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悪魔との契約はよく考えず  作者: やみの ひかり
4/5

04話 それぞれの判決

 天使ミカエルは、天界の礼拝堂で、椅子に座る白い口ひげを蓄えた神々に囲まれていた。ステンドグラスから差し込む光は、立たされているミカエルを色鮮やかに照らす。


「大天使ミカエル。そなたは悪魔を助けたな?」

「僕が言いたいことは、ザイリは他の悪魔とは違うということです」

「ミカエル!!」


 神ににらまれ、


「う……」


 硬直するミカエル。


「質問と意図が合っていない。もう一度聞く。そなたは悪魔を助けたな?」

「すみません。僕は悪魔を助けました」


 それを聞いた神々は色めき立つ。


「これは、由々しき事態ですぞ」

「大天使ともあろうミカエルが、悪魔を助けてしまうとは」

「悪魔に洗脳されておる。すぐに牢屋に入れるのだ」


 神々の中心にいた。ジッと黙っていた神が口を開くと、


「皆の者。ミカエルの話を最後まで聞こう」


 神々が黙り、静まり返る礼拝堂。その中心に座る神こそが、神々をまとめている最高位の神、ゼウスだ。


(ゼウス様…… すべてを見透かされるような眼差し)


 ゼウスに見つめられるミカエルは、


 ツー


 緊張で背中に冷たい汗が伝うのを感じた。


「ミカエルよ。そなたはなぜ悪魔を助けた」

「ゼウス様。僕は悪魔に騙されたわけではありません。自分の意思で行動しました。剛腕のザイリは、牧野麦を助けようと必死でした。そんな悪魔を僕は見たことがありません」

「それは悪魔が、その人間の体を欲したからではないのか?」

「おそらくはじめはそうだったと思います。ですが、ザイリは牧野麦と友達になる契約を交わし、ドンドンと二人の間の心が近づいていくのを感じました」

「そなたはそれを黙って見ていたのか?」

「いいえ。僕ははじめ、ザイリを滅しようと試みました。ですが、失敗に終わりました。そうこうしてる間に、ザイリが人間に危害を加えないのであれば、観察してみたくなりました。そして、ザイリが牧野麦を必死で助けようとしているのを見て、手を貸しました。重要なのは、ザイリが人間と友達になるという契約をしたことです。ザイリに確認し、僕はそれが嘘でないことを確信しました」

「うむ…… ミカエルを連れて行け!!」


 天使の兵隊が現れて、ミカエルの両脇を抱え、連れて行こうとする。それにあらがい、振り返り神々に問う。


「神よ!! 牧野麦、ザイリはどうなりますでしょうか!!」




「牧野麦は、悪魔化を除去する手術を受けさせ、人間界に戻すつもりだ。悪魔は我々が審議し、決定を下す。ミカエルよ。自分の身を案じたほうが良いのではないか? そなたは、反逆の罪に問われているのだぞ。連れていけ!!」


 ミカエルは、天使兵に引っ張られ牢屋へと連れていかれる。


(麦さんは大丈夫そうですね。ザイリはどうなってしまうんでしょう……)


「はぁはぁはぁ……」


 ミカエルの顔から汗がしたたり落ちる。





 天界にある城の窓から、外を眺める麦。


(ここが天界? すごくきれいなところ)


 新緑生い茂る山々、太陽に照らされキラキラと輝く大きな湖。その湖の水辺では、ペガサスが水遊びをしている。湖にせり出す様に巨大にそそり立つ城。城の周りには、にぎやかな城下町が広がっている。


 遠くから見ても、城下町の人々は、みんな背中に白い羽を生やしているのが見えた。


(ザイリはどこにいるんだろう? きっと殺されてしまう。探さなきゃ)


 ガチャガチャ


(だめだ……)


 ドアや窓を調べるも、全てに鍵がかかっている。





 ザイリは、麦とは正反対に、日の光が届かない地下牢に入れられていた。ねずみが地を走り、囚人達の食べ物を狙っている。裸電球が廊下に並び、字がギリギリ読めるぐらいの光で、鉄格子の中の牢屋を照らしている。


(あの女大丈夫か? いったい何日たったんだ。昼なのか夜なのか。ここは、時間の感覚が無くなる……)


 膝を抱え、地面を見つめる。


「はぁ…… さみしい……」


(は!? 俺様がさみしいだと。悪魔なんだ。俺様は一人で生まれ、ずっと一人で生きてきた。最近はあの女がずっとそばに……)


「くそおおおお!! 俺様は最強の悪魔だああああ!!」


 立ち上がり、おたけびをあげる。


 ガチャン!!


  看守がやってきて、鉄格子を警棒で叩いた。


「おい!! うるさいぞ!!」

「くっ……」


 再び、膝を抱え地面を見つめる。


(突風が胸の中心を突き抜ける…… さむい……)


 ギュウウウ


 膝を抱える手に力が入る。ザイリに初めての感情が芽生えていた。その感情は、ザイリの心を凍えさせる。

 




 ミカエルは、再び礼拝堂に呼ばれた。神々の中から眼鏡をつけた神が立ち上がり、


「審議の結果を報告する」


 持っていた巻物を伸ばすと、ゆっくりと読み始める。


「大天使ミカエル。悪魔が人間と友達となる契約のレアケースであったことから、判断するのが難しいかったことを認める。ただし、報告をおこたった罪により、大天使から一般天使へと降格を言い渡す。人間の牧野麦。彼女は被害者であり、悪魔除去手術を受けてもらい、人間界で元の生活に戻ってもらう。以上だ」

「待ってください!! ザイリへの処罰はどうなされるのですか?」

「……」


 神が、巻物に向いていた顔をミカエルに向ける。


「うっ」


 ミカエルは、眼鏡の奥の瞳に威圧される。


(神の目は、いつ見ても慣れません)


 ミカエルが神に弱いのには訳がある。天使のDNAには、神に逆らえないようにするための遺伝子が、組み込まれている。


「言わなかったということは、わかっているだろう。悪魔は例外なく滅する。天使たちにはそう教育しているはずだが」


 ミカエルは、DNAにあらがい力をふり絞る。


「待ってください!! ザイリは悪魔としての害を無くしております!! 体も子供の様に小さい」

「その体が戻ってしまったらどうする? それに過去の天使との戦闘行為は無かったことには出来ない」

「人間と友達となる契約をした悪魔として、その後を観察することは出来ないでしょうか? 悪魔がもしも善の心を得る方法があるとするならば、悪魔との戦争は終わります。天使だって、悪魔になることがあります。大天使ルシファーがそうであったように。その逆もあるのではないでしょうか?」


 真ん中で、表情を動かさず聞いていたゼウス神が、口を開く。


「ミカエルよ」


 ミカエルの緊張がさらに増し、


 プルプル


 震える体。


「それは、悪魔が天使になることだってあると言いたいのか? 有り得ない。悪魔とは、人々が生み出す憎悪から生まれしもの。滅して浄化せねばならん。悪魔を滅するためにそなたたち天使兵を作ったというのに。例外は認めぬ」

「しかし…… 審議を!! もう一度お考えになってくだい」

「ミカエル!!」

「うっ……」


 ゼウスの鋭い眼光は、


 ドクンドクン


 ミカエルの心臓を掴んで離さない。


(ものすごい圧だ。く、苦しい……)


「それ以上の言葉。天界にはいられなくなるぞ」

「すみません。出過ぎた行為でした。はぁはぁはぁ……」

「下がれ。久しぶりに外の空気を吸って、頭を落ち着かせて来い」

「はい。お心遣いありがとうございます」


(だめだ。神には逆らえない……)


「はぁはぁはぁ……」


 気が付くと、ミカエルの服が汗でびしょびしょに濡れ、肌にまとわりついていた。





 審判が下され、麦は手術を受けることになった。全身が白い服の白い羽の生えた天使に連れられ、清潔な部屋へと通された。


 麻酔で眠らされると、角を削られ、爪を削られ、悪魔化を排除するため血を吸出し洗浄し、麦の体へと元に戻す。体全身を包帯でグルグル巻くと、手術は終わった。


 城の景色の良い部屋に返されると、


「牧野麦さんだね。安心しなさい。手術は成功し、悪魔化は除去された」


 白い口ひげを床につきそうなほど蓄えた神が、そこには立っていた。


「すみません。あなたは?」

「自己紹介せねばならぬか。私は世界の創造主。神と呼ばれておる」

「え!? あなたが神様!? いろいろとありがとうございます」


 ペコペコ


 神と聞かされ、深々と何度もお辞儀をする麦。


「そんなかしこまらんでくれ。我々が世界を作ったが、いろいろとバグだらけでな。悪魔が生まれてしまったことも我々の責任だ」


(我々? 神様は一人では無い?)


「世界をより良くしようと動いているんだが、うまくいかない。人間は、戦争ばかり繰り返しておる。アダムとイブに知恵を与えてしまったことが、大きな間違いだったのかもしれん。今さら言ってももう遅いがね」

「あの…… ザイリはどうなりました?」

「ザイリ? あの悪魔のことか。悪魔は例外なく滅する」

「え? 殺されちゃうんですか!?」

「そうビックリするでない。麦さんは騙されたのだ。悪魔は嘘をつき、人々の弱みにつけこんで契約をする。そして、徐々に契約をした人間の体をむしばんでいく。危ないところだった」

「そんなはずは無いです。ザイリは、私の友達になってくれました。そういう契約をしたんです」

「うーむ…… 洗脳を解くのは難しい。そんなあなたに、見せたいものがある」


 ゴソゴソ


 服のポケットをあさる神。小さなポケットから何冊も本を取り出し、机に並べる。


(どうやって入っていたの!?)


 眼鏡を取り出しつけると、ビックリしている麦の顔をのぞく神。


「そうおどろくことは無い。私のポケットは書庫と繋がっているんだ。どれだったかな。これだこれだ」


 一冊を引き抜き麦に手渡す。


「この本を開けば、私が言ったことがわかる。それじゃあ、私は別の仕事があるのでな。明日、体に異常が無ければ、君を人間界に帰す。天界でのことは早く忘れなさい」


 バタン


 ドアが閉まり、急に現れた神は去っていった。


 グッ


 手渡された本を強く掴む麦。


(ザイリにだまされてた? 絶対に嘘だわ。でも神様がそう言ってる…… 神様が嘘をつくはずがない……)


 ベッドに腰を下ろし、本を開くと、ザイリの取り調べ映像が流れ出す。地下の裸電球が灯す暗い部屋で、二人の天使に机と向かい合わせで、取り調べを受けている。


『人間と友達になった感想は?』

『何言ってるんだ。俺様があの女と契約したのは、体を乗っ取るためだ。友達なんてなるはずが無いだろう。だって、俺様は悪魔だ。あの女と友達だと!? 悪魔の洗脳なめんな!! 俺様は、冷血非道な悪魔、ザイリ様だ!! ここから出せ!!』


 暴れだすザイリに、天使が二人がかりで掴みかかる。


『暴れるな!! 自分がどこにいるのかわかってるのか?』


 冷たいコンクリートの地面に、腹ばいにさせられるザイリ。


『離せ!! このクソ天使どもが!! 神に飼いならされた犬どもが!!』


 パタン


 本を閉じて、目をつむる麦。


(もう、何が何だか分からない。私はザイリに騙されていたのね。洗脳されていた……)


 術後で疲れていたのか。麦は横になると、そのまま眠りについた。





 シャアアアア


「うう……」


 カーテンを開ける音と、眩しい朝日で目を覚ます麦。


「遅刻するわよ!! 何時だと思ってるの?」

「お母さん? ここは人間界? 天界にいたはずだけど」

「何寝ぼけてるの?」


 麦は、自分の家の部屋で起きた。寝ている間に、人間界に戻されていたのだった。


(あっ!! お母さんが部屋に入ってきた。ザイリ隠れて!! そっか、もうザイリはいないんだった)


「ほら!! ボーっとしない。学校に遅れるわよ」

「うん!! 起こしてくれてありがとう」


 急いで、パジャマから制服に着替える。


 麦の母は、麦が天界にいて、何日もいなかったはずなのに、昨日もいたかのような素振りだ。


(私がいなかったことは、無かったことになってる。きっと天界の人が母になにかしたのね)


「それと、麦に言っておかなきゃならないことがあるの。お父さんここを気に入って、天職してここで腰を据えるって言ってるのよ」

「え!? 本当?」

「もう仕事も辞めて来ちゃったのよ。大丈夫かしら…… でも、いろいろなところに引っ越さなくても良くなったわ。あなたも大変だったわよね」

「ううん。そんなことないよ。じゃあ、行ってきます!!」

「ちょっと麦!! 朝ごはんなにか少しでも食べていきなさい!!」

「はーい」


 麦を苦しめていた、トラウマの原因が無くなった。引っ越しをするたびに、仲良くなった友達が麦から離れていくさびしさは無くなる。これで心置きなく友達を作ることが出来る。


 遅刻しないように、最寄りの駅へ走る最中、麦は考えていた。


(ザイリのことは忘れよう。私にはどうすることもできない。それに、なんだが良い方向に転がっていく気がする)





 学校の休み時間。麦は、クラスメートの加藤圭介に学校裏へ呼び出されていた。


「え!?」

「だからさ。おまえのことが好きなんだ」


 圭介からのいきなりの告白を受ける麦は困惑している。


(なに言ってんの? わけわかんない。こんな私を好きになるなんて)


 麦は、返す言葉が見つからず、下を向く。


「本気なんだ。最初は、どんなこと考えてるんだろうって、おまえのことを目で追うようになって」


(誰かに見られてないかしら。クラスで噂されたら、私学校にいられない)


 キョロキョロ


 辺りを確認する麦。


「こっち見てくれ」


 圭介に言われ、圭介の顔を見つめる麦。


(さわやかな顔で私を見るなよ……)


「なぁ。おまえのこともっと知りたいんだ。俺と付き合ってくれ」


 グイ


 圭介に、両肩を手で捕まれる麦。


 ドン!!


「ごめんなさい!! 私はそんなこと考えられない!!」


 突き放し、走り出す麦。


(もう!! わけわかんない!!)





 教室に戻り、自分の机に座り、


 ドキドキドキ


(落ち着け落ち着け。どうしちゃったのよ)


 気持ちを落ち着かせようとしていたところへ、


「あんたさ。加藤くんとどういう関係なわけ? 呼び出されていたわよね?」

「いえ…… その……」


 同じクラスの女子二人がやって来て、麦を取り囲む。


「静香が加藤くんのこと好きなの知ってる?」

「良いよ。牧野なんかと加藤くんが付き合うはず無いじゃない」


 机に塞ぎこむ麦。


(ザイリ助けて!!)


 ザイリとの思い出が頭の中でめぐる。


『俺様が友達になってやる!! 俺様は悪魔界最強!! おい女!! 負けたことは一度だって無い!! その女に触るんじゃねぇ!! 返ったらゲームで勝負だ』


「うるせぇな」

「え? 何? 声が小さくて聞こえないんだけど?」


 麦は、立ち上がり。クラスメートをにらむ。


「うるせぇな!! 私が告白されたからどうだってわけ? 黙れクソアマ!!」


 シーーン


(やばい……)


 静まり返る教室。みんなが、麦のことを見ている。


「ごめんなさい!!」


 クラスみんなからの視線に耐えられず走り出す麦。


(もう。ザイリのせいだ!! 私をこんなふうにして!!)


「ザイリのバガヤロウ!!」





 授業が始まり、人気の無くなった校舎の屋上で一人。麦は、校庭でやっている体育の授業をながめていた。


(ずる休みしちゃったな…… 今頃、ザイリはどうしているんだろう? 多分、この世にはもう…… 早く忘れなくちゃ)


 物思いに浸っていると、


「あんたが牧野麦だよな?」


 誰もいないと思っていた屋上に、後ろから話しかけられる。


「え!?」


 見るからにこの世の者とは思えない風貌の男が立っていた。


(悪魔だ)


 麦はその男が悪魔だということを、経験で知っている。


「俺は、悪魔のリーグという。手を貸して欲しい。ザイリを助けたい」

「にゃおー」

「ちょっと待ってくれよガリ。もうお腹すいたのか? さっき食べたばっかりだろう?」

「にゃあにゃ」


 猫の鳴き声ではない。リーグの隣には、首輪をつけた猫の声でしゃべる人間の少女が立っていた。


「あなたザイリの友達なの?」

「友達? それはどういう意味だ? まぁ、良い。おまえが牧野麦だな」


 ガバッ


 リーグは、麦の服をまくり上げ、お腹を覗き込む。


「きゃあ!! やめてヘンタイ!!」

「騒ぐなよ。ほら、見てみろ」


 リーグがお腹に手を当てると、見たこともない文字が浮かび上がってくる。


「なにこれ?」

「悪魔の契約書だ。この契約書がまだ消えていないとことは、ザイリは生きている。来い!!」


 麦の手を引っ張り、リーグは、無理やり連れて行く。


「やめて!! 放して!!」

「時間が無い。ザイリの処刑時間が迫ってる」





 校舎の裏側、雑木林まで連れて来られた。


「急いでくれ。俺はザイリに取返しのつかないことをしてしまったんだ。良いか。ザイリを見つけたら、合体するんだ。そして、これを飲め」


 リーグは、麦に紫色のカプセルを渡す。


「うげっ!! 臭い」


 雑巾を牛乳に付けて一か月熟成させたような匂いが、麦の鼻を刺激する。


「それを作るのに苦労したんだ。匂いなんて我慢しろ。ザイリを助けるためだ。よいしょっと」


 裏庭にある大きな岩を軽々持ち上げるリーグ。


(え? なにこれ? こわい……)


 岩の下には、暗い穴が開いていて、穴の底には闇がうごめいている。


「天界への隠し通路だ。情報によれば、ザイリは、断罪の谷で今夜処刑されることになっている。その恰好では目立つ。これで身を隠せ」


 頭まですっぽりと被れる真っ白なローブを渡される。


「ちょっと待って!!」

「悪魔の俺が、こんなこと頼むのは筋じゅない。だが、今は頼むしかないんだ。ザイリに伝えてくれ。あの時は、そうするしか無かった。悪かったと」

「ちょっと待って!!」

「つべこべ言わず早く行け!!」


 ドン!!


 蹴り飛ばし、天界へと繋がる真っ暗な穴に落とされそうになるも、


 ヒョイ


 穴を飛び越える麦。


「早くしろ!! なぜ行かない? 時間が無いと言ってるだろう!!」

「私行かない!! だって、ザイリは私のことだましてたんだよ。そんなヤツを助けになんて行きたくない!!」

「だます? ザイリがそう言ったのか? あいつがそんなに頭が良いはずがない。だますなんて器用なマネできるはずが。嘘だってほとんどつかないヤツなのに」

「本当よ!! だって私見たもの。ザイリがそう言ってる映像を」

「それはおかしい。何か理由があるはずだ。悪魔の俺を信用して、ザイリを助けに行ってはくれないか?」

「にゃー」


 心配そうに見つめる首輪をつけた少女ガリ。


(悪魔なんて信用できない……)


「なんで人間の女の子に首輪を付けて連れているの? かわいそう」

「これは、話すと長くなる。俺だってわからない。まだ頭の中が整理がついていない。この首輪は奴隷の証だ。悪魔の町でこれを付けてない人間は、誰にも所有されていないと判断される。これは、この子を守るために付けている」

「にゃあにゃ」

「ガリ。もう少しで終わるから大人しくしていてくれ」


 リーグの服を掴み引っ張るガリの頭を優しくなでるリーグ。


(少女を見る目が優しい。本当のことを言っているみたいな気もする。でも、本当に信用して良いの? 神様と悪魔どっちを信じれば…… 普通に考えれば神様? うーん)


「さぁ。とっとと行け!!」


 ドン


 リーグに蹴り飛ばされ、穴の中へと真っ逆さまに落ちていく麦。


「ちょっとまだ考えてる途中でしょうが!! きゃああああああああああ!!」


 穴に落ちると、体が引き延ばされたり、押しつぶされたり、


(やめて……)


 気がつくと、光あふれる森の中にいた。


「これは夢じゃないわよね?」


 ムギイイイイ


 頬を思いっきり引っ張ってみる麦。


 ジンジン


(夢じゃない…… 痛い……)


「もう!! 悪魔と神どっちを信じるかなんてどうでもいい!! ザイリに会って直接聞いてやるんだから!!」

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