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魔女セリスと8人の大魔女 〜この世で二度目の大厄災〜  作者: もーる
第8章 未来のための分岐点
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88頁目.神話と変換と反省と……

 魔人が世界の均衡を保つための存在である。

 そんな推測を口にしたエストは、溜息を1つ吐いた。



「はあ……全く、ここまでの話をするつもりはなかったっスのに……。この辺りはまだまだ研究が不十分なんスから」


『それでも、アタシの研究よりは先を行っているだろう。もしかすると、闇の教団とも関わってくる話かもしれないんだから、話してもらわないと困る』


「どういうことよ、ノエル。どうして魔人と教団が……?」


『原初の大厄災と魔人に関係があるということは理解しただろう? である以上、教団が魔人の存在や特殊魔法の在り方について知っている可能性は十二分にあり得る。連中の目的は大厄災の再演とそれによるファーリと精霊の契約の破棄及び乗っ取りとのことだが、そうしたい理由については未だに不明なままだからな』


「確かに……教団の最終目的まではちゃんと分かってなかったね。大厄災を起こして世界に混乱をもたらしても、それだけで終わる連中じゃないってことを俺たちはよく理解してる。ただ、もしそれに魔人が関係しているのならロクなことにならない予感が……」



 すると、エストは手を数回叩いてセリスたちの注目を集める。



「はいはい、そっちは後っスよ。話すべき理由については理解したっスから、研究によって導かれた不十分な推測を語ってあげるっス」


『あぁ、頼むよ。確か、世界の摂理を修復する存在である魔人、だったな。そしてそれは、この世を創った存在によって生み出されたと思われる、と』


「この世を創った存在……。それって、『神』のこと?」


「『神』……って、何?」



 セリスは疑問を口にする。

 すると、エストは少し驚いた後、それに答えた。



「そうっスね、そっちから話すべきだったっス。9つの国があるこの大陸……今はノウェム大陸と呼ばれているここ以外にも、海を跨いで他の大陸が存在するっス。例えば、ロヴィアが獣人だった頃に住んでいたサヴァンって国は隣のアルバ大陸にあるっスね。そして神、あるいは神様と呼ばれる存在は、そういった他の大陸から伝来した宗教で信仰されている最高位の存在っス」


『そうだ、ほら。神器ってあるだろう? 誰が命名したのかは今では不明だが、その言葉は【神の(うつわ)】って意味だ。本当に神が宿る器って意味じゃなくて、優れた魔具には神が宿っている……みたいな例えから生まれた言葉が魔法社会に浸透したようだね』


「うーん、よく分からないけど……この世界を創った凄い存在ってことね。魔人がいるってことは実在するの?」


「それは……証明されていないっス。それにしても、セリスの様子を見るに最近は神って存在も知る人ぞ知るってほどまで信仰が廃れてしまったんスねぇ。昔は多少知ってる人がいたっスけど……。まあ、フィンはイースから聞いたんスかね」


「はい、そうです。俺の武器である籠手の名前も、その創世神話を元に考えたものですし。そして宗教以上に魔法という神秘が広まった結果、神の存在は重要視されなくなったって聞いています。それで、魔人を生み出したのがその神ってことでしたけど」


「あくまで宗教における創世神話を信じるのであればって話っス。今のところ、この世界がどうやって生まれたのかについては明らかになっていない。それを語っているのは神がこの世を創ったと記されている創世神話だけなんスよ。まあ、だからこそアチキの研究対象の1つでもあるんスけどね」



 セリスは納得したように頷く。



『まぁ、確かに興味深い研究対象ではあるな。世界の起源について調べているっていうのはこういうことだったか』


「そして、ここからは創世神話で語られている部分っス。神はこの世を創った時に3つの理を定めた。流れゆく時間は過去と現在と未来を定め、広がる空間は世界の基盤を定め、移ろいゆく運命は生命の宿業を定めた……と。そして、神はそれらを保つための存在を遣わした、とも語られているっス」


『それが魔人、か。特殊魔法自体が神の生み出した力だとすると……。もしかして、6属性の精霊を生み出したのもその神ってことになるのか?』


「この宗教自体、魔法の存在が生まれる前から存在する信仰っスから、特に精霊についてはこの神話に書かれてはいないっスね。でも、海や大地、火山などの自然については神が創った……と語られているっスから、精霊がそこで生まれたと考えるべきかもしれないっス」


「この大陸で信仰されていない宗教の創世神話っていうのが、やや信憑性に欠けますけどね。でも、魔人の存在を裏付ける重要な資料なのは確かかも。魔人……今はもう存在しない種族、か……」


『……存在しない、ねぇ。その辺り、どうなんだ?』



 エストはその言葉に肩を落とす。



「魔人の方の研究は文献しかないっスから、他の研究テーマよりも考察が進んでなくて……。まあ端的に言うと不明っスね。ファーリの物語の中ではファーリの夫は死んだことになってるっスけど、遺体が見つかっていないんスよ。そもそも長命と思われる魔人が自然に死ぬとも思えないんスよね。だから、生きていてもおかしくはないと思ってるっス」


「理に関係する生き物である以上、俺たち人間の尺度で判断できる生命体じゃないっていうのは理解できます。とはいえ、滅びたってことは少なくとも種族的には死ぬものってことは分かるけど……。あれ、だけど滅びちゃったら世界の均衡が崩れちゃうんじゃ……?」


『アタシの考察としては、魔人の血が特殊属性の魔法として繁栄して広がったことで、均衡を保つ役割が必要なくなったんだと考えている。だから新しい魔人は生まれていない。世の摂理が崩壊するような現象なんて魔法の力でも簡単に起こせるものじゃない、というのもあるだろうけどね』


「……逆に、そんな現象を起こすことができれば魔人が生まれるってこと?」



 セリスの疑問に、ノエルはしばらく黙り込む。



『……あくまで全て可能性の話だ。原初の大厄災の時に魔人のような種族が生まれたという記録は残っていないし、教団の最終目的が魔人を生み出すことである可能性は限りなく低いだろうね。それに実際に魔人がこの世の理を修復するに至るような現象自体、記録には残っていない。そうだな、エスト?』


「その通りっス。たとえ特殊属性の魔法を行使したところで、この世に定まっている摂理そのものを変えることはできないっス。アチキやセリスが使ったような運命の改変だって、並行世界への干渉の1種であって並行世界そのものを作る能力じゃない。時魔法も現実の時が止まったり巻き戻っているわけじゃなくて、対象の時間が止まったり巻き戻ったりしてるだけっス」


「空間魔法も、空間を歪めたり切り取ったりはできるけど、魔法が消えると勝手に治っちゃいますもんね。魔法が切れたら元に戻るっていうのはずっと不思議に思ってました」


「なるほど、世の摂理っていうのは特殊魔法に対する修正力の話でもあったんだね。だけど、かつて魔人が生まれていた頃には、それほど強力な理を崩すような何かが起きていたのか……? 神様っていうのがもしもいたとして、神自身が手を下さずに魔人を使った理由って……」


「残念ながら、そこまでは不明っス。神にも敵がいたのかもしれないっスけど、魔人が生まれたとされる3000年も昔の話なんて記録として残されていないっスからね。創世神話だって昔からの伝承というよりは誰かが想像で描いた物語の1つに過ぎないっスし、これ以上は不毛な会話になっちゃうっス」


「そうですね。魔人については他になければこれで十分かと」


「了解っス。ってなわけで、ここまでがアチキの研究で判明、推測できている全てっス。ここまでの話でざっくりと、魔人が大厄災の呪いや魔法のルーツに関係していることは理解してもらえたっスかね? 現時点では精霊との紐づけはできてないっスけど、少なくとも特殊属性との深い関連性は伝えられたと思うっス」



 話を終えようとするエストの言葉に、セリスたちは頷いた。

 すると、ノエルは言った。



『さて、ここまでは確かに大事な話だが、現時点で教団とは無関係の話だった。真の本題に入るとしようか』


「えっ? 今ので終わりじゃないの?」


「今までのが本題の前座だったってこと?」



 話が終わると思っていたセリスとフィンは驚き、エストは一瞬で視線を逸らす。



『おい、エスト。こっちを見ろ』


「あーあ、やっぱりそういう話になるっスよねぇ……。ちょっと喋り疲れたんスけど……」


『あと少しの辛抱だ。水でも飲んで喉を潤しておくんだな』


「それで、ノエル。真の本題って? 魔法の復習も魔人の話も確かに教団と直接的な関係はなかったわけだけど、原初の大厄災自体は教団と関係があるよね?」


『連中……闇の教団が使っている呪いとは一体()()()()、だ。昨日のスターヴとの戦闘していた時の口ぶりからして、エスト、お前はあの呪いの正体を知っているんだろう? そして、どうやらお前が一番研究していたのは魔法のルーツでも精霊でもなく、呪いの力だったんだな』



 エストはぐぬぬと言いながら立ち上がり、仕事机の上にあったコップの中の水を飲む。

 そして、いくつかの資料を持って元のソファにどさっと座りなおした。



「一応、他の大魔女たちから送られてきた大災司(ファリストス)が使っていた呪いの情報と、アチキが既に持っていた呪いの情報を合わせて、ある程度の推察はできているっス。本当はもうちょっとまとめてからセリスたちに渡したかったっスけど、不本意ながら今伝えてあげるっスよ」


「あ、不機嫌そうな理由はそこなんですね……」


「とりあえず、先に結論から。教団が使っている呪いは、大厄災の呪い……を参考にして作られた人造の呪いっス。さっきも言った通り、大厄災の呪いの残滓とは明らかに別種の、それでいてより濃度の高い呪いっスね。どこから湧いたかまでは流石に不明っスけど、教団がその呪いの源泉を保有しているのは確かっス」


「あ、それ連中の本拠地にある呪いの沼です。俺、地獄で見てきました」


「そういや、記憶が戻る前にループだとかそういう話のついでにそんな冗談話を聞いたような……。え、あれ冗談じゃなかったんスか? 地獄に闇の教団の本拠地? そして呪いの沼?」


『フィンしか見ていない情景ではあるが、ある大災司(ファリストス)の証言で明らかになった場所だ。名を獄楽城(パンデモニウム)という。沼の方は呪いの海原とか呼ばれてるそうだが』



 エストは額に指を当ててしばらく考え込んだ後、急に考えるのを止めて言った。



「よし、深く考えるのは止めとくっス。とにかく、大厄災の呪いとは別物ってことだけ押さえておくっス。最も肝心なのは、その性質についてっスから」


『考えを放棄したな……』


「それで、エスト様。その闇の教団の呪いってどういう性質なんですか? 心、魂、そういったものを力に変換して魔法に付与できるっていうのは分かってるんですけど」


「基本的には大厄災の呪いとほぼ同じ性質かつ、魔法に付与できるっていうのはご存じの通りっス。ただ、ちょっと違うところがあって、大厄災の呪いにあった特殊魔法を完全に無効化する耐性がないっスね。とはいえ、強力な耐性自体はあるっスし、基本属性の魔力が吸収される特性も弱体化しつつも存在してるっス」


『なるほどね。ずっと違和感があったが、そういうことだったんだな。確かに特殊魔法が効かないままなら空間魔法とかに呪いの付与すらできないはずだ。ということは、セリスがあいつらに有利な戦いを持ち込める可能性が増えたってことになるな』


「やったぁ! ちなみに、他に何か特殊な性質とかあるんですか?」


「実際にその呪い自体を十分に研究できてるわけじゃないんで推測も含むっスけど、連中の呪いはさっきセリスが言ったように魂の一部を呪いに変換することで力を得ているっス。そして、その呪いが祓われてしまうとその魂の一部ごと消えてしまう。セリスたちは見てるはずっスね、大災司(ファリストス)が廃人化するところを」



 セリスとフィンは少し重い面持ちで頷く。



「魂ってのは、簡単に言うと頭で考えなくても動いている心の根っこの部分っス。ちょっとややこしいっスけど、魔法の研究においては心と魂は似て非なるものとして扱うんスよ。心は魂から出でる気持ちや意思のことで、一方の魂は肉体を動かす原動力の1つとして存在する物質を指すっス」


『魂の一部が欠損するってのが心を失うことにも繋がる、ってのはこういうことだ。そして魂核ってのがあるように、魂は実在する物質として扱う。ロウィの魂がロヴィアの中に存在するのもそれを活用した仕組みだし、直近だとルインの魂が入ったゴーレムをルインが操作していたのもそれだな』


「その一部を、呪いに変換するって……かなりマズいことしてるんじゃ?」


「もちろんっスよ、セリス。変換した瞬間は人間としての機能が奪われた状態と同じっス。倫理的に完全アウトな実験っスよ。そして、魂を何かに変換するためにはかなりのコストがかかるはずっス。例えば、魂核はその人間の生命全てを代償とするっスよね? それがたとえ一部だったとしても、そのコストの重さは変わらないはずっス」


「もしかして、呪いの海原がそれを肩代わりしてる……とかでしょうか?」



 フィンの言葉にエストは少し考え、答えた。



「その可能性はかなり高そうっスね。その沼が魂を呪いに変換するための下地になっているのであれば、少ないコストで変換自体は可能だと思うっス。とはいえ、魂みたいな不安定なものを変換するってことは失敗も起きるはずっス。教団の連中はきっと、かなりの人数で実験と失敗を繰り返し続けている……と思われるっス」


「シバとルインが言ってた孤児院の子たちっていうのが、その実験に使われたって考えるべきよね。そして、生き残ったメンバーが今の闇の教団を構成しているんだわ。もしかすると、今も連中が経営している孤児院で同じような実験が繰り返されているんじゃ……」


『あぁ、想像に難くないね。あいつらが災司(ファリス)と呼ばれていた頃よりも状況がエスカレートしているわけだし、一体どれだけの犠牲者が出ていることか……。しかも生き残ったシバとルインが死体を爆弾にするなんて非人道的な悪行を行っていたところを見るに、孤児院の教育もかなり悪に偏ったものだと分かる』


「その辺は目下(もっか)捜索中っス。ロヴィアの報告があってすぐに、全ての国で一斉に捜索が行われているんスよ。まあ、地獄みたいな場所で行われていた場合はどうしようもないっスけど、子供たちを成育する場所である以上は食糧も必要だと思うっスし、どこかにきっと足跡は残されているはずっス」


『助かるよ。それで、連中の呪いについて分かってるのはそんなところか?』


「そうっスね……。あ、最後に1つだけ思い出したっス。スターヴが使っていた(うえ)の呪いについては既に解析が終わってるっス。あれはどうやら魂の底を喰らう呪いだったみたいっスね。要は、それが欠けると永遠に満足することができないどころか生きる糧すらも得られなくなってしまうんス」



 セリスは首を傾げる。



「あれ? どうやって解析したんですか? あいつの呪いの書は誰も回収してなかったような……」


「記憶が戻ったアチキにしてみれば、あいつが使っていた魔法から逆算して解析するなんて朝飯前っス! 呪いについては誰よりも研究してるんスからね。呪いも使用すれば魔力みたいなエネルギーの残滓が残るっスから、それから呪いの能力を解析してたんスよ。だからこそ、スターヴとの戦いであれだけ強気に出られたんス」


『いつの間に……。ってことは、本来アタシたちが最初に記憶を戻すべきだったのはエスト、お前だったということになるのか?』


「まあそういうことに……ん……? って、あぁーっ!? そうだったっス! ノエル、あんたよくもやってくれたっスね!? せっかくアチキが消した大魔女たちの記憶をほとんど戻してくれちゃって!」


『いやいや、結果的には記憶が消えた時点で既に手遅れだったんだし、文句を言われる筋合いはない! それに、記憶を戻さないと大災司(ファリストス)たちに勝てなかったんだから、むしろ余計なことをしてくれたのはお前の方じゃないか!』


「うぐっ……返す言葉もないっス……。実際、記憶が封じられた影響で大魔女たちに異変が起きていたことは確か……というか、身をもって味わったっスから反省はしてるっス……。多分、記憶を封じるってのは魂の一部を欠損するのと似たような状態だったんスね……」



 エストは落ち込んでうなだれている。

 すると、セリスは優しい声色で言った。



「反省するのは自由ですけど、そこまで落ち込まなくてください、エスト様。記憶が戻った後、大魔女様たちは誰もエスト様を責めていませんでしたから」


「セリス……」


「それに、記憶を封じられたことで色々と役に立つこともありましたし。そう、ルカ様の試練とか!」


「あっ」


『セリス、お前という奴は……』


「……まさかとは思うっスけど、カンニングしたんスか?」


「…………して、ませんよ?」



 そう言って、セリスはあからさまに目を背ける。



「それ、してる人の反応じゃないっスか! ルカは知ってるんスよね!?」


『あぁ、その辺はちゃんと解決済みだから安心してくれ。合格証も受け取っているが……まあ、筆記試験の得点自体はそこまで伸びてないというのが残念なところではある』


「ちゃんとあの後から、毎日勉強してるでしょ!」


「姉ちゃんにしては偉いけど、普通ならクリアしているはずの課程のはずで……っていうのはもう野暮かな……」


「まさか記憶の封印を悪用されることになろうとは……って、あ、そうだったっス。忘れる前に合格証をあげないとっスね。ペンダント、持ってるっスよね?」


「ペンダント……あっ、魔女見習いの証のペンダントですね! 記憶としては2年以上前に合格したきりだったので、すっかり忘れてました」



 セリスは魔女見習いのペンダントを取り出してエストに渡す。

 それを受け取ったエストは、魔力を込めてからセリスに返した。



「これであと1つだね、姉ちゃん」


「最後に残ってるのは、ヴァスカルにいる時の大魔女・クロネ様……か。緊張してきたわ……」


『ってことは、次に向かうのはヴァスカルってことになるかな。いや、そういえばロヴィアからノーリスに一度戻るように言われていたっけ』


「あぁ、そのことっスけど、ロヴィアは明日ここに来る予定っス。というか、呼びつけたっス」


『呼びつけた? どうしてだ?』



 すると、フィンが言った。



「俺が呼んだんだよ。正確には、シバを呼んだんだけどね」


「どういうことよ?」


「昨日言ったでしょ、スターヴと面会したいって」


「その辺は手続き終わってるっスから、明日の面会許可が下りてるっス。昼前に監獄前で集合するっスよ」


「ありがとうございます、エストさん。ってことで、少なくとも明日まではヘルフスに滞在するから。次の目的地は、明日の面会後に決めよう」


「アチキも立ち会うっスから、終わったらまたここで話をすれば良いっス」



 セリスはまだ状況が呑み込めていない。



「フィンは一体何するつもりなの?」


「スターヴにとどめを刺す。もちろん奪うのは命じゃないし、とどめを刺すのは俺でも姉ちゃんでもない」


『フィンでもセリスでもなく……って、フィン、お前まさか……』


「明日、シバをスターヴに面会させて情報を引き出す。そして、最後に絶交(ノー)を突きつけさせるんだ」


「あ……悪魔ね、あんた……。でも、それはそれで確かに気が晴れそうだわ。ちょっと楽しみになってきた」


「姉ちゃんはそう言ってくれると思ってたよ。じゃあ、エストさん。明日もよろしくお願いします!」


「待ってるっス!」



 そうして、セリスたちはエストの家から宿へと戻った。


 セリスはフィンが死ぬはずだった今日という日が無事に終わることを祈りながら、眠りへと落ちる。

 そして、セリスは幾百と続けた運命の日をようやく乗り越え、無事に明日を迎えることができたのだった。

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