きょうだい
「オトナの小兄さまに無理なら、子供の私に大人の対応はもっと無理じゃない。自分に出来ないことをやらせようとするの、良くないよ」
「他ではお前、大人の対応できてるだろ。なんで今回はダメなんだ?」
「……おっさん顔のクソ参謀、キモチワルイ。近寄るとなんか変なもの憑いてきそうで、生理的に無理!」
屁理屈で逃げている私を責めるでなく本当に不思議そうに兄さまが聞くから、うっかり本音が出た。兄さまは「あー」と言うだけで、もう何も言わなかった。
「おっさん顔…ウェルテス伯爵はそんなに老けて見えたか?」
クソ参謀の容姿を記憶からひっぱりだしているだろう王太子殿下が、アルドール殿下に尋ねた。
「ドゥーヌルスが若く見えてウェルテス伯爵が老けているので、並ぶと年齢差があるように見えるでしょうね」
肩をかすかに震わせながら王太子殿下に返答しているアルドール殿下、笑いを堪えてるのが丸わかりですよ。
「神経質そうに見えるだけで鋼をより合わせたくらいの無神経な大兄さまと、後ろ向きになんかごちゃごちゃ考えてる神経質なクソ参謀と比べたら、大兄さまはツヤツヤした肌の好青年に見えると思いますよ」
「ドゥーヌルスは気配りも細やかで、彼の執務机はかなり几帳面に整えられていて、神経質とまではいかないがかなり細かい所までこだわりがあるように見えるが、違うのかい?」
「大兄さまに細かいこだわりなんてないですよ。きょうだいと婚約者のプルファーナ様以外の人には無関心で、本当は机の配置どころか服装だってどうだっていいって人ですから」
「ふむ、では今のドゥーヌルスは本当の彼では無いということなのか。しかし、学生時代から彼の几帳面さは有名だったのだが」
よく分からないな、と困惑する王太子殿下に小兄さまがスパッと暴露してしまう。
「それは、気合入れて几帳面を演じなければ、本人から周囲まで大惨事になるからですよ。外ではまだ取り繕っているのに、私的な場所では好き放題していた幼少期の頃の兄上の部屋といったら…」
首を振りながら先を続けない小兄さまを見て、殿下方が顔を合わせていた。
「そんな悲惨な部屋を生み出すドゥーヌルスが、どうやって変わったのかがとても気になるな」
アルドール殿下の興味津々な顔に、これまた小兄さまがスパっとネタばらし。
「ティーシアが『おおにぃさま、おへやとおなじへんなにおいするからあっちいって』と、泣きながら兄上を拒否したんです。あの後、兄上は使用人と共に自ら凄い勢いで部屋を片付けて、翌日にはティーシアを部屋に招待できる状態にしてましたね」
夜なのに外に自室の服すべてを干そうとして、母上にいい加減にしなさいと注意されてしょげてたのが印象深い、と呟いた小兄さまの言葉が静かな空間に流れて全員が黙り込む。
そんな静寂を破り、ぷふっと吹き出したのは、アルドール殿下ではなく王太子殿下だった。
「ドゥーヌルスは、使用人が整える部屋を服に悪臭が付く程にしてしまうのもすごいが、巫女姫に泣かれて即行動するもすごいね。相当に妹が可愛いとみえる。あまり表情の動かない彼の焦る姿が目に浮かぶようだ」
「当時は使用人を部屋に入れさせないで、好きな事しかしない問題児だったんですよ。ティーシアに拒否されて、猛省した後はどうにか人間としてやっていく決心をしたそうです」
「大兄さまは私的な場だとよく笑い、感情も現れていますよ。公的な場で表情が動かないのは、几帳面な自分を演じるのに集中してるからだと思います」
「アニムス侯爵令嬢プルファーナ様との結婚も迫っているから、人並みになろうと頑張ってるみたいだぞ。几帳面を演じているうちに、気を抜くと浮浪者みたいになるっていうのは無くなってるんだけどな。だからもっと早く更生しろって言ったのに」
「恋愛なんて興味ないし、グラテアン家の当主になる自分の相手は居ないだろうから結婚は出来ないと思う、って公言して最低限の外面しか保ってなかったもんね、大兄さま」
「当主の実子が必ずしもグラテアン当主になると決まってないからって、結婚について行動しようともしてなかったもんな」
「十年かけてやっと無意識で普通の人を演じる感覚を身につけたっていうのに、結婚前に元から備わっていたようにしたいって思ってもねぇ」
「兄上に一年で身に付けるなんて、無理だろ」
ねー、と顔をあわせて声をあげて笑う私たちを微妙な表情で見つめるお二方。
「お前たち、兄が嫌いなのか?」
「だいすきです!」
「生活面では駄目人間と思ってますが、俺や妹たちへの愛情と対応は最高の兄です。尊敬してますよ」
間のないくらいの返答に面食らったようなアルドール殿下を横目に微笑を浮かべた王太子殿下が、ぽつりと言った。
「グラテアンの兄と妹はとても仲が良いのだね。私たち兄弟も負けていられないね、アル」
「そういった関係に勝ちも負けもありませんよ、兄上。それに、この二人のように、落ち込んでいるときに追い討ちをかけられるのは御免です」
ため息を吐いてお茶を啜る弟へ投げる眼差しはとても優しい。とても仲がいいのが伺える視線だし、実際に良いのだろう。親が親だと、子供たちが団結するのはどこも同じなんだな、と思った。




