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悪魔との契約はよく考えず  作者: やみの ひかり
2/5

02話 男は自分を天使なのだと言う

 昨夜、牧野麦には久しぶりの友達が出来た。それは悪魔との契約だったが、そんなことはどうでも良かった。


 そのことを思い出すと、うれしくなり学校の廊下で、


「るんるんるん」


 鼻歌を歌いながら、スキップを踏んだ。


 悪魔ザイリと遊んだことを何度も思い出しては、うれしくてしょうがない。


(友達が出来た!! やったあああ!! この際、悪魔でもなんでも良い。一人でやるゲームも良いけど、二人でやるゲームは実におもしろい)


「なんだ? ずいぶんとご機嫌だな? おまえ同じクラスの牧野だよね?」

「え……」


(加藤くんだ!?)


「そんな顔するんだな」


 廊下を勢い良くスキップしていたら、同じクラスの加藤圭介に話しかけられた。クラスで人気者の彼は、爽やかなルックスで、人当たりも良く、女子からも男子からも人気が高い。同じクラスになってから、一度も話したことは無かった。


(恥ずかしい……)


 突然のことで、顔が一気に熱くなり、真っ赤な顔をして下を向く。麦とは、学校で正反対の存在だ。


「廊下は走っちゃいけないんだぞ」

「ごめん…… なさい……」

「うん?」


 麦の声は小さく、うまく聞き取れない圭介は、麦の顔を下から覗き込む。


(近いよ……)


 目と目が合い。さらに、顔に血が上る。麦は、明るい加藤圭介をいつもうらやましく見ていた。勇気を出して話しかけ、友達になれば、一気に学校生活が変わると考えたこともあった。


 チャンスは目の前に来た。だが、実際に目の前に来ると、体は硬くなり、言うことを聞かない。


「どうした? 顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」


 圭介が、手をおでこに当てようとするが、


「やめろバカヤロウ!!」


 ドン!!


「うわっ」


 加藤圭介を突き飛ばし、走り出す麦。


 加藤圭介は、


  ペタン


 突き飛ばされて廊下に尻もちをつく。


「いてててて。だから廊下は走るなよ!! あいつおもしろいヤツだな」





 色白のきれいな男は、町のカフェのオープンテラス席で、一人コーヒーを飲み、休日を満喫していた。通りの女性達が、そのきれいな容姿に釘付けになるほどの容姿だ。男は気にも留めず、疲れた体を癒すのを優先している。


「ふぅ……」


(たまの休みには、人間界でのカフェ巡りに限りますね。うん!?)


 通りを、黒いオーラを出して歩く少女がいる。


(悪魔と契約した人間? 今たしかに悪魔のオーラを背負った少女が…… せっかくの休みですが、放っておくわけにはいきませんね)


 男の名前はミカエル。休日を満喫するために天界からやって来た天使だ。


「すみません!! お会計お願いします!!」


 ミカエルの階級は大天使で、上級の天使であればあるほど、力が強く、悪魔と契約した人間を見分ける目を持っている。


 悪魔のオーラを発している少女は、下校途中の麦だった。


 麦はというと、学校で加藤圭介から話しかけられたことを考えていた。

 

(あんな汚い言葉出ちゃうなんて、私どうしたんだろう…… 加藤くんに絶対気持ち悪いヤツだって思われた…… 学校では大人しくしていよう。私は、一人のほうが良い。友達は、ザイリだけで十分だ)


「ねぇ、そこの君。ちょっと待ってください」

「はぁ……」


 ミカエルに話しかけられるが、麦は今日のことで頭がいっぱいだ。


(友達が欲しい。でも怖い。でも加藤くんと友達になれたら、加藤くんが友達の輪を広げてくれそう。でも引っ越しで傷つくのはもう嫌。結局、引っ越したらみんな離れていく。さみしい想いをするなら、最初から無かったほうが、落胆が小さい)


「すいません!! すいません!! ちょっと…… おーい!! おーい!!」

「わぁ!! 私ですか?」


(え!? きれいな人)


「そう、あなたです」

「な、な、なんですか? ちょっと急いでるので」


 きれいすぎる容姿にビックリして、

(こんなイケメンが、私なんかに話しかけるはずがない。きっと人違いだ)


 足早に去ろうとする麦。


「待ってください。悪魔と契約しました?」

「!?」


 悪魔と契約したことを言い当てられて、足を止める麦。


「僕はこう見えて天使なんです。ミカエルと言います。困っていませんか?」

「天使!? そんなバカなことって!?」


(悪魔の次は天使? この世界はどうなってるの。たしかに、天使と言われれば。納得がいく容姿だけど…… ザイリと悪魔の契約したのをなんで知っているんだろう?)


 一度は立ち止まったが、


(ザイリと会わせたら、殺されちゃうかも)


 と考えた麦は、


「困ってないです!!」


 ペコペコ


 深々と何度も頭を下げて、その場を立ち去ろうとする麦。


「待ってください。悪魔と契約したのになんでそんなに元気そうなんですか?」


(ついて来る。どうしよう。でも、悪い人でもなさそうだし。少しだけ話しても良いかもしれない)


 と考えた麦は、立ち止まり、ミカエルに話しかける。


「あの…… 本当に天使なんですか?」

「はい!! 今は、人間界に来るため翼は隠してるんです。頭の輪っかもね。羽なんて出して歩いてたらビックリしますよね」

「……」


(この人良い人そうだから。ザイリとどんな契約をしたかだけでも話してみよう)


「わかりました。そこの公園で少しだけお話しましょう」

「はい。困ってる人間がいれば、助けるのが天使の使命ですから」





 昨夜、ザイリとテレビゲームをした後、麦はザイリから悪魔の契約について説明された。


「説明しとかなきゃならないことがある。俺様とおまえは、悪魔の契約を結んだ」

「へー…… 契約? いつ?」

「覚えてないのか? 工事中のビルから落下するときだよ。欲しいものをおまえに聞いただろう?」

「うーん…… 一生の友達が欲しいって言ったような」

「そう、それだ。その代わりにおまえの体をもらう契約をした。そのはずだったんだが、体をもらったはずなのに、俺様とおまえは元の二つに戻った。悪魔と友達になりたいなんて契約したのは、おまえがはじめてだ。友達とはなんだ? あのときは命の危険で、考える暇が無かった」

「うーん…… 友達は、一生忘れないでいてくれて、相手を思いやることかな」

「忘れない…… 思いやる…… 悪魔の俺様にはわからない」





 近くにある公園で、麦は天使ミカエルに自己紹介をし、昨夜ザイリと話したことを説明した。


「悪魔と友達になる契約をした人は、今までいなかったですね」

「私はどうすればいいんでしょうか?」

「今ならまだ大丈夫です。契約を解除できます」

「え? でも……」

「でも? 早くしなければ、あなたの命が危ない。悪魔とはそういうものです。人間の体を自分のエネルギーに変えて、さらに強くなろうとする」

「ザイリは、私の久しぶりに出来た友達なんです」

「ザイリ!? まさかその悪魔の名前は、剛腕のザイリ?」

「剛腕?」


(ザイリの腕はどうだったかしら)


 小さくなる前の腕を思い出そうとする麦。


(だめだ今の腕しか思い出せない)


「わかりませんが、私にはザイリだと名乗りました」

「天界で喧嘩好きな悪魔として有名です。早くその悪魔の元へ連れていってください」

「でも、ザイリを殺したりしないですよね」

「……」


(この子はきっと悪魔から洗脳を受けています。洗脳を解くのは難しい。剛腕のザイリを野放しにしておくのは危険だ。体を奪わないのには、きっと別の目的があるはずだ)


 考え込むミカエル。


「あの…… 聞いてますか?」

「すみません。急を有するので。失礼します」


 ミカエルは、麦の頭に手を添える。温かい光に包まれた麦の顔から、表情が消える。


「麦さん。ザイリの居場所を教えてください」

「お仰せのままに」


 麦は、ミカエルに操られてしまう。





 その頃ザイリは、


「ちくしょおおおおお!! なんで勝てないんだ」


 麦とゲームで勝負して、連敗したのが悔しくて、麦の部屋で、テレビゲームをしていた。


「ジャンプ!! ガード!! そこだ刺せ!! やっちまえ!!」


 ガチャ


 麦が部屋のドアを開けて入ってくる。


「お? 帰って来たか。昨日のゲームの続きをしよう。今度こそ負けないぞ!! 俺様が負けるなんてあり得ない。あれは負けじゃない。勝ちへの通過点だ」

「ザイリちょっと外に行きません? 家の中でずっといたら体も硬くなっちゃいますよ? 近くにとっておきの場所があります」

「そうか? じゃあ、帰ったら勝負だからな。俺様が最強だってことをわからせてやるぜ」





 麦はザイリを人気の無い空地へと連れて来た。


「どこがとっておきの場所なんだ? おい女!! 聞いてるのか? 何もないぞ。帰ってきてからおかしいぞ」

「来ましたね。剛腕のザイリ…… なのか!? 小さい!?」


 ミカエルが、二人の後ろから姿を表す。ザイリの体が小さくなっているのに、ビックリした様子だ。


(確かに剛腕のザイリです。面影があります。しかし、なんでこんな子供みたいな姿に……)


「おまえは大天使ミカエル!! なにしてやがるこんなところで。女、だましやがったな」

「彼女は悪くないですよ。僕が彼女を操っていました」

「卑怯者め!!」

「どっちが、卑怯なんですか? 我々天使は、正々堂々と戦っているのに、悪魔ときたら不意打ちはするし、天使を惑わして罠にかけます」

「はぁ? どこの悪魔の話をしてんだよ。俺様はないつでも正面突破だ!!」

「では、正々堂々と僕と勝負ししましょう。ところで、なんでそんな小さな体なんですか?」

「教えなーい。べろべろばー」


 ミカエルを挑発してみたが、


(こんな弱い体じゃあヤツには勝てない……)


 今のザイリに天使と戦う力は無い。だが、ザイリのプライドは逃げるという選択肢を持っていない。


「やっぱり、悪魔は言葉が通じないですね。彼女との悪魔の契約を破棄させるために、あなたを滅します」


 ジャキン


 稲光が、ミカエルの右手から放たれると、剣が現れる。


「ちょっと待て!!」

「待ったはしません!! 何度悪魔に騙されたことか!!」


 お構いなしに、ミカエルは剣を振り上げ攻撃する。


 ザン!!


 避けようとするが、


「うわあああ!!」


 斬撃がザイリの腕をかする。


「小さい体が功を奏しましたね。当てづらい」

「そいつを助けるために仕方なく契約したんだ。契約しなければ、女は死んでいた」

「悪魔に貸す耳はありません!! 次は、しっかり当てます」

「うわああああ!!」


 再び、ミカエルの剣がザイリを襲う。





 麦は、ミカエルに操られ気を失ってる間、夢を見ていた。


「なんか牧野って暗い」

「牧野と隣の席。嫌だな」

「あいつなに考えてんだろう」

「学校に来なければ良いのに」

「牧野がいると、教室の雰囲気悪くなるよな」


 学校の教室で、寝ているふりをしているが、下を向き、目を開けている麦。


(みんな寝ていると思って、私の悪口ばっかり言ってる)


 黒板に立っている先生が、


「みんなの意見はわかった。多数決を取って決めよう。牧野が学校に来て欲しく無い人は挙手して」


(やめて!! 先生なに考えてるの!!)


「はーい」

「はい、はい、はい」

「はーい」


 カツカツカツ


 先生が黒板に正の字で、数えていく。


(誰か助けて!!)


「ぎゃああああ!!」


 ザイリの叫び声が聞こえて、


 ガバッ


 とっさに体を起こす麦。


「先生!! 牧野が起きました」

「牧野起きたか? 今な、牧野が学校にいらないか多数決を取ってるところだ」


 黒板には、牧野麦いらないの下に正の字がびっしり書き込まれている。


「うわああああ!!」


(ザイリの苦しむ声が聞こえる。私行かなきゃ)


 立ち上がり、教室の外に出ようとする麦。


「おい。どこへ行く。授業中だぞ!! みんな捕まえろ!!」


 クラスメートが、麦に群がってくる。


「離せえええ!!」


 掴みかかるクラスメートを、麦は人形のように投げ飛ばしていく。制止を振り切り、教室の扉を開けて外に出る麦。


 扉を開け外に出ると……





 麦は、空地に立っていた。


「きゃあ!!」


 ザイリが攻撃を受けてるのを見て、叫び声を上げる麦。ミカエルの洗脳が解け現実の世界へと意識が戻った。


「元に戻りましたか。すみません。悪魔との契約を解くには、こうするしかないのです。悪魔を滅すれば、あなたとの契約はきれいに取れます」

「やめて!!」


 剣を振りかざすミカエルに、


 ガバッ


 麦は背中からしがみつく。


「放してください。すぐ終わります。あなたは、悪魔に騙されているのです」


 ミカエルは、麦を振りほどこうとするが、


(女性なのにすごい力です。悪魔の洗脳がこれほど強いとは)


 ググググ……


 すごい力で振りほどけない。


「私の友達なの!!」

「そんな契約悪魔がするはずがないんです。騙されています。僕は、悪魔に何度騙されてきたことか。麦さんは知らないんです。悪魔の恐ろしさを」

「ザイリ逃げて!!」


 ザイリは、逃げずにその場に立ってミカエルを鋭い眼光でにらむ。


「はぁはぁはぁはぁ……」

「早く逃げなさいよ!!」

「なんでクソ天使がこんなところに。俺様が逃げるだと!? 逃げれるはずが無いだろう。俺様はいつだって、全身全霊でやってきた。負けたことは一度だって無い!!」


 ドン!!


 麦を思いっきり突き放すミカエル。


「きゃあ!!」


 遠くへ吹き飛ばされる麦。


「手荒な真似をしてすみません。麦さんの力が強いので、力加減が出来ませんでした。下がっていてください。僕は、悪を滅せねばならないのです」


 剣を天にかざして力を込めるミカエル。


 パアアアアアアア……


 剣をまばゆい光が包みこむ。


「これで終わりにしましょう!! 剛腕のザイリ!!」


 剣が、神々しい光を放つ。


(これを喰らったら、俺様は死ぬ。体はもうボロボロだ。力が入らない)


 ザイリは、ミカエルから受けた斬撃で、もう体力が残っていない。


「はああああああああああ!!」


 ミカエルが、力を込めて剣をザイリに振る。


 ザバアアアアアアア


「やめてええええ!!」


 麦がザイリの元へ、人間ならざるスピードで走り込んで行く。


「やめろ!! 来るじゃねぇ!!」


 ドガアアアアアアアアアアアアア!!!!


 ミカエルの斬撃が、二人を襲い、辺りを眩しい光が包み込む。


「ミカエルさん!! やってくれたな!!」

「合体した!?」


 ザイリは麦と融合し、麦の体は化け物と化す。長い爪、長い牙、筋肉隆々な体。頭からは角が2本。


「天使だろうと、私達の友情を壊させない!!」


 猛然と、ミカエルに追突していく。


 ガキイイイイン!!


 ミカエルの剣と、麦の鋼鉄化した爪が火花を放つ。


(これは、どういうことですか? 麦さんが悪魔の体を手にしている? いや違う。悪魔と麦さんは、対等の契約をしたんだ。お互いの意識がシンクロし合っている!?)


「ミカエルさん。私達をそっとしておいてくれませんか?」

「どんな契約をしたんですか? あなたたちは」

「友達だ!!」

「そんな契約有り得ない」

「退かないのであれば、全力であなたを討つ!!」


 化け物化した麦は、


 グググググググ……


 全身に力を入れると、体を黒いオーラが包み込んでいく。


「なんなんだこれは!! わけがわりません!! 悪魔がこんな契約を交わすなんて!!」


 再び、ミカエルは、剣を構え。


「仕方ないのです。悪魔は滅するしかないのです。天使とは神に与えられた仕事をまっとうすること。はあああああああああああ!!」


 ミカエルが、力を込めると剣が、さっきにも増して輝きを放つ。


「黙れ!! 神様に言われたことしかできないクソ野郎が!! うおおおおおおおお!!」


 化け物化した麦の体を、ドス黒いオーラがドンドンと包み込んでいく。


「行きますよ!!」

「来るなら来やがれ!!」


 両者振りかぶって、光と闇をぶつかり合う。


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!


 光と闇のエネルギーが、ぶつかり合い。爆発が辺りを包み込む。





 爆発が収まると、


「はぁはぁはぁはぁ……」


 ミカエルは、息を切らし、地面を見つめる。


(凄まじいパワーでした。さすが剛腕のザイリ。たった一人で、69人の天使を倒した悪魔。手加減していたら、僕はちりになるところでした)


 地面には、合体が解けて倒れ込むザイリと麦。ミカエルが勝った。


(しかし、友達になるという契約とはいったい…… 本当に、友達として二人は契約をかわしたのですか? これは、神様に報告するべきなのか? 僕の心が、二人をそっとして置いておこうとします)


 麦に近寄り、首に手を当てる。


 ドクンドクン


(大丈夫ですね。生きています。うん!?)


 麦の口元に手を持っていくミカエル。


「悪魔化している……」


 ミカエルが、麦の口を手で開けると、歯が伸び牙が生えている。そして、額には、小さな角が生えていた。


「だから人間離れした力を出していたんですね。このまま悪魔化が進んでしまえば……」

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