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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
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会議室の外の副官は

 アルドール殿下やパークス団長、アニラス団長の無言で満面の笑みという圧に迫られたティーが、各騎士団(エクストゥルマ)の団長のみで意見交換をしたいと懇願とも言える提案をした。

 お三方の迫力とティーの勢いに押された宰相アルッギラ公爵が若干裏返った声で許可したので、団長以外はみな向かいの会議室へ移動する。


 お三方の視線を一身に受け、その圧に耐え半泣きで宰相へ意見具申するティーの姿にドゥオフレックシーズ副団長以外の面々――ティーを馬鹿にしていた者さえ――は、尊敬の眼差しを注いでいた。様々な場面に出くわすはずの宰相という立場の公爵ですらちょっと腰が引けていたから、相当な迫力があったのだろう。

 副団長、あの場に居るのがお三方だけだったなら爆笑していただろうな。


 曲者揃いの団長たちのなかでも群を抜いておかしいのがお三方。彼らに囲まれてはいくらティーの肝がすわっていようと、いつものように笑ってはいられないだろう。

 愉快そうに声をたてずに笑う副団長を見やれば、アニラス騎士団の副団長テーネル・リネアの方へと向かっている。

 自由にして良いということだろうと判断し、適当な席へ座るつもりで会議室を見渡すとパークス騎士団の副団長トランクルース・ニブスと目が合う。がっちりとした筋肉を纏った大きな体格なのに気配が薄いせいか、細身のパークス団長と並んでもあまり存在感がない。確かドゥーヌルス様と同じ年齢のはず。


 こういった合同会議では身分問わずの会話が許される不文律があるが、うっすら微笑を浮かべて会釈をするも、男爵家の三男の彼が伯爵家嫡男である俺に話しかけてこない。誰であろうと遠慮せず話しかける副団長と違い、真面目なだけでなく彼の環境に拠るところが大きいだろう。


 炎の女神の国である我が国では珍しいグラキエス・ランケア帝国に数多く現れる氷の能力を持つがゆえに、彼の環境はかなり厳しかったとドゥーヌルス様が仰っていた。幼少の頃からプロエリディニタス帝国の親族を頼り留学という形で避難してそのまま移住するつもりだった彼は、やはり国の役に立ちたいと留学先で騎士資格を取得して帰国した。だが、生家は彼の帰国を良しとしなかったらしい。

 ニブス卿の父親や兄が神殿に勤めているのも彼の立場を悪くしていた。貴族籍から離れ親族の家名を名乗り、パークス団長に拾われるまで相当な苦労をしたと聞く。


 会議前に挨拶は済ませたから、もう本題に入ってもいいだろう。


「団長方の意見交換、時間かかると思われますか? ニブス卿」


「かかるでしょうね。三恐閣下方がそれぞれご不満を述べられ、グラテアン団長が必死に宥められる姿が目の前に見える気がします。パークス団長、間違いなく笑顔でとめどなく苦情を述べてますよ」


「意見交換、する時間は…」


 無いかもしれない、とお互いに口に出さず目線で会話し頷きあった。

 まず、あの主席参謀をどうにかしないと何も決められないまま、帝国軍の侵略が始まるぞ。

 しかし俺のような立場で何が出来るわけでもないし団長方はどうするんだろうなとぼんやり考えながら、お互いそれ以上何も話さず、けっこうな時間をニブス副団長と並んでリネア副団長と和やかに会話する副団長を眺めながら佇んでいた。


 リネア副団長は団長であるアニラス伯爵の甥だ。

 伯爵家を離れ平民と結婚した妹君の息子で、爵位を持たない平民として育ち、実力で騎士位をつかみ憧れの伯父の騎士団に入団している。彼がアニラス騎士団に入団希望したとき、一悶着あったのは有名な話だ。

 アニラス団長は、甥のリネアが人の良い妹夫妻の息子であり嫡男の息子を脅かす事はしないと思うが、と言いつつも彼が近しい血縁であるのを理由に入団を渋った。

 そこでリネア副団長は爵位や資産を要求しない旨を誓約書に認め、その誓約書を握りしめて目を血走らせて入団を迫ったのだ。

 伯爵家で起きた場面であれば微笑ましい話として語られたのだろうが、あろうことかリネア副団長は宮殿から出てきた伯爵に迫ったために、多くの人に目撃されている。

 その場面をドゥーヌルス様と目撃したときの切ない呟きを、まだはっきりと覚えている。「なぜ、私はこんな場面ばかり目にしなければならないのですか。母なる女神…あんまりではありませんか…」と、無表情で俯いて呟いていて怖かった。


 グラテアン家の唯一の良心と言われるドゥーヌルス様からでなく、俺から話を聞いたティーと副団長は爆笑していたから、そういう所が女神の采配なのかもしれない。


 前々から思っていたが、女神はドゥーヌルス様の絶望顔がお好きなのか?



 女神の声を聞くことができない俺に、たまにティーが教えてくれる女神のお言葉は何というかティーの女神だな、としか言えないものもある。

 炎の女神でない巫女や巫覡から、崇める神々のお言葉を教えてもらったことはないので断言はしにくいが、女神はティーに似ておられるんじゃないだろうかと思う。………いや、ティーが女神に似ていると言うべきだな。


 神の国と呼ばれる三国、プロエリディニタス帝国、グラキエス・ランケア帝国、フランマテルム王国で神と巫女・巫覡を敬っているのはプロエリディニタス帝国のみ。

 なぜこの国とグラキエス・ランケア帝国は主神の最高の寵愛を受ける巫女・巫覡を虐げるのだろう。

 神の御力の恩恵を受けて成り立っているくせに、神を崇めず卑下する。一部の王族や神職者だけが危機感を持つという歪な状態だというのに、大国として成り立っている。

 神々の力も人間からの信仰の度合い、知名度に影響されるが故に望まない状況になるのだとティーは言う。いつまで神々の愛し子たちが不当な扱いをされる国として、二国は存在するのだろう。


 楽しくもない考えしか浮かばないこの不毛な時間を、早くティーの顔を見て終わらせたいと思った。

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