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魔女セリスと8人の大魔女 〜この世で二度目の大厄災〜  作者: もーる
第1章 あり得ざる出会い
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4頁目.伝承と祖先と大魔女様と……

 それからさらに3日後。

 セリスとフィンはまた泉の世界に来ていた。

 2人が目を覚ますと、イースとクロが目の前に浮いていた。



『来たな。待っていたよ』


「待ってた、って……まあ、何十年もこんなところにいたら、暇にもなるわよね。あたしたちがいない間は2人で何してるの?」


『基本的には2人でずっと喋ってますね。ボクたちに睡眠は必要ありませんし、時間を潰すとなると話すことしかありませんから』


「なるほどね……。あ、そういえば今までずっとスルーしてたけど、ここって何のために存在してる空間なんだ? 結界とか言ってたし、何かを守ってる……とか?」


『すまないが、そいつは教えられない。この場所のことすら口止めしてるってのに、余計に情報を与えるわけにもいかないだろう?』


「それは残念。でもまあ……実は何となく分かってるんだけど」



 そう言って、フィンは丘の上の小屋の、さらにその上を指差す。

 そこには、赤い光を発している巨大な結晶体が浮かんでいた。



「何かは全く分からないけど、多分あれを守ってるんじゃない? あと、光でよく見えないけど……何かが結晶の中にある?」


『よく観察してるもんだ。だけど、さっきも言った通りそいつが何なのかは教えられない。ただ、それを守ってるってのはあながち間違いじゃないかもね』


「ふーん……。ま、考えても分からないなら諦めた方が潔いわよ、フィン」


「まぁ、それもそうだね。じゃ、いつもみたいに情報交換始めようか!」



***



 フィンとイースは小屋の中で、前回聞いた昔話についての話で盛り上がっていた。

 すると、イースが唐突にフィンに尋ねた。



『昔話といえば……フィンに聞きたいことがあったんでした。フィンたちは【ファーリの物語】は知っているんですか?』


「ファーリが生まれて原初の大厄災が起こるまでの物語だよね。そりゃ、もちろん知ってるよ。姉ちゃんも全部覚えてると思う」


『流石は魔法社会といったところですが……。ボクが知ってる話とどこか変わってる可能性もありますから、念のために軽く教えていただけますか?』


「いいよ。最初は、幼いファーリが精霊から魔力をもらって、この世で最初の魔女になったところから始まる。でも数年後、家が火事になったのを水の精霊の力で消し止めた時に、母親から悪魔って言われたんだ」


『魔法という概念がない世界で、彼女の力は魔物と同じくらい恐怖の対象だったんでしょう。未知の、それも強大な力というものは、古来より人を恐れさせるものです』


「で、家出をしたファーリは旅の途中で親切な男と出会い、結婚して子供が生まれた。だけど、その子供たちもまた精霊の力を使うことができたんだ。子供たちに自分と同じ目に遭うを恐れたファーリは、精霊と契約して、今ある魔法の概念を作り出した」



 イースは黙ってフィンの話を聞いている。



「『悪魔になる方法』を略して『魔法』。このフレーズは良く覚えてる。子供たちがむやみやたらに力を使わないよう、呪文でその力を縛って、魔法にリミッターをかけ……力を制御したんだ」


『その辺りはきちんと伝わっていて何よりです。魔法の本来の在り方というものが描かれた、一番大事な場面ですから』


「なんたって、この物語は魔法の教科書の一番最初に載ってるくらい大事な話だからね。魔力を持ってない人でも知ってるくらいには有名な話だよ」


『では、続きをどうぞ』


「えーと……。それから、ファーリの子孫たちは魔法大国・ヴァスカルを建国。ファーリの直系の血筋を国王として、魔法文化に花を開かせたんだ」



 イースは羽根を縦に振っている。



「そして長い時が流れ、老いたファーリは病気を患った。何の病気かは描写されてないけど、精霊の声が聞こえなくなったり、姿が見えなくなったらしいね。そんな時、彼女を絶望の淵に落とす事件が起きた。自分の子孫の1人が、自分の家族を()()()殺したんだ」


『そして、魔法という力そのものに絶望した彼女は自らを呪い、世界に呪いをばら撒く大厄災へと変貌した……ですね』


「そうだね……。そして、その7日後に彼女は自分の子孫たちの手で鎮圧され、息を引き取った……。これが原初の魔女・ファーリが原初の大厄災となった、悲しい物語の結末。魔法を作った人間が魔法で滅びたっていう、ある種の教訓みたいな話だね」


『ほとんどボクが生きていた頃と同じ伝承で安心しました』


「でも、その話には裏話があるって、母ちゃんから聞いたことあるな……。詳しくは知らないけど、ヴァスカル王家がこの物語についてとんでもない秘密を隠してるとか、そんな感じのこと。ばあちゃんとかそれよりもっと前の時代から、噂だけ伝わってるみたい」


『噂……ですか。そういえば、フィンたちの家は有名な魔女の家系でしたね。どんな魔女なんです?』



 すると、フィンは胸を張り、声高らかに言った。



「俺たちの祖先は、この大陸で一番有名な魔女の1人。そして、俺たちの村を作った魔女。名前は──」



***



 セリスとクロは、来たる魔女見習いの試験のことや、魔女のライセンスについて話していた。



「魔女のライセンスの試験を受ける前に、そもそもの話をするわね。魔女見習いになるには、ある試験をクリアしなきゃいけないの。15歳以上になれば受けられるんだけど、難易度が高いらしくてね……」


『魔女になる試験の前に魔女見習いになるための試験があるって……どんだけ面倒な制度なんだよ……。で、その試験の内容って?』


「筆記試験と実技試験よ。筆記試験は魔法文字の読み方とか、魔法についての知識が問われるの。実技試験は、他の見習い候補との模擬戦闘ね」


『……セリス、本当に大丈夫なのか?』


「ちょ、ちょっと、どういう意味よ!」


『実技試験はどうにかなるとしても、筆記試験が難関だろう? 元からそういった知識面の勉強が苦手って言ってたし、アタシがサポートするにも限度があるってもんだ』



 セリスは少し考え、言った。



「じゃあ、そっちはあたしで何とかしてやるわよ」


『ほう……? どういう意味だ?』


「筆記試験はあたしが自分で勉強して、自分で何とかしてみせるって言ってるの。だから、クロは実技試験の方をサポートしてくれない……?」


『……分かった。ただし、アタシが見てやるからには絶対に魔女見習いの試験に一発で通るんだぞ?』


「まだ自信はないけど……分かったわ。クロの力を借りるんだし、あたしも頑張らなきゃ……!」



 セリスは手をぐっと握りしめる。

 クロは嬉しそうにくるくると回ったかと思えば、突然ピタッと止まった。



『そういえば……。魔女見習いって、魔導士学園ウィザード・アカデミーに入学するのとどう違うんだ? 今の時代でも、流石にあの学園はあると思ってるんだが』


「確かに、アカデミーに入学すれば魔導士のライセンスは必ず手に入るでしょうね。昔は魔力を持っていれば誰でも入学できたらしいけど、今は魔法貴族みたいなエリートしか入学できなくなっちゃってるらしいのよね。つまり、田舎出のあたしには無理って話」


『でも有名な魔女の末裔じゃなかったか?』


「どんなに先祖が有名でも、今この時に貴族じゃないなら意味がないの。っていうか、魔女見習いっていうのは、貴族以外にも魔導士になる権利があるからって、時の大魔女様が作ったシステムなのよ」


『へぇ……なるほどな……。って、うん? 時の大魔女様……?』


「知らないなら教えてあげる。魔女の中でも、今の魔法社会を作り上げたとされる8人の偉大な魔女。それが大魔女様よ!」



 セリスは指を折りながら話を続ける。



「まずは、魔導士学園ウィザード・アカデミーの初代学長にして、今の魔法社会のルールを全部決めた、時の大魔女様。南西の国、魔法の国・ヴァスカルの大魔女、クロネ様! って……クロと名前似てるわね? 何か関わりある人……なわけないわよね!」


『そ、そうだな……。他の大魔女はどうなんだ?』


「そうだった。次は東の国、鉱石の国・ノルベンの大魔女、ルフール様! 空間の大魔女様って言われてるんだけど、そこまで有名な話は知らないわね……。あと、北東の国、雪原の国・ヘルフスの大魔女、エスト様! 運命の大魔女様で……こっちもあんまり話は知らないわ」


『大魔女って言うからには、何か有名な話の1つや2つくらいはあるんじゃないのか? お前が知らないだけってんなら仕方ないが』


「あたしは大魔女様たちの名前くらいしか知らないの。詳しく知ってるのは本当に有名な人たちだけよ。じゃあ、次はちゃんと有名な大魔女様を紹介するわね。西の国、水籠の国・セプタの大魔女、サフィア様! 水の大魔女様で、誰にも愛される大陸一のスーパーアイドルよ!」


『す……すーぱーあいどる……? 聞いたことない言葉だが、愛されてるってんなら何より……じゃなかった。他に有名な大魔女はいるのか?』



 セリスは楽しそうに答えた。



「それじゃ、その次は北西の国、火山の国・プリングの大魔女、マリン様! サフィア様のお姉さんで、火の大魔女様なのよね。確かプリングにある闘技場の運営もしてるとか……」


『なるほど……。その辺りは相変わらずなんだな。他には?』


「央の国、機械の国・ノーリスの大魔女、ロヴィア様! ゴーレムを作らせたら右に出るものはいないとされる、土の大魔女様ね。あと、ロウィ様っていうもう1人の人格を持っていて、そっちは発明の天才なのよ」


『へえ、二重人格ってのを公表してるんだな。それに、どっちも凄い人物だとはねぇ』


「あとは南の国、海原の国・ラウディの大魔女、ルカ様! 風の大魔女様で、色々便利な魔法を作ってることで有名ね。そして最後に……」



 その瞬間、セリスは長い金髪をなびかせ、胸を張って言った。



「南東の国、豊穣の国・フェブラと、ここ北の国、平原の国・メモラの大魔女、ソワレ様! 時の大魔女様の一人娘で、あたしたちの最初の村長だった光の大魔女様よ。残念ながらずっと昔に寿命で亡くなったらしいけど、あたしたちの魔女の家系の元になった人なの!」


『……え? 待て待て、お前たちが大魔女・ソワレの家系だと……?』


「ええ、あたしたちのママはソワレ様の孫の孫なのよ。有名な魔女の血筋ってのはそういうことなんだけど……どうかしたの?」


『いや……何でもない。ところで、どうしてその大魔女だけ2つの国の大魔女なんだ?』


「元々はフェブラの大魔女様だったんだけど、メモラに大魔女様がいないからって掛け持ちしたそうよ。メモラにあるあたしたちの村に住んでたからってのもあるかもだけど。寿命で亡くなったのだけが名残惜しいわね」


『子供がいるってことは、若魔女じゃなくなったってことだからねぇ。子供を身籠った魔女は、その魔力がその子供にほとんど引き継がれる。それゆえに、魔力で保っていた見た目の若さや寿命を失い、老いてしまうんだ。若魔女は150年以上を生きるが、そうでなくなれば長くても80年くらいしか生きられない』



 セリスは頷いて、泉の天井を見上げる。



「でも、ソワレ様が若魔女じゃなくなったからこそ、今のソワレ村があって、あたしたちがいる。彼女は魔女として立派に人生を全うした。だから、あたしたちの家はその心を受け継いで、今も魔導士の家系を続けてるってわけ」


『魔女としての本懐を遂げられた……立派な魔女だったんだな。それはお前たちが誇りに思っていても仕方ないな。ということは……うーむ、なるほどなるほど?』


「うん? なぜか嫌な予感が……」


『なに、大魔女の末裔ともなると、鍛えがいがあると思ったもんでね。大魔女ってのはアタシが生きていた頃に付けられた、偉大な称号だ。その呼び名が今も生きてるってんなら、その志を育てるのがアタシの役目さ!』


「……お手柔らかにお願いするわね?」


『よーし、今日からビシバシ教えていくから覚悟しろよー!』



 こうして、なぜか張り切るクロに振り回されつつ、セリスの魔法修行が本格的に始まったのだった。

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