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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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かつての神の国

 遥かなる昔、あまたなる男神・女神が存在し、人間(ひと)は男神に仕える一族を『男神の御使い(ゼルセウルス)』、女神に仕える一族を『女神の御使い(デアセルウス)』と呼び、その代表が治める土地を国あるいは地域としていた。

 『一族』は神に(いと)しまれる者・()でられる者たちであり、神の能力を使うこと―――神権―――を仕える神より与え許された、選ばれた者たちを指す。神権は神からの寵愛の度合いで異なり、神より最も愛される者が一族の長となる。


 様々な神、様々な一族が存在し協力しあい厳しい土地で生きていくと、土地は肥え人々の暮らしは豊かになり、生きる事に余裕が生まれる。神への感謝、祈り、願いの強さにより一族だけでなく、神々の力にも差が出るようになっていった。

 やがて人間たちは欲深くなり神々や一族からの恩恵により生きている、神権をもたぬ者たちに不平や不満が生まれだす。そして神権を持たぬ者が一族を唆し、他の一族の財を奪う者すら現れた。

 一族の指導のもと協力しあい与えあうはずの一族でない人々は、一族に与えられた神権をただの人間である自分たちの為に行使する事を迫り、他の一族へ攻撃するよう求めるようになる。

 奪い合う時代が訪れたのだ。



 ある日、慈愛と浄化の女神エイデアリーシェに仕える一族フランマォラティオは、エイデアリーシェの夫神である慈悲と守護の男神エイディンカに仕える一族グラキエスプリムゥムに強襲された。その日、一族フランマォラティオは、治める土地に住む優しき人々と一族の願いと尽力により逃がされた長である少女と、その側近を除いて壊滅した。


 男神エイディンカは、妻神の愛し子を襲い土地を奪い愛でし子たちを殺し苦しめた事にたいそう怒り、一族グラキエスプリムゥムに与えた神権(寵愛)の全てを奪った。

 女神を崇める土地に住んでいた人々は、敬愛する女神の土地を奪い暴虐の限りを尽くす男神の御使いたちを憎み、尊敬する敬虔なる女神の御使いの一族フランマォラティオを偲んだ。


 少しばかりの時が進んだ頃、一族フランマォラティオに恩のあった人々が、他の一族からの助けにより一族グラキエスプリムゥムへ攻め込んだ。神権が無くなり勢いを無くした一族グラキエスプリムゥムは、ろくな反抗もできず一族フランマォラティオ同様に1日で滅亡した。


 他の一族を擁する人間たちは、いかに神に愛される一族であろうとも簡単に神の寵愛が無くなることに戦慄し、欲にまみれた者たちも大人しくはなった。が、自らを省みて改心する者も居たが、どうにか神権を維持しつつ他者から奪おうとする者が居なくなることもなかった。


 そんな荒れた時代が始まった頃、戦の男神サルアガッカに仕える一族プロエリィンプェリムの長であった男が、避難先で様々な困難にあいながらも健気に残された一族のために奮闘する、フランマォラティオの長である少女を救い、娶った。

 二人の子供たちはそれぞれ後の三大国、プロエリディニタス帝国、グラキエス・ランケア帝国、フランマテルム王国の代表となる。



 長い長い時の流れと人々の交わりにより、一族グラキエスプリムゥムの滅亡は数ある神話のひとつとしてひっそりと語られるだけになり、神からの寵愛は一族にだけでなく個々の人間へと与えられるようになる。神権は人々が生活するのに便利な能力との認識に変化した。

 男神の御使い(ゼルセウルス)女神の御使い(デアセルウス)は神の下僕として呼称が変化し、最も神よりの寵愛が深い者を巫覡・巫女と呼び、巫覡・巫女には及ばないが神の寵愛に触れることのできる神官サケルドースたちは侍従・侍女などと呼称されるようになった。



 永き時を過ぎ、人々はフランマォラティオの悲劇を忘れ、またもやただの人間の欲により混迷の時代へと突入する。


 プロエリディニタス帝国の皇帝にして巫覡サルアガエル、アグメサーケル・ウィンケ・セールウスが生まれた数年後、フランマテルム王国に巫女リーシェンカリタリスティーシアが誕生する。さらに数年後、グラキエス・ランケア帝国において数百年ぶりに現れた巫覡(ディンガー)、プリメトゥス・レーガリアが誕生した。

 アグメサーケルはプロエリディニタス帝国の前身、一族プロエリィンプェリムの長の再来と呼ばれる程に好戦的ではあるが、他国への侵略を良しとせず帝国の繁栄に尽くす平和的な皇帝となる。

 対して、フランマテルム王国を挟みプロエリディニタス帝国の反対に位置する、多くの神を祀るグラキエス・ランケア帝国において、神を心棒しない皇帝ゲマドロース・スアロガーンスは自国の強大な力に満足せず、男神エイディンカの神権を持つ幼いプリメトゥスを使い、フランマテルム王国への侵略意志を隠そうともしなかった。

 攻められる側であるフランマテルム王国の国王は神への尊敬がなく、フランマォラティオの長と同じ歴史上最高ともいえる女神の寵愛の厚い、幼い少女である巫女カリタリスティーシアを前面に立たせようとしていた。少女を擁護せねばならぬ神官ですら、自らの特権を惜しみ少女を使い捨てる気で何の対策も取ろうとしなかった。


 忘れられた神話の再来になることを懸念するのは静観を決めたアグメサーケル、帝国において巫覡の過酷さを理解されず苦しんでいた、幼い頃の自分を救ってくれた少女を敬慕する少年プリメトゥス、称賛されるべき巫女を蔑む国で奮闘する少女カリタリスティーシアの三人と、その側近たち数名であった。

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