78頁目.決戦と剣技とみちしるべと……
ノーリスでフィンたちと解散し、セリスはヘルフスへとやってきた。
それからエストと出会い、順調に4日目を迎えたのだった。
セリスはエストに頼んで銀行財布経由でルフールを呼び、予定通りにノルベンへと移動した。
そしてノルベンで準備を済ませたセリスは、ノエルと一緒に駅前で張り込んでフィンたちが駅が下りてくるのを待っていた。
『セリス、大丈夫か』
「うん、大丈夫。だって、フィンが覚悟してくれたんだから」
『絶対に仕留めなきゃな』
「うん……。今回こそ、絶対にあいつを倒してフィンを助ける」
すると、駅からフィンとシバとロヴィアが下りてきた。
セリスたちがいるのは落石が起きる予定の場所のすぐ近く。
フィンは右側の建物の陰にいるセリスを見つけると、小さく頷いて前へと進む。
そこに、それはやはり現れた。
「あれって……」
フィンたちの目の前に現れたのは、浮遊する黒い球体。
黒い球に白い曲線で模様が描かれており、それは回転を始めた。
その時だった。
「シバ、ロヴィアさん、俺から離れて!」
そう言ったフィンは2人を突き離し、前に走る。
球体もそれについてきており、2人とセリスたちから十分な距離を取ったフィンの目の前で、その回転を止めた。
瞬間、球体が破裂して黒い光を放つ。
それを浴びられたことを確信したフィンは、右腕を横に掲げた。
「……今!」
セリスはその腕に向かって炎の弾を放つ。
そして魔法の力で燃え始めた腕は次第に焦げていく。
「ぐ……っ……あぁ……!」
フィンは盲の呪いで触覚を消していたものの、感じ取れない痛みに悶える。
それでもセリスに全てを託すために、何とか死なないように堪え続けていた。
「フィン、すぐに死なせてあげるから。姉ちゃんが、助けてあげるから!」
涙を堪え、セリスは炎の弾を追加で放つ。
それが着弾すると同時に小さな爆裂が発生し、その衝撃で先に着火していた右腕が燃え尽きた。
そしてその瞬間、セリスたちの目の前に僅かな炎だけが残った。
その光景は、腕が焼失した瞬間にフィンの姿そのものが消えたことを意味していたのだった。
『よし、成功だ……! セリス!』
「短期決戦だもの、準備は万端よ! 全てを見通す運命魔法、『深淵より覗く魔眼』! 対象は……」
セリスは両手で顔を覆った隙間で両眼を見開き、それを見た。
「スターヴって男は最初から、ずっと彼女だけを見ていた。だから全てのカギを握っているのはあの子よ、シバ!」
セリスの感じる時間が遅くなる。
だが、シバに向けられていた強い眼差しはたったの1本しかなかった。
「やっぱり、ね……」
あまりの太い視線に驚きつつも、セリスはその線が伸びる先に視線が行かないようにその場を立ち去るのだった。
***
セリスは魔眼を解除しつつ、見つけた線の先に走り続ける。
それに追いついたノエルは、セリスに尋ねる。
『シバとロヴィアは本当に大丈夫なんだよな?』
「確証はないけど、きっとね。ロヴィア様があいつの攻撃を受けて死ななかったことがあったのは、あたしの行動の影響でフィンから一歩遠ざかっていたからだと思ったの。逆に、毎回フィンの近くにいたシバが絶対に死んでたのはそれが原因。実際、フィンからある程度離れていたあたしたちには何の影響もなかったわけだし、可能性としては十分でしょ?」
『なるほどね。あの呪いの発動した場所に近いほど、より強い不運が起こるってことか。確かにそれなら納得したよ。で、スターヴとやらまでの距離は?』
「もう着くわ。そこの上の広場!」
駅の周囲に広がる繁華街。
その一角にある小さな広場の奥に、その男は背を向けて立っていた。
今にも柵から身を乗り出しそうなくらい前に屈んで、スターヴはシバを見続けていたのだった。
「見つけた……。とりあえず、あいつに気づかれないように近づいて……」
フィンのために絶対に倒すと誓ったものの、セリスの魔力はほぼ尽きていた。
手持ちの魔導書の魔法では倒せないことを理解した上で、セリスは不意打ちを狙おうとする。
しかし、セリスは立ち止まった。
「うん、不意打ちはダメね」
『セリス?』
「あいつ、今回は殺気みたいなのが出てないけど、それでもやっぱり隙がない。近づいた時点で剣を抜かれるわ。可能な限りリスクは踏まないようにしないと」
『じゃあ、どうするんだ? これくらいの会話なら気づいてなさそうではあるが……』
「最悪の想定をしたプランを使うわ。あいつはフィンが消えたのが自分の魔法の影響だと思ってるだろうし、不意を作れるのはそれしかない」
『分かった。アタシは見守っておくことしかできないが、頑張れよ』
「うん、任せて」
そう言って、セリスは魔導書を構えつつ堂々とスターヴの背後から近づく。
そして、足元にあった石を投げつけた。
「いい加減、こっち見ろっての!」
それはスターヴの背中に命中し……なかった。
セリスが放った殺気に反応したのか、スターヴは振り向いて空中のその石を剣で打ち砕いた。
「お前、危ないだろ! 一体何なんだ! 僕の邪魔をするんじゃ……って、お前……! あの男の知り合いらしき女!」
「あんたのせいね……?」
「あぁ、あの男が焼け死んだことかな? 火の魔石でも飛んできたのか知らないけど、燃え尽きちゃったね? 僕のせい……って言ったらどうするんだ?」
「決まってるわよ。殺してやる……!」
「あっはは! 僕の魔法は無敵なんだよ? あぁ、でもシバに当たらなかったのはラッキーだったとして、もう1人の大魔女ってのに当たらなかったのは残念だった。まあ、任務は無事に完遂したってことだし……お前の相手くらいならしてやっても構わないかな」
「舐めた口叩いてんじゃないわよ。あたしは絶対にあんたを倒してみせるんだから!」
すると、スターヴは剣を構える。
セリスは舌打ちをして、後ろに下がった。
「魔女見習い相手に魔法で戦わないってどういうことつもり? まさか、さっきので魔力が尽きたのかしら?」
「それはこっちのセリフだよ。お前だって魔力が限界って顔してるじゃないか。いいか、僕はお前みたいな格下相手にあの魔法は使わない。むしろ、使ってくれないことに感謝してもらいたいくらいだ」
「あぁ、そう。でも、シバはそんなあんたを見てどう思うかしらね?」
「……どういう意味だ?」
「魔導士として戦わなかったあんたを見て、シバは失望すると思うのよね。だって、シバは剣技なんて興味ないって言ってたもの」
「そんな……そんなはずはない! シバは僕の剣技を見ていつも喜んでいた! お前が……お前がシバを語るなぁ……!!」
そう言って、スターヴはセリスに接近して剣を振り回す。
当たったら即死すると思えるほどの強烈な剣技は、セリスの髪の先端を掠めていった。
「こ、幸運で良かった……。あれ、普通なら死んでたわよ」
「ぼ、僕の剣技を避けた……? 今、一体何が……」
「何って、ちょっとよろけただけだけど。あぁ、教団の誰もあたしのことを教えてなかったか知らなかったか……ってところかしら」
「何が起きたと聞いてるんだ!」
「あたし、とっても幸運なの。だからあんたの攻撃も偶然避けられたってわけ。運が良いってやっぱり便利ねぇ?」
「幸運……幸運だって? あぁ、そうか……。だったらお望み通り、僕の魔法で不幸になってもらわないとね!」
そう言った瞬間、スターヴは剣を鞘に納めて懐から魔導書を取り出す。
そして、セリスの前にあの黒い球体が現れた。
「これ、さっきの……! マズい、下がらないと!」
「下がっても無駄だ! 僕の運餓魔法はお前に追尾して必ず命中する!」
「狙い通り、今だわ! 『空間転移・亜空接続』!」
「もう逃げても無駄だって言ってるだろ!」
セリスは亜空間のゲートを開く。
それと同時に球体は回転を開始した。
しかし、ゲートはセリスの周囲ではなく、スターヴの頭上に現れたのだった。
そして、その中からそれは飛んできた。
「どりゃあぁぁああああっ!!」
スターヴの頭の上から、目に見えない速さで人影が降ってきた。
そしてそれが目視できた頃には、スターヴの頭に強い蹴りが入っていたのだった。
同時に、完全に不意を突かれたスターヴは吹き飛ぶ。
「よっしゃ、ざまあねえな! アタシの蹴り、見たかよセリス!」
土煙の中から、そんな少女の声が響き渡る。
するとセリスの目の前にあった球体の回転は止まり、やがて消えていった。
「ええ、タイミングもバッチリよ。あんたにしてはやるじゃない、スティア」
「へへっ、アタシとアタシの『有翼の加速靴』にかかればこんなもんよ!」
そこに現れたのは、ノルベンにライセンス試験を受けに来ていたスティアだった。
「ちゃんとアレも持ってきてるわよね?」
「もちろん。言われた通りに装填してきた」
「じゃあ、最後の仕上げよ。あいつはきっとまだ立ち上がる。その前に仕留める!」
「セリスの口八丁に続けてアタシが作ったせっかくのチャンス、逃すわけにはいかねえからな。機能可変銃、照準合わせ……」
すると、スターヴはよろよろと立ち上がり、剣を振って土煙を払う。
その振りが終わった瞬間を狙い定めて、スティアは銃を撃った。
銃弾はスターヴに着弾すると思われたが、スターヴはそれを剣で切ってしまった。
しかしその銃弾は炸裂し、剣を通してスターヴに命中した。
「なっ……!? 防ぎきれな――!」
それは痛みを与える銃弾ではなかった。
周囲に起きた疑似的な電撃によって、スターヴは握っていた剣を手放した。
「こ、れは……! 身体が……痺れ……」
「知ってるかしら? それは神経を1か月は麻痺させる特殊な痺れ薬を込めた特別な銃弾。あたしたちを一度ピンチに陥らせた銃弾が、偶然にも市場に出回ってたのよ。もう口も動かせないでしょ?」
「最近、ホロネスとかいう発明家が壊れた機械と一緒に売っ払ったって代物だ。強力な割に銃弾、ってのが魔法社会の顧客のニーズに合ってなかったせいか、セールで売られてたんだがな。そんなもん、買うのは猟師かアタシくらいなもんだろ?」
「助かったわ。あんたと合流する前に偶然露店で見つけたんだもの」
「普通の麻痺弾じゃ数分が限度だろうから買うつもりもなかったんだが、ここまで強力な銃弾ともなればアタシでも買わざるを得なかった。全く、お前の作戦にうまく乗せられちまったよ。まあ作戦といっても、シバの近くにワープゲートが開いたら靴で加速して思いっきり飛び込んで攻撃しろ、って雑な指示だったけどな」
「時間がなかったんだから仕方ないでしょ。あんたはそれでも十分やってくれるって信じてたもの。でも……これで、スターヴは仕留めたわ!」
スターヴは剣からも魔導書からも手を放し、完全に気絶していた。
「あれ、でもこの弾使うなら最初からこいつを奇襲で撃ちゃ良かったんじゃ?」
「ううん、これで良かったの。あたしはあたしで知りたいことがあったし」
「ん? まあ、それなら良いんだが」
「それじゃ、この場はクロとスティアに任せたわ。あたしは……」
『あぁ、行ってこい。待ってるからな』
「うん……!」
セリスはその場をノエルとスティアに預けて、シバとロヴィアの元へと走り出す。
全ては、フィンが戻ってくるのを待つために。
***
「フィンは!?」
戻って早々、セリスはシバとロヴィアに尋ねた。
「戻ってきた……ってことは、無事に倒せたのね。良かったわ」
「フィン様、まだ。でも、きっとそろそろ」
「2人も無事で良かったです」
『あたいもいるよ』
「あぁ、ルインもいたのね。じゃあ、3人……いや、やっぱり2人と1体で」
『あたいがスティアがこの場所を見つける目印になってやってたってのに、その言い草はなんだ! でも、スターヴを倒すなんて中々やるじゃねえか。あいつはシバの兄を自称するただの変な男だったし、報いを受けたんなら何よりだよ』
それを聞いて、セリスは固まる。
「え、自称……?」
「シバの家族、ルインだけ。ママも、パパも、もういない。いるのは、ルインだけ」
『シバが可愛いのはこの世の真理だ。それには違いねえ。でも、それに一目惚れしたのか何なのか知らねえが、シバに付きまとったりシバに欲しいもん買ってやったり自分の魔法を教えようとしたり……。とっっっっにかく気持ち悪い男だったんだよ、あいつは!』
「スターヴ兄、優しい。スターヴ兄、良い人」
『ほら見ろ、シバは騙されやすいからこうやって絆されちまってんだ! シバが大人になる前に始末できて本当に良かった……』
「あ、あんたも苦労してたのねぇ……。でも、別に殺したわけじゃないし始末とまではいかないわよ」
『えー、さっさとくたばってくれりゃ良かったのに……』
すると、フィンが消えた地点の空間が歪み始めた。
そしてしばらく待っていると、そこに無傷の状態のフィンが現れたのだった。
「フィン!!」
「姉ちゃん、ただいま! 予定通りというか何というか、あっちで会ったラミティカがこっちに帰してくれたよ」
「やっぱりその辺はちゃんとしてるわね、あの女……。でも、ここで終わりじゃないわ」
「分かってる。今からまたラミティカに会いに行くんだよね。いつも通り、ヘルフスからこっちに来る列車に乗れば会える、ってさ」
「癪だけど……約束だもの。スターヴから呪いを回収したら、ルフール様にヘルフスまで移動させてもらいましょ。時間はいつもと違うけど、フィンにそう伝えたのならきっと会えるはず」
「それじゃ……やろうか」
***
そうして、呪いの回収を済ませたフィンたちはルフールに頼んでヘルフスへ移動させてもらい、ノルベン行きの列車に乗り込んだ。
そしていつもと同じ場所で周囲の時間が止まった。
現れたラミティカは、フィンの時間も動かしてくれたのだった。
「さてと、また会ったわね。今日この列車に乗ったの2回目だから、同じ外の景色には飽きちゃった。あの人のいない世界なんて、退屈でしょうがないわね」
「遠回しな言い方をするもんだね。そもそも俺たちをここに呼んだのはお前じゃないか。ノルベンからヘルフスに行く列車じゃダメだったのか?」
「同じ時間を繰り返しているうちの縛りの1つでね。同じ日に集合場所みたいな概念を決めようとするとどうしてもこの場所に制限されてしまうの。わたくしが固定しているのは時間だけじゃなくて場所も、だからかしらね」
「なるほどね……」
「それじゃ、早速だけどお願いしても良いかしら? わたくしはディーザ様に早く会いたくてこの場所にいるんだから」
フィンはセリスに目をやり、セリスは頷く。
セリスが亜空間を開く準備を完了すると、フィンは呪いを亜空間へと移した。
そして、2人は唱えた。
「「虚空魔法『白き穴』!」」
その瞬間、開いたゲートの中からディーザが排出された。
しかしそれと同時に、フィンはゲートから出てきたディーザと目が合った。
空中で回転しながら飛ばされ出てくるディーザは、フィンに手を構えて唱えた。
「闇呪魔法『滅光弾』」
黒い光の弾丸が1発、放たれる。
フィンはそれがセリスに当たらないよう、必死に庇った。
フィンの肩に当たったその時、フィンの姿が一瞬にして消え去ったのだった。
「ふむ……。滅光魔法を模してみたが、これではただ消滅させているだけだな。当たったものの存在を永遠に消す魔法など、至天の呪いには及ばぬか……」
「永、遠……?」
「決まっているでしょう? 呪いの力を持った人間なんて、生かしておく理由がわたくしたちにはないもの。ディーザ様を出してもらった時点で、この話は終わり。まさかディーザ様が手ずからやってくださるなんて思いませんでしたが」
「これも研究の一環だよ、我が妻よ。まさか我輩がこのような子供に捕まるなど思いもしなかったが、虚空魔法の中というのも実に興味深い経験を得られる場所だったものでね。色々と考える時間があったものだから、試しに新しい魔法を考えていたのだよ」
「どう、して……こんな……」
「どうしてと言われても、これはディーザ様が勝手にやったことですもの。わたくしは約束を破っていないはずよ? わたくしには特に止める理由もないし、知りもしないことを防ぎようもないわ。さあ、このままあなたもフィンと同じ場所へ送ってあげましょうか」
そう言って、ラミティカはディーザに微笑みかける。
ディーザは頷き、セリスに手を向けた。
その時だった。
「やっぱり、間違って、なかった……」
「……ほう? 何がだ?」
「絶対、こうなるって……そう、言ってたから」
「急に何を…………はっ!? この、声……!」
その瞬間、セリスは自分の身を土塊のようにボロボロと崩し、その中身を出した。
ラミティカとディーザは視線を下げる。
「シバちゃん……!?」
「これは、土震魔法のコピー……! またしてもお前か、シバ……!」
「セリスが、言ってた。フィン様は、きっと、殺されるって。だから、シバに……頼んだ!」
「スターヴちゃんを倒せたとしても、わたくしがフィンを殺す可能性を考慮して先回りをした……? いえ、今のあの子にそんなに冷静な判断ができるわけが……!」
「セリスは、何百回も、繰り返した。今回のために、次に繋げるために」
「せっかく助けたフィンも、シバちゃんも、全部……駒として利用したというの……? 何回も繰り返してきたというのに、それを全て投げうってまで……? あの子の底は一体……」
すると、ディーザは怒気を放ちながらシバに手を向ける。
「もう良い! 我輩のみならず、ラミティカまでをも裏切るのであれば死ねい!」
「これは、裏切りじゃ、ない。これは――」
***
シバに預けられた『震の呪い』の魔導書を手に、セリスはロヴィアたちと一緒にノルベンに残っていた。
そして、それが灰のようになって消えていったのを見て、自分の予想が正しかったことを悟った。
「ありがとう、ごめんね……。でも、これが未来への道標になる。これでダメなら、次にやることはもう決めてあるんだから」
『過去に戻るんだし、過去への道標じゃないのか?』
「ううん、あたしは未来を掴むためにこの道を歩くし、この道を忘れないよう覚えておくの。やっぱり螺旋状の道を落ちる感覚っていうのは気のせいだったのよ。最初からあたしは前に向かって歩き続けてただけなんだから。これはフィンとシバが繋いでくれた道。これは――」
***
「「これは、未来のための分岐点。次の自分に、未来の自分に、全てを託して歩いてもらうために、生きるために繋げる道だから……!」」
***
セリスはそうして、333回目の落下を経験する。
でも、それはいつもとは違ってふわりとした感覚。
まるで布団の中に落ち続けているような、夢見心地な感覚。
その時、セリスはこの能力の本質にようやく気がついた。
何度も同じ悪夢のような経験をした。
何度繰り返してもとても悲しいだけで、心が完全に壊れきることはなかった。
何度も繰り返したその場所は、いつも朝だった。
朝、目が覚めるとほとんど覚えていられないもの。
それでも、記憶に残って、こびりついているもの。
それこそが、フィンを想って前に進み続けることでセリスが得た能力。
諦めた運命を、前に進むという決意によって魂に刻み、運命そのものを悪夢としてしまう能力。
フィンを傷つける、失う、そんな悲しみを受容できないセリスだからこそ得た防御能力。
『全て、悪い夢だった。』
魔法のようなこの言葉は、魔法のような力によって、まさにセリスにとっての現実となったのだった。




