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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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皆さまの協力を持ちまして

 やべ、全然話を聞いてなかったわ。

 ちょうどカップを口に当てている時だったので、すぐに返事が必要じゃないのが助かったけど、さりげなく話を聞いていて助け舟を出してくれるイーとは違い、小兄さまに期待はできない。

 ええい、殿下助けてください、と横の殿下に笑顔を向けてみる。


巫女リーシェン殿は今日の訓練を反芻して、帰団してから団員たちにどう訓練しようか考えていたみたいだな。こちらの話は聞こえていないと思われるぞ、ゲマネウム侯爵」


 くすっと笑いをこぼし、全く話を聞いていなかった事の尤もらしい理由をつけてくれた。本当は馬鹿みたいなことを兄さまと目で会話していたって、ちゃんとバレているみたいだけど。


「おや、それは気分が逸ってしまい申し訳ありません、巫女姫。素晴らしい試合でした! 殿下との打ち合いも素晴らしかったですが、あの詠唱も溜めもなしに複雑な術式での発動をされる姿は、まさに伝説にある戦う炎の女神エイデアリーシェ様のようでした。感動で涙が出そうでしたよ」


「お褒め頂き、ありがとうございます。ご挨拶したときに申し上げたように、ご満足いただけたなら嬉しいです」


 にこにこ笑い声の弾むゲマネウム侯爵を見ているだけで、ものすごく和むわー。侯爵こそ花の少年神ウェルペタル様のようじゃないですかー。

 うふふ、あははと微笑み合う私たちを見て、爆笑しそうなアルドール殿下と兄さまは見てない。私には見えてなかったんだってば。


「今回の訓練では、神々の力を舐めている近衛騎士団レクスプラエトリアニの騎士たちに、巫女殿の攻撃力の高さを実感させられたのが大きい。炎と氷の性質の違いはあれど、対応の仕方で迷うこともないだろうな。だが、まだ王宮騎士団パラーティルムの騎士の中 にも一部の私設騎士団(プライベエクストゥルマ)にも、巫女殿の能力(ちから)を舐めている者が居る」


 ちょっと肩を振わせていた殿下が、さあ言えと前ふりの会話を始める。


「ああ、確かに。巫女姫が殿下と打ち合いを始めて驚いていた騎士が、思った以上に居りましたね」


 ちょっと眉を寄せて、不満げにゲマネウム侯爵が相槌をうってくれた。


「この国で巫女は、戦闘でしか役に立たないと言われていわます。わたくしはまだ年若いですし、威力のある炎を操ると言っても、実際に見て体験しないと納得できない方が居るのは分かります」


 ちょっと俯いて哀しげに首を傾げ力のない声で言うと、侯爵が悲しそうなお顔になる。宰相閣下は何事かを始めたなという顔で楽しげに笑い、クソ参謀はいきなり何を言い出すんだ?という顔をしている。

 私の両隣の殿下と兄さまはなぁ、その笑いを堪えてますぅって膝の揺らし方やめてもらえませんかね。やりにくいじゃないの。


「でも、今回の訓練のように身をもって体験していただければ、軽く考えている巫覡ディンガーとの戦闘についても、真剣に聞いてもらえると思うのです」


 なるほど、はい次は?みたいにひとつ頷く宰相閣下、うんと頷いている侯爵、だから何だと眉の寄るクソ参謀と、順に視線を流して続ける。


「先日の騎士団合同会議で、出来るだけこうして各騎士団との合同訓練を行い、その場でいろいろな作戦を試行したいと意見が出たのです。前回のように会議室で時間を割くより、訓練に時間を使いたいと意見が一致しました」


 はいはい次は?とひとつ頷く宰相閣下、うんうんと頷いている侯爵、だから何なんだと眉の寄るクソ参謀に、以下略。


「そこで、皆さま方の前での作戦会議を取りやめ、通常は訓練時に、時に各団長だけが集合しての作戦会議で、迎撃戦闘の計画を立てたいと思っています。我々の決定した作戦は速やかにお三方へ報告し、各騎士団の行動計画は各々の団員には周知いたしますが、全体の迎撃計画は副団長以下にも知らせません」


「つまり、どこかの騎士団の副団長以下の団員に、敵と通じている者が居ると言いたいのかな?」


 宰相閣下の言葉に、ああ成程と納得する侯爵、ぎょっとして宰相を見るクソ参謀。


「いままでの小競り合いの戦闘を見ると、計画が漏れていると思われることが多々ありました。そのどれもが、合同会議をして決定した作戦のときでしたから」


「計画漏れがあったのは、複数団の合同進軍のときだけですか?」


 ゲマネウム侯爵の質問に頷くだけで答えると、納得したようだった。


「まあ、個々に進軍しているときまで計画を漏らすと、内通者は特定されやすくなりますしね。私は巫女姫のおっしゃる様にされるので良いと思いますよ。報告いただいた作戦に不備があれば、私から質問と訂正案を出しますので、修正していただければ問題ありません」


 宰相閣下とクソ参謀、殿下と私に向かって快く断言する侯爵に、クソ参謀が待ったをかけようとする。


「私からも陛下と王太子殿下(あにうえ)にその旨を報告し、好きにしてよいとの許可は頂いている。あとは宰相殿と主席参謀殿の意見はどうか、というところだな」


 絶妙な間合いで、アルドール殿下がクソ参謀の口を開かせなかった。


「陛下と戦闘について専門とも言える軍務大臣が賛成するのならば、私に否やはありませんよ殿下。ただし、予算を控えよとは言いませんが、底なしに湧いて出るものではない、と心得てください」


 無駄遣いすんなよってことですね、と思っていると宰相閣下の笑い顔がこちらを向いた。

 よく分かりましたねって顔で、にぃっと目を細めて笑う宰相閣下がとっても不気味で怖い。兄さまといい、どうやってこちらの思考を読んでるんだろう…


「…グラテアン騎士団長のご意見は理解しました。しかし、私も主席参謀に任じられた身ですので、計画立案には参加させて頂きたいと思います」


 視線だけでどうにかできるなら殺されそうな殺伐とした視線をよこしながら、なんか殊勝なこと言ってる風だけどさ。参謀の地位を持ったんだから、計画に参加させろって言ってるだけじゃん。

 その計画だって、この前の会議では戦闘は私に丸投げって言っただけの、計画とも言えないやつ。


「先ほども申し上げたように、副団長も参加させません。計画立案時にはできるだけ人数を減らしたいのです。次回の訓練時から報告は欠かしませんので、主席参謀の素晴らしい計画に沿わないものであれば、軍務大臣のおっしゃるように質問や修正案をください。その次の訓練の時に団長方と協議いたします」


 言葉だけはしおらしく拒絶する私に、顔がさらに歪むクソ参謀。


「承知した。では、今後も合同訓練を見学させて頂きたい」


 誰も反対していない以上、これ以上食い下がれないクソ参謀は悔しそうに了解したが、嫌がらせは忘れない。また面倒な、どうする?って視線が殿下から飛んできたけれど、お任せください。


「もちろん、いつでも歓迎いたします。ですが、何時どこの団で訓練するかを主席参謀にお知らせすることはできません。大変申し訳ありませんが、場当たり的にどこかの団にご自身で出向いてくださいますよう、お願いします」


 もうこれ以上ないくらいに険悪な視線だったのに、まだ憎悪を込められるんだねっていう血走りそうな目つきのクソ参謀の横で、天使ゲマネウム侯爵の全身が輝いたように明るい表情になっている。


「なんと! では、私がどこかの団に突撃して、そこで合同訓練が行われていたら見学しても良いという事ですか!?」


 両の掌を打ち合わせ、私より少女らしい仕草でうきうき発言する侯爵。か、可愛い。

 いや、これそういう話だったか?と、クソ参謀の顔が言っているが、侯爵はそんな彼にはかまわず、いいんだよね?いいんだよね?って前のめりになっている。


「もちろんですとも! お知らせは出来ませんので、予想をたてて足を運んでくださいませね」


 ううふ、と私が笑えば「頑張ります!」と侯爵の笑顔が輝いた。かーわいいぃー!

 なんだかぐっだぐだになった気もするけど、そんな風にクソ参謀を躱してくれた宰相閣下と、あえて空気を読まない人物になってくださったゲマネウム侯爵に、心から感謝した。

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