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魔女セリスと8人の大魔女 〜この世で二度目の大厄災〜  作者: もーる
第1章 あり得ざる出会い
1/87

1頁目.少年と少女と泉の世界と……

***



 魔法暦 元年──。

 原初の魔女・ファーリがこの世に生まれた。

 それはつまり、この世に『魔法』が生まれたって意味でもある。


 魔法とは、魔導士と呼ばれるファーリの子孫たちが使う不思議な力。

 その魔導士の中でも取り分け、女性の魔導士は魔力が強く、『魔女』と呼ばれている。


 しかし、魔法暦107年。

 ファーリはあることをきっかけに魔力を暴走させ、呪いを撒き散らす『原初の大厄災』へと変化してしまった。

 そして、他の魔女たちによって、大厄災は7日で鎮められる。

 この事件以降、魔法という力は脅威とされ、それからしばらくの間は魔法文化の低迷が続いた。


 さらに、魔法暦187年。

 魔法文化が少しずつ元に戻るようになってきた頃。

 ある1人の魔女が自分の義理の息子を蘇らせるために、8人の魔女たちの力を借りてその蘇生を果たした。

 その9人の魔女たちは『大魔女』と呼ばれ、9つの国々それぞれで名を馳せた魔女だったんだ。


 そして、蘇生を果たしたその日。

 1人だけ、北の国・メモラの大魔女だけが歴史からその名を消した──。



***



 魔法暦247年。

 ここは北の国・メモラにある、とある村の近郊の森の中。

 その中を1人の少年と1人の少女が駆け抜けていた。



「ちょっと、待ってくれよ姉ちゃん! 姉ちゃんが勝手に居なくなったら、母ちゃんに怒られるの俺なんだからな!」


「それで待てと言われて待つわけないでしょうが! 勉強なんて嫌よ!」


「じゃあ、せめて言い訳くらい考えてくれ! ついでに、いつも姉ちゃんを追いかけさせられる俺の気持ちも!」


「その『考える』ってのが苦手だから、勉強が嫌だって言ってんの!」



 長い金髪を揺らしながら、少女はひたすら銀髪の少年から逃げ続ける。

 少年は外れそうな眼鏡を片手で押さえながら、少女に言い放った。



「でもそれで結局、お腹が空いたって言って普通に家に帰って、一緒に母ちゃんに怒られるってのがいつものパターンだろ!」


「うぐっ……。我が弟にしては頭が回るじゃない……」



 そう言って少女は足を緩め、立ち止まる。

 少年は言葉を返した。



「せめて俺だけは姉ちゃんみたいにならないようにって、母ちゃんに厳しく勉強させられてるからね。でも俺だって、勉強するより本読んだり遊んだりする方が好きに決まってる」


「じゃあ分かった。今日はあたしがあんたを勝手に連れ出して一緒に遊んだってことにする。それなら怒られるのはあたしだけだし、文句はないでしょ?」


「そういう問題じゃないんだけど……。まあ、もう怒られるのは決まってるわけだし、今日はこの辺でも散歩して帰るか……」


「あ、そうだ。今日は腕の調子どう? 痛んでない?」


「うーん……。まあ、少し痛むけど気にしなくていいよ。本当に痛かったら声上げるし」


「そう……。なら良かった。さ、適当に奥に行くわよー!」



 少年の手を引っ張り、少女は笑いながら森を進む。


 それからしばらく歩いて、2人は綺麗な泉に辿り着いた。

 そこはこれまでの森の風景とは一線を画した神秘的な空間で、天からの光の色と水の煌めきが2人の目を奪ったのだった。



「うっわ〜……! 何、ここ……!」


「森の中にこんな場所があったなんて……。って、姉ちゃんも知らなかったんだ。よくこの森には来てると思ったんだけど」


「そりゃ何度も来てるけど、ここまで奥に来たことなかったし」


「えっ、それってマズくない?」


「ん? 何が?」


「姉ちゃん、帰り道分かる?」



 少女はその瞬間、来た道の方へと振り返る。

 しかし、間もなく少年の肩に手を置いて言った。



「何とかなる!」


「ああもう! 姉ちゃんが道知ってると思って、何も考えずに着いてきた俺がアホだったよ! ほら、日が落ちる前に引き返すよ!」


「え? せっかく来たんだからもう少しゆっくりするわよ? 歩き疲れたし」


「い、いやいや……。その間に日が落ちて迷子になったらどうするんだよ」


「それはその時よ。あんたは昔から無駄に考え過ぎる癖があるからねぇ。とにかく、気にし過ぎ」


「姉ちゃんは昔から何も考えなさ過ぎなんだけど……。まあ、いいや。姉ちゃんと口論しても、考えるだけアホらしいだけだし……」



 そう言って、少年は溜息をつく。

 それから2人は草むらの上に座り込み、ただじっと、綺麗な水面を見つめていた。



「綺麗ねぇ……」


「そうだね……」


「こういう泉の水って飲めるのかしら……」


「場所にもよるとは思うけど、飲むのはやめといた方がいいと思う。触るくらいはいいと思うよ」


「じゃあ、もうちょっと近づこっと。ほら、あんたも来て」


「はいはい……」



 2人は水面に近づく。

 そして水面を覗き込み、先に少女が水に指を浸ける。



「つめたっ! あ、でも慣れれば気持ちいいかも……」


「あまり手を突っ込まないようにしてよ。危ないから」


「あんたも触ってみなさいな。気持ちいいわよ」


「分かった、分かったから手を引っ張らないで……」



 少年は恐る恐る、水面に右手の指を近づける。

 そして、泉にその指が触れたその時だった。

 泉の水面から不思議な光が放たれ、少年の身体が泉の方へと突然引き寄せられる。



「えっ……」


「フィン、危ない!」



 一瞬で、少女は両手で少年の腕を掴んだ。

 しかし、もう片方から引っ張られる力に少女も引き寄せられていく。



「姉ちゃん! 手を離して! 姉ちゃんまで巻き込まれる!」


「嫌よ! せっかく掴んだ手を離すわけないでしょうが!」


「っ……! ぐあああっ……!」


「ああもう、こんな最悪のタイミングで……!」



 少女は腰に付けた本に目を遣る。

 しかしその時既に、少女の足元には地面がなかった。



***



「……はっ!」



 少女は目を覚ます。

 周囲を見回すと、握った手の先で自分の弟が気を失っているのが見えた。

 急いで近づいたが、静かに呼吸をしていることに気づいた少女はホッと胸を撫で下ろした。



「持ち物……全部ある。服は……ちょっと濡れてるけど、無事ね。それで……ここは一体……」



 彼女の目の前に広がっていたのは、自然のものとは思えないほど美しい光景だった。

 泉のものとはまた違った綺麗な光が辺りを照らし、虹色に輝いている。

 足元には一面の花畑が広がっており、どれも満開に咲き誇っていた。



「……ここ、もしかして天国ってやつ? でも、服とかはさっきの状況のままだし……」



 少女は頭を捻っていたが、ものの数秒で諦めて言った。



「うん、やっぱり考えるのはあたし向きじゃないわ。さっさとフィンを起こした方が良さそうね」



 少女はフィンと呼ばれた少年を背中から支え、肩を叩きながら声を掛ける。



「フィン! 起きなさい、フィン!」


「ん……んん……。姉ちゃん……?」


「良かった、目が覚めた……」


「ここは…………ど、どこ!?」


「それを聞きたくて起こしたのよ」


「確か俺たち、泉の中に落ちたはずじゃ……。じゃあ、ここってまさかあの泉の中ってこと……?」



 少年は辺りを見回す。

 すると、少女はあることに気づいて少年に尋ねた。



「って、そうだった。腕、もう痛くないの? 泉に落ちる直前、痛がってたみたいだけど」


「え? 姉ちゃんがいつもみたいに治してくれたんじゃないの?」


「えっ? ううん、あたしは何もしてないわよ? ってことは、やっぱり痛くないみたいね。それはそれで何よりだけど……」


「とりあえず、ここから出る方法を探そう。森で迷う以前に、変な場所に落ちて帰れなくなるとは思わなかったよ……」


「そうね。流石にこれはあたしでも焦る状況だし……って、んん?」


「何かあった?」



 少女は花畑のある丘の上に建っている、1軒の小屋を指差した。



「こんな場所に……家……?」


「誰かいるかもしれないわ! 行きましょ!」


「ちょっ、もう少し慎重に行動を……って、聞いてないし!」



 2人は丘の上にある家らしき小屋へと歩いていく。

 間もなく、玄関のドアの前に辿り着いた2人はドアをノックした。



「誰かいませんかー?」


「あ、鍵が開いてるわ。お邪魔しまーす」


「ちょっと、姉ちゃん!?」


「何よ?」


「勝手に他人様の家に入り込むのは犯罪なんだけど……」


「ノックしても返事がないんだったら空き家よ、きっと。ドアも建物もどう見ても古いし、誰も使ってないんじゃない?」


「そういう問題じゃ……。まあ、今は仕方ないか……」



 そう言って、少年は少女に手を引かれるままに家の中に入る。



「……本当に誰もいないみたい。静か過ぎるわ」


「そこら中に埃も溜まってるし、誰かが住んでる痕跡みたいなのはないね。家具とかは普通のものだから、元は誰か住んでたんだろうけど……」


「つまり、ここから外に出た人がいるってこと?」


「もしくは、ここで死んでしまったって可能性もあるね。死体みたいなのを見てない以上、あんまり信じたくはないけど……」


「そうね……。もし、外に出たのなら、どこかに出口があるってことに……って、何してるの?」


「この辺だけ埃がない。つい最近まで、この辺りに何かがあったかのような……」



 少年が指差した先にあったのは、1つの木製の机。

 その上には本や紙束が置かれている。

 しかし、2人の目を引いたのは、その隣に置いてあった2本の羽根ペンだった。



「白い羽根ペンと……」


「黒い羽根ペン……? 何か意味ありげな感じね?」


「この2つだけ、全く埃を被ってない。つまり、この羽根ペンがここから出るためのヒントをきっと握ってるはずだよ」


「じゃあ、早速触ってみるわね──」



 そう言って、少女が黒い羽根ペンに触れたその瞬間。

 その羽根ペンが彼女の手をすり抜けて、空中で浮遊し始めた。



「ええ!? 羽根ペンが浮いてる!?」


「ど、どういうことだよ!? じゃ、じゃあ、こっちは!?」



 少年が白い羽根ペンに手を伸ばす。

 すると、同じように2本目の羽根ペンも浮遊し、黒い羽根ペンの方へと飛んでいった。



「何が……起きてるんだ……?」


「も、もしかしたら今ので出口が開いた……とか?」


「い……いや、そうだとしても、羽根ペンが浮いてる方の説明をどうすれば……」


「どうするもこうするも、気味が悪いわ! さっさとここから出るわよ!」


「う、うん!」


『…………だ……』



 その時、2人の耳に声のような音が響いた。



「フィン……今、何か言った?」


「いやいや……姉ちゃんこそ……」


『……誰だ』


「ちょ、ちょっとぉ!? この声、どこから聞こえて……」


「……ね、姉ちゃん、その羽根ペンだよ! 黒い方が喋ってる!」


『……誰だ、と聞いているんだが?』



 その言葉は確かに黒い羽根ペンの方から聞こえてくる。

 2人は羽根ペンの周りをぐるぐると回り、訝しげな表情で羽根ペンを見つめる。



『おい、そんなにジロジロ見つめるんじゃない』


「やっぱりこの羽根ペンが喋ってる!」


「一体どういう原理で……」


『だーかーら! お前たちは一体誰なんだ! 無視するんじゃない!』


「あぁ、別に無視してたつもりはなかったんだけど……。謝るわ、フィンが」


「あまりに興味深過ぎて……って、姉ちゃんも謝ってよ!?」



 すると、もう片方の白い羽根ペンが声を出す。



『もしかして……2人は姉弟なのでしょうか?』


「うわっ、こっちも喋った!?」


「よ……よし、リアクションは姉ちゃんに任せた。質問には俺が答えるよ。俺と姉ちゃんは双子の姉弟なんだ」


『ようやく話をしてくれるみたいで何よりだ。で、お前たちみたいな子供がどうやってここに入った? ここは普通は立ち入れないはずの場所なんだが』


「俺が泉に触ったら引きずり込まれて、いつの間にかこんな場所に……。ここって、泉の下……だよね?」


『泉に触れてここに……だって? うーむ、どういうことかはよく分からないが、そういうことなら泉の下って認識で間違いないだろう。ここはその泉の中に作られた、アタシとイースのための特別な結界の中だ』



 黒い羽根ペンはそう言った。

 少女は首を傾げる。



「イースって?」


『それはボクの名前です』


「白い羽根ペンがイース……。じゃあ、そっちの黒い羽根ペンは?」


『あぁ、それは──』


『アタシの名前は……()()。黒い羽根のクロだ』


「とりあえず、ここはクロとイースのための結界の中……。それで、2人? 2羽? は、ここから出る方法って分かる?」



 2つの羽根は頷き合い、答える。



『もちろん分かるとも。ただ、ここから出たとして、またお前たちがここへ来てしまう可能性があるのは非常にマズい。だから、出口を教えてやる代わりに、アタシはお前たちと交渉がしたい』


「交渉……? うーん、そういうのはフィンに任せたわ」


「分かってる。姉ちゃんに任せるはずないだろ」


『なるほど……。弟の方はフィン、と言うのですね。お姉さんの方の名前は何と言うんです? 交渉する前に自己紹介くらいはしておきませんと』


「確かにそれもそうか。改めて名乗っておくと、俺の名前はフィン。で、こっちが……」


「ん、あたし?」



 フィンと2本の羽根ペンは頷く。

 すると、少女は金髪をなびかせ、自信に満ちた表情で答えた。



「あたしの名前は、セリス! ()()()()()……を目指してるただの村娘、セリスよ!」

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