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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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言い方

 団長だけの会議と言う名の、愚痴大会と雑談の後に部下たちの待つ控えの会議室に入室した我々を迎えたのは、各々の上司である団長の穏やかな気配を纏った姿に困惑するような視線だった。

 移動前は殺伐とした雰囲気だったのに、誰もが機嫌良さげにしているからね。

 宰相閣下方はアルドール殿下より結果報告を受けると伝言を残し、この部屋で待機することなく各々の執務に戻られたそうな。

 予定よりずっと早く初回の合同会議が終わった事を喜ぶことにして、グラテアン騎士団の応接室へと帰り、団長会議の内容を小兄さまとイーへ報告した。


「そこそこ時間がかかっているから会議が紛糾しているのかと思えば、愚痴とティーシアの『美しい人』の定義に時間かけてたと。相変わらずアルドール殿下は面白い方だな」


 団長たちの愚痴大会のあたりで笑い声を隠さなくなった小兄さまは、私の『美しい人枠』を暴露された辺りで爆笑した。


「以前から思ってはいたが、アルドール殿下はイーの『残念枠』にご自分が入っていても面白がるあたり、器が大きい方なんだな」


 自分はたまに言われて慣れてるとはいえ、アルドール殿下もイーが残念な美形枠だと認めているという事には何も言及しないで、しみじみ変な方向へ感心するイーも、度量は大きいと思う。


「そこで何も要求なさらなかったら、私だって度量が大きいのねって、ただ感心できたと思うわ。殿下のキメ姿を餌に、私がクソ参謀をこの侵攻迎撃戦から締め出さなきゃならなくなったもの」


「そりゃティーシアを馬鹿にしてるやつらには殿下やルナネブーラの親父殿が言うより、本人が叩きのめす方が効果的だろ。本当は実力があるんだなんて口先だけで殿下方が言ったところで、誰も納得しないさ」


「それはそうなんだけれど。ね、小兄さま宰相閣下も軍務大臣も、クソ参謀が同席してない団長のみの会議報告書だけでも納得してくださると思わない?」


「宰相閣下は微妙な所だが、軍務大臣はアニラスの親父殿から聞いてる通りの方なら、作戦の内容に不備があったら補足すればいいと言われそうだな。で、ティーシアはその言葉の悪さを訂正する気はないのか?」


「何か悪かった?」


 苦笑している小兄さまに問うと、呆れたように肩をすくめられるだけで良く分からない。


「ティー、宰相閣下と軍務大臣なのに、なんで主席参謀は主席参謀と言わないんだって言われてるんだよ」


 呆れたようにイーが教えてくれるけれど、あれ? まさか…


「えっと……もしかして私、主席参謀って言ってない?」


「クソ参謀って言ってる」


 恐る恐る聞く私に、二人が声を揃えて言う。


「うわ、危な! 思ってるだけだったのに、ついに口に出ちゃったんだ。あー、気を付けなきゃ。二人とも教えてくれてありがとう」


 気を付けろよー、とか口に出さなくてもダメだろ、と二人らしい注意を受けて宿舎棟に帰ることにした。

 小兄さまはまだ訓練している団員たちの所へ行き、イーは宿舎まで私を送ったら戻るって。



 騎士団の訓練棟から宿舎棟までそんなに距離がないとはいえ、徒歩だとそれなりに時間がかかり、とりとめのない会話が続く。夜なので声は小さめで。


「騎士団の敷地内だし、ひとりでも帰れるよ。イーお腹空いてるでしょ、訓練棟に戻って小兄さまと軽食とってきたら?」


「あのな、こんな暗くなったのに一人で帰らせるわけないだろ。それに俺は一応ティーの護衛騎士なんだから、主ほっといて小腹満たしてちゃダメだろ」


 何言ってるんだこいつ、って目で見て言わないで欲しい。そして一応ってなんだ。


「主の方が強いから、一応な」


「何も言ってないじゃない」


「いや、目がものすごく言ってるんだよ。一応ってなんだ、そしてその目をやめろってな」


 どうして分かるのかしら。


「ティーは澄ました顔する場面以外では副団長と同じで、考えてる事がすぐ顔に出てるっていつも言ってるだろ」


「澄ましてれば出てないの?」


「…………」


 出てないんだよね? ねえ、ちょっと気になるじゃないの。そっぽ向いてないで、こっち見て目を見て断言しろ。


「そういえば、アルドール殿下にティーの性癖をばらされたわけだが」


「言い方! 私が特別に変な趣味でもあるみたいな言い方しないでよ」


「ティーの好みで容姿の格付けをして、枠に入れてるんだろ? 性癖じゃないか」


「違う。枠は容姿だけじゃないし、その整った容姿だって密かに整ってるな、って眺めて見た目を楽しんでるだけよ」


「世の特殊な趣味の奴は、それをオカズに…」


 おい待て。


「イー、あんた何てこと言うのよ! まさか私はそんな特殊な変態だって言いたいの? ねえ、ちょっとこっち見ろ」


「いや、世の中にはそういう特殊な奴も居るから、他の団長方にそう思われなかったのかって聞きたかっただけなんだ」


 立ち止まって低い声が出た私に、さすがにまずいと思ったのか言い訳をする。


「ごめん、言い方が悪かった」


 目尻を下げて素直に謝るから、許してやるか。


「心配してくれてるみたいだから、まあいいけど。言い方に気を付けなさいよ。イーってば、見た目はいいのに女性に嫌われないまでも好かれてもいないの、そういう所よ」


「ああ、そうだろうな。だから俺は『残念な美形枠』なんだろ」


 納得したように頷いて、ニヤリと笑って言う。いつも思うけど、残念って言われても全然悔しそうじゃないんだよね。


「そうよぉ。中身が嫌な奴って造作整ってても、表情が嫌らしいからダメ。年齢問わず中身が真っ直ぐなひとって、そこに居るだけで美しいんだよ。だからイーはちょっと残念なんだよ」


「ちょっとなんだ」


「思ったことすぐ口に出しちゃうけど、まあ真っ直ぐではあるよね」


 あとはイーは隠し事があるからなんだけど、それはイーには教えてあげない。イーが隠し事してるって私が気が付いてるのを知られては困るし、イーが自分から知らないといけない事だから。


「ふぅん?」


 先が続かなかったことを不思議そうにしていたけれど、追求することなく続きを待っているようなので、団長方の反応を伝える。


「アルドール殿下は自分がイーと同じ枠だってとても面白がっていたし、アニラスのおじ様とパークス団長は面白いものを見たって顔してた。他の団長方の視線は…」


「視線は?」


「痛かった」


「ああ、ドゥーヌルス様と同じ?」


「アルドール殿下は小兄さまと同じ笑い方だったかな。アニラスのおじ様はニヤニヤしてたから、次に会ったら突っ込まれて聞かれるんだろうなぁ」


 ちゃんと答えなかった事には触れずに「まあ、諦めて素直に話をするんだな」と、たぶん慰められたんだと思う。それからは黙って足元の影を見ながら、ゆっくり歩いた。

 輝く月が明るい、静かな夜だった。

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