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魔女セリスと8人の大魔女 〜この世で二度目の大厄災〜  作者: もーる
第6章 目指すべき場所
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48頁目.ダイヤルと一番の謎と自信と……

 また現在に戻り、ルカは怪訝な表情をしていた。



「結界の風魔法の回転が逆だったと……? その時のボクも言っていたようですが、そんなことにボクが気づかないはずが……」


『呪いの濃度と先入観のせいだってアタシは言ったが、それでも納得できないのか?』


「ええ、当然です。間違いなく治し風の回転方向は順転でしたから。もちろん、風をぶつけて試した結果ですよ」


『ぶつけて試した時の感触、もしかして呪いの魔力を弾いていただけだったんじゃないか?』


「え? まあそう言われてみれば確かに、風魔法同士がぶつかる時の感覚とはちょっと違っていたような気も……」


『じゃあそういうことで。そもそもどうしてと言われても、今のアタシたちには真実など分かるわけがないんだからね』


「全く、未熟で申し訳ないです……。では、話の続きをどうぞ。次がほぼ最後、ボクが記憶を戻す時の話になるのでしょうか」



 セリスとフィンは頷いて、話の続きを始めた。



***



 ルカが結界の魔法で治し風を防いだ日からちょうど1週間後。

 1日前の忘れ風の日までずっと研究室で魔法を作り続けていたルカだったが、忘れ風を防ぐ結界は結局完成させられなかった。

 そして、この日の治し風に以前作った結界が改めて対抗できるのか試そうと、研究室から出てきた。



「あ、ルカさん。進捗は……?」


「忘れ風の方はともかく、治し風に対抗できる結界は先週と同じものを用意できました。量産化できるまでシンプルにするのはもう少しかかりそうですが」


「やっぱり、忘れ風の方は記憶が戻らないと難しいんでしょうか? 進捗としては記憶を失う前の方が進んでるわけですし」


「体感的にはそうですね。ずっと何かが足りない感覚というか……。いえ、完成した治し風用の結界に関する情報は可能な限りで残してきましたし、きっと記憶が戻れば大丈夫でしょう」


「なるほど……。あ、そうでした。今日はクロの付き添いはなしです。時期的に姉ちゃんに勉強を教えたいとかで」


「おや、残念です。前回はクロさんの目のおかげで魔法が完成しましたし、改めて礼も言っておきたかったものですから」



 そう言って、ルカは研究室の扉を閉める。



「では、行きましょう。先週の結界がまぐれではないと証明しましょう。そしてその後に記憶を戻します。フィンがいれば記憶の整合も取れるでしょうし、元のボクが結界の魔法を完成させてくれることを信じて」


「え、ええ。分かりました。そのつもりで俺も動きます」



***



 ルカとフィンはそれからすぐに風域に向かい、治し風に結界をぶつけた。

 結果としては、治し風用の結界が通用することを無事に証明することができたのだった。

 安堵したルカはフィンに結界の魔法を預け、記憶を戻すために風域に近づく。



「1週間分の記憶が消えてしまうのはある意味大誤算でしたが、研究室に入ればそれ以上の功績が残っているはず。それに、フィンが全てを知っていてくれていますし問題はないでしょう。頼みましたよ、フィン」


「もちろんです。伝えられるだけの情報は伝えます」



 そう言いつつ、フィンは後ろ手にスティアから預かった魔具を握っていた。

 それは魔石を壊すことで遠くにある別の魔具に信号を送ることができる、というものだった。



「(今回はルカさんの記憶が消えてくれるから、その間の一瞬だけ魔力を放出するタイミングが生まれる。あとは遠隔からスティアさんが時導針(マギアグラフ)の時間を1週間前の記憶が消える直前に合わせてくれるはず……!)」



 ルカは風域に入っていく。

 そして、やがて意識が途切れてその場にへたり込んだ。



「(今だ! 頼んだよ、2人とも!)」



 フィンは勢いよく魔石を割った。



***



 空き教室でフィンの合図を待っていたセリスとスティアは、魔具から信号が発せられたのをすぐに察知した。

 セリスは机の上に置いてある時導針(マギアグラフ)の操作盤に手を向ける。



「……きた! スティア、いくわよ!」


「あぁ、最後の調整は任せとけ!」


「『途岐戻し(エル・リワインド)』!」



 セリスがそう唱えると、時導針(マギアグラフ)の操作盤のダイヤルが高速で逆回転を始める。

 そして、スティアの合図とともにダイヤルが止まり、スティアは指でダイヤルを回して時間をぴったり合わせたのだった。

 するとクロが終わったのを察知して部屋に入ってきた。



『完璧だ。アタシが見た時間とちゃんと同じになっている』


「ダイヤルを手回ししなきゃならねえのが難点だったが、時魔法ってのは便利なもんだな」


「それはこっちのセリフ。遠隔で時計を操作できる魔具なんて都合が良いの、どこで見つけてきたのよ。そんな操作盤、普通は何の意味もないものじゃない?」


「違う、こっちが本体だ。正確に時間を計測する魔具と、その時間を文字として表示する時計。2つセットで魔具として成り立つんだよ。ただ、時間を計測するっていっても本当に今を計測してるんじゃなくて、本体が作られた時間を元に計測が行われてる」


『一応、調整できるように数分くらいなら前後に操作できるんだったか。遠隔から操作できてしまうのはどうかと思うが、これも魔具の粋ってもんだね。製作者の考えがモロに出る』


「ははっ、確かに。魔具が個性に溢れているってのは間違いねえな」



 セリスは時間が巻き戻った操作盤を眺めながら言った。



「正確に計測って、あくまで製作者基準ってことね……。本当に都合が良すぎる出会いだったわね、スティア」


「あぁ、もしかしたらお前の運を吸い取っちまったのかもな?」


「じゃあ、あたしのおかげってことで」


「どうしてそうなるんだよ!?」



***



 一方その頃、ルカは時導針(マギアグラフ)の動作に気づかないままふらふらと風域から外に出てきた。

 フィンはルカを受け止め、正気に戻るまで声をかけ続けた。

 すると、1分ほどでルカはハッとしてポケットに入れていた時導針(マギアグラフ)を取り出す。



「……なるほど、どうやら()()()()()は治し風を防げなかったようですね。付き添い感謝します、フィン」



 フィンは時導針(マギアグラフ)の時刻を確認した後、心の中で成功を喜びつつ言葉を返した。



「き、記憶が戻ったんですね!」


「ええ、しっかりと。いや、1日分は記憶を失っているのでしっかりとと言うべきではないでしょうけど……」


「とりあえずお疲れさまでした。記憶の混濁があるでしょうし、今日はゆっくりしていてください」


「そうさせてもらいます。では、戻りましょうか」



 こうしてフィンの作戦は無事に成功し、ルカの1週間分の記憶の消去に成功したのだった。



***



 そして、セリスたちが試験に無事に合格した直後の現在へと戻る。

 話を終えたフィンにルカは言った。



「ちょ、ちょっと待ってください。一番の謎が残っているんですが……」


「と、言いますと?」


「ボクが今日までの3日間、どうして研究室に入らなかったのかについてですよ。もし研究室に入った時に治し風用の結界が完成していて、さらに忘れ風の研究が進んでいたりなんてしたら、明らかに1日の成果ではないことに気づけたはず。そこまで計算に入れていなければこの作戦は破綻していたはずですよね?」


『研究って……。お前、ここ数日ずっと忙しかったんじゃないのか?』


「確かに、これまでの倍以上の書類作業に追われて研究どころではありませんでしたが……。それでも研究室に入ろうとは思いましたとも」


「思った、ってことは実際は入れなかったんですね? 忙しすぎて」


「ま、まあ、それは事実なのですが……。でも結局は意思の問題でしょう? ボクが仕事を小休止すると言って研究室に入る可能性だってあったはずです。いくら仕事が増えたところで……」



 ノエルは言った。



『でもお前は書類仕事を何より優先するだろう? いくら国を守るためにしている魔法の研究とはいえ、国からの依頼は書類の処理の方が緊急性が高い。だから、研究より先に書類仕事。少なくともアタシが知るルカという女はそういう大魔女だ』


「元より1週間分の仕事が溜まっていたわけですからね。それに、大魔女に届く書類仕事に日付を確認するような内容のものはない……だったわよね。クロが言うには」


「クロさん、あなたは一体……」


『その辺りの説明は追々だ。今は書類仕事も落ち着いたんだろう? 早く研究室に入って忘れ風に対抗できる結界を完成させようじゃないか』


「で、ですが……」


「あぁ、もう待ってらんねえ! アタシらがあんたの1週間分の記憶をたかがカンニングのためだけに消したのは謝る。それについては悪かった。けど、何の準備もせずに消したつもりはねえし、何より記憶が消された間のあんたの思いと努力を無駄にすんのか! 時間がねえのは分かってんだろ!」


「っ……!!」



 スティアに啖呵を切られ、ルカはハッとする。

 そして、ルカは急いで研究室のドアを開けて入った。



「こ、これは……!」



 ルカは部屋の中の状況を一瞬で把握し、机にばらまかれた魔導書の内容を急いで読み解く。

 セリスたちも後を追ってルカの研究室へと入った。



『どうだ、ルカ。忘れ風に対抗できる結界、作れそうか?』


「い、いえ、そこまではまだ……。ですが、この時のボクはきっと何か覚醒していたのでしょうね。今のボクでは思い浮かばないような術式がいくつか見受けられますし……。とりあえず、少しだけ時間をください」


「あぁ、さっさと解読して忘れ風に勝てる結界を作ってくれ。アタシは試験に合格できたし、早く教団の奴を潰して別の国の試験を受けに行きてえんだ」


「ちょっと、スティア。さっきからルカ様になんて口の利き方してるのかしら? これだから大魔女様にリスペクトがない魔女は……」


「姉ちゃん、話がややこしくなるからスティアさんと一緒に黙ってて」



 セリスたちが黙って見守る中、ルカは魔導書を読み進める。

 しかし……。



「……ダメです。やっぱり忘れ風の結界の方はボクなんかには作れそうにありません……。明らかに記憶が消える前の状態の方が理解度が進んでます……」


『うん……?』


「確かに、あの日治し風用の結界を作った瞬間はこれまでと違う雰囲気はありましたね。まさか記憶を消さない方が良かったんでしょうか……」


「いえ、それではさらに記憶が消えてしまう期間が長くなってしまったでしょうし、そのことは気にしないで良いです。むしろ、その時のボクが記憶を戻してくれて感謝したいくらいですから。ですが、やはり今のボクなんかではその時の覚醒度合いを超えられるとは到底……」


『やっぱり、おかしい』



 ノエルはルカを見てそうはっきりと言った。

 ルカは戸惑う。



「え……? クロさん……?」


『確かに昔のお前は自分に十分な自信が持てずにいた。だが、大魔女になってからは自信を持って何事にも恐れずに立ち向かっていたはずだ。実際、その力に助けられたこともあったんだ』


「昔のボク……?」


『それなのに、今のお前は明らかにおかしい。この60年で何があったかは知らないが、間違いなくお前は自信をなくしている。数日前から感じていた違和感、お前に欠けていた要素、それがようやく分かった。そしてそれは……』


「あっ! もしかして、それが失われた――!」



 ノエルはルカの元へと飛んでいく。



『ルカ、少し時間をくれ。アタシの羽根の根元にある宝石に触れて欲しい』


「え、えぇ……? それはどういう……」


『頼む』


「……ボクはあなた方を信頼していました。ですが、記憶を消された挙句に急にそんなことを言われても……」


『ええい、まどろっこしい! どうせ誰も見てない部屋の中だし、こっちから行くぞ!』


「ちょっ、ええっ!?」



 ノエルはルカの手に直接宝石を触れる。

 その瞬間、ルカはその場に倒れ込み、羽根ペンは手に触れたまま光を放っていた。



「え、今何があったんだ?」


「ちょっと待ってなさい。後で……説明して良いって言われたらしてあげるから」


「いや、流石にスティアさんにあの話をするのはマズいんじゃ……」


「何だよ、そう言われたら気になるだろ。教えろよ」


「とりあえずはクロに任せましょ。少し待ってればきっと大丈夫だから」



 こうしてセリスたちが待つ中、ノエルはルカの記憶の海に潜る。

 そして、ルカの記憶の中に眠るノエル自身の記憶を探して、より深みへと進むのだった。

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