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魔女セリスと8人の大魔女 〜この世で二度目の大厄災〜  作者: もーる
第6章 目指すべき場所
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47頁目.仕込みと逆とアドリブと……

 現在からちょうど2週間前。

 セリスたちの2回目の試験が終わった日の夜、セリスたちは宿で作戦会議をしていた。



「スティアの魔具の仕込みもテストの番号の把握も、全部作戦通り。今日のテストの結果は散々だったけど、これなら予定通り来週のテストを暗記すれば良さそうね」


「その前に一番重要な仕込みがあるけどね」


『あぁ、そうだな。次の忘れ風で忘風病になったルカに、()()()()()()()()。そしてそれから1週間経過した後に治し風に当てることで、ルカの記憶を7日分まるっと消そうっていうんだからね。フィンからこの作戦を聞かされた時はとんでもない発想だと思ったもんだよ、全く』


「どうやって当てないかをまだ決められてないから、成功するかは博打だけどね。最初はどうにかして風が吹いている間だけでも研究室に閉じ込めておこうと思ってたんだけど、どう考えても説得や力づくでどうにかできる相手じゃない。あの見た目で惑わされそうだけど、風魔法を直に受けて諦めたよ……」


『実力の話ならフィンなんて相手にならないのは当然だろう。説得の方は……確かにルカは大魔女の中でも特に強情だ。こだわりが強いというか、一点集中型というか……』


「それも重々承知してるよ。じゃないと風の弾を撃つ兵器なんて最初に作らないだろうからね……」



 すると、セリスは言った。



「じゃあ、物理的に治し風に当てないってのはどう? 魔法の壁で覆うとか」


『それができれば忘風病の対策もできてるだろう?』


「んー、それもそっか。それなら……風自体をどこか別の場所に送るとか?」


「例えば空間魔法とか?」


「そうそう。まあ呪いに特殊属性の魔法は効かないから、普通の空間魔法は無理だろうけど。あ、虚空魔法ならどうにかできるかも!」


『虚空魔法を使うにはフィンの協力が必要だ。流石にルカの近くにいるとなると呪いの発動をルカにも教団にも感づかれてしまう。なるべく避けたいところではあるが、最終手段として取っておくべきだろう』



 セリスたちはしばらく黙って思考を回転させる。

 しかし、結局のところ結論は出なかった。



「……やっぱり、一番はルカさんが魔法を完成させることじゃないかな」



 話が終わろうとした時、フィンはそう言った。



「でも、完成まで2週間くらいかかるんでしょ? それをあと4日でって、作戦に組み込むには難しいんじゃない?」


「うーん、見てる感じはあと少しだと思うんだよね」


『あと一歩、何かが見つかれば……ってところか?』


「そう、そんな感じ。魔法のベースはほぼ完成したみたいだし、今ならノエルの手助けも役に立てるんじゃない?」


『確かに頃合いではあるか……。ルカの記憶を戻すタイミングについてもそろそろ考えるべきだと思っていたんだ。フィンから見たルカについて、アタシの記憶がなくなっていることによる影響みたいなのって何かあったか?』


「いや、さっぱり。でも、記憶が消える時にノエルのことも忘れちゃう可能性もあるし、戻すとしても作戦成功後だと思うよ。どうかな、ルカさんの魔法作成の手伝いをしてくれない?」



 ノエルは少し考え、答えた。



『……分かった。ただし、忘れ風の日までに魔法を完成させるわけにはいかない。何か掴めたとしても教えるのは治し風が吹くまでの1日だ。それと、もし治し風を防ぐことができなかったとしたらアタシが言ったことは忘れてしまうだろうが作った魔法にその痕跡が残ってしまう。つまり、その時だけの1回勝負になる。それでも良いんだな?』


「もちろん。むしろ今回がその時だよ」


「あたしからもお願い。まあ、俯瞰して見た状況判断は苦手だからその辺は任せるとしか言えないけどね。あと、あたしがお願いした方が運が良くなりそうだからお願いしとくわ」


『あぁ、任せろ。きっとルカの魔法を完成させられるアイデアを見つけてやるさ』



***



 次の日、フィンはノエルを連れてルカの研究室にやってきた。

 事情を説明されたルカは言った。



「なるほど。クロさんとなら何か新しい知見を得られるかも、ということですね。こんなボクにも力を貸してくれるのであれば、よろしくお願いします、クロさん」


『やけに自分を卑下するじゃないか。とは言われたものの、実際にどこまで完成していて何に手をこまねいているのか全く把握できていない。今日はその把握と情報共有の日にしよう』


「分かりました。では――」



 それからはつつがなく研究は進行し、完成一歩手前という状態で3日後の忘れ風の日になった。

 結局魔法は完成しなかったこともあり、ルカはセリスたちの作戦通りに忘れ風を受け、6日分の記憶を一時的に失ったのだった。



***



 その次の日、治し風が吹く日になった。

 しかしノエルの協力も空しく、1日で魔法を完成させることはできなかった。

 ルカが出かけようとする直前に、セリスたちとスティアは塾の空き教室に集まって話をしていた。



『すまないね。どうやらルカは魔法の研究をほとんど自分の中で完結させるタイプだったらしい。それに、記憶を失ったところに魔法の完成に必要なヒントを与えても、答えに辿り着かせるのは難しかったろう。あと少しなのは確かなんだが……』


「じゃあやっぱり、あたしが虚空魔法で風を転移させる作戦にする?」


「その呪いってのがよく分かんねえけど、どうしても今日じゃないとダメならそうするしかねえだろ。まあアタシはルカの記憶を治し風ってので戻せなかったら次の治し風の日に時間を操作する、ってただそれだけだからタイミングは任せるけどよ」


「でも姉ちゃんが今回の作戦に関わってるって、テストに合格するまでは絶対にバレるわけにはいかない。だから、やっぱり何かもっと別の方法の方が……」


『一応、ギリギリまで頑張ってみるさ。今日はアタシもついていこう』


「あたしはどうする?」



 フィンは少し考えて、スティアに言った。



「スティアさん、姉ちゃんに遠くから合図送れるような魔具ってない? 姉ちゃんをついてこさせるのはやっぱりリスクが大きい」


「遠くからってなるとどうしても魔力が放出されるぞ。ルカにバレても良いんだったら一応持ってる」


「うーん、それなら無理か……。姉ちゃんは空間魔法を狙った座標に出せるけど、タイミングはどうしようもないし……」


「別の魔法で補うにしても、魔力の痕跡だけはどうしようもないわ。プリングの時みたいに動きが止まって何分後って指定しておくならまだしも、明確にタイミングを指定できないことには発動すら無理ね。やっぱりあたしもついて行った方が……」


『仕方ない、セリスは待機だ。作戦のこともそうだが、やはり闇の教団にセリスやフィンの所在がバレるのは避けたい。あと、ルカが風域に入っていることを連中が把握していない可能性だってあるからね』


「分かったわよ。でも一応、緊急時に対応できるようにはしておくわ。フィン、クロ、任せたから」



 フィンは頷き、ノエルは羽根を縦に振った。



***



 それから数十分後。

 ルカ、フィン、ノエルが風域に到達する手前にて。



「そろそろ到着です。果たして昨日までのボクが作った魔法は通用するんでしょうか……。まあ、通用していたら忘れ風も防げていると思うところではありますが」


『何を弱気になってるんだ。大魔女ならもっと自信を持って良いだろうに』


「そう……ですね」


『あぁ、そうだ。風域に着いたらちょっと手前で待ってくれよ。もう1回この目で治し風を見たい。もしかしたら何か掴めるかもしれないからね』


「承知しました。あぁ、そろそろ到着しますよ」



 すると、ルカはノエルの言う通り風域の手前で立ち止まった。

 ノエルはルカの前に出て、はめられた宝石を風の方に向ける。



『やっぱり、凄まじい濃度の呪いだ。風の魔力の回転数も恐ろしく早い』


「なるほど、魔力が見えるという話は聞いていましたが本当でしたか。確かにこの風の回転速度はボクが使える風魔法の回転速度の何十倍もあります。まずはそれをどうにかしないことには……」


『とりあえず現時点では得られる情報も特にないな……。ルカの魔法とぶつけてみるしかない、か』


「じゃあ、早速……」



 ルカは結界の魔法を取り出し、呪文を唱えて風を纏う。

 そして、風域へと足を向けた。



「ルカさん、大丈夫かな……」


『確か数秒は持つんだろう? それまでに情報を集めてみせる……!』



 ルカは風域へと足を踏み入れ、風と風をぶつける。

 しかし、ルカの結界は次第に弱まっていき、いよいよ壊れそうなのがノエルには見えた。



『……分かった。ルカ! こっちに急いで戻ってこい!』


「っ! はい!」



 ルカは結界が壊れる直前にどうにか風域から転がり出た。



「やっぱり、ダメでしたね……」


『いや、時間はまだある。この場で魔法を完成させるぞ』


「え? な、何か分かったんですか!」


『まず事実として、お前の結界は壊された。だがそれは呪いの力に負けているわけじゃなかったんだ。お前の周囲だけは間違いなく呪いがかき消されていた』


「風の勢いに負けちゃった、ってこと?」


『いや、そういうことでもないんだ。ルカ、お前の結界は治し風を()()させ続けることで無力化するものだったな? 実際、呪いがかき消されていたのはその影響だろう。しかし……』



 ノエルは少し悩み、言った。



『アタシの目には、治し風の方の風の魔力がお前の結界の周囲を()()()()()()()()ように見えた』


「あれ? 確か俺が体感した限りだと、風魔法の順転と反転がぶつかったら普通は正面衝突になるはず。それで負けた方の力がゼロになって、勝った方の力がこっちに飛んでくるんだ。それなのに流れて避けた?」


「いえ、同じ回転方向の風魔法同士がぶつかった時、2つの風はほぼ衝突せずにすり抜け……って、まさか! ボ、ボクの結界の風魔法は()()()だったと……? でも、そんな初歩的な問題に気づけないはずが……」


『いや、そのまさかだ。治し風は順転ではなく反転の風魔法だったんだよ。あの呪いの濃度のせいで回転方向が誤魔化されていたんだろう。あと、主な原因は先入観のせいだったんだ』


「先入観……。クロ、それどういうこと?」


『記憶を奪う力と、記憶を戻す力。それだけ聞くと奪う力が反転(マイナス)で、治す力が順転(プラス)だと考える。実際、忘れ風と治し風ってのもそこからつけられた名前だろう。つまり、アタシたちはずっと誤解していたんだ。本当は忘れ風が順転(プラス)で、治し風が反転(マイナス)だったんだよ』



 それを聞いたルカはすかさず結界の魔法陣を取り出し、もの凄いスピードでそれを描き直し始めた。

 そして、ものの数分で結界を再構築したのだった。



「これで呪いの減衰以外は全て逆の回転にできました。これでうまくいく……のでしょうか」


『だから自信を持てってば。数分程度でここまで大掛かりな魔法陣を描き直せるなんて、普通はできるもんじゃない。まあ……そうだな、頑張れ』


「俺も応援してます」


「ええ、ありがとうございます。それでは、行ってきます」



 ルカは結界を発動する。

 それを見たノエルは感嘆の声をあげて言った。



『ほう、凄いな。緊急で描き直したってのに魔法の構築に一切の綻びがない。回転もちゃんと逆になってる……みたいだな』



 そのままルカは風域に再び足を踏み入れる。

 すると、ルカの結界は治し風を次々に弾いていく。



『呪いも打ち消されて、風の勢いにも勝って……って、あれ? どうして風の勢いにも勝てている? ルカの風魔法の回転数の何十倍とか言ってなかったか?』


「い、いや、その辺は俺にもさっぱり。俺はあくまで結界の被検体でしかなかったし、詳しくは知らないんだよ」



 しばらくしても結界は割れることなく、むしろより強固になっている様子がフィンにも見えた。



「もしかして、風をぶつける結界が、風を吸収して強くなる結界にいつの間にか変わってる……?」


『吸収からの強化だって? アタシが昨日までみていた魔法陣にはそんな術式はなかった。まさか、さっき描き直した時にアドリブで組み込んだのか? この6日の記憶もないってのに無茶をする……!』


「でも、これで……!」


『……あぁ、成功だ。ルカは治し風を防ぐ結界を完成させた。そしてそれこそが――』



***



「全て、作戦の成功に繋がるってわけね! よくやってくれたわ、クロ、フィン!」



 その日の夕方、フィンとノエルは治し風を防ぐ結界が完成したことをセリスたちに報告した。

 ルカはあれからすぐにフィンたちと解散して研究室に戻り、魔法の完成を急がせているのであった。



『だが、これで終わりじゃない。次のテストの問題を2人が完璧に覚えて、間違えたところもしっかり復習しないことには合格できないんだぞ』


「分かってるわよ。でも、これで次の作戦決行日も決まったわね」


「だな。アタシが魔具の操作を行わないことには計画は成功しねえし、勝負どころはここからってわけだ」


『そういうこと。気を抜かないようにすることだね』


「俺はルカさんが少し心配だからたまに研究室に寄っておくよ。仕込みが無駄になっていないかとか、スケジュールのこととかも把握しておかなくちゃ」


「ええ、そっちは頼んだわ。それじゃ……作戦の最終段階に突入よ!」


「「「『おおーーー!!』」」」



 セリスたちは意気揚々と掛け声を合わせるのだった。

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