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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の巫女
216/217

本題をどうぞ

 居心地悪くて身じろぎする俺の横で、イヴは何事もありませんって顔で座っている。平気な振りじゃなくて、本当に何も気にしてない。こいつに慣れてきたから分かる。

 視線の集中する先はお前だってのに、何でそんな涼しい顔して平気で居られるんだ。

 イヴに気を取られている俺を他所に、姉弟の会話が再開された。



「いつも、いつもそうなのよ。カーリィ姉さまより早く生まれても、遅く生まれてもそれは変わらないの。わたくしが大切に守っているのを横から浚って行くのだもの、許せないわ」


「ニィ姉さま、それはもう過去の事ですよ」


「分かっているわ、アーフ。でも悔しいの! 毎回わたくしの目の前で浚って行くくせに、わたくしに配慮したってカーリィおねぇさまに褒められて…… お姉さまに、巫覡ディンガーにお礼を言いなさいって言われるのよ。配慮って何? 当然、わたくしを優先するべきじゃない?!」


「だからね、ニィ姉さま。恋人とか夫婦は、お互いをいちばん大切にするものですよ。例えふたりの間に子供が生まれても、妹のニィ姉さまはいつも巫覡の次に大切にされていたでしょう」


「そうね。そうだけれど、納得いかない」


「ニィ姉さまだって結婚したこともあるのに、何言ってるの」



 呆れたように言うアールテイに、ヴァニ様は黙った。

 何回も人生を繰り返す巫女リーシェンに付き合っていれば、中にはそういうこともあるだろう。

 けど、どの人生も変わらないだろうヴァニ様が結婚? 全然想像もできない。

 あの方を妻にする強者は誰なんだろうな。



「それは……こんなわたくしを否定せず、同じくカーリィねぇさまに心酔するひとだからだったもの。それに結婚したのだって、どのカーリィねぇさまの生でもひとりで居たのを心配されたからで……」


「理由はどうあれ、結婚していたし家族を大事にしていたでしょう?」



 淡々と返すアールテイの言葉に、とうとうヴァニ様は黙ってしまう。

 巫女リーシェンと恋愛もしくは結婚した歴代の巫覡ディンガーに対して、悔しくて仕方ないみたいだな。その思いから、巫女に淡い想いを寄せる我が巫覡の事も気に入らない、と。



小姫様(ちぃひめさま)



 沈黙したヴァニ様を前にどう言えばいいのかと、アールテイが戸惑っている。兄君にとってはこれが通常なのか、椅子に肘を着いて顔を支え退屈そうに眺めるだけだ。

 我が巫覡もいつも通りの無表情で会話を眺めているが、巫女に関して以外の情報は興味なさそう。堂々巡りに入ってしまっったなぁ、と長くなる事を覚悟した時だ。イヴが少しだけ強い勢いでヴァニ様を呼んだ。


 予想外のイヴから呼びかけられたヴァニ様が、少しだけ驚いた顔をしてイヴの方を見た。同じ表情と速度でアールテイもイヴを振り返る。

 厳しい表情を浮かべていたイヴは苦笑を浮かべると、今度は優しく言った。



「お気持ちは分からなくもありませんが、話がどんどんズレていっています。本題をどうぞ、お願いします」


「……感情を抑えられませんでしたわ、申し訳ない事を致しました。みなさまに『今』以前の記憶が有るか無いかを知りたかったんですの」


「それを知って、どうなさるおつもりです」


「カリタお姉さまを動揺させない行動を、お願いするつもりでした」


「抽象的ですね。具体的にお願いします」



 容赦ないイヴの物言いに対して、アールテイの片方の眉が少しだけ持ち上がった。しかし、ヴァニ様は気にせず続ける。



「みなさまは、時代は違えどカーリィねぇさまとの交流があった方々ですの。しかもイーサニテル様以外は、カーリィねぇさまを庇って命を落とした事がお有りですのよ。巫覡と侍従ディジャーイヴに至っては何度も」


「以前の『私』の性格がどうかは知りませんが、今の私とそう変わらない思考をしていたなら当然と言えば当然でしょうね。巫覡殿も同じでしょう」



 何だそんな事か、みたいな感じでイヴは言い切り、ちらりと我が巫覡を見た。イヴの視線を受け止めた我が巫覡も、軽く頷いて肯定の意を示す。



「その心意気は素晴らしいと思いましてよ。ええ、心からそう思います」



 今までみたいに笑顔ではしゃぐ風でなく、しっかりと言うヴァニ様の表情は硬い。



「けれど、その献身の行動がカーリィねぇさまの記憶を呼び覚ます切っ掛けとなってしまう事もあるのですわ」



 それはヤバい事なのか? と思ったのは俺だけじゃないみたいで、アールテイさえも不思議そうに首が傾いていた。それを見たヴァニ様が苦笑をもらす。



「いちばん古い記憶は……そうね、巫覡と侍従リージェルイヴの前身だったかしら。カーリィねぇさまの『増幅』を欲しがった馬鹿者から庇ったのが初めてだったわね。あの時のカーリィねぇさまは、とても悲しんでいらしたわ。次は侍従サルーガンルペトゥスで、あの時はサルアガッカお父様と一緒に戦っていたわ。その次はまた巫覡で、カーリィねぇさまと子供を守って事切れたの。あの時のカーリィねぇさまの嘆きはとても見ていられなかった……」



 泣きそうになるのを堪え、俺たちから顔を背けて口を引き結ぶ。再び開いた唇が、少しだけ震えているみたいだった。



「そして決定的な事件は巫女リーシェン巫覡ディンガーを貶める者たちが蔓延(はびこ)りだし、フランマテルム王国とグラキエス・ランケア帝国の関係が拗れた頃でした。あの時は巫覡という地位には就いていなかったけれど、帝国の将兵として王国を責める軍に居た巫覡と侍従イヴが揃っていてたのだったわ」



「小姫様の話からいけば、やはり巫覡と私がお姫様(ひいさま)を庇ったのですかね」


「そうね。侵攻軍の代表である貴族から、まず侍従イヴが巫女であったカーリィねぇさまを庇ったの。あの時の巫女にはカーリィの記憶は無かった。けれど、イヴが倒れた時に記憶が蘇ったのよ。そして、イヴを抱きしめて慟哭する巫女を切ろうとする馬鹿の剣から巫覡が庇って倒れたのが止めになり、小競り合いの場だった平原が焼け尽くされて何も残らなかった」



 もうこれだけでお腹いっぱいなんだけど、まだ続きがありそうだよな。そんで、絶対面白いもんじゃないだろ。

 というか、その小競り合いって我が帝国の記録にもある、有名な事件なんじゃなかったか?

 

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