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クレーターもぐらと戦っています。

月のルルカと黒猫スプーン


1 クレーターもぐら 2


 馬車がグラグラと揺れた。ルルカはかたむいた馬車の右側の扉に打ちつけられた。見ると、クレーターもぐら達が馬車の右側にかたまってぶら下がりゆすっている。

「馬車を倒すつもりだわ」

 ルルカはぞうっとした。

 クレーターもぐらたちは声を合わせ、なおも激しく馬車をゆすり出す。ケケケケケッとけたたましく笑いながら楽しんでいる。

 ルルカは手に握りしめた三日月草を見た。窓にもクレーターもぐらの顔がびっしり並んで、ルルカを見ている。馬車が倒れたら、もぐらは一斉に襲いかかってくるだろう。

悪賢(わるがしこ)いクレーターもぐら!」

 ルルカは、紅い大きな目を光らせているもぐらを睨み返した。

 さらに馬車の揺れはひどくなる。馬が苦しそうにいななく。

 ルルカは決心すると、窓を思い切り引き開け、手に持った三日月草を窓にへばりついているクレーターもぐらめがけ突き出した。

 きゅうん、きょん、おううんと声をもらし、気絶したクレーターもぐらが次々と馬車から振り落とされていく。馬車の揺れが一瞬おさまり、馬車は速度をあげた。

 二匹のクレーターもぐらが、苦し紛れに開いた窓から中へ転がり込んできた。

 ギュアア、ガギョオとそのうるさいこと。

 馬車の中をぴょんぴょん飛びまわって吠えまくる。

 ルルカは恐ろしさと気持ち悪さで、頭がぼうっとして自分がなにをしているのかさえわからなくなってきた。

 一匹が窓枠に取りつき、今にもルルカに飛びかかりそうなかまえをとった。ルルカは無意識にすっと、三日月草をそいつの顔の前につきつけた。

 クレーターもぐらがゆらりと後ろへふらついたと思うと、ひゅんと影になって後ろへ消え去った。ルルカの背中へ、残りの一匹が飛び乗り爪をたてた。

「痛っ!」

 ぼうっとしていたルルカの頭が、キンキン痛みだす。

 ルルカは躰を捩じると、クレーターもぐらの頭をつかみ、噛みつこうと開けた口の中へ三日月草を押しこんだ。ぐったりするクレーターもぐらを背中から引きはがし、窓の外へ放り投げる。

 馬車ががくんとひとつ大きく揺れた。

「大丈夫かい、ルルカ」

 父さんが喘ぎながら聞いてきた。

「ええ……」ルルカはやっと答えた。

 クレーターの外縁まで馬車を走らせると、父さんは馬車を止めた。

「ここまでくれば大丈夫だ。少し休もう」

 とうさんが窓のところへ来て言った。

「馬も休ませなきゃ可哀相だ」

 父さんの頬や額には、いくつもの引っかき傷があった。何か所からか血が流れている。

「父さんこそ大丈夫? 怪我してるわ」

「大丈夫だよ。さあ、水を飲んで落ち着こう」

 ルルカはそのときになってやっと、喉が痛いほど渇いているのに気づいた。

「それにしても、ルルカが案外暴れん坊なのには驚いたな。馬車の中に飛びこんだもぐらと戦ったし、いきなり窓を開けて三日月草を突き出すとは思わなかったよ」

「私は暴れん坊なんかじゃないわ」

 ルルカはツンとして澄まし顔になった。

「判っているよ。ルルカのお陰で、馬車がひっくり返らなかったんだからね。感謝しなきゃ」

 そう言って、父さんはルルカを優しく抱きしめてくれた。


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