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魔女セリスと8人の大魔女 〜この世で二度目の大厄災〜  作者: もーる
第3章 空間魔法の使い手たち
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13頁目.修行と固定と心意気と……

 フィンとノエルに背中を押され、セリスはルフールの前に立った。

 数時間前と同じ状況下とはいえ、セリスの心持ちには大きな違いがあった。



「さっきみたいな力試しじゃなくて、本格的な修行……。うう……緊張してきた……」


「普通は逆の反応をすると思うんだが……。ノエル、今どういう状態なんだ、この弟子は」


『セリスは昔から大魔女への憧れが強いもんでね。直々に手合わせしてもらえるからって緊張してるだけだ。気にしないであげてくれ』


「あぁ、こいつはそういうタイプか……。分かった。気持ちが落ち着いたタイミングで声をかけてくれて構わないから」


「ありがとうございます……。ふう……1回目からこんなじゃダメね、あたし。気張っていくわ! いつでも大丈夫です!」



 ルフールは頷いて、説明を始める。



「空間魔法にはいくつか種類がある。セリス、知っている限りの種類を教えてくれるか」


「えーと、あたしがさっき使った空間移動の『転移』。様々な力を有した空間を展開する『結界』。あとは……空間を切り取る『固定』っていうのもありましたっけ」


「まあ大体はそんなところだ。そして転移も結界も、どちらも直接的な攻撃手段にはなり得ない。まあ応用すれば攻撃手段にはできるが、そこは追々」


「つまり、固定の空間魔法が攻撃手段ってことですか?」


「あくまで他のと比べればってだけだけどね。それじゃ、見せてあげるよ。攻撃系の魔法を撃ってきてくれ」



 セリスは頷き、腰に提げていた石の書を手に取る。

 そして、ページを開いて言った。



「ノエル、見てなさい! 今度はあたしが使えるようになった新しい魔法を試してやるんだから!」


『なるほど、石の書の新しい魔法か。誕生日を迎えるたびに2つずつ増えるってことは、6種類くらい増えたのかな?』


「いや、俺が知る限りはもっと……。まあ、どうせこの場では1種類しか使わないだろうし、それくらい誤差か」


『ま、何であれ楽しませてもらうとするよ!』



 セリスは石の書に書かれた魔法文字を読み上げ、魔法の名前を唱えた。



「いきます! 『火焔弾エル・フレイム・バレット』!」


「じゃあ、いくぞ!」



 ルフールは静かに右手を前に出し、手を開く。

 そして、そのままセリスの火球に手をかざし、手を閉じながら言った。



「『空間固定・強圧弾(エル・プレスボム)』!」



 すると、火球の周りに透明な立方体が現れ、火球が2人の間で突然止まる。

 そして、立方体が手のひらサイズまで小さくなり、くるくると回り始めた。



「あたしの攻撃が空間魔法で止められた……?」


「これで終わりじゃないさ。()()()()、と言っただろう?」


「え?」



 その瞬間、ルフールが指をパチンと鳴らした。

 すると、その立方体が突然弾け、セリスたちの目の前で大きな爆発が起きた。



「熱っ……! もしかして今のって、あたしの魔法……ですか?」


「その通り。お前の魔法を空間魔法で固定し、圧縮して、範囲と威力をより強くしたんだ。時間が経てば経つほどより強力になるが、その分制御するのが難しくなる。扱いにコツがいるだろうが、攻撃手段としては十分だろう?」


「凄い……凄いです! その魔法、ぜひ教えてください!」


「もちろんだとも。そのつもりで見せたんだからね。まあ、今日は見せるだけだから、続きは明日からだ」


「やったー!」



 セリスははしゃいで喜ぶ。

 ノエルはルフールに尋ねた。



『なあ、そういえばこの修行が終われば魔女ライセンスの試験はクリアになるのか? それと、合格したかどうかってどうやって証明できるんだ?』


「あぁ、その辺の説明は受けてなかったか。少なくともウチは修行が終わったら再試験になる。それで合格したら……セリス、魔女見習いのペンダントを」


「あ、はい。これです」


「……首席のペンダントってもっと大きくなかったか?」


「半分砕いてノエルの修復に使ったんです。別に合格証としての役目はこれだけでも果たせるはずですよね?」


「あ、ああ……そういうことか……。その通り、ペンダントの魔石さえ残っていれば問題ないよ」


『どういうことだ?』



 セリスはペンダントをノエルの目の前に持ってくる。

 オレンジ色の魔石が折れた箇所で光っており、強力な魔力が込められているのがノエルには見えた。



「この魔石はそもそも多くの魔力を貯蔵するのに向いてるの。だから、合格の証として大魔女様の魔力をこれに注いでもらうのよ」


『なるほど、見習いの証がそのまま魔女ライセンスの合格証になるのか』


「何なら、これをそのまま魔女ライセンスとして使うこともできる。無くしたりしたら別のペンダントを支給してもらえるけど、まあ大抵は思い出に取っておく魔導士が多いとか。研究に使う方が有意義だと思うのに」


『前世のアタシなら間違いなく研究で消費してただろうな。まあ、とにかくそのペンダント自体が合格証ってのは分かった。つまり、セリスはそいつを絶対に手放しちゃいけないわけだな』


「もちろん、普段から気をつけてるつもりよ」



 フィンは溜息をついて言った。



「姉ちゃん、例の心臓も持ってるから持ち物が危なっかし過ぎるんだよね……」


「あぁ、そういえばそうらしいな。って、空間魔法を使えるのなら亜空間にでも放り込んでおけば良いじゃないか。少なくともワタシならそうする」


「それが……。あたしの未熟な空間魔法だと、亜空間に入れたものを指定して取り出せなくて……」


「じゃあ、亜空間の中を固有の結界にする方法も教えておこう。これができないともしもの時に打つ手がなくなるからね」


『頼んだ。偶然とはいえ、最初にお前のところに来て正解だったよ』


「そう言ってもらえて光栄だよ、ノエル。よーし、2週間で絶対にセリスをいっぱしの空間魔法使いにしてやる。ワタシの修行に食いついて来いよ、セリス!」


「もちろんです!」



 こうして、ルフールの指導の下、セリスの修行が始まったのだった。



***



 それから3日が経過した。

 フィンとノエルは特にやることもなかったため、ずっとセリスの修行を眺めていた。

 当のセリスはというと、亜空間に入れたものを好きに取り出す魔法は早くに身に付いたが、肝心の空間固定魔法の習得に手こずっていたのだった。



「うーん……。呪文もイメージも合ってるはずなのに、どうしても上手く制御できない……」


「いや、たった3日で発動できている時点で上々ではあるんだが……。魔力量の問題……というわけでもないんだよな?」


「はい。魔力が尽きてたらこんなに何度も発動できませんから。ただ単純に、攻撃魔法を圧縮してもあたしが好きなタイミングで爆発させられないんですよね……。暴発しちゃったり、威力が全然上がってなかったり……」


「逆に力を抑えてるなんてこともないよな?」


「そんなことはないと思うんですけど……。うーん……」



 その様子を見ていたフィンはノエルに尋ねる。



「ノエルはどう思う? 姉ちゃんが手こずってる原因とか」


『何となく答えは分かってる。でも、修行って名目である以上はあの2人に水を差すのはどうかと思って、こうして黙ってるよ』


「ルフールさんも分かってないみたいだし、教えてあげた方がいいんじゃないのか?」


『修行ってのは何も、成長するのが弟子だけとは限らないよ。師匠だって学びあっての修行。アタシはそう思ってるんだ。だから、もう少し見守るとしようじゃないか』


「なるほどね……。まあ、ノエルが分かってるってだけでまだ救いはあるか」



***



 さらに4日が経過した。

 セリスは未だに空間固定魔法を習得できておらず、流石にルフールも頭を抱え始めた。



「セリスの飲み込みの速さと実力は確かなものだ。つまり、ワタシの教え方が悪いのか……?」


「そ、そんなことないです! ただただ、あたしの実力が足りてないだけですから! だから落ち込まないでください!」



 フィンは2人を指差しながらノエルに言った。



「ああなってるけど、まだ言わないの?」


『んー、もう1週間経ったし、そろそろ良いかな』


「おっ、やっと前に進めるんだ!」


『あくまでヒントを提示するだけで答えは教えてあげないけどね!』


「それでも今の姉ちゃんたちにとっては十分だと思うよ。行ってきてあげて」


『あぁ、行ってくる』



 ノエルはセリスたちのところへゆっくり飛んでいく。

 そして、言った。



『セリス。今のお前がなぜ空間固定魔法を失敗するのか、教えてやろうか?』


「ルフール様が良いなら……」


「ノエル、助けてくれ……」


『はいはい。教える前に質問だ。お前はあの魔法をどう解釈している? あれから何度もルフールが使っているのを見たり、自分で使ってみた所感で構わないよ』


「魔法の周りの空間を固定して切除して、その空間をぺしゃんこにする。そして、ある程度空間を圧縮できたらその空間の固定を解除する。だと思ってるわ」


「ほとんどワタシのイメージと同じだ。その辺はちゃんと共有してすり合わせしてるからな?」



 ノエルは羽根を縦に数回振って言った。



『じゃあ、セリスはその固定した空間の中で膨張する魔法の力をどこでどう感じている? そもそも感じているか?』


「こう、手の中で握り潰す感じで、内側から反発する力はちゃんと感じてるわよ」


「そこもワタシの感じ方と同じだね」


『いや……そこじゃないか? 2人ともお互いに手を強く握り合ってみろ』


「こうか?」



 セリスとルフールは握手をして、お互いに力を入れる。



「いったぁ!? ルフール様、握力どれだけあるんですか!?」


「そもそもセリスの手は大人のワタシより小さすぎる。成長期だから今後大きくなる可能性は十分にあるが……。あっ……」


『ルフールは気づいたみたいだね。じゃ、アタシは戻るよ』



 ノエルはフィンの元へと戻っていった。



「……どういうことだったんです?」


「ワタシとセリスは呪文もイメージも全く同じ。だが、手に感じる内側からの魔法の圧力に差があったんだよ。手の大きさと握力の違いでね」


「握る力と魔法の感じ方って関係あるんですか?」


「あるとも。握力が足りなければ内側からの圧力をあまり感じられない。例えばボールを握る時、握る力を強くすればするほどボールからの内圧を感じられるだろう?」


「あぁ、なるほど! でも結局、そのボールを握る力があたしに足りてないってことですよね? そればっかりはどうにもできないんじゃ……」


「いや、暴発はしてるから足りてはいるんだ。ただボール側の内圧に手が耐えられずに、手からボールが飛んでいっているんだな。フィジカル面で力のコントロールがうまくできていないようだね」


「まさか魔法にフィジカルを求められるなんて……」



 ルフールは笑いながら言った。



「あはは、まあそう思うのも無理はないかもしれないな。だが、魔導士は魔法が使えなくなった瞬間に戦えなくなる。そういう時のために日頃から身体を鍛えておくと良い」


「はーい……」


「ただ、宣言していた期限まであと1週間か……。メニューに筋トレは入れるとして、間に合わない可能性があるな……」


「考えましょう! きっと打開策が見つかるはずです! もちろん筋トレもやりますけど!」


「やる気も心意気も十分なようで何よりだ。よし、最悪の場合はノエルの手を借りる! だが、詰むまではワタシたちの力で頑張るとしようじゃないか!」


「おー!!」


『おい、しれっとアタシを逃げ道にするんじゃないよ!!』



 セリスたちは笑い合う。

 こうして、セリスはルフールの修行を毎日毎日こなし続けるのだった。

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