少女の独り言
炎の女神エイデアリーシェの巫女は燃え盛る炎の剣。
人々は炎の巫女である私を慈悲なき猛火とも烈火とも呼ぶ。激しい戦闘時に、その末に他者を燃やし、そびえる建築物を焼き付くし、大地を炭化せしめる。生きとし生ける者たちの脅威にしかならない煉獄の炎。慈愛の女神の厄災であり、戦にしか活用する場のない存在、と。
そんな私は持てる狂熱で他者だけでなく、自らも焼き尽くし身を焦がすような感情と能力を持て余し燃え続ける者。
氷の男神エイディンカの巫覡は凍える蒼い槍。
人々は氷の巫覡である貴方を冷徹な激流、崩れぬ氷山とも呼ぶ。激しい戦闘時に、その末に人間の氷の彫像を作って砕き、建築物を凍りつかせ、溶けぬ氷の大地へと変貌させる。生きとし生ける者たちの脅威にしかならない煉獄の氷。慈悲の神の厄災であり、戦にしか活用できぬ存在、と。
そんな貴方は持てる冷淡さで他者だけでなく、自らも凍りつかせるような動かぬ感情と能力を持て余し凍える者。
はじめての出会いは穏やかだった。一目で互いに互いを理解する。
こうして我々が和やかに会話できていようとも、いずれ命かけて戦うしかないと。例えお互いの神どうしが敵対する存在でなく、手を取り合い素晴らしい世界を築けるとしても、我々を取り巻く環境がそれを許さないと。なぜならば我々の属する国は敵対しているのだから。
戦いたくない、殺し合いたくない。だって、こんなに貴方の苦しみを理解できる。だって、きっと貴方も私の苦しみを理解できている。
だからこそ、そんな願いは叶わないことも解る。主たる神は、自らの存在を確固たらしめる者たちの望みを聞かねばならないのだから。例えその結果、お互いが滅びようとも。
出会いから数年の時を経た今、知らなかったことも理解する。
貴方は全てを凍らせる。でもその慈悲の氷で焦土と化した大地を潤し、緑の大地へと戻せる。そして、身を焦がす炎の剣である私をただの人にする力を、そうとは知らず持っている。ただひとり、貴方だけが。
私は全てを燃やす。でもその慈愛の炎で凍てついた死せる大地を溶かし、緑の大地へと戻せる。そして、身を凍らす蒼き槍である貴方をただの人にする力を持っている。ただひとり、私だけが。
そうとは知らなかった、ついさっきまでは。
そうとは知らなかったはず、貴方も。
でも貴方もたぶんもう…