お茶会
「……」
……無言が気まずい。
お茶会に向かう馬車では、私とお兄様が向かい合って座っていた。今回は、子供たちだけの参加なので、お父様とお母様はいない。
つまり、この密室空間で、お兄様と二人っきりなのだ!
以前の私なら、喧しいくらいにお兄様にべらべらと話しかけていたけれど、脱ブラコンを目指す今となっては、余計なことはしゃべるまいとしていた。
でもさすがに、一言も言葉がないのは、気まずくなってきた。
「あの、お兄様……」
お兄様に声をかけると、お兄様は外の景色に向けていた視線をこちらに向けた。
「なぁに?」
「……今日は、お天気がよくて良かったです」
無難ー! 我ながら、無難すぎる会話だ!
話しかけてはみたものの、特に共通の話題が思いつかずに、天気の話題でお茶を濁した。
「……そうだね」
お兄様は頷いてはいるけれど、つまらなさそうな表情でまた、視線を窓の外に戻した。
うわ、傷ついた!
いくら何でもあからさますぎるよ、お兄様。
お兄様は、私が目覚めてお兄様に付きまとわないと決めた日から――色々とあからさまになった。
まあ、前から私のことを鬱陶しいと思ってるんだろうなーとは何となく気づいてたけど。
それを隠さなくなった。
それが、良いことなのか、悪いことなのかといえば。
お兄様が我慢しなくなった、という点では良いことで、諦めると決めているもののまだほんのりと好意を持っている私にしては傷つくことではあるのだけれど。
まぁ、もう、ぜんっぜん、いいけどね!
なんといっても、今日は高位貴族の集まるお茶会なのだ。
私にとって新しい恋の大チャンス!!
ぱぱぱっと、新しい恋をして、即行でお兄様への恋心なんて、忘れてやるんだからー!!
◇◇◇
お茶会では、私と同じくらいの年齢の女の子たちが目をキラキラ、いやギラギラとさせて王子様の登場を今か今かと待ちわびている。すごい、みんなやる気に満ちてる!
私だって、負けていられない。
ここで、素敵な人と恋をして、あわよくば婚約者をゲットしたいんだから!
席に王子様以外が全員座って、しばらくしてから、王子様――アシェル殿下が現れた。
アシェル殿下は、さらさらな金髪に澄み切った青の瞳をしている。
お兄様が人を寄せ付けない系の美形だとしたら、アシェル殿下は人に親しみを与える系の美形だ。
つまり、すごくかっこいい。
すごいなぁ、あんなにかっこよくって、王子様なんだもんなぁ。
私が感心していると、きゃあと黄色い悲鳴を上げながら、令嬢たちは矢継ぎ早にアシェル殿下に話しかけていた。
「殿下は、どんな紅茶がお好きですか?」
「殿下、わたくし、最近美味しいお菓子を――」
「殿下、楽器はお好きですか?」
「殿下――」
アシェル殿下は、その一つ一つを面倒がることなく丁寧に答えていた。けれど、ここでその他大勢に加わるよりも誰かの特別になりたかった私は、その輪に加わることをせず、そっとアシェル殿下がいるテーブルを離れた。
アシェル殿下の側近候補たちが集まるテーブルは……。
きょろきょろと、辺りを見回しながら歩いていると、何かに躓いた。
「!」
「危ない!」