酷巫女クルデリスリーシェンのニタリとしか言いようのない笑顔で彼らを一瞥すると、多くの騎士たちがビクっと身体を揺らした。


 ルナネブーラ侯爵の苦笑とか、並ぶ騎士たちの顔色が無くなったり小刻みに震えていたりとか、小兄さまと我が隊員たちの声なき爆笑とか、イーのうんざりした表情は見えなかった。


 『嘘おっしゃい』


 という、笑いを含んだ優しい声は聞こえなかったし、見えないったら見えないんですぅ。

 いと尊き女神に子供のように言い訳しながら、みんなが待つ所へ速足で近づいて行った。



───────────


 王宮騎士団との訓練を終えて訓練場を出て、宮殿の外へと繋がる広い廊下を軽く跳ねるような足取りで歩くのはラクリーマで、周囲の隊員たちの足取りもいつもより軽い。とても充実した訓練が出来て皆満足しており、会話する声もちょっと興奮ぎみだ。


「いやぁ、王宮騎士団の皆さん、特に団長さんは恐ろしく強かったですねぇ。なかなか剣は当たらないし、当たっても軽く吹っ飛ばされちゃいましたもん」


「でも貴方のあの飛ばされ方、ちょっとわざとらしかったわよ。もっと自然に飛ばされて、上手く肘を腹に当てなきゃダメじゃない」


 以前私に悪態をついていた騎士の方へ、わざと吹っ飛ばされたラクリーマに変な方向へダメ出しをするクリュセラ。

 じゃあどうすりゃいいのか、なんて真剣に相談しだす二人の止め時がわからない。いいぞ、もっとやんなさいと言うべきか、欠片も思ってないけれど乱暴はダメよと注意すればいいのか、悩むわ。

 二人の後ろを歩きながら悩んでると、イーの呆れたような声がかかる。


「いい加減、物騒な方向で嫌がらせするのを黙認するのはやめとけ、ティー」


「人聞きの悪いこと言わないでよ、私がやらせてるみたいじゃないの」


「あれはラクリーマが自主的にやってる事だって分かってるさ。訓練で痛い目を見せるのもいいと思う。だが、団員にやらせたり、それを認めてると思わせるのは良くない」


「あなたち、私のために嫌がらせなんてしないで~って、お願いしろって? そんな恥ずかしいこと言えないわよ」


「あのな、ティーから団員に直接注意しろとも、ティーに我慢しろとも思わない。だが、好きにさせすぎたら、ティーへの恨みが増すだけだろ」


 徹底的に心を折ることは、たぶん簡単に出来る。でもそうすると、巫女のくせにと逆恨みをする奴が出てくるのも確かだ。だからといって、仕様がないよね、で済ませてもいけないと思う。


「だからって、巫女へのあの態度を許しちゃいけないんだよ」


「しかし…」


 真剣に忠告するイーが、私を心配して言ってくれている事は分かる。

 でも巫女である私が、彼らを許してはダメなんだよ。

 だって


「イー。この国はね、炎の女神の国なの」


 イーの表情は変わらなかったけれど、ちょっとだけ目が驚いたように開かれる。


「イーには理解しきれていないかもしれないけれど、私たちの住むこの大陸は『神の国』の集まりなの」


「歴史を見ても、今の国々の有り様を見ても、それは分かっている。だが…」


「…うん、今の多くの人々は神の恩恵に与ってるって気が付いてないんだよね。特にフランマテルム王国(この国)と、グラキエ()ス・ラン()ケア帝国()は。…そしてイーも」


 驚くイーの瞳をじっと見つめて、笑う。

 イーは黙って眉を寄せ、唇を震わせる。


「イーを責めてるんじゃないの。イーは母なる女神の愛し子だけれど、女神を崇めてるわけじゃないでしょう? そういう人はその寵愛による神の力を自然と使っていて、神からの贈りものだって気が付けていないの」


 何か言おうと口を開けるけれど、何を言っていいのかわからない、そんな顔。


「イーはさ、小さいとはいえ炎を生み出すのも氷を生み出すことも出来るじゃない?」


 黙って頷くイー。立ち止まって、しっかり顔を見据えて言う。


「それ、自分の生まれながらの能力だって思ってるでしょう?」


 何を言われているか理解できないような表情から、さっと顔色が変わる。

 この大陸では、昔から異能は神からの贈り物だと教えられているし、神殿でも教えとして説教に組み込まれている。実際に神職に就く者は、異能の力が強力な者が多い。

 ただし、神を心棒しない戦闘職ですらない『普通の人』でも、異能を発揮することがある。

 それこそが、広く浅くなった神の恩寵なのだけれど、それが神が与えたものだと、与えられた者が理解も体感もできないのは仕方ない。


 だって、今は遥か昔程に神は身近な存在じゃないから。生まれ持った能力でなく成長する過程で神々から与えられた能力だなんて、思う人の方が少ない。


 でも女神の恩寵の厚い『グラテアン』の騎士団に所属しているイーが、他の団員とは違い女神への尊崇がないと言われたも同然で。

 そして、今それを言われて自覚しちゃったんだよね。


「女神も私も、兄さまたちも、そんなことは気にしてないよ。ちゃんと、イーは母なる女神に敬意を払ってるのを知ってる」


 固まったイーの表情は動くことがないけれど、瞳が細かく揺れて動揺しているのが見える。


「数多の神々を馬鹿にしているのに、神からの寵愛を受けてイーより強い異能を発揮する神官が居て、その異能を取り上げれもせず無事で居られるのは、なぜだと思う?」


「彼らが、神々の存在を強く信じていて、異能(ちから)を心から欲したから。神々への感情がどうであれ、異能を与えられたことには感謝を忘れていないから」


「当たり。人間がとても増えてしまって、神々の力は人々からの祈りだとか欲望だとかが強く関わっているし、異能や寵愛を与える仕組みは神々が個々に与えるものじゃなく、機械化されてしまっているの。今でも私みたいに直々に神から寵愛を与えられる者も居るよ。私みたいなのはね、簡単に異能を取り上げれられるけれど、神々の意思が関与しない寵愛は授かるときと同じように、機械化された忌避行動を取らない限り剥奪されないの」


 イーはなんとなく分かっていたようで、驚くことなく頷く。


「まあ、どんな行動を取ればどれだけの異能が授かって、どれだけ剥奪されるかなんて、誰にも分からないんだけどね」


「そんなものが解明されたら、神殿の連中は喜びで躍り狂うだろうな」


「違いないわ」


 少し立ち直ったらしきイーと困ったものだよね、と笑いあったあたりで激しい雨が降りだした。まだ暗くなるには早い時間なのに、かすかな光も雲と雨で遮られたように廊下は暗くなった。


「ちゃんと雨になったね」


「だから、これは土砂降りというやつ…」


 笑ってイーに言えば、今朝と同じ返事が返ってきた。

 イーを責めたかったわけじゃないけれど、厳しいことを指摘したには違いない。気にしないで欲しいけれど、真面目なイーのことだから一人になったら落ち込むんだろうなぁ。

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