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盾から影武者へ!お花畑で才能開花!!

 ザザザザッ


 目の前に白い花弁が舞い上がり、踏み拉かれた草の濃い匂いが満ちる。

 穏やかな春の陽に包まれた花畑、子供3人がのどかに笑い合う時間は突然の闖入者により終わりを告げた。


 ガギィィンッ

「曲者―――っ!」


 わたしが身に付けていた唯一の武具――短刀で、問答無用に浴びせかけられた長剣の初撃を受け流す。それを見たベンジャミンが大声をあげながら助けを呼びに走るのは、ほぼ同時だった。

 ベンジャミンの足は大人と比較しても速い。大声を出しているから、すぐに異変に気付いた味方が駆け付けてくるはずだ。


「くそっ!一人逃げたぞ」

「構うな!王子さえ殺れば良い!!さっさと片付けるぞ」


 血走った目をこちらに向けるのは、城付き騎士の制服を来た男3人。

 まだ9つにしかなっていないわたし達3人が、お城の敷地内の花畑で、何故か城付きの騎士に襲われた。しかも狙いはたった今まで一緒に居た王子様だなんて!

 全く訳が分からない状況でも咄嗟に動けたのは、我が家の武門第一の独特な教育の賜物なんだと思う。家訓通り王族を護れたわたし――偉い!


 毎日の訓練の積み重ねの効果を実感して、独り感動に打ち震えていると、騎士たちが目に見えて狼狽えだした。


「おい、王子が双子だなんて話あったか!?」

「そんな話は知らん、どっちが王子だ!」

「どっちでもいい、こんなちび共両方とも殺りゃあいいんだ!」


 わたしの背後で「ヒュッ」と小さく息を吸ったのは、同い年の従兄弟であり、この国の王子。得物を何一つ持っていない彼は怯えているのか、地面に膝をついて動かない。


 任せて!わたしが守るから!


 そう覚悟を決めた瞬間、後頭部に何かがぶつかって来て、対峙していた男たちが「ぐあっ」と声をあげつつ目を瞑った。


「逃げるぞ!」


 鋭い声と共に、背後からのびてきた小さな手に腕を捕まれ、2人で駆け出す。


 わたしの腕を掴んだ手は、砂がついてジャリジャリしていた。ついでにわたしの後頭部も。

 王子様ならもう少しスマートな方法はなかったものかと恨みがましい目を向けると、憮然とした表情が返って来た。


「ふん、偉そうに僕の前に立つからだ」


 この後、無事窮地を脱したわたしたちが王子付きの騎士たちに保護されても、ずっと取っ組み合いの喧嘩をしていたのは良い思い出――か?

 とにかくそれが、わたしとあいつの腐れ縁の始まりで、王城へ頻繁に足を運ぶきっかけになったのには間違いない。




 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼




 我がスタルージア辺境伯家は、父兄弟に祖父、曽祖父、さらにその先よりずぅっと続いた武門第一のお家柄。小さい頃から兄たちに交じって、剣を振るっているのが「遊び」だった。



 けれど現国王陛下の妹である私の母は、それはそれは嫋やかで、なよやか。物腰柔らかを絵に描いたならばこう!といった庇護欲をそそる美女。彼女だけは『王国の盾をも凌駕するフルメタルアーマー』と評されるこの辺境伯家の武骨で厳めしい風貌とは一線を画した存在だ。

 わたしはと言えば、その母に容姿だけはとてもよく似ていると、チヤホヤされて来た。艶のある白銀色の腰まであるサラサラの髪をそのまま垂らせば、泉の精か、月光の妖精かと称賛を受けた。


「よしっ」


 ロイヤルブルーの飾り紐を使い、うなじの後ろで髪を一括りにしながら気合いを入れる。こうすることで辺境の妖精姫からお仕事武装への切り替えが完成する。


 この格好で気の進まない城へやって来るのは、わたしにしか出来ない仕事があるからだ。あのお花畑事件以来、何度こうしてやって来たかわからない。ホントは来たくないけど。



 デビュタント前の幼いうちはお茶会、観劇、パーティに読書会に晩餐会……とにかく堅苦しくて窮屈な行事に頻繁に呼びつけられていたのよね。お母様が国王陛下の妹だからってちょっと面倒……げふんげふん。とにかくそのお呼ばれを、あの手この手で断り続けた結果、最近は別の依頼で呼ばれることになってしまったのよ。


「スタルージア辺境伯令嬢!お早く!殿下は既に豊穣の間にお目見えです。あと僅かでダンスが始まってしまいます!」


 乱れた赤銅色の髪もそのままに、せわしく話し続けて早歩きでわたしを誘導しながら、尚も急がせようと大きな身振り手振りで主張してくるのは、この国の王太子の側近で、未来の宰相候補のベンジャミン・グルーウェバー。短めに切り揃えた髪をくしゃりとかき上げるのは、彼の昔からの癖。あのお花畑事件をはじめ、幼い頃から母に伴われてやって来ていたこの王城で、王子も交えて遊んでいた幼馴染よ。なんとか疎遠になっていたはずのお城へ、再び頻繁に足を運ぶことになってしまった元凶もこの男だったわね。


「貴女にしかこの役目はお願いできないのですから!お急ぎください」


 わたしの、ドキドキ辺境魔物退治ライフを返して欲しい。

 自由気ままに緑濃い辺境ならではの、多種多様な魔物の討伐山狩りや、国境侵犯してくる悪い子たちを退治する、ギリギリでヒリヒリな生きてることを実感できる生命活動の維持に直結したお仕事に戻りたいのよぉぉ!


「わかっています!すぐに参りますわ」

「ルルシア嬢?」


 ベンジャミンが自分の喉をトントンと指先で突いて、ニッコリと胡散臭い笑みを浮かべる。


「わかってるわ―――じゃなかったっと、お仕事モードよね」


 喉を開くイメージで、お腹にグッと力を入れる。


「すぐ行くぞ」


 いつも通りの誰かさんそっくりな低い声が出る。


「御意。アラステア王太子殿下」


 大げさなくらい仰々しい身振りで頭を下げたベンジャミンに鼻の頭を顰めて見せるけれど、そんなことなど何処吹く風……と、涼し気な一瞥をくれただけですぐに行く先へ向き直ってしまった。


 そう。幼い頃、あのお花畑で闖入者たちが区別がつかないと言った、わたしとアラステアの容姿。その類似性と云うか、瓜二つっぷりは健在で、16歳を迎えた今になっても、細かな体格差を着衣で誤魔化せば、未だ双子で通るくらいの仕上がりにはなってしまう。命を狙われ、すぐそばで陰謀が繰り広げられることが続いているアラステア。その影武者として王国の盾の役割を果たしてくれとのベンジャミンからの依頼により、わたしは王城へ通うことになってしまったのだった。

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