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魔女セリスと8人の大魔女 〜この世で二度目の大厄災〜  作者: もーる
第2章 大魔女と弟子
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8頁目.師匠とロマンと親友と……

 少しして師弟喧嘩が収まり、ロウィは咳払いをして言った。



「それじゃ、これでノエルに関することとかこれからの目標とか、ある程度理解してくれたってことで大丈夫かな? 問題なければ、アタイはそろそろ工房に戻ろうと思うんだけど」


『アタシは問題ないよ。アタシの過去とかその辺についてはアタシが教えておくし、ロウィは仕事に戻ってくれて構わない。世話になったね』


「2人もそれで大丈夫?」


「はい。あたしの旅の目的はずっと前から変わらないし、ノエルの承諾が得られただけで十分です。ありがとうございました!」


「俺も問題なしです。ノエルについては色々と聞きたいことがあるけど、師匠の仕事を邪魔するわけにはいきませんから」


「少しくらいなら気にしなくていいのに……。まあ、いっか。じゃあ、3人とも頑張って来い! アタイはロヴィアに何も言わないでおくから、ロヴィアとの試験の日が来たら心の中で応援しておくとするよ!」



 ロウィは、セリスとフィンと握手を交わしてからノエルに近づく。



「ノエル、また会えて嬉しかったよ。ロヴィアにも会わせてあげたかったんだけど……」


『それが叶わないのは闇の教団のせいだが、逆にこうして会えたのは闇の教団のおかげみたいなもんだ。連中に感謝する気は毛頭ないが、3度救われたこの運命、絶対に無駄にはしないから』


「うん、それでこそノエルだ。あ、そういえば最初は誰の試験を受けに行くつもり?」


『え? 決められた順番で国を回るのかと思ってたんだが、選べるのか?』


「ええ、魔導士見習いになった時点で、それ以降いつライセンスを取るかは自由……っていうか、修行を全て終わったって認められるまでの期間が人によってまちまちなのよ。だから、個人の適性に沿った修行ができるようにって、順番は自分で好きに決めていいの」


『つまり、どの大魔女から魂を呼び起こして説得するか……って基準で決めても問題ないんだな? もちろん、セリスがこの大魔女から最初に指導を受けたいとかいうのがあれば別だが』



 セリスは首を横に振る。



「あたしのことは気にしないでいいわよ。説明会で聞いた話によると、試験の内容と大魔女様の得意とする属性は直接関係しないらしいの。だから、どこに行けばあたしにぴったりな修行をつけてもらえるかなんて、受けてみないと分からないってこと」


『まあ、何となく誰がどんな試験をどんな方針で出すかの予測はできるが、最初に選ぶなら可能な限り温厚な性格であるに越したことはないかな。というか、その試験の内容って先に知ることはできないのか?』


「基本的に試験の内容は門外不出。って言っても、大魔女様の気の向くままに試験の内容は変化していくらしいし、修行完了の基準も大魔女様次第らしくてあんまり出回ってないだけなんだけどね。まだまだ力不足だと思ったら、途中で他の大魔女様のところに行くのもアリらしいわよ」


『思っていたよりも随分と緩い試験だな……。見習いになる方がずっと大変なんじゃないのか……?』


「それは当然だよ。アタイが言うことでもないかもしれないけど、()()大魔女たちから与えられる試験をこなせるかどうかって前提が必要なんだ。魔導士としてある程度の力があることを証明するためには、その試験が一番厳しくなきゃね」


『なるほど、そういうものか。じゃあ、最初に行く場所をすぐに決めるよ。少しだけ時間を…………いや、決めた』



 あまりに早い決断に、セリスたちは首を傾げる。



『最初に行くのは東の国・ノルベン。空間の大魔女・ルフールが待ち受けている国だ』


「へえ、ルフールか……。別にそこまで温厚な性格ってわけでもないと思うけど、その心は?」


『他の大魔女の中だと、あいつが一番分かりやすい性格をしているからだ。試験の内容も何となく分かる』


「姉ちゃんからどういう大魔女かはざっくり聞いたことあるけど、ノエルとはどういう関係なの?」


『アタシの師匠だよ』


「ふーん、師匠……。って、ノエルの師匠!? つまり、あたしの師匠の師匠ってこと!?」



 セリスは驚きつつ、頭の中を整理しようとしている。

 ロウィはノエルに尋ねた。



「じゃあ、ノルベン行き確定ってことでいいね?」


『ああ、決まりだ。最初に交渉するなら一番うってつけの奴だからね。2人が良ければ、明日にでも出立しよう』


「あたしたちは元々そのつもりだったから問題ないわ。ノルベンに限らず、試験に参加できるタイミングは週に1回。早く到着できるに越したことないもの」


「分かった。じゃ、また明日。アタイが見送りに行くからさ」


「え? 忙しいなら来なくても良いのに──ったあ!?」



 フィンの頭にセリスの手刀が落ちる。



「ちょっ、フィンのバカ! 弟子と親友の旅立ちを同時に見送る機会なんて、滅多にない機会なのよ! 全く、ロマンのカケラもないんだから……。ほら、謝って」


「ご、ごめんなさい、師匠……」


「じゃあ……許してやるからその籠手(ガントレット)、置いてってもらえる?」


「えっ、これを置いてったら俺はどうやって戦えば……」


「これはアタイがお前のアイデアを元に作ってあげた逸品だ。でも、これからはお前自身が自分自身で必要な武器や戦い方を編み出していく必要がある。これはその初めの一歩だよ」


「俺自身の武器や戦い方……」



 フィンはしばらく考え、籠手(ガントレット)を外した。

 そして、それをロウィに手渡す。



「俺、考えて、作ってみせますよ。俺自身を強くするための大発明を!」


「その意気だ。じゃ、こいつは預かるとして……アタイは仕事に戻るよ」


『また明日、ロウィ』


「ああ、また明日。さーて、仕事頑張るぞー!」



 そう言って、ロウィは工房へと戻るのだった。



***



 その日の夜。

 宿に泊まっていたセリスとフィンはノエルの話を聞こうとソワソワしていた。



「まさか大魔女様の話を聞けるだなんて……」


「まあ姉ちゃんにとっては憧れの存在だからね。俺も詳しい話は気になるところだよ」


『なに、焦らなくても時間はたっぷりある。まずはアタシの話を詳しく進める前に、ざっくりとしたアタシの人生のあらすじを魔法暦に沿って追っていくとしようか。ついでに、魔法の歴史についてもおさらいしておこう』



***



 魔法暦 元年──。

 原初の魔女・ファーリがこの世に生まれた。

 それはつまり、この世に『魔法』が生まれたって意味でもある。


 魔法とは、魔導士と呼ばれるファーリの子孫たちが使う不思議な力。

 その魔導士の中でも取り分け、女性の魔導士は魔力が強く、『魔女』と呼ばれている。


 しかし、魔法暦107年。

 ファーリはあることをきっかけに魔力を暴走させ、呪いを撒き散らす『原初の大厄災』へと変化してしまった。


 そして、他の魔女たちによって、大厄災は7日で鎮められる。

 この事件以降、魔法という力は脅威とされ、それからしばらくの間は魔法文化の低迷が続いた。



***



『ここまでは問題ないね? 2人とも当然知ってるって顔だ』


「もちろんよ。魔女見習いとして知っておくべき物語のあらすじだもの」


「実話だってことも理解してるよ」


『じゃあ……。ここから時が流れて、アタシの話をざっくり話すとしよう』



***



 さらに、魔法暦187年。

 魔法文化が少しずつ元に戻るようになってきた頃。

 ある1人の魔女が自分の義理の息子を蘇らせるために、8人の魔女たちの力を借りてその蘇生を果たした。

 その9人の魔女たちは『大魔女』と呼ばれ、9つの国々それぞれで名を馳せた魔女だったんだ。


 そして、蘇生を果たしたその日。

 1人だけ、北の国・メモラの大魔女だけが歴史からその名を消した──。



***



「それがどっちもノエルってわけだね」


『そういうことだ。だが、そう言うフィンは知ってそうな顔をしていたな? もしかしてイースから聞いていたのか?』


「あぁ、いや……。魔女狩りに巻き込まれて死んだイースを蘇生しようとして、色んな魔女の力を借りたことは知ってたけど、その魔女たちが大魔女だったとか、ノエルが大魔女だったとか……。そういうことを知ったのは今日だよ。正直、驚きを隠せない自分がいる」


「あたしもその蘇生魔法とかの話をフィンから聞いたのは、2年前のあの日以降のことだったわ。でも、確かにそんな魔法を作れる魔女なんて大魔女様たち以外あり得ないわね。どうして今まで気づかなかったのかしら」


『なるほど、イースはそこまで話していたのか……。まあ、今となってはアタシたち以外は誰も知らない過去の話さ。むしろ理解してもらってるくらいが話しやすくてちょうど良い』


「で、ここからがあたしたちの質問タイムってわけね」



 そう言って、セリスはずいっと前に出る。



「じゃあまずは……他の大魔女様たちとの関係性について話してもらおうかしら。さっきのルフール様のこともあるし、蘇生魔法の研究をするにあたって、ただの友人関係で収まるような関係じゃないと思うのよね……」


『うーん……ちょっとばかり伝えるのを躊躇っていたんだが……。仕方ない、話すよ。まずはお前たちからも身近な人物からいくか。ロウィのもう一つの人格・ロヴィア。彼女はアタシが力を貸したことをきっかけにこの国の魔導工房の運営を発展させた女だ』


「俺の()()()とは友人関係だけど、裏師匠がノエルに恩があるってこと?」


『アタシが言うことでもないけどね……って、裏師匠とか呼んでるのか……。まあ元はと言えば、死んだロウィの魂を集めて復活させる手伝いをしたのもアタシだ。むしろそっちが先だな』


「裏師匠どころか、師匠の命の恩人ってこと!? そりゃ、ただの友人関係で収まる間柄じゃないのは確かだね……」


『詳しい話は移動中にでも教えてやるよ。今はセリスの質問に答える時間だからね』



 セリスは次を求めるように目を輝かせている。



『じゃあ……ここからは人間関係を説明するための順番で話すとしよう。次は西の国・セプタの水の大魔女・サフィア。あいつはアタシの一番弟子だ。一番最初の弟子って意味も含めてね。多分、大魔女の中では一緒に旅をした時間が最も長い』


「……えええっ!? サフィア様がノエルの弟子!? ってことは、サフィア様があたしの姉弟子!? あたし、スーパーアイドルの妹弟子!?」


「いや、別に姉ちゃんはアイドルと関係ないから。ノエルが言ってるのは魔女としての師弟関係であって……」


「わ、分かってるわよ。でも、サフィア様が姉弟子だなんて……。あぁ、想像するだけで幸せだわ……」


『ま、まあ喜んでもらえてるなら何よりだ……。次は北西の国・プリングの火の大魔女・マリン。あいつはサフィアを弟子にした直後に食いついてきたアタシの永遠のライバル。サフィアと同様に、アタシと長く旅をしてきた仲間の1人だ』


「あのサフィア様の姉ともなると、やっぱりもの凄く強くてもの凄く麗しい人だったのよね……? そんな人と旅をしていたなんて、羨ましい……」



 すると、そのセリスの意見に反対するかのように、ノエルは羽根を斜めに傾ける。



『あいつが……麗しい……? いや、確かに美人だったとは思うが……。いやいや、子供の夢を壊すのは可哀想か。じゃあ、次! 南西の国・ヴァスカルの時の大魔女・クロネ。アタシの()()だ。ついでに、ルフール同様に師匠でもある』


「へえ、あの魔導士学園ウィザード・アカデミーの初代学長で、魔法暦を作ったっていう時の大魔女・クロネ様の娘かぁ。あっ、てことは、あたしたちの祖先の光の大魔女・ソワレ様とも姉妹ってことに…………って、はい??」


「ノエルが()()大魔女クロネの娘で、俺たちの遠い親戚……!?」


『どんな魔導士も、元を辿ればファーリの子孫だ。遠い親戚であっても何もおかしいことじゃないさ。あぁ、ちなみにソワレはアタシの姉だ。ソワレ村のことも知っていたよ。当然、黙ってたけどね』


「いやいや……そういう問題じゃないわよ!? そんなの、この世の誰も知らない……あ、そうか……」


『そう、誰も知らないのが正解、なんだ。それが【ファーリの心臓】を封印したアタシの存在の在り方だからね。だから、2人ともそんな目で同情しなくていい。さあ、次だ次! 南の国・ラウディの風の大魔女・ルカ。あいつは……いや、そこまで深い関係性ではないか?』



 フィンは尋ねる。



「これまでの大魔女とはかなり深い関係だったのに、風の大魔女とは特に何もなかったの? 俺、大魔女ってのは全員仲が良いものだと思ってたよ」


『仲は良かったさ。最初はラウディの海で発生した大竜巻を一緒に消したことをきっかけに、あいつと仲良くなったんだ。元はクロネさんが蘇生魔法作りの協力者として推薦してくれたんだが、当時は未熟でね。アタシとサフィアで修行をつけてやってた』


「ラウディの大竜巻……。あ、教科書で読んだことあるわ! ルカ様がサフィア様とマリン様と一緒に大竜巻の元凶となった巨大な魔物を退治したって! 本当はそこにノエルもいたのね」


「確かに、他とは違った関係性というか……。あえて言葉にするなら、盟友……って言えば良いのかな」


『そういうことだね。次が最後だ。北東の国・ヘルフスの運命の大魔女・エスト。こいつはマリンの師匠でもあるんだが、アタシはそれ以前にイースと一緒に世話になってた時期があってね。あいつはメモラに住んでた時期があったんだ』


「じゃあ、師匠、親友、弟子、好敵手、家族、盟友ときて、エスト様は旧友ってこと? ノエルと大魔女様との関係って、聞けば聞くほど面白いわね。旅もきっと楽しかったんだろうな……」



 ノエルは羽根を縦に振る。



『だからこそ、アタシは蘇生魔法を完成させられたんだ。あいつらの支えがあったからこそ、アタシはここにいる。あぁ、イースもそこにいるんだったね。じゃあ、イースもだ』


「そうだね……。やっぱり、俺……この旅を絶対に成功させなきゃな……」


「あたしも同じ気持ち。あたしの目的は魔女ライセンスを取ることだけじゃないもの。魔女ライセンスのその先……。ただ突き進むのみ! 何とかなる!」


『とりあえず、これでセリスの質問には十分に答えられたか?』


「ええ、細かいところは後で聞くけど、今はそれで十分」


「じゃあ、次は俺から。ノエルってどんな魔女だったの? 大魔女って時点で実力があるのは分かるんだけど、いわゆる大魔女内での強さの序列みたいなのも気になる」



 すると、ノエルは自信満々にこう言い放った。



『アタシは闇の大魔女。今や禁術としてヴァスカルに封印されている、あの闇魔法の使い手だぞ? 当然、大魔女の中では最強に決まってるじゃないか!!』

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